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ミステリの祭典

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なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?
別題『謎のエヴァンス』『謎のエヴァンズ殺人事件』『なぜエヴァンスに頼まなかったんだ?』

作家 アガサ・クリスティー
出版日1956年05月
平均点5.55点
書評数11人

No.11 7点 斎藤警部
(2022/04/08 06:50登録)
「でもいったい、どうしてここにいらっしゃったの?」
「あなたときっと同じ理由からですわ」
「ではエヴァンズがだれだか、おわかりになったのですね?」

この本が「さおだけ屋はなぜ潰れないのか?」や「なぜ、社長のベンツは4ドアなのか?」と同じコーナーに置いてあったら笑います。実際、今どきの古本屋やセレクト本屋でやりそうですけどね、そういう遊び。  
↑ 本作への感想と言えば、それで総括できます。 昔の日活で映画化したなら題名「若いヤングでぶっ飛ばせ」でいいんじゃないかと思うくらいヤングでカラフルな犯罪活劇でとにかく楽しくて、、、 と、まんまと油断させられて、思い込まされていたんですね、この上等な緩さはアガサの休日じゃないのかと(6点にするつもりでした)、あの章の衝撃のあのシーンにぶつかるまでは!! 

さて本作のタイトルと言えば、いわゆる世界三大ダイイング・メッセージとして「ブルータス、お前もか!」「板垣死すとも、自由は死せず!」(←板垣さんはこのあと生き延びました)の次に有名な台詞になるわけですが、この謎のエヴァンズさんが一体どこのどいつで(ファーストネームはギルなのか、ビルなのか、意外とマルなのか)、また彼/彼女に何を頼まなかったのか、頼むべきだったのか、普通だったら頼む所なのか、とりあえず生一丁頼むような感じなのか、という大きな謎を横目で追いつつ、とりあえずは目の前の連続殺人(自殺?未遂もあるでよ?)事件を解き明かすべく真っ赤なスカーフなびかせマンボズボンで奔走する若い男女(←ちょっと脚色、伯爵令嬢と牧師の息子)が最後にはドス黒い心を持った悪い連中をブッ飛ばしてギャフンと言わせるべく、仲間や偶然の力もチョイと借りて大活躍する一大スペクタクル劇場。 この男女、展開に応じて”しっかりしてる側”のキャッチボールというかパス交換があるのが面白い。一方的にどちらかが冴えてて主導権握って、というのではない所がね。

真犯人、意外なんだか意外でないんだか、と思ってたら、いや、やっぱりちょいと意外でした。 真相の反転具合もなかなか、予想外に派手にやってくれました。 いい意味で気が緩んだ甲斐があっただね。 男女の機微もうまい具合に収まって、と思ったらそれ以上、何ともベタな収まりに。 筆跡の件だけ(?)は、ちょっと都合良過ぎかと思いますが。。 うん、最後の一文、いいですね。 いろんな要素も手際よく詰め込まれて(後ろから殴られて気を失ったり、みんな大好き●神病院も登場するぞ!)、ヤングのミステリ入門書として実はすこぶるよろしいんじゃないかと思います。

そういや、いっけんご丁寧なストーリーネタバレにしか見えない目次の章立てにも、ささやかなナニがあったな。。  そして、登場人物一覧に、マ、マ、マサカのトリックが。。!! (確かに、ちょっと違和感あった..)

No.10 6点 人並由真
(2022/01/19 07:10登録)
(ネタバレなし)
 第一次大戦後の英国。ウェールズ地方の小さな海辺の町マーチボルト。身体上の理由から海軍を退役させられた20代後半の青年ロバート(ボビイ)・ジョーンズは今後の進路も決めかねて、無為な日々を送っていた。そんなある日、友人の中年の医師トーマスと崖の上でゴルフを楽しんでいたボビイは、崖下に重傷の男性を見つける。トーマス医師が人を呼びに行く一方、その場で危篤の男性を見守るボビイは、その相手から謎の末期の言葉「なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?」を聞いた。この件に関心を抱いたのは、近所の伯爵令嬢でボビイの幼馴染フランシス(フランキー)・ダーヴェントである。若い二人は死者の検死審問で覚えたさる疑念から、さらに事件に深く介入していくが。

 1934年の英国作品。
 作品の素性(クリスティーの著作における順列など)はすでに本サイトでもみなさんが語ってくれているとおり。
 評者は小学校の高学年、図書館で本作のジュブナイルリライト版(たぶん偕成社の「すりかえられた顔」)を読んだきり。冒頭のダイイングメッセージの謎とラストシーンの雰囲気以外、まったく中身を忘れていたので、懐旧の念も込めて読んだ。
(で、やっぱり中身は、ほぼ完全に忘れていたね。)

 事件からみの重要人物が(中略)など、あまりに無警戒ではないか? その辺はイクスキューズが欲しいよな、という不満が早くも前半で芽生える。さらに犬棒式に主人公コンビが動けばヒットする作劇もイージー。
 途中までは、なんだこれは、赤川次郎の手抜き作品の先駆か? という気分であった(……)。

 とはいえ見せ場の多い筋立てはさすがに退屈さとはまったく無縁だし、黒幕(の中略)の正体も早々とわかるが、それでも後半、それなりに事件を作りこんであるのは認める。
 まあ主人公たちのピンチの際、デウスエクスマキナとしてあまりにも唐突に再登場する某サブキャラの運用は、あっけにとられつつ、その力技めいたダイナミズムの程に、ケタケタ笑ったが。

 あと『秘密機関』といい、これといい、この時期のクリスティーって実はかなり潜在的に<密室殺人>に執着している気配があるよね。結局は「そんなハイレベルなものは作れない」と、いつも早めに悟っちゃうのか、すぐにネタを明かしちゃうけれども。

 終盤、第34章でのあのキャラクターの物言いは印象的であった。こういうタイプの登場人物の造形にこだわるクリスティーの偏向が伺える。もしかしたら、今後のスパイスリラー路線でのレギュラーか、毎回の悪役たちの向こうにいる影の人物として運用したかったのか、などとも考えてしまった。モリアーティかのちのニコライ・イリイチの小粒版みたいなキャラが欲しかったりして。

 みなさんがおっしゃるようにダイイングメッセージの扱いはアレだし、悪役側の動きも振り返るともうちょっとシンプルにできなかったのかな? とも思うが、まあまあ佳作ではあるでしょう。主人公コンビがもうちょっと、魅力的ならなお良かったけれど。

 しかし本作のみならず他の活劇ものまで含めて、頭を殴られて気絶~場面転換、の多用ぶりはクリスティー、いささか安易だ(笑)。

No.9 6点 虫暮部
(2021/03/30 12:28登録)
 なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?
 と言う疑問はなかなか鋭いではないか。そこを疑問として抱けた時点で、(その部分の)真相まであと一歩だ。逆に言うと、死に際にそんな絶妙なヒントを残すのはかなりわざとらしい。
 それに限らず全体的に、入り組んだ要素の間をギリギリで御都合主義的に綱渡りしている感じ。但し、なんとなくそれを許容出来てしまう良い意味で緩い雰囲気はあるな~。
 
 ところで、原題は“ Why Didn't They Ask Evans? ”で主語は They 。
 これを(早川書房版)“なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?”と訳すと主語が二人称みたいじゃない? 被害者が目の前の相手(=ボビイ)に対して“なぜ、あなたは~?”と問うたみたいじゃない?
 勿論、日本語と英語の構造の違いのせいではある。しかし、そもそも読者は翻訳文であることを承知で読んでいるわけで、日本語として不自然になっても原文のニュアンスを優先すべきポイントはあると思う。映えの必要な題名はともかく、本文中の台詞では、二人称ではなく第三者について語っているのだと明確にすべき。他の訳ではどうなんだろう?

No.8 4点 レッドキング
(2021/02/13 17:07登録)
ラスボスわかり安すぎ。にしても、植民地経営を約束された貴族令嬢と退役軍人青年なんて・・こっちこそ悪役設定にせんとねえ。

No.7 5点 蟷螂の斧
(2017/10/09 08:14登録)
ダイイングメッセージだけで一冊の物語を書き上げてしまったことに感服。著者に対しては、どうしても本格ものを期待してしまいます。本作は冒険小説風、青春ミステリー風でした。

No.6 5点 nukkam
(2016/07/04 08:38登録)
(ネタバレなしです) 1934年発表の本書(シリーズ探偵は登場しません)は推理もあるし犯人を終盤まで伏せているプロットではありますが冒険スリラーに属する作品です。特にエヴァンズの正体に本格派推理小説の謎解きを期待するとがっかりするでしょう。江守森江さんのご講評の通り、そこについては読者が推理する余地がありませんので。とはいえアマチュア探偵コンビの活躍は楽しく、難しく考えずに気軽に楽しめる作品としてはよくできています。

No.5 5点 クリスティ再読
(2016/02/05 21:54登録)
クリスティはやっぱりクリスティ、である。
というのも本作の大きな特徴である「第二幕からイキナリ参加したために、今まで何があったのかが謎」という枠組みの作り方が、最晩年の「復讐の女神」とか「象は忘れない」「親指のうずき」などで再び採用されるわけで、そういうあたりが興味深い。とはいえのんびりしたユーモア感が強いのと、中盤のバッシントン=フレンチ家でぐずぐずしている感が強く話にダイナミズムを欠くあたりで、スリラーとしてはもう一つ。
ミステリとしては主犯はほんとうに隠す気ない...くらいに明白だけど、共犯者がいろいろ小技があってステキ。写真に関する論理の逆転のいいポイントだ。だからミステリとしては出来がいい方なんだが、スリラーとしては?な部類で、過渡期っぽいバランスの悪さを感じる。初期型スリラーとしては最後の作品になるから、こういうタイプの作品への関心が薄れたのかなぁ。
あと最後の犯人からの手紙がとても脳天気。ヘンな魅力はあるな。考えてみればこの犯人、ボビイがまずいことを感づいたか?と思って殺そうと狙ったために結果的に墓穴を掘ったわけで、ほっておけば全然安全だった.....バカといえばその通り。

No.4 5点 あびびび
(2012/11/21 23:15登録)
好奇心旺盛なお城のお嬢様がいて、その幼馴染の男がいる。彼女は貴族であり、彼は平民?なのだが、幼少のころ縁ありて、友人関係が続いている。そんな中、彼がシーサイドコースでゴルフをしている最中に瀕死の男と遭遇する。最後の言葉が、「なぜ、エヴァンスに頼まなかったのか?」だが、物語においてそれほど重要な言葉ではなかった?

クリスティーはほとんど好きだが、ドタバタ喜劇ぽいのは好みじゃない。

No.3 7点 koo±
(2011/11/02 16:14登録)
表題。吸引力のある一言ですね。ちょっと中だるみはしますけど、この台詞のおかげで最後まで引っ張ってくれます。表題に「なぜ~」が入ると妙に興奮するのは僕だけ? 高木彬光さんの「人形はなぜ殺される」を読んだときの感情がよみがえります。

古き良き冒険小説の風合。そして恋愛小説としても逸品です。ボビイとフランキーのベタなコンビが微笑ましい。訳が古いので台詞回しが時代錯誤ですが、逆にそこが味になってます。

ミステリとしては地味な部類。フーダニットの意外性は弱いかも。でも冒頭の台詞のハウダニットが効いてます。結局エヴァンズとは誰か? 少々アンフェアながら、ユニークな発想と合理的な回答に感服しました。

愛着が沸きますね。キャラとプロットがよかったせいでしょうか。真相が分かった上で、もう一度読み返したい。そう思わせてくれる良作でした。

No.2 4点 江守森江
(2010/01/03 20:17登録)
どこかの書評で名だたる翻訳者達が当時の英国に精通していない為にクリスティー作品には誤訳が多々あると指摘されていた。
そして、この作品が例に挙げられていたので野次馬根性で、その書評と首っ引きで読んでみた。
更に、やや間延びした長編ドラマも観た。
ミステリー要素のある冒険活劇で、ポアロもマープルも登場しないので上記以外はイマイチだった。
特にタイトルからも鍵になるエヴァンズが何者か?が結末近くまで提示されず読者には推理出来ずに残念と思える。

No.1 7点 NEO
(2009/04/11 07:38登録)
「なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?」という表題のキーワードが最後まできいてきます。クリスティーお得意の、さらっとしたスパイもの。

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