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ミステリの祭典

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銀のサンダル
ソーンレイ・コルトン ヒラヤマ探偵文庫

作家 クリントン・H・スタッグ
出版日不明
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 弾十六
(2025/05/25 02:12登録)
1916年出版。初出People's 1914-07〜11(5回連載)、挿絵J. A. Lemon。ヒラヤマ探偵文庫(2025)。アガサ・クリスティ『二人で探偵を』に登場する忘れられた探偵シリーズを発掘する試み。平山先生は次々と精力的に古い探偵小説を翻訳されておられ、実に素晴らしい。本作のようなストレートな文体は平山先生の文章にピッタリ。同人誌だと数量限定なので、値段は同じで良いから電子本で出して欲しいです…
本書の内容は、怪奇風味のある無茶苦茶な冒頭で、目まぐるしいスピード展開が素敵な軽スリラー。手がかりは盲人探偵コルトンがどんどん勝手に見つけて、推理も直感的かつ自由闊達にズバズバ、本格ものとは言えないでしょうね。
本文レイアウトに苦情を一つ。割注の文字が小さすぎて読みにくいです!
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以下トリビア。翻訳はヘンテコなのがほぼ無くて上々。誤植や気になった所を書いておきます。同人本なので訂正はめんどくさいですからね。いずれもうっかりレベルで、たいした誤りではありません。平山先生におかれましては、これからもたくさん翻訳をお願いいたします!
原文はHaitiTrustでW. J. Wattの初版が一冊丸ごと読めます。Will Fosterの素敵なイラスト二枚入り。
p7 点字で書かれた手紙(the raised Braille letters)◆ 試訳「盛り上がったブライル式点字の文字」
p10 ビューモンド(Beaumonde)◆ 高級ホテルの名前。気取ってフランス風に「ボーモンド」なのでは? beau mondeなら英語でも「ボー・モンド」と発音する。
p12 「お前はわれらの命令を知っているだろう。注意せよ」(You have our order. Attend to it)◆ 試訳「注文は伝えた。その通りで頼む」
p13 ポール・ロジェ五六年もの(Pol Roger '56)
p14 連れがいない女性に関するブロードウェイのルール(Broadway rule regarding unescorted women)◆ まだ女性には窮屈な時代。淑女が「お一人様」を獲得するのはいつ頃から?
p24 マクマン警部(Captain McMann)◆ 短篇集には登場しない。
p26 検死官(coroner)◆ この時代、ニューヨーク市はまだ検死官制度を維持していた。
p27 バイアーバウアー(Bierbauer)◆ 検死官。短篇集には登場しない。
p33 第四章 試行錯誤(Trail)◆ ケアレス・ミス。「追跡」
p34 ゲインズバラ風帽子(Gainsborough hat)◆ フリーマン「青いスパンコール」(1908)で被害者が被っていたような帽子だろう。ここの書きっぷりだと、当時はやや流行遅れだったか。
p36 タクシーのエンジンをかける係が車のドアを開けて待っていた(The cab starter held open the door of a taxi)◆ cab starterとはタクシーへ乗客を誘導するのと、クランクを回してエンジンをかけるのを兼ねた仕事なのだろうか? ググっても出てこなかった。
p36 コルトンの長くて黒い車(Colton's long, black car)◆ 短篇集ではbig black automobileと形容されているだけ。ロールスロイス・シルバーゴーストだと推定しておきましょう。
p36 三十三丁目◆ ブロードウェイのビューモンド・ホテルは、ここより北か南か。
p37 ガチャガチャと音を立てている高架鉄道L線の下、三番街を下った(down Third Avenue, under the clank and clatter of the L trains)◆ L線(L train)とは高架鉄道(Elevated Train)の愛称。"El"とも言う。ここら辺の記述から三番街を南下してマディソン街(23丁目?)からチャタム広場の方へ行ったようだ。この区間は1955年に廃線となっている。
p39 牛乳配達のワゴン(a milk wagon)◆ この時代は馬引きかも。
p41 Shrimp◆ フィー(The Fee)の別名。コルトンはここで2回、Shrimpと呼びかけているが翻訳では省略。翻訳では煩わしいので、他のShrimpも「フィー」で統一している。アガサさんの『二人で探偵を』では「フィー」と「シュリンプ」に言及してるので、原文に忠実にしてほしかったなあ。なお、地の文でもThe FeeとShrimpを併用している。第一作目の短篇The Keyboard of Silence(初出1913-02)の設定はテムズがThe Feeと呼ぶ、となっている。
p43 自動車免許局(Bureau of automobile licenses)◆ 車のナンバーから持ち主を調べられるようだ。
p48 黄金の錠前(Golden Locks)◆ 「金色の巻毛」かも。錠前に関連した働きはしていない。
p54 心霊主義者のありとあらゆるトリック(all the tricks of the spiritualist charlatan)◆ 原文では一応charlatan(ペテン師)に限定している。
p60 ブロードウェイ最大のホテル(one of the biggest Broadway hotels)◆ ブロードウェイの大きなホテルを探したら、名前が似た感じのHotel Belleclaireと言うのがあった。西77丁目ブロードウェイの建物で1903年開業。
p64 シャーロック・ホームズ
p68 夕刊の早刷り(early evening papers)◆ 臨時大ニュースなので、夕刊紙でも早朝号外を出すのだろう。ここの感じだと朝7時ごろの発売か?日刊紙の早刷りはそれより早いようだ。あるWeb記事で日刊紙の記者が「午後版を同じ日に数回出したこともあるよ」と書いていた。
p71 ベルティヨン法(Bertillon measurement)◆ 現役の犯人特定方式である。
p76 そちらの時間で真夜中になる一時間前(for an hour before your time of midnight)
p77 よろしければただちに捜査を開始し(Kindly proceed at once to make your official investigation)◆ 検死審問が終わらないと埋葬出来ないため。
p79 所収者◆ 「所有者」の誤植だろう。
p83 十二月八日(December 3)... 六十八歳(age 63)◆ 冒頭の日付と年齢。どちらも8に見間違えそうな書体だが、参照した初版のファクシミリでは間違いなく「3」である。
p86 赤毛の少年(A red-haired boy)◆ フィーは赤毛なんだ。
p88 一ドル◆ 鳥を入れる箱(a bos to put the bird in)の値段。
p92 チェス(chess)... 犯罪ゲーム(crime game)◆ 面白い光景
p92 十セント銀貨(silver dime)
p96 身分証明書(his papers)
p100 電話番号を交換台に告げた(gave a number over the phone)◆ 当時の電話にはダイヤルは無い。全て交換手に番号を告げ、接続してもらう方式。多分キャンドルスティック型。
p115 最新の流行歌(one of the latest songs)
p117 m中に入るとわずかに肩を落とした(inside the door, his shoulders dropped a trifle)◆ 「m」は誤植。「ドアの」が欠けているが、無くても意味は通じる。
p117 セレスティン(Célestins)
p120 ソーンさん(Thorn)◆ テムズがソーンレイを呼ぶ時の愛称。
p121 第二十七分署(Twenty-seventh Precinct)◆ コルトンの住所から車を北に飛ばして十分の距離。27分署は実在しないようだが、番号付けのルールから考えると、もしあれば山手のハーレム地区(155丁目〜96丁目)だろう。
p138 三回切り込みを入れました(It was then the three slashes on the wrist were made)◆ 原文では動作主が不明なので「切り込みが入れられた」と受動態にすべきだろう。
p139 コルトンはそれが何かすでにわかっていた。◆ その後のパラグラフが丸ごと抜けている。ちょっとネタバレなので、未読の方は飛ばしてくださいね。
Father intended that the truth should be known the day after his death. He did everything he could to protect us. He sent the notes, with the bottle of wine. He knew that it could be easily proved that he had written them. The notes to the
police and the coroner were Philip's idea. Father sent the death notices. He posed for the photograph in the robes he always wore at home. They seemed, to us, the things that would convince any one that there had been no foul play.
[概要] 父は死後に全てが判明するように計画した。ワイン・ボトルを添えてメモを送った。警察と検死官宛のメモはフィリップのアイディア。父は死亡広告を新聞に送り、いつも着ているローブ姿で写真を撮った。これで誰もが不正なことはないとわかってくれるものと思われた。
p141 誰かが慎重に計画を練り、彼を冷血そのものに殺害した(Some one had taken advantage of the carefully laid plans. Some one had murdered him, killed him in cold blood)◆ 試訳「誰かが慎重に練った計画を利用した。彼を冷酷に殺したのだ」
p146 ではおやすみなさい(アウフビーターゼーエン) Auf wiedersehen◆ なぜドイツ語?
p148 大型のフェアフィールド(Big Fairfield car)◆ デトロイトのPaige社のブランドだが1915年からの発売なので作者としては架空メーカーのつもりだろう。
p148 二十四時間営業のドラッグストアにある電話ブース(an all-night drug-store 'phone booth)
p152 流行曲の合間に(between two bars of one of the latest musical atrocities)
p159 ポーの小説に登場する、文字の出現頻度を数える方法(The Poe method of counting letters)
p159 残した暗号も、コルトンの頭脳ならなんということもなかった(Colton's brain could make nothing of the cryptogram that old man had left to be solved)◆ コルトンの頭脳でも歯が立たなかった、という意味だろう。
p162 フェアフィールド60(A Fairfield sixty)
p171 ナディン(Nadine)◆ Nadine Nelson、短篇The Ringing Goblet(初出People's 1913-09)に登場する。
p178 警察官は… 手を振り回した(Policemen... took a step forward with upraised hand)◆ ニューヨークで信号機が整備されるのは1930年ごろからなので、交通整備は警官がハンドサインや手動のGo&Stop回転棒を持って交差点で指示していた時代。
p183 補助椅子(the rumble seat)
p183 運転◆ いくら何でもヤバすぎるでしょう。だが当時、運転免許制度は無かったようだ。地下鉄サムが自動車を初めて買った時(1919)、ディーラーから数時間チョチョイと教えられただけで公道に出ている。
p188 第二十章の表題 (Carl's Story)◆ うーん…

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