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ミステリの祭典

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向日葵を手折る

作家 彩坂美月
出版日2020年09月
平均点6.67点
書評数3人

No.3 8点 パメル
(2024/09/26 19:43登録)
父を亡くし、母の実家がある山形の集落・桜沢に引っ越した小学六年生のみのり。そこは豊かな自然に囲まれた美しい場所だが、なぜか不穏な出来事が続いていた。うつろう季節の中で、少女の成長を描きながら社会問題を巧みに絡めた青春ミステリ。
みのりが出会うのは穏やかな怜、粗暴な隼人という同い年の少年。集落には灯籠を向日葵で飾り川に流す美しい祭りがある一方、子供の首を切り落とす向日葵男の存在も噂されている。折られた向日葵、埋められた子犬、いわくありの沼、少しずつ謎が積み重なり、緊張感を抱かせる。不穏で不気味なホラー要素の描写も秀逸。また田舎の小さい地域社会には連帯感があるが、田舎ゆえの閉鎖的な空気や悪意のない身内意識もあり、次第に微妙な人間関係も見えてくる。
そんな中でも精一杯に過ごし、成長するにつれて少年少女の間に淡い恋心が生まれ、それゆえに距離が出来てしまう様子は甘く切ない。甘さも傷みも込みで、みのりが変化をどう受け入れていくかというところが読みどころ。印象的なのが美術部顧問の教師・恭子。本書で生徒と接し、見守ってくれる彼女の言葉がいい。価値観が固定された狭い場所にいるみのりにとって大きな意味があったのではないだろうか。

No.2 7点 まさむね
(2024/07/06 16:42登録)
 父親の急死に伴い母の実家に引っ越してきた少女・高橋みのりの、中学3年までの4年間を描く青春ミステリ。
 母の実家は山形の山間にある集落・桜沢。通う小学校は分校で、全校児童数わずか37人。そこで出会う同級生、西野隼人と藤崎怜との心のやり取りがなんとも言えない感傷を誘います。濃厚な自然や集落の描写と主人公たちの心の動きの組み合わせも見事です。季節の移り変わりも含めて美しい。
 ミステリとして特殊的な部分はないかもしれませんが、久方ぶりに良質な青春ミステリを読ませていただきました。

No.1 5点 ぷちレコード
(2021/05/11 23:26登録)
山形の山間の集落を舞台にした青春ミステリ。
父親が突然亡くなり、母親の実家に引っ越してきた小学六年生の高橋みのりの四年間の物語。不穏な事件が相次ぎ、村に伝わる都市伝説的な「向日葵男」の仕業と目される中、みのりは予想もしない真相にたどり着く。
みのりと男の子二人をめぐる複雑な関係が主で、ひとりひとりの成長物語がメインなので、ミステリとしては薄味かもしれないし、テンポものんびりしている。しかし、切々たる情感があらゆる場面にあり、それだけで読まされる。悲しくて痛ましい真相が明らかになり、人間関係が見えなくなる。最後には体が熱くなるほどの情景が用意されている。

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