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ミステリの祭典

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時空犯

作家 潮谷験
出版日2021年08月
平均点6.40点
書評数5人

No.5 8点 虫暮部
(2024/11/13 12:38登録)
 これは良いタイムリープだ。消去法のロジックとシンプルに結び付きつつ余計な混乱は招かず。連れ出された時空で脳が心地良く揉まれた。ナイス知性体。犯人探しがあるだけで “ミステリ” との認識になりがちだけど、私は概ねSF、それこそクラーク系として楽しんでいたなぁ。モグラの対義語はモゲラさん卓見です。

No.4 6点 パメル
(2023/07/04 06:37登録)
ある日、私立探偵の姫崎智弘を含む八人の男女の元に、成功報酬一千万円という破格の依頼が舞い込んできた。情報工学の天才である依頼主の北神伊織博士によると、時間遡行を体験しており、何と依頼日である今日、2018年6月1日を、すでに千回近く繰り返しているという。
招集された八人は巻き戻しを認識することが出来るという薬剤を服用して、博士同様に6月1日の巻き戻し体験直後、博士は何者かに殺害されてしまう。繰り返される日付の中、謎は深まっていく。
怪しげな会場に集められた男女、莫大な報酬、発見された死体。博士殺害までは予想の範囲だろうが、時間遡行により事態が刻一刻と変化し、姫崎たちがそれに対して迫られる対処法も目まぐるしく変化を余儀なくされるあたりで、先が読めなくなる。
個性的なキャラクター揃いで、それぞれのキャラクターたちが存分に映える台詞、特に中盤の犯人を出し抜こうとしたある人物の提案には背筋が凍る。タイムリープという突飛な設定ではあるが、規則性や制限が開示されており、それを活かしたパズラーとしての謎解きが緻密で、現実的な推論を積み重ねて正体に迫っていくところが読みどころで説得力がある。
主人公の関係者を集めて謎を解く定番のシーンのシチュエーションにも、あまり類を見ない趣向が用意されている。SFでありながら、時にバイオレンス・アクション、時にラブストーリーと様々な側面を持つが、ラストは緻密に計算されたロジックの正統派本格ミステリに仕上がっている。ただし、派手な展開の割に仕掛けが小粒な点は評価が分かれるかもしれない。

No.3 6点 人並由真
(2022/02/06 06:23登録)
(ネタバレなし)
 2018年6月1日の京都。35歳の私立探偵・姫崎(きさき)智弘は、40万円の先渡し金を受け取り、依頼人である60歳代半ばの女性科学者・北神伊織が指定した場所に来た。そこには旧知の警察官、合間や、かつて姫崎に恋焦がれていた娘・蒼井麻緒など姫崎以外に7人の老若男女が集められていた。その8人の前で、北神博士は、驚愕の現実を打ち明ける。

 評者は本作が初読み。タイムループを主題にした特殊設定パズラーで、中盤でのSF設定の枠が広がるあたりとか、いささかややこしい。
 が、多彩なキャラクターの会話形式で、SF設定や筋立て上のロジックのポイントをなるべくわかりやすく読者に伝えようとする配慮は実感するので、ストーリーそのものは意外にスムーズに読める。
 ただし先にレビューされたお二方のおっしゃる通り、肝心の謎解きにダイナミズムがないというか、すんごく地味なため、フーダニットパズラーとしていささか食い足りないのは間違いない。

 それでも最後に明かされる犯人の動機の真相は(中略)だし、そのあとのキャラクター描写などなかなか情感のある味わいではある。
 作者が登場人物の大半に対し、適度な距離感での愛情を込めている? そんな雰囲気もいい。特に<あのキャラ>が一番のもうけ役。
 これも7点に近い6点というところで。

No.2 6点 フェノーメノ
(2022/01/10 21:40登録)
前作よりは好み……かな。タイムリープ(ループ)を題材にしたミステリは数あれど、こういう妙な理屈をこじつけてくる作品にはあまりお目にかかったことがないのでそういう部分での創意工夫は興味深く読めました。
ただ前作同様引っ掛かる点と前作同様の弱い点があるのであまり推す気にはなれないのが正直なところ。
以下ネタバレでございます。


うろ覚えで書くので用語等間違えているかもしれませんが悪しからず。

中盤で犯人が研究所を襲撃して鏖にした際、なぜ爆弾を使わず閃光弾を使ったのか、またなぜ研究所の火事を消火したのか、というのが問題になりました。これに対し、研究所にある何かを破壊したくなかったからだ、それを壊すのがループのトリガーになっているんだ、と主人公は推理します。こうして虹の欠片(だったかな?)を壊す=ループのトリガーと気づいた主人公は虹の欠片を破壊することでもう一度ループを引き起こします。
この時点で、作品内の論理としては「犯人は虹の欠片を壊したくなかった」=「もうループを起こす気はなかった」となります。

然るに、終盤で犯人が雷田くんと判明し、動機も明らかになった際、まだループを起こす気だった、と語られます。
これは明らかに犯人の思考として先に語られた推理と矛盾します。この部分は大前提のはずです。前提をあえて崩すなら、それ相応のフォローは必須のはず。しかしそのフォローが一切ありません。
まだループを起こす気なら、虹の欠片が壊れたって構わなかったはず。どうせ壊さなきゃいけないんだから。だったら、なぜ爆弾を使わなかったんでしょう? なぜ火事を消火したんでしょう?
もちろん、理屈はいくらでもこじつけられます。爆弾を使っても確実に壊せるとは限らない。爆発で崩れ落ちた瓦礫に金庫が埋もれるだけに終わってしまう可能性もある。そうなることを危惧し、自分で確実に欠片を壊すために爆弾を使わなかった。ついでに火事も消火した、等々。
しかし、だとしたらその点についても作中でちゃんと説明すべきではないでしょうか。それが無いのは、単なる作者の見落としを勘繰られても仕方ないと思います。

また前作同様、犯人当て部分も物足りないです。
論理を突き詰めるでも複数のアイデアを組み合わせるでもなく、ひとつのアイデアを軸に消去法を行うというのはミステリの構造としてかなり寂しく映ります。というか、「犯人特定の要素」がひとつしかないのは消去法といえるのか?と思います。仮にも消去法による犯人当てを試みるなら、最低二つ三つの「犯人特定の要素」を用意して然るべきではないでしょうか。形ばかりの消去法に思えてしまいます。
小説としては前作とは違うタイプの作品ですが、ワンアイデアの犯人当てがミステリ部分の核になってる辺り、ミステリとしてはかなり似通っているように感じました。次もこの路線でいくなら、もっと犯人当ての部分に力を入れてほしいです。だって本格ミステリなのですから。
それと前作もそうでしたが、悪意がストーリーの根底にありながら最終的には善意の話になる辺りも、ガワが違うのに読後の印象が似通ってしまっている要因かと思います。作風と言ってしまえばそれまでですが、とはいえもっと様々な手札、もとい引き出しの中身を見せてほしいところです。

No.1 6点 モグラの対義語はモゲラ
(2021/10/18 18:38登録)
読んだのは単行本版。今年の作品だしそりゃそうか。
主人公がループする回数は数回程度なのだが、他のこの手の作品と違いかなりの人数がループを認知し繰り返しており、またそれぞれが己の仕事や目的を全うしようとするので、同種のギミックを扱う「七回死んだ男」や「サクラダリセット」とはまた違った魅力を湛えている作品になっていると思った。これら二つの作品は「同じことを同じ場所で繰り返す」という前に進まない感じに引っ張られているような、若干覇気のない平和な雰囲気が全体的に流れているように感じるのだが、この「時空犯」にはそれが無かったのだ。刺激的に話が動いている。
特に三章後半からのセンミウアートとの邂逅までは、実にメフィスト賞でデビューした作家らしい過激かつ予想外な展開で、ページに噛り付いた。それらがちゃんと推理の屋台骨を支えるのもらしいポイントだと思う。
が、情景描写の点やループ現象に関する考察や博士の研究の考察などで、もの足りないというか、もっと言葉が欲しいと思うことが多かった。もっともっと映像的に凝ってもいいし、論理展開もどうも思い込みゆえの飛躍があるように感じられたのだ。展開や話を進めることそのものに引っ張られているというか。ある意味小説全体に無駄が無いと言えるかもしれないが、私には味気無さというマイナスポイントに映った。
事件も単純すぎる。一本の推理で終わってしまうのは物足りない。時間を利用した巧緻で遠大なミステリを望んでいる人には勧められない。ミステリ好きよりクラークが好きだったりするような古典的なSF好きの方が楽しめる…かも。

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