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ミステリの祭典

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ミステリ初心者さんの登録情報
平均点:6.17点 書評数:412件

プロフィール| 書評

No.412 5点 沈黙のパレード
東野圭吾
(2025/06/26 19:22登録)
ネタバレをしております。

 探偵ガリレオシリーズは、犯人側のストーリーを色濃く描かれる事が多く、読者がやりきれない思いになることも多く、ある意味では読みづらいシリーズですねw
 東野圭吾といえば、個人的にはトップクラスに読みやすい本を書く人という印象があり、先述したある意味読みづらさがあってもそれを超えてくる読みやすさがあります。本作もそれほど時間がかからずに読了できましたw
 また、私は前から湯川のことが好きになれないのですが、本作はすこし歳を取ったのか、まろやかになったのか、角が取れたようなキャラクターになっておりました。

 推理小説的な要素について。
 代表作の容疑者Xの献身のような濃厚な人間ドラマが描かれる作品と、聖女の救済のような本格色の強いアリバイトリックの2パターンあるような気がしますが、本作はドラマ調の作品のようです。
 ラストには二転三転するドンデン返しがあり、それが魅力でした。しかし一方で読者が推理を楽しむような要素が薄く、あくまでメインは被害者遺族達の復讐劇なような気がします。

 良い作品だと思いますが、私の好みは犯人当てかアリバイトリックものなので、少し辛めの5点としておきます。


No.411 7点 時空旅行者の砂時計
方丈貴恵
(2025/06/12 19:35登録)
ネタバレをしております。

 話題作&高評価作なので、前々から読みたい読みたいと願っておりましたw 少し遅くなりましたが読み終えることができました。

 タイムトラベルの要素のあるミステリです。非常に細かくルール設定されていて、説明が多いですが、とても理解しやすくて読みやすい内容になってます。また、ミステリ部分だけでなく、主人公の境遇や竜泉家の呪い、未来に起こったことなど濃厚なストーリーが楽しめます。ページ数がそれほどの多くないにも関わらず、内容は濃いですね。

 推理小説部分について。
 大きく3つのトリックのある事件を楽しめます。かつ、それが論理的に解く事ができるため、推理小説としてのレベルが高かったです。タイムトラベルを用いた事件はこの小説を代表するものですが、他の2つの事件も水準以上のトリックがつかわれ、本全体を通してダレることがなく楽しめることができます。

 以下、難癖点。
 最も気になった点は、トレーラー内の時計の時間と館内の時計の時間を合わせること。私はどうしてもトレーラー内の時計の時間をずらすことは不可能だと思い、館内の時計をずらしたのだと思っておりました。館内には確認した限りでは、娯楽室と食堂に時計があるようですが…他にもあるのかな? それはそれで時間のかかる行為だと思いますが。トレーラー内の時計をいじることは運が絡むと思うんですよねw 時計を形見はなさず持たれたらアウトだし、時間をずらした直後に時間を確認されてもアウトです。
 また、雨宮の時計が防水にもかかわらず10分遅れたのも完全に蛇足です。防水なら壊れないはずだし、壊れるならわざわざ防水という設定もいらない。そもそも時間がズレたのもいらない。
 あとは睡眠薬の効果が犯人に都合が良すぎるのも気になりました。
 最後に、時空旅行者を他の誰かに指定し、トレーラーごとタイムトラベルさせることが当然できるように書かれておりますが、これってすこし説明部分では誤魔化した表現になってるような気がしますがいかがでしょうかw 私は、最後の事件を可能にするなら、トレーラーをタイムトラベルするしか無いとは思いましたが、それが本当に可能なのかずっと迷ってしまいました;;

 ミステリ部分以外でも楽しく読むことができ、時間をかけて考えるにふさわしい論理性のあるトリックが楽しめる、高評価なのが頷ける素晴らしい作品だと思いました。大団円で終わるのも後味がよくて良いですw


No.410 6点 麻倉玲一は信頼できない語り手
太田忠司
(2025/06/05 23:39登録)
ネタバレをしています。

 非常にインパクトのある題名に惹かれましたw また、一つの島という閉鎖空間での小説なので、テンポの良さにも期待して購入。
 死刑囚が収容される島という、とても特異な状況で、終盤には閉鎖空間を活かしたサスペンスホラー的な展開もありました。ただ、本の大部分が麻倉による小説形式での罪の告白であり、それには活かされてませんでした(看守の話は島が舞台でしたが)
 とはいえ、非常に読みやすい文で、自分にしてはとても早く読了できました。

 推理小説部分について。
 ドンデン返しが用意されている、ミステリ性のある映画やドラマのような趣向でした。私は真相を見抜けず、またその真相に思わずなるほどと膝を打ちました!
 死刑囚との対話、島、主人公の境遇や知識などから、ミステリファンならばこの刑務所自体が嘘という伏線がプンプン感じられると思いますw 私は早々にそう決めつけて読んでおりましたが、結末の予想ができませんでした。

 難癖ポイント。
 長々と己の犯した罪を語る麻倉ですが、そこにはあまり読者を欺くようなトリックも結末に関連するような伏線もなく、ただの作中作のような感じになってます(自分が見逃してなければ)。良くも悪くも、結末の意外性で勝負するタイプの小説でした。


No.409 6点 すみれ屋敷の罪人
降田天
(2025/05/31 18:22登録)
ネタバレをしております。

 推理小説チェックリストなるものを作って、次に買う本を選定しておりますが、なぜか購入済みにしてあっていままで買っておりませんでしたw
 タイトルも表紙も非常に美しいですねw 内容もそれに見合う美しくて切ない物語でした;;

 古い屋敷から遺体が見つかり、過去にその屋敷で生活をしていた3人の使用人たちから証言を聞いて真相を求めていく…といった内容のストーリーです。すでに白骨化しており、遺体が誰かもわかりません。誰が殺した、どうやって殺したなどは問われなく、どちらかというと何が起こったのかを問う感じです。
 戦中戦後の名家が舞台で、それだけみると横溝金田一シリーズや、三津田ゲンヤシリーズなどが思い浮かびますが、骨肉の争いや妖怪じみたおどろおどろしさは一切ありません。最近のツユリシズカシリーズに雰囲気が似ておりますが、本作は明確な探偵や犯人みたいなのが居ないため、パズラーとは離れてます。

 推理小説というよりも、ドラマや映画に近い作品のため、推理小説としての評価は難しいですw 登場人物にこんなにも悪人が少ない小説も珍しいですねw 悲劇と、そこからくる家族愛を存分に味わえて、読後感もわるくありませんでした。
 3人の証言者の視点から、紫峰3人のヒロインの話が出ますが、最後に4人目の真ヒロインがいた感じですねw


No.408 5点 暗黒星
江戸川乱歩
(2025/05/26 18:07登録)
ネタバレをしております。

 何者という本に同時収録されていました。どうせなので別々に書評しますw

 ワクワクさせてくれる要素が多々ありました。最初のオカルトめいた出来事も、現れては消える謎の怪人も、それを追って怪我をする明智も、ハラハラドキドキなことがたくさんありました。
 一方で、怪人が現れて消えることが繰り返され、途中ですこしダレるというか、飽きが来てしまいましたw
 また、推理小説要素は薄かったです。不思議な現象は隠し通路の存在や共犯者の存在があっただけ。犯人も、なんとなく犯人だろうな~という人物が犯人だったりしますねw

 非常に読みやすくすぐ読了できる作品でした。ただ、本格推理小説を求めるならすこし薄味な感じです。


No.407 7点 何者
江戸川乱歩
(2025/05/14 22:40登録)
ネタバレをしております。暗黒星も収録されておりましたが、どうせなので暗黒星のほうのページで書評を書こうかと思います。

 
 乱歩の本格推理小説と聞いて興味が湧き、読みました。本当に本格な内容です! 途中、アクセント程度に黄金キ○ガイが登場しましたが、それ以外は端正な本格でしたw
 とにかく無駄な文章が一切なく、展開が早くてテンポがいいです。登場人物も名字だけや名前だけな表記の人も多く、覚えやすくていいですw それでいて、ただの足跡の問題だけで終わらず、終盤にはひとひねりある多重解決ものなところも素晴らしいです。まるで、推理小説の教科書のような作品です。
 タイトルの何者の意味が最後に回収されるのもいいですね。

 一方で、現代の読者から見たら、真相はちょっとわかりやすすぎましたね; 被害者が死んでいない、探偵と思われる人物が二人いる…など、細かい点を上げれば結構な数の真相を示す伏線があります。ただ、フェアさの裏返しかもしれません。

 無駄がない推理小説でした。多重解決系がゆえに、弘一の推理の矛盾点が弱い(結び目のことなど後出しだし…)のが少しだけ気になりますが、満足度の高い短編でした。


No.406 7点 最上階の殺人
アントニイ・バークリー
(2025/05/10 18:44登録)
ネタバレをしております。


 やや久しぶりの海外翻訳本のため、すこし読了まで時間がかかりました。しかし、明るく読みやすい文体のバークリーなので、半分を超えたあたりでページが進むようになりました。

 事件はあまり考えどころがなく、警察もすぐに容疑者を上げます。しかし、シェリンガムだけがフラット内の住人の犯行の可能性を考えて捜査する…といった流れです。
 不可能犯罪でもなく、アリバイトリック的なものは少しだけ。アリバイ検証もやったりやらなかったりで、シェリンガムも容疑者たちの会話での印象だけで犯人かどうか決めている節もあり、本格度はやや落ちるかもしれません。それでも楽しく読めるのはバークリーの筆力によるものなのでしょうね!

 私は最初、真相は、本当にただの強盗常習犯による犯行で、シェリンガムがすべて間違っているような、どこか笑い話的なものかと思いました。のちに、ステラとその驚愕の婚約者カエル面の男が登場したさいに、ステラとカエルの共犯なのではないかと考える様になりましたw
 ラストは多重解決物によくみられるようなどんでん返しでした。結局私は作者の手の上で転がされていたのでしょうねw

 総じて、それほど論理性はないものの、明るく楽しい作風でプロットで魅せるタイプの推理小説だと思いました。これまで読んだバークリー作品はどれもひとひねり工夫がされているものが多く、推理小説の枠を飛び越えた面白さがあります。ただ、本格度は低めだと思いますw


No.405 5点 伽藍堂の殺人~Banach-Tarski Paradox~
周木律
(2025/04/27 00:21登録)
ネタバレをしています。また、シリーズ通してのネタバレもしてしまってるかもしれません。


 数学うんちくと、ダイナミックな仕掛けの館物クローズドサークルが魅力の本シリーズ。今回もすさまじく大掛かりな仕掛けが存在しました。大掛かりであればあるほどバカミスと呼ばれる宿命がある(気がする)ので、こういった作風のシリーズは貴重ですね。
 また、今回では非常に衝撃的などんでん返しも用意されていました。それ自体は良い事ですが、個人的には残念に思えた点もありました;

 今回は(今回も?)評価が難しいですw
 とても大掛かりな仕掛けがあり、その意味では満足なのですが、これって気づかないものなのでしょうかね? よく読むと、登場人物が気づかないように注意して書かれていることがわかりますが…。
 多重解決の偽の真相とはいえ、大きな空間の上下が逆になり墜落死する推理が披露されました。これって本当にこうなるのでしょうかね? 私は以前、これに近いトリックのミステリを読んだことがあり、その時にも思ったのですが、墜落死する前に手を離せば滑り台のように下に滑り降りることができると思うんですよね。かなり急な斜面になっても、死を免れると思うんです。なぜ垂直になるまでマイクスタンドにしがみつくのでしょうかね?

 この小説で最も評価できる点は、宮司百合子による真真相ですね。十和田の説の反証は論理的でよかったですw わたしは、唯一、大石の顔面の陥没は殴打によるもので、十和田の推理と合致しないということだけは気づきましたw あとはさっぱりです。

 総じて、数学うんちくやクローズドサークルによりとても読みやすく、またダイナミックな仕掛けが楽しめる推理小説でした。ただ、十和田を真犯人にしてしまった展開は、ただただ数学にしか興味のない純粋数学者から自分の欲のために人を殺す俗物になり下がったように私には思えます; モデルの放浪の数学者がかっこいいだけに残念です。


No.404 5点 彼と彼女の衝撃の瞬間
アリス・フィーニー
(2025/03/24 03:13登録)
ネタバレをしております。

 とにかく読みづらかったです;;
 本全体が暗く重苦しい雰囲気でした。アナの視点で書かれることが多いですが、やりたい仕事を奪われ、母が認知症で、子供を亡くしていて、離婚していて、アル中で…。読むたびに暗い気持ちになり、とにかくページが進みません。また、彼女の学生時代の話も暗いものが多かったです。ただ、学生時代の登場人物たちが被害者になっているので、ミステリ的な要素がでてきてその意味ではページが進みましたw
 
 海外作品にありがちな、古典本格物とは大きく違ったドラマ調の作品でした。論理で犯人を当てるでもなく、アリバイトリックがあるでもないです。そういう意味では本格色の薄いクリスティーみたいな感じです。
 ただ、帯に書かれているドンデン返しの看板に偽りはなく、最後に行くにつれて犯人候補が逆に増えるような感じもして上手いです。そして、最後には本全体に撒かれた伏線を回収するような驚きの犯人が待っております。

 実は、私は、ただの勘ですが早い段階でアンの母親を疑っておりましたw 疑いだすと、怪しい伏線がいくつも出てきますね。しかし、日本のミステリファンならば、一度は疑う犯人像なのではないでしょうか? そのため、衝撃のドンデン返し…とは感じませんでした。

 総じて、全体の重苦しい雰囲気と薄目な本格色で、あまり好みの作品ではありませんでした。読後感が妙に良いのは評価しますw


No.403 5点 黄土館の殺人
阿津川辰海
(2025/03/08 01:14登録)
ネタバレをしております。また、シリーズ過去作のネタバレもしています。

 非常に読みやすい文書かつ、クローズドサークルに災害の要素が加わっているシリーズです。今回も非常に読みやすく、ページ数のわりに早く読み終えられました。

 今作の評価が非常に難しいです。
 まず、今までの作品は難易度が高いながら論理によって犯人を一人に絞り込むのが魅力でした。しかし今作は過去作に比べてそれが欠ける印象があります。
 過去作に比べ、死体が銅像に刺さることや、急に出現した死体など、不可能犯罪的要素が足されております。しかし、どれも偶然偶然のオンパレードで魅力を感じません。花音の件は落石の要素から十分に偶然と察せられますが、まさか雷蔵まで犯人の狙い通りではなかったとは…。偶然の要素を多用する作家は他に居ますが、とんでもなくびっくりさせてくれる作品かオリジナリティがある作品も多いです。その点、この作品はどちらもないですね。
 また、塔が音もなく動き、動いていることに気づかないって不自然すぎませんか? 田所が推理を披露しているときに「いやそれはないだろう、恥ずかしいやつだな!」って笑ってたら当然の如く動いてて唖然としましたw
 ちょっと細かい点ですいませんが、自分を殺すように依頼したのはアリバイを証言してもらうため…だったのに、機能してなくないですか? 読者へのミスリードにしかなってませんね。アリバイトリック的なものがあったらもっと効果的な演出だと思うのですが。

 私はどうやって雷蔵をくし刺しにできるかずっと考えてしまいましたw でも、図の質が悪くて、どうもよくわからないんですよね。周辺図には銅像が図示されてないですし、解決編で横から見た図が出てきますしw

 総じて、読者にとってそれほど意外でもない犯人(前例がない犯人像じゃない)、強く偶然の要素がからむ不可能犯罪、それほど緻密でもないロジックと、この小説の良さがあまりわかりません。狐を凡才と称した葛城ですが、そのとおり凡作に感じました。読みやすさで加点して5点で。


No.402 6点 証拠が問題
ジェームズ・アンダースン
(2025/02/24 19:50登録)
ネタバレをしております。

 2時間ドラマ調のミステリです。細かいアリバイ検証や、大規模なトリックなどは楽しめませんが、物語を読むと読者の犯人候補から自然と真犯人を外してしまうようなミスリードに富んだ構成と初期の段階からある豊富は伏線が魅力です。
 中盤までアリソンやロジャーによる捜査は警察小説のようでもあり、すこしダレるような感じがして、読むスピードが遅くなりました。ただ読了してから思い返すと、あまり無駄なページは無かったように思えます。何かしらの要素やセリフが、伏線とミスリードになっております。

 私は実は、ただの勘だったのですが、とても早い時点でアリソンを疑っておりましたw プロローグはなぜか女性的な犯人を想起させましたし、夫の突然の帰りにびっくりするアリソンはどこか怯えているようにも感じました(読み返すと例の手帳を見ているのは素晴らしい伏線ですね!)。また、リンダのフラットに泊まっているロジャーの下に手紙と手帳が届けられてからはアリソンが犯人だと確信しましたw

 私がアリソンが犯人だと狙い撃ちしたためか、多くの伏線とミスリードを理解きるようになり、なんだか過剰に評価してしまいそうですw 冷静に全体を考えたとき、まあ6点かな?という感想です。7点でも悪くないのですがw


No.401 7点 硝子の塔の殺人
知念実希人
(2025/02/21 18:55登録)
ネタバレをしております。

 かなり話題となっていた作品で、前々から読みたいと思っておりました。書評点がかなりよく、名作を予感したので、既読の方にヒントをもらいつつ推理をしました!

 非常に読みやすい文章で、登場人物も覚えやすいです。奇抜な館ながら建物の構造は複雑ではなく、誰がどこで何をやっているかなどはあまり考えなくても頭に入ってきます。実質の第一の挑戦状である月夜の宣言までほぼほぼ一気読みできました。本格愛のある作風で、コテコテの本格が好きな人にとっては誰もが読みやすいと思います。

 また、近年のトレンド(と勝手に思っている)である論理的な解決とそれをドンデン返す構成が素晴らしいです。挑戦状を2度つけ、それを考えさせてくれる作者の優しさにも感動しましたw それに応え、私もそれぞれの挑戦状で読み止め、ふんだんに考えましたw

 第一の挑戦状時点で、なかなかの推理小説になっております。一条の犯行は論理的な倒叙ミステリとして楽しめますし、老田・巴殺しはアリバイトリックを楽しめます。月夜の感想通り、アリバイトリック自体は名作というほどでもなく、あの例の作品と比べると小粒ではありますが、私は例の作品が嫌いなんですよねw 第一の挑戦状は文中の後期クイーン問題よろしく、その時点で隠された真相を当てられなくても読者の勝ちでしょうねw
 第二の挑戦状で隠された通路の存在が明らかになり、ここまでの状況が一変するドンデン返しは見事でした。論理的推理小説からのドンデン返しは最近の作品によく見られるものですが、ドンデン返しにすら挑戦状をつけるのは関心しましたw

 実は私は、月夜のキャラクターがあまりにもわざとらしすぎる名探偵なため、アリバイが強固な中盤でさえずっと彼女を疑っておりましたw

 総じて、ロジックもアリバイトリックもドンデン返しも楽しめる優秀な作品でした。この小説で最も気に入っている点は、一条の犯行を当てる論理と月夜にしか一条を階段から突き落とせない論理です。
 ただ、推理小説史上でも上位に入るような殺人数の犯人とちょっといい感じで終わるのは倫理的に若干の違和感を感じましたw


No.400 6点 時空犯
潮谷験
(2025/02/14 19:31登録)
ネタバレをしております。

 1日巻き戻るというSF設定のミステリです。タイムリープ系ミステリは他に2~3作品読んできましたが、中でも最もSFの色が濃い作品でしたw 無機物生命体というか機械生命体みたいな話も面白かったのですが、まさかそれ自体と主人公が対話するところまで書かれるとは!
 途中まで、SF小説におまけで推理小説がくっついているように感じましたが、ラストの消去法による論理的な犯人当ては見事でした。また、巻き戻るのになぜ殺人を犯すのかという犯人の動機も納得できました。
 難癖をつけるとすれば、犯人断定の手がかりがただの一文からであり、本気で犯人当てに取り組もうとするとかなり面倒くさいというか難易度が高いと思います;

 文が読みやすく、犯人当てもできる佳作でした。ただ、本格推理小説というよりかはSF小説よりな作品であり、SF小説が好きな人はもっと高評価だと思います。


No.399 5点 蒼海館の殺人
阿津川辰海
(2025/02/05 01:22登録)
ネタバレをしております。また、若干の紅蓮館のネタバレもあるかもしれません。

 前作、紅蓮館がロジカルな犯人当てでなかなか楽しめました。そしてシリーズ2作目! 失意の葛木が復活する本作です。
 紅蓮館と同じく、本作は水害の要素があるクローズドサークルで緊張感があります。一方で、謎めいた死体や主観人物によるイレギュラーな要素など、魅力たっぷりな殺人事件が起こります。解決編前まであまり時間がかからずに読めました。
 また、使い古されたはずの顔が無い死体→入れ替わりトリックは、ミスリードとプロットでうまく騙されました!
 実質の真犯人・蜘蛛のすさまじい手数の罠からくる小説の内容の濃さはすさまじく、このページ数でも長さを感じません。

 以下、好みではなかった部分。
 私は解決編前で読むのをやめ、何度も繰り返し読みなおし、それでも何もわからず既読の方にヒントをもらったのですが、結局何もわかりませんでした; 解決編を読んだ後は、これは読者にあてられるのだろうか?と強く疑問に思います。
 由美が犯人である理由の、スマホカバーを取って裏側まで指紋を洗う必要のある人物だったというロジックについてですが、これはさっぱり意味が分かりません。前の所有者なら裏側に指紋ぐらいついていても自然ですし、必須の行動に思えません。
 正の背が小さいので入れ替わりトリックは不可能なはずだった→あらかじめ黒田がシークレットブーツを履いていた…とのことですが、協力者のいるトリックは嫌いです。
 田所の絆創膏をみて蜘蛛は死体の足にガラス片があることを思いつく→しかし家族の行動を洗いなおすと絆創膏を見てから一人になった者はいない→家族の中に蜘蛛はいないというロジックではですがこれもよくわかりません。つまるところ、絆創膏を見れば必ずガラス片の可能性に気づかなくてはならず、逆に絆創膏を見なければ絶対に可能性に気づかないって事ですよね? 変じゃないですか?

 非常に内容の濃い作品ではあったものの、一方で納得のいかない点が多々あり、私はダメでした;; 書評点7点オーバーだったため、過剰に期待しすぎたのかもしれません。もうすでに黄土館を購入しているので、次も読みますがw


No.398 6点 蜜の森の凍える女神
関田涙
(2025/02/04 19:57登録)
ネタバレをしております。

 女子高生であだ名がヴィッキーという探偵で、主観の人物がその弟で中学生。メフィスト賞。とくれば、ちょっと色物を想像してしまうのですが、かなりしっかりした本格推理小説でしたw
 クローズドサークル風味の設定(早く警察がくるので厳密には違う?)で、途中の推理ゲームがあったり、かなり読みやすくて良かったです。獄中で死亡した画家の話もよい伏線となっておりました。

 私は、返り血を浴びずに殺人を犯せたならば裸での犯行だ→小夜子があやしい…までは予想できましたが、どうしても携帯電話のアリバイが崩せずに敗北しましたw シンプルながら盲点なトリックで、ここに推理ゲームの要素が絡んでくるのも良かったです。

 以下難癖点。
 密室にはがっかりしましたw また、叙述トリックの要素も少しあり、挑戦状あとに新情報が加えられるのでアンフェア感が否めません。だからこそ、あのような文言の挑戦状になったのかもしれません。
 また、誠が実は車椅子で行動していたことを伏せられていますが、コレに関してはあまり上手く使えているようには思えません。
 タイトルからなんだかうっすら犯人がバレてる気がするのですがw

 総じて、完璧なロジックの推理小説ではないものの、本格好きでも楽しめるレベルの端正な推理小説でした。ヴィッキーのキャラクターも明るく、なおかつあだ名の割にあまり漫画っぽくない(ライドノベルっぽくない?)ので、そういうのが苦手な人も大丈夫かと思います。


No.397 7点 儚い羊たちの祝宴
米澤穂信
(2025/01/14 19:24登録)
ネタバレをしております。

 非常に作品の幅が広い米澤さんの連作短編です。古い国産ミステリによくある旧家の雰囲気です。登場人物はお嬢様から付き人、館の使用人と様々です。犯人当てやアリバイトリックなどはありませんが、先が気になる展開にキレのあるオチが面白かったです。
 個人的には、江戸川乱歩によく似ている気がするのですが、乱歩のほうが毒々しい(?)気がしますw あと、なんとなくグリム童話的なものを感じましたが私だけでしょうかねw

◯身内に不幸がありまして
 とても嫌な動機が最後に明かされてビックリですw サイコパス診断のクイズのようですね。
 近年出版された名作にも似たような動機のミステリがありました。そういう意味でも評価できますねw

◯北の館の罪人
 コレもラストのキレ味がいいです。ちょっとわからないのですが、あえて赤に変色する色で手袋を塗ったということは、被害者は毒を盛られていたことに気づいていたのでしょうか?? それとも偶然?

◯山荘秘聞
 バッドエンドもグッドエンドもある展開でしたが、グッドエンドでよかったですw ただ、この展開は最後の章にも効いてるかもしれませんねw  
 1日程度なら遭難者一人を眠らせてごまかすことも出来たでしょうが、予定ではもっと長期でおもてなしするつもりだったんですよね? そう何日も匿うことは出来ないとおもうのですが…?

◯玉野五十鈴の誉れ
 これが最もグリム童話的ですねw 少し感動がありますが、小さい男児が犠牲になっているので素直に喜べません;;

◯儚い羊たちの晩餐
 ちょっと解釈が難しい話ですが、つまるところ、主人公はバベルの会の会長だけに(あるいはそのうちの一人)に復讐したくて人肉料理をリクエストした→主人公は"厨女は材料を大量に仕入れるが、優れた一つのみを選定してあとは捨てる"と勘違いしていたが、実は希少部位だけ取ってあとは捨てていた→食卓にバベルの会全員の唇が出される。というオチでしょうかね? 
 もっとも毒気のあるオチですが、意外性とキレはもっとも少なかったとおもいます。

 総じて、非常に雰囲気もよく、また読みやすく、オチには適度にぞっとさせられる成分が入っていて気に入りました。ページ数の割に内容が濃かったです。


No.396 6点 復讐者の棺
石崎幸二
(2025/01/09 02:14登録)
ネタバレをしております。

 非常に読みやすいユーモアミステリのシリーズで、重宝しております。メンバーの中では割と常識人的な仁美もレギュラー入りしたのでしょうかね?
 今回はクローズドサークルでテンポも速いです。ただ、ユーモアミステリであるためか、一切のサスペンス性はないですw また、被害者の警戒心が薄くてアホみたいに簡単に殺されますw しかし、被害者たちの対策が完璧で一切の殺人も起こらないミステリなど駄作もいいところですからね。

 今回は割としっかりしたトリックが楽しめました。実際にできたかどうかは別として…。
 私はこのトリック、わかりませんでしたw 顔がつぶされていたならば死体が入れ替わっているなど常識ですが、だからどうしたんだというところがわからず…。バカな私ですがそれゆえにミステリを楽しむことができるかもしれないと思っておきます;;
 
 このシリーズを制覇しようと思ったのですが、次の≠の殺人や、その他の本もちょくちょくプレミア価格がついており、制覇の夢は潰えました…。買えそうな値段のものは買おうと思います;;
 また読みやすいユーモアミステリのシリーズを探さないと…。緻密な論理の犯人当てミステリと同等に、ユーモアミステリも希少価値が高いですね。


No.395 5点 ひらいたトランプ
アガサ・クリスティー
(2024/12/27 19:27登録)
ネタバレをしております。

 今年は読書する時間が減ってしまい、例年よりも読破した冊数が大分少なくなってしまいました;; なので、申し訳程度に集中して読んでおりますw もう年末なのでそう大した冊数にはなりませんが…。

 さて、本作はブリッジのゲーム中に殺人が起こり、得点表から犯人を推測するというミステリで、私も名前だけは聞いたことが有りましたw 有名な古典のひとつなので、いつかは読まなければと思っていた一冊です。想像では、殺人が起こってからすぐに推理し、その日のうちに場面変換が起こらないままポアロが犯人を指摘する小説かと思っておりましたw
 ブリッジについては前に同様のテーマの作品を読んだことが有り、何度かyoutubeでルール動画を見ましたが、未だに覚えられません;; ルールを理解している人ならもう少しこの小説を楽しめるかもしれませんね;

 ブリッジ中の殺人や得点表からの推理など、個性的でおしゃれな要素ですが、殺人がおこってからは割と普通の推理小説になります。主に容疑者の過去の事件のことや、注意力や性格なんかの調査パートになります。なので、すこし読みづらさを感じてしまいました。
 終盤になり、事件が一気に動き出し、またドンデン返しもあって楽しめました。ただ、2時間ドラマ的な楽しさであり、トリックやロジックを考える楽しさはありませんでした。

 オリヴァ夫人のキャラクターは現代では出せませんねw 夫人の語った推理小説の書き方や、フィンランド人探偵を出すんじゃなかったみたいな話って、作者も同じことを思っているのか気になるところですw

 総じて、小説を書くのがうまい作者のため、ミスリードや伏線を楽しめる作品でした。ただし、推理小説としては犯人当てもトリックも楽しめず、ややパンチ力に欠けました。


No.394 6点 すべてはエマのために
月原渉
(2024/12/23 17:53登録)
ネタバレをしております。また、同シリーズのネタバレも少ししてしまっているかもしれません。

 タイトルからツユリシズカシリーズだと思っていなかった私w 九龍城のほうがそれっぽいタイトルなので紛らわしいったらないですねw まあシリーズ最初の作品は~館の殺人というものでもなかったのですが。
 他の同シリーズ作品と同じように、あまり無駄な部分がなく極めて読みやすい作品です。今回は世界大戦中のルーマニアで、戦争の描写もありますが、鬱屈した感じはありません。読後感もよい感じです。ただ、なんだかシリーズを重ねるごとに、百合的なものが濃くなっている気がします…。露骨なものはありませんが。
 今回のシズカは、あまりロシア語の罵倒もなく、ただ冷静で有能な女性キャラクターになっており、あまり個性を感じませんでした。初期なんて、魅力的な殺人現場を目撃するたびにハラショーとかいって喜んでいたのにw 

 推理小説的要素について。
 人物の入れ替わりが2重になっていました。ネネ←→アル間と被害者←→死体です。それ自体は珍しいものでもないですが、時代背景とその設定から動機面で無理がなく良かったです。リサとネネが双子のように酷似しているのは一種のミスリードだったかもしれません。
 アルが女性だったのは盲点でした。途中のインタールードで謎の女性キャラの描写があり、それが伏線だったのですがまるでアルを女性だと思っておりませんでした。兵士はみな男性だという固定観念がありましたw

 総じて、読みやすく読後感の良い作品でした。非現実的な事象が起こっていても登場人物たちの行動も理解できます。一方で、本格推理小説のトリックやロジックを期待するとややがっかりするかもしれません;


No.393 5点 五色の殺人者
千田理緒
(2024/12/20 15:43登録)
ネタバレをしております。

 目撃者の証言が大きく食い違っているという魅力的な謎に惹かれて読みました。同系統の謎で思い出すのは、この間読んだヘレン・マクロイの月明かりの男ですw

 鮎川賞受賞作ということは、新人賞だと思うのですが、この作品はまるでベテラン作家の作品のように読みやすく、無駄がなかったです。序盤に事件が発生し、速やかに謎が提示されます。それ以降、捜査していくなかで自然に事件の詳細があきらかになり、被害者と容疑者と証言者のデータ提示と動機探しも同時並行されます。途中、何かに気づいた者が急死し(死んでなかったが)、主人公も危ない目に遭いサスペンス性が足されます。ラストにはどんでん返しと、さわやかな少しのラブストーリーがあります。この流れが王道ながら非常にスムーズで余計な部分がなく、小説を書くのがうまい作者なのだと感心しました。素人探偵ものなのも含め、D・M・ディヴァイン的なものを感じましたw

 以下、不満点。
 メインの謎となる五色に分かれる犯人の服の色の証言の謎ですが、思ったよりもあっけないですw ただ、非現実なわけでなく、むしろ現実にもありそうな事でした。
 藤原イツキと思われていた人物がイツキではない・・・という展開は流石の私でも読めました! 老人ホーム内の表現や名前と名字の表現など、フェアすぎるぐらいに伏線が張られていました。ただ、こういう勘違い系ドンデン返しは推理小説にありふれており、オリジナリティは感じませんでした。ラブストーリーに絡めてる点はよかったですねw

 総じて、優等生的な推理小説でよくできておりますが、謎やトリック自体は平凡でした。最近の鮎川賞には名作も多く、ややハードルが上がってしまった感じが否めません。悪い作品じゃないと思います。

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