最上階の殺人 ロジャー・シェリンガム |
---|
作家 | アントニイ・バークリー |
---|---|
出版日 | 2001年08月 |
平均点 | 6.80点 |
書評数 | 10人 |
No.10 | 8点 | 斎藤警部 | |
(2024/11/09 21:30登録) 「英国の犯罪史に名を残す殺人者全員の犯行日と処刑日をそらんじています」 いんやあ、いちいち面白い! このしつこさが、時を経て今や愛おしい。 言葉のドタバタが最高。 ロジャーのチャラおじぶりと来たら! 愛嬌の無い美人秘書との遣り取りも素晴らしい。 人生には、アントニイ・バークリーのような友人が必要だ。 「本気だったじゃないですか!」 最上階と言っても所謂ペントハウスとはイメージの異なる、4階建てアパートメントハウス(各階2世帯ずつ)の4階に住む高齢の独身女性が、或る夜強盗殺人の被害に遭った。 モーズビー首席警部は、鼻を突っ込んで来た小説家ロジャー・シェリンガムと推理考察の変化球キャッチボールを繰り返し、事件の真相へと迫る。 中盤のあたりから自然と、誰が真犯人(意外な背景等含む)で、どのような真相だったら、バークリーの面目がキッチリ立つのかと無意識に探るような読み方になって来てしまう、そんな素敵にマーヴェラスな小説だ。 “男の真価が問われるのは重大な危機に瀕したときだ。 ロジャーはいま人生最大の危機に立たされていると言っても過言ではなかった。” “音” に関する証言というか現象?の、思いのほかアツい振る舞い! “紐” の振る舞いのミステリ的爆裂。 死亡推定時刻の機微。 アガサの某技も頭をよぎる。 終盤後半の構造的熱さと来たら、ちょっと無いぜ。 ドタバタし過ぎとは言え、最後の最後の咄嗟の工夫と、それに続くオチ~~終幕が素晴らしい。 ふざけ過ぎの連城三紀彦といった所に違いない(それはどうかな)。 「短編のタイトルだ。 『親の顔が見たい』 ロジャー・シェリンガム作」 早くも多重解決のパロディか。 新本格というよりアンチミステリの始祖か。 ミステリとして随分空疎な中身(?)にも関わらず、このミステリとしての熱さ、痛快さは何だ!! やっぱ見せ方、プレゼンテーションの魔法だよなあ(みりんさん仰る「演出の勝利」) ・・・ いやいや、考え直したら、推理→解決の軸をちょっと螺旋状?に変えてみただけで、きっちりミステリの中身は詰まってるし、落とし前も普通とは違う形なだけで、しっかり付けているじゃないか!! 「ひ――火にくべた?」 愚かな私は、最初の四分の一くらい “モンマス・マンション” を “マンモス・マンション” と勘違いしていた気がします。 題名 ”最上階の殺人” も梓林太郎さんの “最上川殺人事件” と間違える所でした。 それにしても「カエル面」タァなんですか。 “彼はビールを飲み干すと、ふたたび食料貯蔵庫へ行ってグラスを満たした。 今回の事件にかかわって以来、今夜はこれまででいちばん推理がはかどった。 すべてはビールのおかげだと彼は慎み深く考えた。” |
No.9 | 7点 | みりん | |
(2024/04/22 03:23登録) くぅ〜毎度毎度よくもまあ真面目な探偵小説読者をコケにするようなプロットが思いつくねぇ(褒めてます)。まさに笑劇の結末!!まあシリーズを通してワンパターンではあるんですが、演出の勝利です。今回もロジャー・シェリンガムがド派手にやってくれます。モーズビーとの勝負は今のところ大目に見て引き分けということで 今年の2月に刊行された創元推理文庫の方で読みましたが、『第二の銃声』と同様にフォントサイズが小さすぎて発狂しかけました(怒) 解説の「バークリーvsヴァン・ダイン」では2人の作家の両極性について述べられてて、非常に興味深かったです。この2人はバリバリ同年代の作家みたいです。ヴァン・ダインってE.Qに影響与えてるくらいだから、もっと古い作家(ポー・ドイルの次くらい)だと勘違いしてたよ…笑 |
No.8 | 6点 | E-BANKER | |
(2023/01/28 14:54登録) バークリー中期の傑作との評価もある作品とのこと。 「最上階」といってもたかだか四階建てのアパートの「最上階」なのだが、シェリンガムは本作でも“迷”探偵ぶりを披露してくれるのか? 1931年の発表。 ~最上階のフラットに住む老婦人が殺害され、室内も荒らされた。裏庭に面した窓からはロープがぶら下がっていた。スコットランドヤードの捜査に同行したロジャー・シェリンガムは、警察の断定に数々の疑問を持ち、独自の調査を開始する・・・~ うん。実に面白い(※湯川博士じゃないよ)読書となった。 いい意味で軽さがあり、とても1930年代の作品とは思えない。さすがはミステリー発祥の国・英国。 今回はひたすらシェリンガムが考え、行動し、ああでもないこうでもないという試行錯誤を繰り返していく。そして、たまに閃いて前進したかと思いきや、関係者の証言であっさり覆されたりする。読者としては、それを見守るしかないといった状況にある。 今回は秘書役となる美女ステラとのやり取りがもうひとつの特徴。 シェリンガムの推理をことごとく全否定し、ひたすらにクールに振る舞うステラと、口では否定しながらも明らかに彼女に気があるシェリンガムのやり取りは、結構な分量が割かれているところからして、ラストの勘違い(シェリンガムは真相と考えていたが・・・)に繋がっている。 本作でもシェリンガムはやはり「狂言回し」的な役どころになるので、中盤以降の彼の数々の試行錯誤(というか妄想?)は結局日の目を見ないことになる。そして、判明する真相は実にシニカルなもの・・・。この当りは作者らしいというか、この頃の本格ミステリーとは一線を画すプロット。 まぁこういうのが好きかどうかということになると、正直微妙なのだが「これはこれでアリだし、面白いじゃないか!」という評価になるのも十分納得。 「ミステリーってこういうふうにも書けるよ」っていうことで、いろいろと可能性を広げたという意味からは、作者と作者の作品群は後世にとっても結構大きな影響を与えたんだろう。 |
No.7 | 7点 | 弾十六 | |
(2018/11/01 22:37登録) 1931年出版 秘書とのやりとりに可笑しみが溢れており婦人服店のくだりがとても楽しいです。数々の小ネタ、そして大ネタがみごとに決まって傑作だと思いました。 |
No.6 | 6点 | 青い車 | |
(2016/12/01 19:16登録) バークリーの隠れた佳品という書評をいたる所で見ましたが、僕はあまりしっくりこなかったのでちょっと意外でした。作者のクセの強さが顕著に表れたオチですが、似たような逆転を同じ作家にこれだけ多用されると食傷気味になってしまいます。ドラマチックな推理に比較して真相の方が面白くないというのはミステリーに対するシニカルな問題提起とも取れますが、素直に面白かったとは言い難いです。ただ、クライマックスのインパクト大な描き方は見事でした。 |
No.5 | 7点 | ボナンザ | |
(2016/06/05 15:00登録) バークリーらしく斜め上の傑作。 シェリンガムの妄想もいつも通りで楽しい。 |
No.4 | 6点 | nukkam | |
(2011/05/06 13:56登録) (ネタバレなしです) 1931年発表のロジャー・シェリンガムシリーズ第7作です。「毒入りチョコレート事件」(1929年)や「第二の銃声」(1930年)と比べるとロジャー・シェリンガムのひたすら地道な捜査を描いた本書はバークリーにしては普通過ぎる本格派推理小説にしか感じられないかもしれません(第10章ではロジャーがちょっと暴走していますが)。しかし最終章での強烈極まりない結末はやはりバークリーにしか書けないものでしょう。新樹社版の翻訳はそのインパクトを見事に再現しており、これは名訳です。 |
No.3 | 7点 | kanamori | |
(2011/01/08 17:25登録) これは、バークリー中期の佳作でしょうね。 マンション最上階に住む老女殺害事件自体はシンプルで地味ですが、終始シェリンガム視点で語られているため、迷探偵の推理過程や心の動揺がまんべんなく描かれています。とくに、被害者の姪・ステラがシェリンガムの秘書になっての二人のやり取りと、いつもの多重解決が読みどころで面白かった。 以下ネタバレになりますが、 本書で作者が意図したのは、名探偵像の反転と同時に、ミステリ愛読者の頭に染み付いた「意外な犯人」像の反転でしょう。 |
No.2 | 7点 | こう | |
(2010/08/16 00:30登録) シェリンガムシリーズ第7作目はシェリンガムの妄想ぶり暴走ぶりがすごい作品でその点は「ジャンピングジェニイ」に匹敵すると思います。 事件そのものは単純なのですがこれで長編一本書けるのは大したものです。真相、構成はバークリーらしい仕上がりです。この作品でもモーズビーと共演していますが「毒入りチョコレート事件」以外に4作品で共演しており彼らの推理対決は興味深くいずれも読む価値があると思います。 また作者のシェリンガムを据えた意図を踏むならば出来れば「レイトンコート」から刊行順に読んだ方がより楽しめるシリーズだと思います。(私は初訳の年の違いのためかなりばらばらに読んだのでその点は残念です) |
No.1 | 7点 | mini | |
(2008/10/29 11:16登録) 新樹社でしか読めないバークリーの名作の一つ バークリーは他にも名作がいくつもあるので、「最上階」が最高作とは一概に言えないかもしれない しかし曲者作家バークリーの特徴が最も露骨ストレートに出ているのは間違いなく「最上階」だろう 一番の出来という意味ではなく、一番バークリーという作家を理解するのに適した作品という意味だ まだ「第二の銃声」とかが刊行されてなかった頃、今では信じられない話だが、「毒チョコ」で初めてバークリーを読んだ読者には作者の意図が分からなかったらしい 「毒チョコ」は傑作ではあるんだけど、名探偵のはずのシェリンガムが推理合戦の順番が最後じゃないというのが理解されなかったんだろうね 多分普通の本格のつもりで読んだら、なんじゃこりゃ?だったのだろう 「最上階」を「毒チョコ」より先に読んでいれば、この作家を理解出来ないという事はなかったろう 野球の投球に例えるなら、打者の直前まで直球と思わせておいてストンと落ちる魔球フォークボールといったところか まぁ内容的にはスクリューボール・コメディの趣だが |