みりんさんの登録情報 | |
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平均点:6.65点 | 書評数:467件 |
No.467 | 6点 | 盲目の理髪師 ジョン・ディクスン・カー |
(2025/08/14 10:34登録) 政治家の爆弾発言を残したフィルム、エメラルド像の盗難…消えた女の死体…シリーズ初のドタバタコメディと安楽椅子探偵フェル博士。外交官、元船長、推理作家、操り人形師の姪が船上を引っ掻き回し、思いも寄らぬ展開の連続。期待していた人間消失はややズッコケ気味だが、シリーズ随一のリーダビリティーとユーモアが魅力の作品。前作からなぜか方向転換?フーダニットものとして、丁寧に伏線が配置され、脚注付きで回収されていく。まあまあ面白い。ただ、『夜歩く』や『魔女の隠れ家』のような作風を期待してしまっている自分がいる。 |
No.466 | 6点 | 剣の八 ジョン・ディクスン・カー |
(2025/08/12 17:16登録) フェル博士の3作目なのに書評数8とマイナー寄りの作品。読み終わった直後ですら、既に中盤あたりの記憶が抜け落ちている。この薄味さと偶然的要素が事件を複雑にさせる感じ、既読作で1番近いのは『四つの兇器』かな。「大好物のザリガニスープ(まずそうw)に手をつけなかった」という謎から構築されるロジックは堅牢とは言い難い(好きな食べ物を最後まで取っておく私のような人もいる!)が、直感的推理としてはよく出来ており、良質なフーダニットものと言える。解説の霞流一氏はこの作風転換はクイーンの<奇蹟の1932年>に触発されているのではと推察している。 ヴァン・ダイン並に影の薄い語り手のランポール君、もうクビですか? |
No.465 | 6点 | 帽子収集狂事件 ジョン・ディクスン・カー |
(2025/08/11 22:56登録) 読んでる途中に思い出したがこれだ!!昔読もうとしたけど途中から文章が頭に入ってこなくて断念したヤツ!!このオッサンはやめておこうと決意した苦き思い出の作品との思わぬ再会。新訳パワーでなんとか読めたが、ページ数が同じでもカーはクリスティーの2倍くらい時間がかかるようだ(笑) 帽子の盗難とデュパンシリーズの未発表原稿以外には特に目を引くものはなく、殺人事件は実に平凡なものです。また、道中は不可能興味を唆られるわけでもなく、『魔女の隠れ家』のような禍々しさもなく、一つ良さをあげるとしたら、舞台が霧が立ちこめるロンドン塔というところでしょうか。 フェル博士が「〜だわ。」とお嬢様言葉になる時が2回くらいあるのなぜ? 【以下直接的なネタバレ】 唐突に意外な犯人とそのアリバイトリックが示されて驚きました。今や犯行現場の錯誤はアリバイ崩しものの鉄板ネタなわけですが、江戸川乱歩が絶賛したのは当時としては初出だったからなんですかね?1934年なら既に手垢のついてそうなネタな気がしますがねぇ…それとも、不可能犯罪であることを強調せずにフーダニットとして勝負したことなのかなあ。もし始祖だったら+2点しますが、確かめようがないよねこういうの。 今作のフェル博士あんまいいとこなしだな。 |
No.464 | 7点 | 魔女の隠れ家 ジョン・ディクスン・カー |
(2025/08/09 15:14登録) 監獄の長官を代々受け継ぐスタバース家のとある儀式と死に様に関する言い伝え、断頭台のある<魔女の隠れ家>の禍々しい演出がとても上手い。怯懦な女性と語り手との出会いからも壮絶な事件の幕開けを期待させる。冒頭から実に引き込まれた。私は古い作品を読む時に「この時代の作品の犯人の意外性といってもせいぜいコイツ程度だろう」という油断が生まれる。現代読者としての傲慢さが私を迷路に追い込むのだ。今作もまさかそんなサプライズがしっかり用意されているとは微塵も思わず、素直に感心した。アンリ・バンコランシリーズとは明白に違うというのはそういうことネ。 それは好ましいことだが、ダークヒーロー感のあるバンコランの方がフェル博士より好きだなあ。 あと古い翻訳で読んだからか、(めちゃくちゃ×3)読みにくかった。カーは一文一文が重く、やはり気軽には読めないので、連休中に読んでいこう。 |
No.463 | 7点 | ベンスン殺人事件 S・S・ヴァン・ダイン |
(2025/08/07 17:38登録) 綿密に計画された犯罪は個の心理から構築される唯一無二の芸術品…心理の追跡は物的証拠や状況証拠よりも尊い… なんと心理探偵は1926年に既に誕生していたのか。ポアロが心理云々を重視するようになったのは確か中期あたりから(?)だし、ロジャー・シェリンガムとはどっちが先なのだろう。 黄金時代の幕開けと称されているが、幕開けから既にこんなに皮肉られまくってるのジャンルとして煮詰まりすぎだろう。やや弱めの多重解決要素まであるし。今や英国のバークリーと共に米国では忘れ去られた悲しき作家らしいが、いまだに本格が根強い孤高の島国ではいつまでも読まれ続けられるのではないか。 |
No.462 | 7点 | ナイルに死す アガサ・クリスティー |
(2025/08/05 17:50登録) はっきりいって今までのクリスティー作品の中でダントツで面白かった。親友に婚約者を奪われた哀れな女性の行く末に心を揺さぶられた。無限に拡散していく人物相関はどこに着地するのだろう?ととにかく夢中になって読んだ。まだ著作を5分の1も読めていない私だが、読んだことない方にクリスティーのおすすめを聞かれたら現時点では真っ先にこれをお勧めすると思う。 【ネタバレ強め】【シリーズ過去作ついても触れるので注意】 肝心な時に限ってピタリと当ててしまった。当てたくなかった。なぜ当てられたかというと同シリーズの過去作にほぼ同じと言ってもいい犯人の設定と動機があるからだ。どうしてもその作品の使い回しという印象が拭えない。緻密に計画した犯行のはずなのに、あの(5分の空白)には確定的な要素がないとも思う。確かに過去作品よりは、経緯が詳細に描写される分、真相は効果的に映るし、ロマンスとしてもビターなエンディングも好みだ。過去作品さえ読まずに本作だけをつまみ食いしていたら、他の名作に並ぶ評価だったのが悔やまれる。でも、本作の持つ魔力に惹かれて、必ずいつか再読してしまうと確信している。 |
No.461 | 5点 | もの言えぬ証人 アガサ・クリスティー |
(2025/08/04 00:49登録) 遺産相続をめぐる利己的な一族の話で、『邪悪の家』ってタイトルはこっちの方が相応しそう。事件は老女の転落事件と病死のみで、ポアロが容疑者と話して情報を引き出すだけで500ページ以上引っ張られるのはさすがにしんどかったが、犯人の意外性はある。この感じのズラし方は久々かな?引っかかった。 影が薄くなってきたヘイスティングスが今作でほぼリタイアと聞いてやや寂しくなる。助手による記述形式は手がかりの与え方、ミスリードの手法に限界がきたのかな。 ※直井明氏の解説で『カーテン』に関して超重大なネタバレを喰らったような気がします(大泣) 問題なければいいのですが… |
No.460 | 6点 | ひらいたトランプ アガサ・クリスティー |
(2025/08/03 14:39登録) 全く知らなかったがオールスター編だったのか。普通に容疑者4人以外のレイス大佐とか疑ってたぞこっちは。初耳のブリッジはクリスティーオリジナルゲームかと思ってた。面白そうなのになんで日本で浸透してないんだろう。2vs2のゲームで1人休憩てよくわからんな。 他の方もおっしゃっているように、ゲームから容疑者の心理や性格を分析するスタイルは『カナリヤ殺人事件』や『心理試験』を想起させるが、それ一辺倒にはならず、容疑者4人の過去の犯罪にも焦点を当てている分、説得力があると思う。後ろめたい過去のある4人の容疑者をポアロが聴取で追い詰めていく展開も高度な騙し合いとなっている。フェミニストの推理作家はやや浮いた道化として描かれているので、完全に投影しているわけではないのだろうが、推理作家の苦労やポリシーが伝わってきて楽しい。 ブリッジ知らなくても結構面白い。ブリッジ自体も多分ポーカーより面白い。 |
No.459 | 7点 | メソポタミヤの殺人 アガサ・クリスティー |
(2025/08/02 22:14登録) いやあ面白かった。クリスティーって東野圭吾と同じで会話文中心で一気に読ませる力があるから広く親しまれているんだろうな。映像も映えるし。本サイトの国内国外書評数1位がこの2人なのも納得。 【ネタバレ】 元夫が姿を変えて容疑者の中に紛れ込んでいるかもしれない!て展開は最近読んだカーの『夜歩く』みたいで興奮した。食傷気味の入れ替わりもこうやってあらかじめ提示されていれば許せる。 ポアロシリーズにしては珍しく半密室で不可能犯罪が取り入れられている。執筆当時ですらそこまで斬新でもなさそうだが、これがあるだけで嬉しい。被害者の人となりや背景を探ることで浮かび上がる真相とポアロの推理というよりプロファイリングが面白い。それまで和気藹々としていたのに被害者が輪に入るだけで調査団員同志がギスギスする…これは現代でいわば"サークルクラッシャー"てやつだな。にしても作者は恋愛沙汰好きすぎるね |
No.458 | 6点 | 雲をつかむ死 アガサ・クリスティー |
(2025/08/02 15:07登録) 1935年のポアロ中期作。『ABC殺人事件』の前なのか。日本では『ドグラ・マグラ』が発表された年だと思うと、意外と我が国のミステリーも先進性があるというか本国イギリスに健闘しているな。 【ネタバレのようなものあり】 列車内では飽き足らなくなったのか、遂には天空で殺人事件が起こる。メイントリックはその綱渡り的な面も含めて実にホンカクミがあって好感が持てた。吹き矢とハチのアイデアはミスリードとして十分に機能している。 ただ人物関係でよくやるアレは流石に食傷ぎみだ。いくら当時の戸籍制度・身分制度・捜査手法が杜撰でも、流石にこれを見逃すことはないだろうと思う。『オリエント急行』と同じように、捜査編もかなり退屈。 |
No.457 | 5点 | 光のアダム 中井英夫 |
(2025/07/27 00:28登録) 森の廃屋に住んでいる名家・瀬良家に魅入られた美術評論家と失語症の画家。二人はそこで世にも美しい妖精のような人ならざるものを幻視する。 おお!とらんぷ譚よりもさらに反地上的な幻想小説。本作は"地上"というワードを現実という意味で多用する。主人公は"地上"の時間に囚われた人間なのに対して、失語症の画家は異次元へと飛翔する天使に近づこうと…うん、なんかよくわかんねーけど終盤はやたら俗っぽく・・・地上っぽくなる。話の掴みどころはないが、幻想文学ってこういうものか。あの世とこの世の境目のような雰囲気を出すのはうまい。"地上"の代名詞である主人公が傲慢で煩悩にまみれた性格なのはわざとなのだろう。 |
No.456 | 6点 | 無実はさいなむ アガサ・クリスティー |
(2025/07/26 16:45登録) まだほとんど読めていない戦後のクリスティー作品の1つ。 舞台は『ねじれた家』で形式は『そして誰もいなくなった』みたいな感じだった。最近は初期のポアロシリーズを読んでいたので、ガラッと雰囲気が変わって面食らった。資産家夫婦の5人の養子の人間模様が複数視点で丁寧に描かれ、まるで自分ごとのように読ませてしまう力がある。日本の新本格作家(好きですよ)に足りないのはこういうところなのだろう。 親の愛情は子にとっての束縛となる。血の繋がっていない親ならなおさら倒錯した感情を抱いてしまうのだろう。犯罪をゲームのように楽しむフィリップだけがこの重さにそぐわずかなり浮いている(てかちょっとサイコっぽいw)。得意の恋愛描写も健在だが、最後は少し雑かな。 パズル好きの私の嗜好とは少しズレた作品だが『ねじれた家』と共に自著ベスト10入れているのも何となく頷ける。 |
No.455 | 7点 | アミュレット・ワンダーランド 方丈貴恵 |
(2025/07/26 01:10登録) アミュレット・ホテルの続編。前作が小ヒットしたのもあり、売れ路線を狙ったか?本格度は前作より下がり、その代わりにエンタメ度がアップ。てことで贔屓しても7点に抑えておこう。 竜泉家シリーズはあまりキャラクターに愛着はないが、こちらのハードボイルド風なのに理知的なホテル探偵が格好良くて好きだ ドゥノット・ディスターブ 6点 生配信中に背後から刺された双子の片割れ。衆人環視の密室と鉄壁のアリバイだが実は〜のネタでズッコケ。ポイントは袖の内側に隠した両手から紐解かれるロジック。 落とし物合戦 7点 遺失物管理を担当しているラウンジ&バー『ブラック・カイザー』には高価なブレスレットと靴下の中に入ったぬいぐるみが届けられた。申し出た3人の中の誰が真の落とし主なのかを当てるフーダニット。その裏には正体不明の大泥棒・ニコラウスの影。舞台設定と謎のアンバランスさが愛らしく、著者らしく実にロジカルに解決されていく。犯罪者の楽園なのに従業員はほのぼのしてていいな。 ようこそ殺し屋コンペへ 7点 イタリアのマフィアの開催する殺し屋コンペにより、5人の刺客がアミュレット・ホテルの従業員・水田に襲いかかる。著者初のガン・アクション。方丈先生の端正な本格マインドを評価している身としては、あまりそっちには行ってほしくはないなと思いながら読んでいたが、推理を武器にするホテル探偵によるフーダニットに落ち着き安心。これは法月綸太郎へのオマージュ的なやつですか?? "ホテルのルールに守られているのは、宿泊客のほうなのだ" なるほどねぇ… ボマーの殺人 7点 アミュレット・ホテルを乗っ取ろうとする爆弾魔が最上階に出現。無数の容疑者から犯人を特定する鮮やかなロジックはいつも通りながら、49個の爆弾の中にたった一つ紛れ込んだ解除コードを探す力技とやや強引な10桁コードの推理もおまけつき。ホテル探偵による容赦ない拷問シーンがぜひ見たかったなあ(笑) 以上4編。『落とし物合戦』と『ようこそ殺し屋コンペへ』が特に面白かった。短編なので、事件の動機となるドラマや人間背景が薄っぺらく見えるのは仕方がない。ので続編は長編でどうですか(^^) |
No.454 | 7点 | 三幕の殺人 アガサ・クリスティー |
(2025/07/23 22:49登録) ポアロが登場するまで約200ページ。日常でも何かしらの役を演じてしまう自己愛の強い俳優と人間観察が趣味の好事家による素人探偵コンビが活躍して新鮮。 【ネタバレあり】 ポアロを悩ませるのが聖人の権化のような牧師が殺された動機。これは良心が痛む凄まじい一撃だ。しかし、それよりどちらかというと2つの殺人の会食に居合わせた者を疑わせるというミスディレクションのためだったという動機の方が良かったのではないか? よくもまあこんな良作をポンポンかけるなあ いや今作に関しては「犯人はエッグでチャールズを自分の元に呼び戻すためだ」という確信があった。怪しいモノローグや独り言もあったし。だがクリスティーはそこまで甘くなかった。 |
No.453 | 8点 | エッジウェア卿の死 アガサ・クリスティー |
(2025/07/23 14:47登録) このシリーズは騙された人と見抜いた人(もしくはネタバレ等で知っていた人)で評価が分かれがちだなあと思います。 ⚠️ネタバレ注意⚠️ ※ポアロシリーズ過去作のネタバレもあり 著者の得意とするこの手のテクニックにまた騙されちまった。むしろお前が見抜ける作品あるのかよと思われそうだが。もう流石に"この技"はないだろうと油断していた。悪く言えば過去作の使い回しであるが、それが連続すると見事に決まる。 ????「今考えていることの逆が正解だ。でもそれは大きなミステイク」って奴です… 今作はわざわざモノマネ女優までフェアに登場させているのだから、このトリックにも実現可能性が保証されているし、成功したかを電話で確認までしているのだからリスクが極めて低い。実際に○○○○○に気付いて殺された奴もいるわけだし。 トリックは見事◎で動機も前例なし◎(自分の読んだ中で)。ミスリードは本サイトのレビューを見ると引っかかってる人は少なめなので微妙か△ 最後の獄中からの手紙、自信に満ちた狡猾な犯人の造形もよし◯ てことで8点! |
No.452 | 7点 | 邪悪の家 アガサ・クリスティー |
(2025/07/22 12:55登録) すごくシンプルに読めば、真相が浮かび上がってくるという構成が面白い。いや普通に疑ってたんですよ中盤くらいまではね。でもそこから色々あって頭からポッカリ抜け落ちていたというか、勝手にその可能性を消していたというか…まあ素直な読者なんです。まあポアロもずっと見抜けなかったんで(笑) ミスリード・ミスディレクション(違いや如何に?)の巧みなクリスティーと相性良いのかもね。 ※人並さんのありがたき警告によって、ソチラをどうせ読んでいないであろう私は皆様の書評が読みたくても読めないのが辛いところ。 |
No.451 | 4点 | 青列車の秘密 アガサ・クリスティー |
(2025/07/20 02:37登録) 列車内で顔を潰された女の遺体とその部屋に潜んでいた男の影、ルビーの盗難、骨董商の話…そして謎のロマンス展開。話がとっちらかりすぎてあまり整理できていない。 アガサ・神・クリスティーにしては珍しくつまらん。でもポアロの推理が聞きたくてこんな深夜まで読まされちまった。 |
No.450 | 7点 | グラン・ギニョール ジョン・ディクスン・カー |
(2025/07/18 09:42登録) 『夜歩く』の原型となった中編。読む前から犯人を知っているというバイアスもあるが、登場人物が減らされたためか『夜歩く』よりも犯人の意外性がなくなっている。その代わりにバンコランの豪華な推理ショーが映える。最後の犯人の悲痛な叫びも削られているのは寂しいが、スリムになった分、事件の不可解性とその真相はこちらの方が分かりやすい。 読みにくかった新訳と比べると、国内作品かと錯覚するくらい異常に滑らかでかつ雰囲気も損なっていないと思う。多少省いてるんか知らんが、素晴らしい翻訳。 あと、恐怖小説とロマンス小説と謎短編が3つと、最後にはカーの評論付き。 カーの『十大傑作探偵長編』のセレクト理由とその作家・作品の歴史的意義・位置付けなどが解説。ネタバレの嵐なので、海外古典未読だらけの私は半分くらい飛ばし読みせざるを得なかった(ネタバレの警告⚠️はあるので安心して読める)が、このサイトの海外古典が好きな方々にとっては垂涎の品だと思われる。 |
No.449 | 7点 | 千年のフーダニット 麻根重次 |
(2025/07/16 21:22登録) 物語の2/3ほどは秘境冒険小説+プチミステリみたいな感じでワクワクしながら楽しく読んでいたが、研究所が千年間コールドスリープさせる理由が脆弱(なぜ千年?)だったり、千年後の世界が想像を超えるものでなかったりと節々に安っぽさはあった。ホワイに関してもたっぷりページを割いて、背景を掘り下げ、犯人の執念と狂気に説得力を持たせていたら…と惜しく思う。しかしながら、真相自体は紛れもなく一級品で、非常に優れた密室ミステリ。もし某1990年代の作品を読んでいなかったら凄まじい衝撃を受けて、さらに高い点数をつけていたと思う。この設定でクローンを使わなかったことも素晴らしい。 疫病神ながら予想しておくと、今年の本格ミステリベスト10とかにランクインするんじゃないですかね(^^) あと、装丁もうちょっとがんばれよ |
No.448 | 5点 | 妖刀地獄 夢野久作 |
(2025/07/15 16:28登録) 『名娼満月』以外にはいずれも刀が物語に深く関わってくるということで、『少女地獄』や『瓶詰地獄』にあやかってこのようなタイトルをつけたと思われる。中身は夢野久作が生涯で書いたたった5つの時代小説を全て収録。他のアンソロには一切載ってない激レア5品。 『斬られたさに』 3回読んだがモヤモヤ。 特に若侍の最期のセリフ「女役者」はどういうこと?本当は仇討の免状を盗んだ掏摸女であるが、友川家の長女であるかのように演じていたとそのまま受け取って良いのだろうか。平馬の悟った真実の武士道とは一体何だったんだろう。決して復讐の連鎖を悔やんだわけではなさそうだが。 『名君忠之』 藩主・黒田忠之は家臣である与九郎が薩摩藩から恩寵を受け取ったことに憤慨し、処刑を命じるところから始まる。 この話は与一の動機が謎に包まれています。死んだ両親に呪いをかけられていたのか、それとも自分が助かる道はこれしかないと悟ったのか。どちらにせよ遊女を手にかける必要はなかったのでは。結果、祖父の死に感極まって泣き出し、元凶である忠之も情に絆される始末。 『名娼満月』 最上級の美貌を持つ花魁・満月を3人の男が奪い合い、その戦いに破れた商人と武士がタッグを組んで満月を貰うための金を集めるという話。1クールの感動オリジナルアニメのようなフツーすぎるオチで逆に異色作まである。 『狂歌師 赤猪国兵衛』 記憶が正しければ、夢野久作の中で唯一の探偵小説だと思われる。探偵小説アンチの夢Qなので、その造形はやはり一筋縄ではいかず、掃溜から手掛かりを習得する非人(乞食)探偵を採用。内容は王道で、蔵元の娘が胴体を真っ二つに斬られた事件を解決するというもの。この乞食探偵はロジックが強引で、どちらかというと掃き溜めで集めた情報を開示していく物知りおじさんというイメージだ。解説によると都筑道夫の砂絵センセーに近いらしい。読んでみるか。 解説によると、非人というワードが引っかかり掲載を拒否されたらしい。この探偵によるシリーズものになる噂も… |