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ミステリの祭典

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千年のフーダニット

作家 麻根重次
出版日2025年01月
平均点6.80点
書評数5人

No.5 8点 パメル
(2025/09/12 19:15登録)
人類初の冷凍睡眠実験に参加した男女七人が、千年の眠りから目覚めると七人の被験者の内の一人がミイラ化した他殺体として発見される。さらに巨大冷凍庫から顔を損壊された少年の遺体も見つかる。犯人は何らかの方法で建物に侵入した外部犯か、それとも被験者の誰かなのか。六人はシェルター近辺から探索を始めるが展開は、サバイバル要素と未来人類の邂逅を絡めアドベンチャー性を帯びてくる。道中では第三の殺人が起きてしまい、事態は混迷していく。
フーダニット、ハウダニット、ホワイダニットが楽しめる作品となっている。フーダニットとしては、容疑者が限定されるクローズド・サークルから始まり、外部世界へ拡大する中で犯人像が推移していき、最終的には意外な事実が明らかになる。ハウダニットとしては、冷凍睡眠中の殺害方法に加え、「顔のない死体」の意味が物語後半で明かされるなど、細部の伏線回収が緻密である。ホワイダニットとしては、本作最大の衝撃とされる要素で、「千年後の世界で自らの遺伝子を残す」という生物的な欲望が、殺人と未来社会の形成に直結するという構図が素晴らしい。
千年という時間をトリックの道具に変えつつ、人類の本質を問う哲学性を併せ持った構成力は、ミステリ好きやSF好きだけでなく、人間の根源的な欲望や時間の重みに触れたい人すべてにお薦めできる野心作である。

No.4 8点 人並由真
(2025/09/03 11:42登録)
(ネタバレなし)
 SFとしてのテクノロジー描写が雑という意見にはあえて反対しないが(ただ、個人的にはそんなに問題に思えなかった)、そこにあった(中略)の正体は何か? なぜ死体(中略)は損壊されたか? という謎について、最後の最後に明かされる真相は、ショックでアゴが外れた。

 物語の加速感が乏しいのは弱点だとは思う。が、一方で、良い意味でシンプルに記号化された主要登場人物たち(と思っていたら、ムニャムニャ……)の書き分けが明瞭で、退屈さなどはほとんど感じなかった。

<大枠としてのSFミステリ>という変化球路線のなかで、いかにギミックの多い、そしてお話として面白いパズラーを作るか? という命題に真っ向から挑んだ優秀作だと思う。
 
 一読してから序盤の部分を読み返すと、あの登場人物はソノとき、あんなことを考えていたのかなあ、と感無量……というか複雑な思いに駆られた。

 もう少しあちこちの細部を推敲する余地は確かにあろうが、得点的な評価でいえばかなり点数の高い一作。

No.3 7点 みりん
(2025/07/16 21:22登録)
物語の2/3ほどは秘境冒険小説+プチミステリみたいな感じでワクワクしながら楽しく読んでいたが、研究所が千年間コールドスリープさせる理由が脆弱(なぜ千年?)だったり、千年後の世界が想像を超えるものでなかったりと節々に安っぽさはあった。ホワイに関してもたっぷりページを割いて、背景を掘り下げ、犯人の執念と狂気に説得力を持たせていたら…と惜しく思う。しかしながら、真相自体は紛れもなく一級品で、非常に優れた密室ミステリ。もし某1990年代の作品を読んでいなかったら凄まじい衝撃を受けて、さらに高い点数をつけていたと思う。この設定でクローンを使わなかったことも素晴らしい。
疫病神ながら予想しておくと、今年の本格ミステリベスト10とかにランクインするんじゃないですかね(^^)

あと、装丁もうちょっとがんばれよ

No.2 4点 虫暮部
(2025/06/28 21:14登録)
 SFとして掘り下げ不足。
 千年のコールドスリープに関するアレコレが色々と雑に感じた。SFサイドから(も)読む私のような読者にしてみれば、解像度はせいぜい星新一なみと言ったところ。
 寓話的ショート・ショートならそれで良いけれど、フーのみならず様々なホワイを内包するミステリの背景がそれでは、人物像までぼやけちゃって切実さが伝わって来ない。そこまでして再度スリープする必要があったのだろうか? 作中の説明では不満だな~。
 最初は良い話っぽかった “断章” がどんどん闇堕ちする様には目を瞠った。

No.1 7点 メルカトル
(2025/03/31 22:51登録)
若くして妻を喪い失意に沈むクランは、人類初の冷凍睡眠(コールドスリープ)実験に参加する。さまざまな事情を抱えた男女7名は「テグミネ」という殻状の装置で永きにわたる眠りについた。

――そして、1000年後。目覚めたクランたちはテグミネのなかでミイラと化した仲間の他殺体を発見する。犯人は誰なのか。施設内を調査する彼らが発見したのは、さらなる“顔のない死体”で――
Amazon内容紹介より。

外枠はSF、格となる部分は本格ミステリと言った感じです。特殊設定ミステリの亜種とも言えるでしょう。難クセを付ける訳ではありませんが、そんな描写要りますか?と思えるシーンも散見されます。その割には冒頭の強烈な謎に対するアプローチがあまり描かれていないのが残念です。

最後に提示される真相に関しては文句なしです。ここだけ切り取れば完全な本格ミステリでなるほどと納得が行きます。かなり強引なところもありますが。
文体は硬質であまり面白味がなく、言ってしまえば冗長ではあります。ただアイディアは非常に優れたものがあり、デビュー作も読みたいと思わせるだけのものは持っていますね。もう少し垢抜ければ人気作家になれる素材でしょう。

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