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ミステリの祭典

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魔女の隠れ家
ギデオン・フェル博士シリーズ/別題『妖女の隠れ家』

作家 ジョン・ディクスン・カー
出版日1956年07月
平均点6.27点
書評数15人

No.15 6点 クリスティ再読
(2023/09/11 15:49登録)
バンコランものはもちろん豪華絢爛系怪奇スリラーだし、「プレーグコート」もゴチャゴチャしすぎだし、とカーって胃もたれしやすい作家...
でも、フェル博士第一作の本作はというと、ラブロマンスと怪奇、それに執事のバッジくんやらフェル夫妻が醸し出すユーモア感がバランスが取れていて、同時期の他作品と比べ圧倒的にリーダビリティがいい。いや、カーもそろそろ肩の力が抜けた来たんだな(苦笑)

で、事件も本筋は結構シンプル。トリックも王道。ちょっとした手違いがフーダニットに結びつくあたり、やはり本作がカーのターニングポイントになっているのは間違いのないところだろう。
難をいえば、事件が小ぶりで地味。被害者の描写が少ないから、被害者の性格が真相での「動き方」を説明をするに、やや説明不足になっているあたりかなあ。
本作で初めてカーもスタティックな「パズラー」というものをしっかりと意識するようになった、と見るのが穏当なあたりじゃないのかしら。本作を「第二のデビュー作」と捉えるべきだ。6点つけたけど、ご祝儀込み。

(いやフェル夫人、のちの作品でも言及はあるけど、本作はしっかりとキャラがある。意外にキャラ好きだから、本作だけで事実上退場しているのは何かもったいない)

No.14 5点 虫暮部
(2022/03/24 12:16登録)
 ラスト3分の1、暗号解読以降は、私の中の少年探偵団魂がムクムクと甦って楽しかった。しかしそこに辿り着くまでが退屈。しかもこれが、リアリティや誠実さ故に地味なのではなく、出し惜しみって感じ。手記や回想シーンならいいんだけど、カギカッコの中で語られる怪奇趣味には距離を感じてしまいノレない。

 フェル博士の立場は “最初から事件に関わっている御近所さん” なわけで、本来なら容疑者の一人では? 初登場だから “シリーズ・キャラクターは犯人ではない” って御約束は通用しないでしょ。
 博士が住む “水松(いちい)荘”。この字は “みる”(海藻の一種)とも読むのでイメージがユラユラ揺らぐなぁ。
 5章。追いはぎや贋金使用で絞首刑。怖い! まぁ日本も似たようなものか。
 12章。“報道は九日とつづかなかった”。 a nine days' wonder (一時は評判になってもすぐに忘れられてしまう事件)に引っ掛けた洒落?

No.13 7点
(2019/12/07 08:31登録)
 ハヴァフォード大学の恩師メルスン教授の紹介で、リンカーンシャー州チャターハムに住む辞書編纂家ギデオン・フェル博士を訪ねることにしたアメリカ人青年タッド・ランポールは、ロンドン駅構内で灰色のコートを着た若い女にぶつかった。彼女の弁護士とともに現れたフェル博士によると女性の名はドロシーといい、チャターハム監獄の所長を勤める名門の出。そしてその兄マーチン・スターバースは嫡子として二十五歳の誕生日の夜、監獄へ行って、所長室にある金庫をあけて、運だめしをしなければならないらしい。スターバース家の当主たちは代々、首の骨を折って変死していた。兄妹の父親であるティモシーも、その例に洩れなかった。
 ドロシーに惹かれたタッドは運命の夜、〈イチイ荘〉からフェル博士と儀式の一部始終を見守ることにする。丘の上の監獄に向かってゆく一条の白い光と人影。やがてライトの明かりが所長室にさすが、灯は所定の時刻の十分前に消える。彼は沼沢地を走り続けていっさんに〈妖女の隠れ家〉へと駆けつけるが、断崖のはしの井戸のまわりで発見したのはマーチン・スターバースの、ゴムのようにぐんにゃりした死体だった。そして彼の首の骨もまた折れていた――
 1933年発表のギデオン・フェル博士もの第一作。カー/ディクスンの長編としては「毒のたわむれ」に続く六作目。コレラと絞首刑、因縁めいた言い伝えのある沼沢地帯と美しいリンカーンシャーの田園を舞台に、シンプルに纏まった物語が展開します。
 情景描写や雰囲気は濃厚で若干当てられるくらいですが、フェル博士の安定した人格が良い重しとなりバランスが取れています。事件のシチュエーションが視覚的でシンプルなのもGood。シンプル過ぎて犯人が分かり易いのが難ですが。しかし逮捕シーンから皮肉なラストまで終始ドラマ的な工夫が凝らされており、メイン探偵のデビュー作品としては「プレーグ・コートの殺人」よりも出来は良いでしょう。背景となる過去の怪死の謎もキッチリ説明されています。
 ただこの作者のベスト10に入るかどうかとなると微妙。初期作という事もありレッドへリングその他はまだ未熟。なかなか悩ましいものがありますが、「貴婦人として死す」に続く11~15位の次点ポジションかな。

No.12 6点 レッドキング
(2019/08/25 06:13登録)
旧家継承のオカルト風秘儀に絡めた連続殺人。キャラ的に一番怪しい人物には鉄壁のアリバイが・・・。アリバイトリックは見事だが、「密室」「不可能犯罪」ではないのが残念。自決し損ねた犯人の情けなさがよい。
※ところでフェル博士って妻帯者だったのね。忘れてた。

No.11 6点 弾十六
(2018/10/29 20:02登録)
JDC/CDファン評価★★★★☆
フェル博士第1作 1933年出版 創元文庫(1979年)で読みました。
全体的にフレッシュな若々しさが感じられる楽しい探偵小説。米国と英国の間で戸惑う(もちろんイギリス贔屓)記述が多めでJDCの心情を正直に吐露している感じです。でも、肝心のネタはあまり謎めいていないので小盛り上がり。事件が進行中なのに古文書を読んでしまうブッキッシュな態度や、普通の作家ならきっと意気込んで書くであろう井戸調査の場面をコミック仕立てにしてしまうので、怪奇は全然盛り上がりません。
初登場のフェル博士はHe likes band music, melodrama, beer, and slapstick comediesと評されています。
登場人物がやたら歌ったり飲んだりするのがフェルシリーズの特徴。出てくる歌などを原文から調べてみました。
p21「ラウス ヴィ二 エクセルシタス クルシス」(Laus Vini Exercitus Crucis): 1187年の第一回十字軍のさいブイヨンのゴドフリーの部下たちが歌った『酒の歌』で『朝まで家に帰るまい』(We Won't Be Home until Morning)と同じ旋律だと主張しています。Laus Vini... の方は真偽不明。We Won’t Be Home… の方はWebで何件かヒットしました。
p46 古い文句「地には大いなる叫びが満ち…」(There was a great crying in the land): 聖書の引用? And there shall be a great cry throughout all the land of Egypt (Exodus 11:6 KJV)がありますが…
p67 ずっと昔に流行った戯れ歌(long-forgotten comic-songs)2曲 『マリーよ、すぎし憩いの日、そなたはどこにおわせしか』(Where Was You, ‘Arry, on the Last Bank 'Oliday?)と 『ブルームズベリー広場のバラ』(The Rose of Bloomsbury Square): いずれも調べがつきませんでした。‘ArryはHarryの略だと思います。
p192『蛍の光』Auld Lang Syne: 英語圏では大晦日のカウントダウンの定番曲。でも、ここのイメージがちょっとわかりません。うら寂しさを表現しているようなのですが…
銃は「旧式のデリンジャー」an old-style derringer revolver が登場。Remington Doubleだと思います。(revolveしませんが…) 他に「銃身の長いピストル」a long-barrelled pistol (後に出てくる「ブラウニング型拳銃」a Browning pistol と多分同じ)も登場。

No.10 7点 青い車
(2016/12/13 19:41登録)
 アリバイ工作プラス罪のなすり付けという一石二鳥の犯行方法はさほど斬新ではないものの、よく考え込まれていて全体的にかっちりした出来となっています。怪奇趣味も程よくムードを盛り上げるのに成功しており、フェル博士最初の事件としては言うことなしの佳作です。初めてカーを読む人に強くおすすめできます。

No.9 6点 nukkam
(2016/09/10 06:20登録)
(ネタバレなしです) 1933年発表の長編第6作である本書はヘンリー・メリヴェール卿(H・M卿)と共に登場回数が最も多いシリーズ名探偵フェル博士のデビュー作でもある本格派推理小説です。作者得意のオカルト雰囲気は本書でも見られますがこれまでの作品と大きく違うのは陽気な巨漢というフェル博士の造形が作品に明るさを与えるようになったことでしょう。明るい部分と暗い部分の対比がプロットにメリハリを生み出しています。謎解きを押しのけない範囲内でロマンス描写に力を入れたのも作者に余裕が出てきたことを感じさせます。謎解きのまとまりもよく、カー入門編として勧められる一冊です。

No.8 7点 ボナンザ
(2014/11/18 15:23登録)
フェル博士初登場の初期の傑作。
メイントリック一本勝負で、暗号などは飾り。
雰囲気、トリック、ラヴロマンスとカーらしい要素満点でありながら、ここまで簡潔に描写できるのは初期ならではだろう。

No.7 6点
(2014/08/03 15:16登録)
フェル博士初登場の本作は、カーにとって一つの節目となる作品だと思われます。といっても直前の『毒のたわむれ』は読んでいないのですが。
初期バンコランものでは衝撃的な現象がこけおどしに過ぎず、トリックやロジックにいいかげんなところがあったのですが、後の作品では怪奇性は保持しながらも結末の意外性、合理性をむしろ重視するようになります。本作でも廃れた監獄の不気味な雰囲気はたっぷりですが、一家に伝わる肝試し的儀式の手順を犯人が殺人トリックに利用し、さらに偶然を組み合わせることで不可能性を強調しているところなど、論理的整合性を重視して、解決はなかなか鮮やかです。そんな事件を捜査するフェル博士の磊落でユーモラスな人柄設定(本作ではこれまた楽しい性格のフェル夫人も登場)は、対比効果を考えてのことでしょう。
ラスト、犯人が供述書を書いた後の行動(というより不行動)が、なかなか印象的でした。

No.6 6点 文生
(2012/04/07 13:10登録)
1930年のデビューからの数年、雰囲気優先でミステリとしての面白味に欠けていた初期と1934年の『プレーグ・コートの殺人』以降、傑作を連発した全盛期とを繋ぐ過渡的作品。
トリック自体は地味だが、おどろおどろしい雰囲気にミステリ的な仕掛けが有効に作用しており、バランスの良い作品に仕上がっている。

No.5 6点 E-BANKER
(2011/03/19 14:48登録)
(今こうしてミステリーを味わえる喜びを噛みしめながら、書評を考えてます・・・)
フェル博士の初登場作品。
カーらしい怪奇趣味に溢れた雰囲気が味わえます。
~チャターハム牢獄の長官を務めるスタバース家の者は、代々首の骨を折って死ぬという伝説があった。この伝説を裏付けるかのように、今しも相続を終えた長子マルティンが謎の死をとげた。『魔女の隠れ家』と呼ばれる絞首台に不気味に漂う苦悩と疑惑と死の影・・・~

不気味な伝説や舞台設定、小道具がオカルティズムを盛り上げており、何ともいえないカーらしい作風です。
ほとんどの登場人物にアリバイが成立するなかで、唯一アリバイがなく、いかにもダミーの犯人らしい登場人物は最後に○○・・・
アリバイ崩しについては、要は使い古されたトリックですが、それを作者特有の怪奇趣味でうまい具合にコーティングしてあるため、読者に見えづらくなってる、ということですよね。その辺は割と単純です。
「暗号」についてもそんなに捻りはなく、恐らくイギリス人だったら苦労せず解けるだろうレベル・・・
まぁ、カー全盛期の始まりともいうべき作品ですし、トータルの出来としては悪くないでしょう。「カー入門編」としてはいいかもしれません。
(フェル博士初登場作のためか、博士の人となりが割りとよく紹介されてるのが興味深い。それにしても、カーの怪奇趣味とは相容れない「天真爛漫な性格」ですねぇ・・・)

No.4 6点 kanamori
(2010/07/01 20:45登録)
フェル博士の初登場作品。
監獄跡の絞首台など怪奇趣向が充分で、不気味な雰囲気が横溢している作品です。
フーダニットとしても読み応えがありますが、結末の付け方にひと工夫ほしかった。

No.3 6点 ミステリー三昧
(2009/09/10 22:56登録)
(ネタばれかも)
<創元推理文庫>フェル博士シリーズの1作目(長編)です。
「嘘の手掛かり」を利用したミスリーディング術に賛美を贈りたい。「ネズミ」や「手すりのキズ跡」から機械トリックと思わせつつ、実際使われたトリックは・・・だったという真相には唸りました。本当の手掛かりとなる「現場状況の矛盾点」に気付くに至らなかった点が悔やまれる。同時に伏線を隠蔽することにも成功させていました。
ハウダニットに比べ、フーダニットは少し不丁寧で魅力を欠いていました。逆説推理と言える「完全無欠のアリバイ」を持った人間が犯人という点だけでは、意外性の演出だけで説得力がイマイチ。また、「ハンカチ」の件はあからさま過ぎて魅力に欠けます。決定的な証拠を指摘できない点も心残りです。フーダニットに満足できない点で評価を落としました。

No.2 7点 Tetchy
(2008/12/01 21:47登録)
フェル博士初登場の記念すべきシリーズ1作。
“魔女の隠れ家”と呼ばれる古い監獄跡を先祖代々受け継いでいるスタバース一家は長男が25歳の誕生日になると、たった一人で監獄の長官室で1時間過ごし、そこに置いてある金庫の中に仕舞われている文書を取り出してこなければならない義務があった、などという安手の肝試しゲームにも似た、無駄におどろおどろしい設定が実にカーらしい。
そしてその一家には代々首の骨を折って死ぬという呪われた歴史があったと、畳み掛け、その通りの事件が起きちゃうというわけ。

限られた空間の中で限られた登場人物の中で繰り広げられる不可能犯罪は納得の行く推理で解かれる。
1作目にしては上出来といった佳作。

No.1 7点 ロビン
(2008/09/02 13:12登録)
オカルト風味の雰囲気や、偶然や他人のちょっとした行動が事件を複雑にするというカーらしいトリック。
ただ、登場人物も少なく極めてシンプルなプロットだったため、分かりやす過ぎた。まあ、犯人は意外な人物だったんですけど。ちゃんと伏線もあったし。

ラストはできれば、フェル博士の推理ショーで解決して欲しかったなあ。

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