home

ミステリの祭典

login
空さんの登録情報
平均点:6.12点 書評数:1505件

プロフィール| 書評

No.1505 5点 魔女の不在証明
エリザベス・フェラーズ
(2024/09/15 17:15登録)
ナポリからそう遠くないイタリアの町を舞台にした作品で、巻末解説によれば、フェラーズには本作を含め9編外国を舞台にした作品があるそうです。主人公のルースが、ある意味共犯者の男とナポリまでバスで向かうシーンなど、なかなかイタリアらしい雰囲気が味わえます。全編ルースの視点から描かれていて、殺人事件に巻き込まれた彼女があたふたしながら身の潔白を証明しようとするところ、のんびり系サスペンスとして楽しめました。解説ではコージー・タイプとも書かれています。
冒頭一見不思議な事件が起こるのですが、ただ読者にすぐ見当がつくだけでなく、作中人物たちも簡単に解明してしまいますし、謎解き的にはnukkamさんご指摘のとおり、ゆるゆるです。真犯人の設定もすっきりできません。ただ、途中のすっとぼけた会話の中で出てきたことが伏線になっていた点だけは、感心しました。


No.1504 6点 鉄の花を挿す者
森雅裕
(2024/09/04 20:28登録)
刀剣についても詳しい作者らしい作品で、冒頭に刀の構造や刃文の図解が載っています。
島根県の山奥に住む刀鍛冶門松一誠が、彼の師匠の訃報に接するところから始まります。最初のうちはその師匠の遺作となる刀をめぐる話で、あまりミステリらしくありません。誰か殺されることになるんだろうかと思いながら読んでいくと、1/3ぐらいのところで意外な人物が死にます。それも事故死に見えたのが、警察で一応調べてみると、どうも殺人らしいということになります。さらに派手な事件も起こり、その真相はということなのですが。基本的には、ほとんど意外性はありませんが、門松が絶体絶命の危機に陥るクライマックスの決着のつけ方には、感心しました。
それにしても、最後警察の捜査が入ることになる、岡山市にある刀剣を収集する「森原美術館」…美術に多少詳しい者には、その名称からしてもモデルは明らかなのですが。


No.1503 7点 少年殺人事件
ローレンス・ヤップ
(2024/08/31 18:20登録)
児童文学の賞をいくつも獲っているベテランの中国系アメリカ人作家による1983年の作品です。作者名の綴りはYep、Wikipediaではイェップと表記され、邦訳のあるファンタジー系の2作はこの名義になっています。なお、中国語名は葉祥添。
訳者あとがきでは本作をまず児童文学と捉え、「少年の心の動きや情緒をうまくつかんで描かれた好作品」とし、「しかもミステリーの味つけまでしている」と書かれています。そこを読むとミステリ要素が少ないように思えますが、実際には単なる味つけではなく、主人公の高校生だけが、ある有力者が犯人であることを知っているというタイプのサスペンス系として、なかなかよくできた作品です。クライマックスもなかなか緊迫感がありました。原題は "Liar, Liar"、つまり、主人公に対する周囲の疑惑、無理解を表していて、そのような状況設定もうまくできています。


No.1502 6点 探偵稼業は運しだい
レジナルド・ヒル
(2024/08/26 19:46登録)
レジナルド・ヒル初読です。この作家はダルジール警部で知られていますが、本作はもう一つのシリーズ、外見は冴えない黒人の私立探偵ジョー・シックススミスを主人公にした作品の第5作にして最終作です。このシリーズ、1993年から1999年までの間に4作書かれた後、2008年になって本作が久々に発表されました。軽いユーモア・ミステリ・タイプです。私立探偵が主役でも、ハードボイルド的な感じはあまりしませんが、他の4作はどうなんでしょう。
ゴルフ試合で不正にからむ疑惑が、そのゴルフ・クラブの将来に関わる大規模な事件に発展していく話です。原題 "The Roar of the Butterfly" は、ゴルフでの緊張した瞬間には蝶の羽ばたきさえうるさく聞こえるということを意味しています。登場してくる人物たちがみんな事件に何らかの関連を持っていたり、シックススミスが運に恵まれているとかいうご都合主義が、かえって楽しい作品です。


No.1501 6点 流れる砂
東直己
(2024/07/07 23:21登録)
私立探偵畝原(うねはら)浩一シリーズ長編第2作です。第1作『渇き』はふざけたようなシーンで始まっていましたが、本作は冒頭衝撃的な事件が起こります。56歳の父親が息子に一方的な暴力をふるった挙句、無理心中をするのです。その後、どうしてそうなるに至ったかを描いた後、事件は畝原が引き受けた別件とも関連を持ち、思わぬ方向に発展し、公務員が何人も関係してくる大掛かりな結末を迎えます。意外な人物が悪役の仲間だったことも判明するのですが、それが事件解決の糸口になるものの、今一つすっきりできませんでした。
娘の冴香や、畝原とつきあっているデザイナー姉川明美(「酒井和歌子に生き写しだ」そうです)も登場し、最後の方では事件に巻き込まれることになります。とは言え、姉川明美とその娘真由が関係する最後の事件は肩すかしで、むしろない方がよかったかなと思えました。


No.1500 7点 緋色の記憶
トマス・H・クック
(2024/06/30 17:11登録)
クックの邦題に「記憶」が付く作品群の中で最初に翻訳されたのが1996年発表の本作 "The Chatham School Affair" で、エドガー賞受賞というのが、選択理由でしょう。訳者あとがきを読むと「死」と「夏草」も刊行予定に入っていたようで、「記憶」をタイトルに入れたのはシリーズ的に売り出そうとの狙いもあったのでしょうか。
時代設定は1926~7年、老いた「私」が高校2年だった時の話です。校長である父親の「型にはまった」生き方を嫌い、新任美術教師ミス・チャニングの父親の著書に書かれた「自由」にあこがれる「私」が直面した悲劇的現実。過去の様々なシーンと現在を交錯させ、過去に何が起こったのかを少しずつ明らかにしていく筆致は、いかにもこの作者で、この真相ならこの構成が確かに効果的です。どんな事件がどんな直接的理由で起こったのかを明らかにする第25章には、なるほどと思わせられました。


No.1499 7点 オートルート大爆破
ミシェル・ルブラン
(2024/06/27 00:12登録)
リュパンのルブランは Leblanc ですが、この作家は Lebrun。定冠詞のle+白に対して茶色の意味です。本作原題はただ "Autoroute"、直訳すれば自動車道路、つまり高速道路のことです。高速道路の一角に過激派が爆弾を仕掛けようとし、〈ローザ・ラローズ〉と呼ばれる女が爆弾をパリ近くからリヨンまで自動車で運ぼうとするのですが…
高速道路を利用する様々な登場人物の視点から描かれ、そのうちの何人かはローザとも絡み合ったりして、話は展開していきます。ただ過激派の計画だけではなく、他にも泥棒や、その泥棒の追跡者、また別件の泥棒をしようとする者など、ミステリ要素を取り入れ、サスペンスフルに仕上がっています。最後本当に「大爆破」になるかどうかは、読んでのお楽しみ。
第5章の最初に、J・G・バラードの『クラッシュ!』からの引用が添えられていたのには、ちょっとびっくり。


No.1498 6点 虚空の糸
麻見和史
(2024/06/22 23:33登録)
講談社文庫版では「警視庁殺人分析班」となっている捜査一課十一係シリーズの第4作です。主役の如月塔子巡査部長と鷹野秀昭警部補がなかなか魅力的です。タイトルもなるほどと思わせられます。
事件は「警視庁脅迫事件」、東京都民を殺されたくなければ二億円を払え、という無茶なもの。まあそこはミステリですから、裏があるわけです。事件の展開は意外性もあり、楽しめました。
ただ、疑問点もかなりあります。まずこの犯人、いくら何でもある人物を信用しすぎです。また、二者択一のもう一方だった場合、さらに「想定外のこと」が起こらなかった場合、犯人がどうするつもりだったのか、全く不明です。第2の殺人現場検証段階で、ある予測を考えたものの、犯人の視点から書かれた部分を読んで、予測は違っていたのかと思ったのですが、実際には合っていました。犯人視点部分はない方がよかったでしょう。


No.1497 5点 忘れじの包丁
ジル・チャーチル
(2024/06/13 20:40登録)
このシリーズ第5作のタイトル元ネタが、映画 "A Night to Remember"(『SOSタイタニック』)であることは、巻末解説の最初に指摘されています。まあ他の作品についても、映画化でより知られるようになった小説もかなりありますけれど。このドキュメンタリータッチの傑作映画を監督したロイ・ウォード・ベイカーは、ホラー映画などもずいぶん撮っています。
で、本作はジェーンの家の裏の空き地が映画のロケに使われることになり、有能だけれど嫌われ者の小道具主任が殺されるという事件です。原題のKnifeは、殺人に使われたジェーンの包丁のこと。その包丁にも関することで、ごく早い段階から、これが伏線だなと思ったことはあったのですが、そのことにジェーンが気づくのは最後近くなってからで、ちょっと間抜けな感じはしました。第2の事件が起こった時点で、それが殺人なら犯人は明らかな点も気になりました。


No.1496 8点 裏切りの街
ポール・ケイン
(2024/06/10 20:02登録)
訳者あとがきの中で、チャンドラーの言葉「超ハードボイルド文体」の「超」には、「ウルトラ」とフリガナがしてあったんですね。原文では "ultra hard-boiled manner"、むしろ「極限的ハードボイルド様式」と訳したいところです。
1932年に「ブラック・マスク」に分載された後、翌年に単行本出版ですから、『影なき男』の前年。しかしハメットの長編のような私立探偵小説系統ではありません。一応巻き込まれ型の犯罪小説で、様々な人物が絡み合い、話がどう転んでいくのか、見当がつきません。
あとがきに、「原題のFast Oneは、ペテン、詐欺、裏切りといった意味だが、〝すばやいやつ〟の意味もこめられている」とされていますが、どうなんでしょう。"pull a fast one" は「だます」の意味ですが。fast には、速い、放蕩な、忠実な、等の意味があり、それらの意味に当てはまりそうな登場人物たちが登場します。


No.1495 7点 ヴェルサイユ宮の聖殺人
宮園ありあ
(2024/05/28 20:25登録)
2020年の第10回アガサ・クリスティー賞で、大賞に次ぐ優秀賞を受賞した作品で、応募時のタイトルは「ミゼレーレ・メイ・デウス」(原綴 “Miserere mei, Deus”)、このラテン語は「神よ、我を憐れみたまえ」の意味で、プロローグとエピローグにはさまれた4章からなる本作の、第4章のタイトルでもあります。
1782年のフランスが舞台。フランス革命が始まるのが1789年で、革命の立役者の1人であるロベスピエールも名前だけですが登場します。そんな絶対王政末期の時代考証の緻密さ、雰囲気は、巻末に6ページにもわたる参考文献一覧を付けているだけあって、たいしたものです。探偵役となるマリー・アメリ―公妃と士官学校教官ジャン=ジャックも魅力的に描かれています。
ただ、殺人現場の密室的状況はあいまいさが残りますし、ダイイング・メッセージについてはそのように書く意味がないという不満はありました。


No.1494 8点 リトル・ドラマー・ガール
ジョン・ル・カレ
(2024/05/25 23:45登録)
ル・カレがスマイリー3部作の後、1983年に発表した本作で扱われているのは、最近も問題になっている、中東、イスラエル-パレスチナの紛争です。タイトルが、主役の女優チャーリイ(本名チャーミアン)のことであるのはわかりますが、Little Drummer が何を意味しているのかは、ちょっと調べてみた限りでは不明です。
文庫本で800ページもある本作、ドイツでのユダヤ人を狙った爆弾テロ事件から始まり、チャーリイが登場するのは80ページぐらいしてからです。その後、イスラエルの情報機関により、彼女はアラブのテロリストをおびきだす囮のスパイとしての架空の人格を付与されていくことになりますが、これがやたら緻密にじっくり描かれていきます。やっとチャーリイにアラブのテロリストたちが接触してくるのは、全体の6割を超えてからで、後はスリリングな展開。重厚長大エスピオナージュの傑作です。


No.1493 6点 ランポール弁護に立つ
ジョン・モーティマー
(2024/05/16 23:35登録)
自身がバリスタ―(法廷弁護士)でもあったモーティマーの、弁護士ホレス・ランポールのシリーズ第1作です。訳者あとがきによれば、このベテラン弁護士はまずモーティマーが脚本を書いた1975年のテレビドラマに登場したのだそうで、それが評判になり、小説化が出版され…という流れだそうです。ちなみにあとがきにもある作者の処女作 “Charade”(1947)は、あのオードリー・ヘップバーンの映画とは関係ありません。
6編、いずれも「ランポールと~」のタイトルが付いていますが、これは原題も同じです。コメディ・タッチですが、思っていたよりも謎解き度、意外性の高いものもありました。ペリー・メイスンみたいな、ランポールが勝った事件だけを描いたものではないのが、おもしろいところです。中心となる事件以外の要素がかなりあり、裁判が終わった後の家庭的な出来事などにもかなりページが割かれています。


No.1492 6点 笑っていいとも!殺人事件―名探偵タモリ誕生す
田中雅美
(2024/05/12 14:00登録)
巻末の〈解説にかえて〉の対談の中で語られていることによれば、フジテレビとサンケイ出版とが協力した企画だそうです。タモリが司会のあの番組はしばらく見ていたこともあったので、イメージをだぶらせながら楽しめました。作者のタモリ像は、うーん、こんなものかなというところでしょうか。タキシードが似合うというのは間違いないところですが、「ハードボイルドの主人公みたいなタモリさん」というのは、まあおとなしめのユーモア・ハードボイルドならって感じです。
ライブ番組中の爆弾によるアイドル歌手殺人事件。犯人の設定は、本格派では許されないものですが、このような作風であればかまわないでしょう。それよりも、途中で起こる様々な出来事を最後にまとめてくれたのはいいのですが、ちょっとわざとらしすぎるのが気になりました。


No.1491 6点 Where Echoes Live
マーシャ・マラー
(2024/05/08 00:06登録)
シャロン・マコーンのシリーズとしては、夫君プロンジーニとの合作『ダブル』も含めれば第12作。
原題の「山の精が住む場所」とは、舞台となるカリフォルニア州北東部、ネヴァダ州境から数マイルのモノ湖のあたりのことであることが、冒頭部分に書かれています。本作ではだいたい Tufa Lake(石灰華湖)としています。シャロンは環境保護団体からの依頼により、土地買い占めを画策する企業への反対運動に有利な証拠を得るための調査にやってきます。大きく3部構成になった第Ⅰ部が「石灰華湖」、第2部は「サンフランシスコ」、第3部がまたモノ湖付近に戻る「火の山」になっています。ちょっとしたミスリーディング、スペクタクルなクライマックスなど、なかなか楽しめました。
シリーズ初期のシャロンの鳥恐怖症はほとんどなくなっていることが、はっきり書かれているのには、笑えました。


No.1490 7点 ジャック・リッチーのあの手この手
ジャック・リッチー
(2024/03/21 23:23登録)
前口上によれば、2013年に「初お目見え」短編23編を小鷹信光が編纂した日本オリジナルの短編集だそうです。謀之巻(はかりごと)、迷之巻(まよい)、戯之巻(たわむれ)、驚之巻(おどろき)、怪之巻(あやし)の5パターンに分けていますが、そこに入れるかなと思える作品もあります。ターンバックル刑事ものなど意外にパズラー的なものもかなり入っています。
その中で『子供のお手柄』は、都筑道夫の『黄色い部屋はいかに改装されたか?』の中で「昨日の本格」の実例として紹介されていた作品です。しかし実際に読んでみると、ほとんどミッシング・リンクのパロディと言ってよいものなので、これはこれでいいかなと思えます。さらに作中の固有名詞にも仕掛けがしてあることは訳者注に書かれています。
ある有名なパターンを使った作品をオチに持ってきた作品が3編。ミステリでない作品も含め、様々な趣向を楽しめました。


No.1489 5点 火の笛
水上勉
(2024/03/17 15:32登録)
1960年12月に文芸春秋社から出版された書下ろし長編ですが、時代設定は1950年。その当時の日本で暗躍していた各国のスパイがテーマになっていて、そのことは潜水艦が福井県沖に現れる序章から、既に示されています。
その後毛糸外交員志村のエピソードを経た後、その志村に会いに来た福井の宇梶警部補が殺された事件を中心に、その殺人事件を捜査する宮前警部補の視点から、大部分は描かれることになります。事件の裏に潜むものを考えれば、社会派というよりリアリズムタイプのスパイ小説に分類した方がいいかなと思いました。ただし殺しの動機については、同じ年に既に発表されていた『海の牙』とも共通する、テーマ性との乖離が気になりました。
ラストはあいまいさを残しているのですが、そうする必要はなかったのではないかと思いました。さらにその後の短い終章は、何の意味があるのか…


No.1488 6点 ハーフムーン街の殺人
アレックス・リーヴ
(2024/02/27 00:08登録)
原題の意味はハーフムーン街の「家」であり、殺人はそこで起こるわけではありません。
歴史ミステリを対象としたヒストリアル・ダガー賞にノミネートされた本作の時代設定は、1880年ロンドン、ホームズ登場より少し前です。主人公の設定が見どころだということなので、謎解き的には大して期待もしていなかったのですが、事件全体の真相はなかなかうまく考えられていました。
主人公の「ぼく」ことレオ=ロッティがトランスジェンダーであることついては、翻訳された2019年の段階で、訳者あとがきの中で『リボンの騎士』や『ベルサイユのばら』を挙げて「フィクション、それもマンガやアニメのなかでしか成立しえない荒唐無稽な存在と思われる読者が多いのではないだろうか」と書かれているのには唖然としました。何なんですか、この訳者の性同一性障害に対する認識…まあ『リボンの騎士』の設定は荒唐無稽ですけど。


No.1487 7点 約束
ロバート・クレイス
(2024/02/23 21:16登録)
2013年に発表された『容疑者』で登場したロサンジェルスの警察犬隊巡査スコット・ジェイムズとその相棒ジャーマンシェパードのマギーが、好評に答えて2年後の本作で再登場です。ただし今回は、作者の代表シリーズであるエルヴィス・コール&ジョー・パイクとの共演。さらにパイクの友人で民間軍事請負業者のジョン・ストーンも捜査に加わります。この人は他の作品にも出ているのかどうかは知らないのですが。
本作の事件では、マギーが以前に軍隊で爆弾探知犬をしていたことが役立つことになります。なにしろ相手は爆発物の密売を画策する連中なのですから。第1章はその悪役であるロリンズ氏の視点で始まる作品で、ジェイムズ巡査、コール(これは一人称形式)、さらに今回もマギーの視点を取り入れて描かれていきます。
『容疑者』よりも事件の展開には工夫を凝らした作品になっていました。


No.1486 7点 眠りなき夜
北方謙三
(2024/02/12 18:33登録)
1982年に発表された北方謙三のこの書下ろし長編第3作は、第1回日本冒険小説協会大賞と第4回吉川英治文学新人賞を受賞しました。谷道雄弁護士を一人称主人公とした作品で、彼が主役の作品はもう1作あります。何度もハードな格闘シーンがありますが、谷は学生時代ラグビーの選手だったということで、格闘技のテクニックより体力勝負です。対戦相手の方が、ナイフなどの使い手だったりして。
共同で弁護士事務所を開いている戸部が、行方不明のまま殺人容疑者となり、谷は戸部の実家のある山形県での捜査を始めます。悪役黒幕の正体は早い段階から明らかですが、敵味方入り乱れてのストーリー展開には意外性もあり、脇役たちのキャラクターもなかなか魅力的で楽しめます。かなり後の方から登場する髙樹警部は切れ者ですが、いくらなんでも警察官がこんなことをという無茶な男でした。

1505中の書評を表示しています 1 - 20