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ミステリの祭典

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空さんの登録情報
平均点:6.12点 書評数:1546件

プロフィール| 書評

No.1546 5点 殺人山行・穂高岳
梓林太郎
(2026/03/30 00:13登録)
山岳救助隊員紫門一鬼(しもんいっき)シリーズの1作です。カバーの二上洋一氏による作品紹介では「山岳推理小説」として「旅情ミステリー」とは分けていますが、大雑把に言えばトラベル・ミステリでいいでしょう。
北アルプスの難所で、激しい雷雨の後、前方数百メートルを歩いていた二人連れのうち一人が消えてしまったという目撃情報から始まり、発見された死体が元私立探偵だったと判明するあたり、なかなか期待させられます。しかし、紫門が本業ため事件捜査に専念できず、調査が長期にわたって断続的になるのは、求心力を損なっているように思えます。また、紫門が接触する探偵社の女性社員に言い寄られるのですが、紫門には三也子という恋人がいるので困惑して、という流れも中途半端なまま終わってしまっています。そんな細部の展開に不満はありますが、事件の全体構造は悪くないと思いました。


No.1545 7点 鏡の中のブラッディ・マリー
ジャン・ヴォートラン
(2026/03/26 21:36登録)
フランスのミステリ批評家賞を、フィクション賞と共に受賞した作品だそうですが、一般的な意味でのミステリとは言えないような作品です。殺人を始めとした犯罪は出てきますし、主要登場人物の一人は刑事ですし、最終的には一応中心的事件は解決しますし、そういう意味ではミステリではあります。ところが登場人物たちが、普通のミステリのようなリアリティ、つまりたとえSF的な設定であっても常識的な人間の考え方を持った人たちではないのです。ネジのはずれたようなやつらばっかり、というか爆殺犯人、刑事、その妻(ブラッディ・マリーとはこの妻の別人格です)等々、主要登場人物がカリカチュアライズされていて、あり得ない現象が起こるわけではありませんが、全体的にシュールレアリスムな感じがするのです。
そんな変な登場人物たちの視点を次々に切り替えていく群像劇は、ミステリの枠を超えて楽しめました。


No.1544 7点 赤毛のカーロッタ奮闘する
リンダ・バーンズ
(2026/03/21 17:27登録)
人並由真さんの評でも書かれているように、このシリーズ第1作は各方面から絶賛された作品だそうです。実際、これは第2、3作と比べても、おもしろくできていました。
「マーガレット・デヴンズが最初からわたしに本当のことを話してくれていたなら、事の成り行きは…」という、HIBK(もしも私が知っていたら)派みたいな文で始まる本作ですが、軽めのハードボイルドらしい軽口文章が楽しいですし、何と言っても基本構成がよくできています。中心となる依頼人の弟失踪事件の真相はそれほどのものではないのですが、そこにカーロッタの愛猫トマス・Cに対する勘違い懸賞の件がうまく絡み合っているのです。さらに正体不明の人物の出没も、なるほどと納得できる仕組みになっています。すべてが関連し合っていたというのではなく、逆に最終解決のためにカーロッタやムーニー刑事が関連づけてしまうというところが、うまくできているのです。


No.1543 6点 探偵三影潤全集3 赤の巻
仁木悦子
(2026/03/18 17:56登録)
出版芸術社から出ている私立探偵(会社名や名刺には「秘密探偵」とされています)三影潤の全集も最終巻は赤の巻、これまでの白、青に入っていなかった短編7編を年代順に並べています。色としては、1970年4月発表のシリーズ第1作ダイイング・メッセージもの『くれないの文字』、1977年7月発表の『緋の記憶』が赤系。
この作者については全体的にそう言える作品が多いと思うのですが、本書収録作も、うまく考えられてはいるけれども、ちょっと作りすぎかな、というところがあります。三影の重要証人との出会い方とかもそうですし、「意外な」人物が犯人だったというのもそうなのですが、ひねったところにわざとらしさを感じてしまうのです。『暗緑の時代』も、割とストレートに話が終わったなと思っていたら、冒頭部分で、「この人物が怪しそうだ」と作者の癖から想像していたとおりのひねりが加えられていました。


No.1542 6点 オリオンライン
ニコラス・ルアード
(2026/03/13 00:03登録)
Wikipediaによると、ルアードはイギリスの作家兼政治家だそうです。17冊の著書が挙げられていますが、旅行記等も含まれているようで、それでも冒険小説系が多そうです。本作は1976年に発表されたもので、最初のうちは関係者たちへの聞き込み調査によって話はじっくり進んでいき、アンブラーあたりをも思わせます。調査対象のオリオンラインとは、第二次世界大戦中、ベルギーからスペインへの連合軍パイロット脱出ルートという設定です。裏切者によってこのラインは崩壊することになるのですが、その過去の調査を、調査者を殺してでも妨害しようとしているのは誰か、という謎があります。
後半スリリングなアクションもたっぷりあり、おもしろいのですが、底が割れてみると、動機は意外ながらやっぱりこいつだったかと思えましたし、そもそも調査者より事情を知る者を始末しておいた方が安全だろうと思えてしまいました。


No.1541 6点 Les gens d'en face
ジョルジュ・シムノン
(2026/03/09 20:33登録)
「向かい側(通り向かい)の人々」を意味するタイトルの本作は1933年に発表されたものです。
ソ連のバトゥミ(黒海に面した、現在ではジョージア最大の港湾都市)へトルコ領事として赴任してきたアディル・ベイは、初日から享楽的なイタリア領事に反発したり、領事館のある建物の薄汚さに閉口したり、さらに仕事上では適当なソ連の官僚にいらついたり、住人たちの貧しさにショックを受けたりと、散々な毎日を送ることになります。
それだけでは社会派小説とは言えてもミステリとは思えませんが、領事館の真向かいの家に住んでいるのがゲペウ(GPU、後のKGB)の長官の家族で、タイトルはそのことを指しています。そしてアディル・ベイの秘書ソニアは長官の妹なのです。また彼の前任者は突然死去していたのですが、原因は不明…
不穏な空気は最初からあるものの、全11章中第8章から一気にミステリらしくなる作品です。


No.1540 6点 人麻呂の悲劇
深谷忠記
(2026/03/05 15:15登録)
光文社文庫版では上下2巻に分れた、全体で約600ページもある大作です。万葉集の代表歌人である柿本人麻呂と山部赤人とが同一人物だという説を唱える作家の執筆した作中作(評論)と実際に起きる殺人事件捜査とを交互に配していく構成で、作中作の分量が半分近くあります。本作のメインはこの歴史考察ミステリの方だと言っていいでしょう。時代が古いので参考文書もほとんどなく、万葉集の歌の解釈を中心に、解説者とその聞き手との鼎談という形で考察は進められます。
一方実際の殺人事件の方は、24年前遺書を残して失踪した作家(遺体が見つからず、自殺したのかどうか疑わしい)の事件の真相が動機として関わって来るもので、過去の事件の全貌が明らかになった時点で現在の殺人犯人もわかります。この作家なので、さらにアリバイ崩しもあるかと思っていたら、あっさり自白して終わってしまいました。


No.1539 7点 金三角
モーリス・ルブラン
(2026/03/01 11:56登録)
子どもの頃南洋一郎版で読んで、シリーズ中でもかなり気に入っていた作品です。
1/3ちょっとのところでルパン登場の予告がなされ、後半実際に登場してからは、まさに快刀(怪盗)乱麻を断つような彼の鮮やかな名探偵ぶりが堪能できる作品です。前作長編『水晶の栓』での強敵相手の苦戦ぶりが嘘のようですが、これは対照的なところを狙ったのかもしれません。
ただ、タイトルの秘密は、その前作と比べるとどうということもありません。また、歩道に書き残された図形については、書いた人には三角であるとはわからなかったはずという論理的欠陥もあります。そんなことより、犯人の正体に関する意外性の方が本作の中心でしょう。これも今ではありふれた手ですが、うまく使われていると思います。まあ、ルパンの世界であっても、ある人物にはできるだけ会わないようにした方がよかったでしょうが。


No.1538 6点 悪い種子が芽ばえる時
B・M・ギル
(2026/02/25 20:49登録)
謎解き的な要素はない、平気で人を殺す女の子を描いた作品です。犯罪小説というと、作品全体を通して犯罪者の視点から描かれたものが多いと思われますが、本作は違います。幼いころから殺人を繰り返すザニー(スザンナ)だけでなく、両親や修道院長の視点等から描かれた部分も多く、各登場人物の考えが直接語られます。そんな文章構成が、ほぼ第二次世界大戦中という時代設定もあってか、古風な印象を与えます。最初のうち、その古めかしさには読みにくさを感じたのですが、後半になってからはさほど気にならなくなりました。ブラック・ユーモア的な感じがする作品です。
なお、カバーの作品紹介には「パン屋のおじさんを焼殺した。おじさんがよそ者の子に親切にしたから」と書かれていますが、実際にはザニーに押されて車の前に飛び出しかけたそのよそ者の子を避けようとして、運転していたおじさんが事故死したのです。


No.1537 7点 片手美人
黒岩涙香
(2026/02/22 21:40登録)
ボアゴベの "La main coupée"(「切られた手」1880)の翻案です。"La main froide"(「冷たい手」1889)は無関係で、内容からしてもどちらが原作か議論があったりしたらしいのが不思議です。筑摩書房の『明治文學全集47 黒岩涙香集』(1971)に収録されたのを読みました。デジタル・データの原作英訳版 "The Lost Casket"(「消えた小箱」)をざっと参照してみたところ、そうとう短縮はしているものの非常に忠実な翻案でした。あまりにご都合主義な偶然だなと思ったところも、原作のままなのです。
本作は、銀行の金庫室に仕掛けられた泥棒の手をはさむ罠に切断された女の左手が残されていたという衝撃的シーンで始まります。すぐ後に続く脱線かと思えた、頭取が娘と銀行の高等書記との結婚に反対するという悲恋話も、うまく本筋のロシア大尉が銀行に預けた小箱盗難事件と絡めていて、国際スパイ系と言っていいスケールの展開になり、感心させられました。


No.1536 6点 クレタ島の夜は更けて
メアリー・スチュアート
(2026/02/18 23:17登録)
前回読んだ『銀の墓碑銘(エピタフ)』と同じくギリシャを舞台にした冒険小説系の作品です。ただし邦題からもわかるとおり本土ではなくクレタ島。イギリス大使館勤務の一人称主人公二コラは、バカンスでクレタ島を訪れます。1966年に映画化されたそうですが、実際に古めかしいハリウッド冒険ミステリ映画を思わせる、ロマンスと冒険がご都合主義で展開し、殺人犯一味の正体もすぐ判明して予定調和的な結末を迎える内容です。しかしそこがこういうタイプの作品の楽しみというものです。
原題の "The Moon-Spinners" は、「月紡ぎ」と訳されています。月紡ぎのニンフたちが糸を紡いで月を空から降ろすことで、新月になるという伝説があると二コラが言い、クライマックスも月のない夜なのですが、巻末解説で横井司氏は、出典がはっきりせず、作者の創作かもしれないとしています。


No.1535 7点 永遠の闇に眠れ
メアリ・H・クラーク
(2026/02/15 13:34登録)
ミネソタ州田舎の冬、零下11度、平均風速40メートルという厳しい状況での探索、さらに小屋の中で上げられる「鋭い悲鳴」という強烈なインパクトのあるプロローグの後、ニューヨークの穏やかな画廊のシーンから始まる、サスペンスのツボを心得たメアリー・H・クラークらしい小説です。全編主人公ジェニーの視点から描かれた作品で、特に緊迫感があるわけでもない部分でも、彼女の心理の揺れに臨場感が溢れていて、本当にうまい作家だなと思わせられます。結局謎解き的には、犯人の正体も、その隠された秘密もありふれた真相なのですが、そのことが不満に思えない過程のつむぎ方が見事なのです。
プロローグはその真相が判明するシーンで、その後50ページほどを使って、判明した犯人との戦い、人質の救出が描かれることになるのですが、人質の部分に関しては、謎解き的な意味において今一つかなと感じました。


No.1534 7点 夜の海に瞑れ
香納諒一
(2026/02/11 17:59登録)
1992年発表当時「時よ夜の海に瞑れ」のタイトルだったものを、5年後に「時よ」を削った形にした作品です。瞑る主体が「時」だったものを、あいまいにしているわけです。その「時」とは、本作の裏主役とも言える人物の過去の日々と考えられるのですが、その裏主人公自身とも解釈できるように改変したということでしょうか。クライマックスの銃撃等の後、その人物が過去を語る背景は、「(庭の)先に広がる夜の海」なのですが、タイトルとしてはどっちがよかったかなあと思えます。物語はその後、最後の伏線を論理的に回収するエピローグ的な第46節で幕を閉じます。
いかにもハードボイルド的な雰囲気で始まった話が、ど派手なアクションを経て、第二次世界大戦中の出来事が語られることになる、スケールの大きな作品です。
ところで、普通「眠れ」とするところを「瞑」の字を当てているのは、どういうこだわりなんでしょうか。


No.1533 6点 穢れなき殺人者
ブリス・ペルマン
(2026/02/08 11:08登録)
ぺルマンは邦訳は少ないですが、かなりの多作家で、パズラータイプもあるものの、サスペンス系が得意なようです。本作にも謎解き的要素はありません。1982年フランスのミステリ批評家大賞受賞作だそうですが、「奇妙な味」タイプのサスペンスと言っていいと思います。
邦題の「穢れなき」の言葉は、主役が子どもたちだからということなのでしょうが、内容に合っているとは思えません。一方原題 "Attention les fauves" は「野獣たちよ、気をつけろ」とも「気をつけろ、野獣たちだ」とも訳せそうで、どちらでもかまわないような内容です。「野獣たち」とは主役の11歳の双子(男女)のこととしか考えられませんが、彼等の視点と、彼等の母親を強姦の勢いで殺してしまった男の視点を切り替えていく構成です。母親を殺された双子が母の死を隠そうとする動機が突飛で、それが最後にどう収束するのかという点も、おもしろくできています。


No.1532 5点 La main froide
フォルチュネ・デュ・ボアゴベ
(2026/02/04 17:32登録)
1889年、作者後期の作品で、タイトルの意味は「冷たい手」。
河出書房新社の乱歩翻案版『死美人』の巻末解説の中で、小森健太朗が本作と『切られた手』とを「同じ作品の別々の英訳」と断言していますが(p.420)、実際には別の作品です。
金庫に仕掛けられた罠に残されていた切られた女盗賊の手首という残酷シーンで幕を開ける『切られた手』に対し、本作は、意外な展開はあるものの、主人公の学生ポールが、公園の野外ライブで一目惚れした貴婦人の正体は? というところから始まる地味な話です。ポールはたまたま貴婦人の夫と勘違いされたことから思わぬ事件に巻き込まれますが、最後はいかにも古典的なハッピーエンドになります。ボアゴベのミステリ系作品中でも、起こる事件そのものが地味なのです。
意外な展開とは言えど、なるほどそう来るかという程度で驚きはなく、決して悪くないのですが、これまで読んできたボアゴベの作品中では平凡な出来でした。


No.1531 5点 楽園の殺人
越尾圭
(2026/02/01 16:25登録)
2019年に『クサリヘビ殺人事件―蛇のしっぽがつかめない』でデビューした作家が2021年に発表した作品です。少なくとも当時は長たらしいタイトルのものが多かったようですが、その中で本作は例外です。
内容的には、外界との連絡ができない孤島での連続殺人という、まさにクローズド・サークルのフーダニットになっています。その島も本土からはるかに離れた小笠原諸島の東硫黄島(「本物語の架空の島です」と注釈されています)で、「楽園」とはその自然のままの島のことです。島に外来種生物を持ち込まず生態系を守ろうという東京科学博物館の調査団メンバーと、その島への無人島ツアーを企画するリゾート会社の社員たちが訪れ、殺人の幕が切って落とされるわけですが。
構成は悪くないのですが、犯人の動機について、どうも説得力が弱く、また最も疑問に思ったところが「案の定」の一言で済まされるなど、不満な所も散見されました。


No.1530 6点 ヴァイキング、ヴァイキング
シャーロット・マクラウド
(2025/06/08 13:48登録)
ピーター・シャンディ教授シリーズ第3作の原題は邦題とは全く違い "Wrack and Rune"。 Runeとは、北欧古代のルーン文字、神秘的記号の意味ですが、"go to wrack and ruin"(破滅する)に掛けています。
このルーン文字は、知り合いの農場から近い林の中にある石碑に刻まれていたもので、それがヴァイキングに関係する歴史的な遺産かどうかということも、謎の一つになっています。まあ、この点に関しては、予想していた通りでした。
水と反応して急激に高温になる生石灰で、農場の作男が顔が焼け爛れて死ぬ事件に始まり、事件は次々に起こります。それがファラオの呪いみたいなヴァイキングの呪いだと煽り立てる者がいたりして、てんやわんやの事態になっていくのを、シャンディ教授は解決しようと奮闘します。真相はたいして意外ではないものの、伏線はきれいにまとめていて、謎解きとしては小味ながらよくできていました。


No.1529 6点 黒い犬の秘密
エラリイ・クイーン
(2025/05/28 20:53登録)
国名シリーズでクイーン家の給仕として登場した少年と同じ名前のジュナを主人公としたジュブナイル・シリーズの第1作。ただし彼は小さな村に、おばのアニー・エラリイと一緒に住んでいるという設定です。このシリーズはリー監修の下、他作家が代作したもので、クイーン外典と同じパターンと言えます。1941年発表の本作を執筆したのは、英語版wikiによればサミュエル・ダフ・マッコイとフランク・ベルナップ・ロングだそうです。
タイトルの黒い犬とは、ジュナが飼っているスコッチ・テリアのチャンプのことで、事件解決にはチャンプも活躍します。さすがクイーン監修だけあり、子ども向けとは言っても荒唐無稽な話ではなく、それなりの意外性もあり、論理的にもなかなかよくできています。ただ最後の犯人追跡の前、チャンプがどこにいたのかだけは不明なままで、ちょっと言い訳はしているものの説得力がありません。


No.1528 6点 聖者が殺しにやってくる
後藤リウ
(2025/05/24 13:33登録)
「機動戦士ガンダムSEED」シリーズのノベライズやライトノベルが多い作家だそうですが、本作は田舎の名家で起こる陰惨な見立て連続殺人という、横溝正史風のフーダニットです。プロローグからして、横正というより残酷ホラーっぽい殺人シーンで、これは14年前に起こった事件です。
その過去の事件と現代の殺人とがどうつながってくるのかということなのですが、その過去の事件の顛末が明かされ、また見立ての元になった古い隠れキリシタンの書物が発見されるのは、半ばを過ぎてからです。
ラノベの作家らしい、誇張された設定、表現にはうんざりさせられるところもあったのですが、ストーリー展開はおもしろく、事件全体の構成もしっかりできていました。最後に明らかになるある重要登場人物の本心にも納得させられます。最後の殺人における密室の扱いは、まあ…


No.1527 6点 深夜の囁き
スティーヴン・グリーンリーフ
(2025/05/20 20:10登録)
ジョン・タナー第6作の原題 "Toll Call" は長距離電話の意味ですが、実際には市外からかかってくるわけではありません。その電話をかけてくるのは謎の男で、かけられるのはタナーの秘書ペギー、彼女に脅迫的に猥褻な話を強要する電話です。かかってくる時間帯は毎日深夜なので、邦題はなるほどと納得できます。
「ペギーとの関係は、少なくとも私にとってはユニークなものだった」のが、この深夜の電話事件で、二人の関係に気まずさが生じてくるという展開で、ラブ・ストーリー的な作品になっています。その話をもう一つの事件と組み合わせているのですが、別の事件があるということさえ、終盤近くにならないとわからない構成になっています。このつなぎ合わせ方には、あまり感心しませんでした。
訳者あとがきによると「脱線」という否定的な評価もあったそうですが、確かにハードボイルドとは言えません。

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