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ミステリの祭典

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空さんの登録情報
平均点:6.12点 書評数:1490件

プロフィール| 書評

No.1490 7点 ジャック・リッチーのあの手この手
ジャック・リッチー
(2024/03/21 23:23登録)
前口上によれば、2013年に「初お目見え」短編23編を小鷹信光が編纂した日本オリジナルの短編集だそうです。謀之巻(はかりごと)、迷之巻(まよい)、戯之巻(たわむれ)、驚之巻(おどろき)、怪之巻(あやし)の5パターンに分けていますが、そこに入れるかなと思える作品もあります。ターンバックル刑事ものなど意外にパズラー的なものもかなり入っています。
その中で『子供のお手柄』は、都筑道夫の『黄色い部屋はいかに改装されたか?』の中で「昨日の本格」の実例として紹介されていた作品です。しかし実際に読んでみると、ほとんどミッシング・リンクのパロディと言ってよいものなので、これはこれでいいかなと思えます。さらに作中の固有名詞にも仕掛けがしてあることは訳者注に書かれています。
ある有名なパターンを使った作品をオチに持ってきた作品が3編。ミステリでない作品も含め、様々な趣向を楽しめました。


No.1489 5点 火の笛
水上勉
(2024/03/17 15:32登録)
1960年12月に文芸春秋社から出版された書下ろし長編ですが、時代設定は1950年。その当時の日本で暗躍していた各国のスパイがテーマになっていて、そのことは潜水艦が福井県沖に現れる序章から、既に示されています。
その後毛糸外交員志村のエピソードを経た後、その志村に会いに来た福井の宇梶警部補が殺された事件を中心に、その殺人事件を捜査する宮前警部補の視点から、大部分は描かれることになります。事件の裏に潜むものを考えれば、社会派というよりリアリズムタイプのスパイ小説に分類した方がいいかなと思いました。ただし殺しの動機については、同じ年に既に発表されていた『海の牙』とも共通する、テーマ性との乖離が気になりました。
ラストはあいまいさを残しているのですが、そうする必要はなかったのではないかと思いました。さらにその後の短い終章は、何の意味があるのか…


No.1488 6点 ハーフムーン街の殺人
アレックス・リーヴ
(2024/02/27 00:08登録)
原題の意味はハーフムーン街の「家」であり、殺人はそこで起こるわけではありません。
歴史ミステリを対象としたヒストリアル・ダガー賞にノミネートされた本作の時代設定は、1880年ロンドン、ホームズ登場より少し前です。主人公の設定が見どころだということなので、謎解き的には大して期待もしていなかったのですが、事件全体の真相はなかなかうまく考えられていました。
主人公の「ぼく」ことレオ=ロッティがトランスジェンダーであることついては、翻訳された2019年の段階で、訳者あとがきの中で『リボンの騎士』や『ベルサイユのばら』を挙げて「フィクション、それもマンガやアニメのなかでしか成立しえない荒唐無稽な存在と思われる読者が多いのではないだろうか」と書かれているのには唖然としました。何なんですか、この訳者の性同一性障害に対する認識…まあ『リボンの騎士』の設定は荒唐無稽ですけど。


No.1487 7点 約束
ロバート・クレイス
(2024/02/23 21:16登録)
2013年に発表された『容疑者』で登場したロサンジェルスの警察犬隊巡査スコット・ジェイムズとその相棒ジャーマンシェパードのマギーが、好評に答えて2年後の本作で再登場です。ただし今回は、作者の代表シリーズであるエルヴィス・コール&ジョー・パイクとの共演。さらにパイクの友人で民間軍事請負業者のジョン・ストーンも捜査に加わります。この人は他の作品にも出ているのかどうかは知らないのですが。
本作の事件では、マギーが以前に軍隊で爆弾探知犬をしていたことが役立つことになります。なにしろ相手は爆発物の密売を画策する連中なのですから。第1章はその悪役であるロリンズ氏の視点で始まる作品で、ジェイムズ巡査、コール(これは一人称形式)、さらに今回もマギーの視点を取り入れて描かれていきます。
『容疑者』よりも事件の展開には工夫を凝らした作品になっていました。


No.1486 7点 眠りなき夜
北方謙三
(2024/02/12 18:33登録)
1982年に発表された北方謙三のこの書下ろし長編第3作は、第1回日本冒険小説協会大賞と第4回吉川英治文学新人賞を受賞しました。谷道雄弁護士を一人称主人公とした作品で、彼が主役の作品はもう1作あります。何度もハードな格闘シーンがありますが、谷は学生時代ラグビーの選手だったということで、格闘技のテクニックより体力勝負です。対戦相手の方が、ナイフなどの使い手だったりして。
共同で弁護士事務所を開いている戸部が、行方不明のまま殺人容疑者となり、谷は戸部の実家のある山形県での捜査を始めます。悪役黒幕の正体は早い段階から明らかですが、敵味方入り乱れてのストーリー展開には意外性もあり、脇役たちのキャラクターもなかなか魅力的で楽しめます。かなり後の方から登場する髙樹警部は切れ者ですが、いくらなんでも警察官がこんなことをという無茶な男でした。


No.1485 6点 アイトン・フォレストの隠者
エリス・ピーターズ
(2024/02/07 23:35登録)
修道士カドフェル・シリーズの第14作は、1142年10月18日、荘園主の死去から始まります。と言っても、そのことがメインの殺人事件に直接関係があるわけではなく、シュールズベリの修道院に預けられていた荘園主の息子リチャードが後を継ぐことになったために。まだ10歳の彼に起こってきた結婚問題が、事件とも絡み合ってくるという展開です。リチャードが行方不明になる経緯は、まあそういった偶然もあるだろうけれど、といったところで少々安易ですが、彼に関するその後の展開は、おもしろくできていました。
後半殺人はさらにもう1件起こりますが、犯人は特に意外とかいうことはありません。ただ、第2の殺人の動機に関する伏線には、なるほどと思えました。犯人(と言うべきかどうか)に対するカドフェルの処置と、それに対する執行長官ヒューの賛同も、時代小説だからこその説得力を持ちます。


No.1484 6点 死者を起こせ
フレッド・ヴァルガス
(2023/12/02 23:55登録)
ブナの木はなぜ植えられたのか。この冒頭部分の謎に対する答は、悪くないといったところでしょうか。意外な理由というわけではありませんが、無理やり感もありません。さらに犯人が仕組むあるトリックと結びついているところも評価できます。
最後60ページぐらいで、容疑者が次々に入れ替わっていくあたりもおもしろいですし、ダイイング・メッセージがしばらく発見されなかった顛末も、うまくできています。このメッセージ、確かにフランス語を知らないと、というかフランス語を知っていても実際にその文字を図で示してくれないと、説明されても、ああそうですかとしか言えませんが、まあいいでしょう。タイトルの言葉は、この多重解決部分で出てきます。ただ、一ヶ所そんな殺人を行う必要があったのかなと思えるところはありました。
登場人物たちのキャラクターがおもしろく、小説構成はよくできていると思います。


No.1483 5点 約束の小説
森谷祐二
(2023/11/20 23:48登録)
2019年ばらのまち福山ミステリー文学新人賞を受賞した作品です。
いわゆる典型的な館ものですが、ところどころに小説家を志す少女の話がはさみ込まれ、それがどうつながってくるのかが問題になってきます。館もの殺人事件の方は、類型的であることを利用した「動機」が用意されていますが、これはいくらなんでもという気がします。犯人の最後の行動も無茶。密室殺人のトリックは、島田荘司系ではあるのですが、そこまでぶっとんだところがないため、あまり感心しません。作者の医療関係の知識羅列は、まあおもしろいと言う人もいるかもしれません。
悪口ばかりのようですが、二つの部分のつなげ方には、なるほどと納得できましたし、最後の探偵の手紙はちょっと感動的です。
ところでこの作者、ヘヴィメタルのマニアでもあるんでしょうか。海外の有名バンドから日本の人間椅子等の名前まで出てきます。


No.1482 7点 太陽系帝国の危機
ロバート・A・ハインライン
(2023/11/12 18:44登録)
「ミステリだ、と言い切って作品登録および書評をお願いします」というのが管理人さんのこだわり(掲示板No. 7336, 11219)なので、この作品は少なくともミステリ度がかなり高い作品だと言い切りましょう。SFだから登録するのではありません。ただし本格派ではなく、ポリティカル・スリラー系。政治嫌いの売れない俳優が、帝国の危機を救うために活躍することになる話なのですから。
俳優ロレンゾが替え玉になってもらいたいと依頼されたある人物とは…本来俳優って、ルパンみたいな変装の名人なわけではないという根本的な点が間違っています。太陽系帝国ができて久しい時代に、個人識別に指紋が利用されるのも妙な気はします。最後の方に2015年に本作中のある出来事が起こったということが示されますが、もっと遠未来設定にすべきだったでしょう。しかし荒唐無稽な話としては楽しめました。
1956年度ヒューゴー賞を受賞した作品です。


No.1481 6点 モンタギュー・エッグ氏の事件簿
ドロシー・L・セイヤーズ
(2023/11/09 21:30登録)
本書タイトルに異議あり。この編集ならばということです。収録13編中、モンタギュー・エッグ氏のシリーズは6編だけで、本書に収録されていないシリーズ作も、訳者あとがきによれば5編あるからです。そのどれも翻訳権が取得できなかったのでしょうか。
という文句もつけたくなりますが、収録作品そのものに特に不満があるわけではありません。いや、『ネブカドネザル』だけは、非常に翻訳しにくい作品ですし、だから実際頭文字がなぜそうなるのか理解できないという点では、別作品(エッグもの)に置き換えてもらいたかったと思いますが。
ひとつだけ長いウィムジイ卿ものの『アリババの呪文』は、ごく早い段階でホームズ短編2編を思い出しました。実際、あの人の名前も言及されます。展開の必然性に欠けるのが難点。エッグ氏もの他の短い作品は、説明不足な点もありますが、だいたいオチがきれいに決まっていると思いました。


No.1480 4点 騙し絵の館
倉阪鬼一郎
(2023/11/03 20:19登録)
バカミスの作家として知られる倉阪鬼一郎初読です。しかし、本作のバカミス・トリックは、主役と言っていい美彦(よしひこ)=駆け出しミステリ作家井原真彦が自作『天使の庭』の中で使おうとする密室トリックだけで、それはすぐにタネを明かしてしまいます。
それより、しつこく仕掛けられた叙述トリックが中心の作品で、全体のプロットそのものは悪くないと思いました。しかし問題なのは新聞をにぎわす連続少女誘拐殺人事件の扱いで、最初のうちこの事件がメインなのかと思っていたら、途中でどうにも中途半端な解決になってしまうのです。
 それと…
 今書きつつある、この文章のような…
 そう、まさにこのような文章で、
 それにまた改行の仕方で、書き連ねられた…
やたらに気取ったあいまいな「詩的」文体も、このプロットのために最適だったとは思えません。叙述系では、「……館」が気に入りました。


No.1479 6点 メグレとマジェスティック・ホテルの地階
ジョルジュ・シムノン
(2023/10/31 00:10登録)
何年も前に原書で読んだ作品を〔新訳版〕で再読。
『メグレ保安官になる』等によれば、メグレは英語も多少は使えるはずですが、本作では全くわからない設定です。一方被害者の夫クラーク氏はフランス語が全くできず、意思疎通が面倒なのがユーモラス。"Qu'est-ce qu'il dit?"(何と言ったんだ?)というセリフが何度となく繰り返されます。事件担当予審判事はボノーという新顔。確かにベテランのコメリオ判事では、成り立たないところがあります。
ただ、翻訳はねえ。
カフェトリ:Cafeterie。普通だと当然カフェテリアですが、日本語の意味あいとはイメージが違うにしても。
「そうか」:メグレが被害者の身元をホテル支配人から聞いて、もらす "Ah!" の翻訳。
さらに原作にない説明文を付け加えたり、段落を入れ替えて前後関係を変えたりと、部分的にはもう超訳を超えた翻案です。
しかしまあプロットがいいのでこの点数で。


No.1478 5点 盗まれた御殿
シャーロット・マクラウド
(2023/10/27 21:22登録)
シャンディ教授シリーズ第1作発表の翌年に開始されたセーラ・ケリングのシリーズですが、この第3作はシャンディ教授の第3作より早く1981年に発表されています。
タイトルの「御殿」とは、ケリング家と張り合っていたマダム・ウィルキンズが建てた御殿で、彼女の死後市に美術館として遺贈されたものです。イタリアを中心として様々な名画が飾られていたはずが…というのが、殺人事件の裏にあり(かなり早い段階で、そのことは示されます)、その結果として警備員の一人が転落死する、それが殺人らしいということになってきます。
パズラー的な意外性では、これまでの両シリーズ4作に比べると、はっきり落ちています。かといって、いかにもコージーらしくなったとまでは思えず、そこがちょっと中途半端な気もします。
「ティティアン」は、もっと一般的な「ティッツィアーノ」と訳してもらいたかったですね。


No.1477 5点 終戦のマグノリア
戸松淳矩
(2023/10/24 22:33登録)
―巧妙に仕掛けられた数々の伏線が「小さな物語」をとんでもない大きさに成長させる。これぞミステリの王道! ―
そのように宣伝された作品です。確かに、旧家から発見された『木蓮(マグノリア)文書』と題された、大判の紙で60枚ぐらいもある手書き文章の謎を中心に構成され、重犯罪の起こらない本作は、「小さな物語」であると言ってよいでしょうし、その秘密が最終的に海外の国家的事情にまでつながってくるところは「とんでもない大きさ」です。しかしなあ、という気にさせられました。
発見された文書は太平洋戦争終結画策をめぐるものですが、なぜか英語で書かれていて、それを日本語にした形で綴られています。なぜ英語でという経緯も最後には明かされますが、説得力が今一つです。旧家から発見される理由の説明も明確にされていません。まあ、木蓮文書を読み始めた時に感じた文章に対する疑問は、うまく説明してありましたが。


No.1476 6点 火の湖(うみ)に眠る
ジョナサン・ヴェイリン
(2023/10/18 20:43登録)
原題はただ “Fire Lake”。シンシナティの私立探偵ストウナーの旧友ロニーが言っていたという言葉で、「一か八かの冒険を冒すこと」と説明されています。12月深夜、ストウナーがモーテルからの電話で叩き起こされるところから話は始まります。ストウナーの名前と住所で泊まっている男が自殺を図ったと言うのです。なかなか魅力的なつかみですが、その裏事情はたいしたことはありませんでした。自殺未遂者はロニーで、彼が関係しているのは麻薬組織絡みの事件であることは、早い段階からわかります。ただロニーを麻薬組織に送り込んだのが誰なのかが問題になります。
冷静沈着で礼儀正しい麻薬ディーラーのボスだとか、警察内部でも厄介者扱いされている暴力刑事が登場したりして、ハードボイルドらしいプロットですが、60年台の「愛と平和」とロックへの向き合い方は、ちょっと感傷的に過ぎるように思えました。


No.1475 6点 シュロック・ホームズの迷推理
ロバート・L・フィッシュ
(2023/10/14 10:39登録)
シュロック・シリーズのうち、『冒険』『回想』から1編ずつと、その後の発表作9編、それにシュロックものでない5編を収録した、光文社独自編集短編集です。
シュロックの推理は、英語原文でないとわからないものも多く、特に表題作は何が何だかですが、だいたいにおいて楽しめました。シュロックの迷推理で偶然事件が本当に解決できてしまうものもあります。シュロック以外のものは意外にほぼ正統的でした。
それにしてもシュロック・シリーズ、時代設定がよくわかりません。『アスコット・タイ事件』だと書き出しが「五九年の…」と年が二桁で示されていますが、ロンドンを馬車が走っている一方で日本大使館が存在します(Ogimaはオジマじゃなくオギマでしょう)。他の作品もそうで、新発明のラジオだとか映画(『羅生門』『ピーター・パン』等)だとか。最たるものは『ウクライナの孤児』で、1897年版の参考文献が最新版らしい七九年…???


No.1474 6点 水の眠り 灰の夢
桐野夏生
(2023/10/11 21:24登録)
『天使に見捨てられた夜』のコメントでは、ミロが「美術に詳しすぎ」と書きましたが、番外編の本作を読んで納得。母方の血筋なんですね。シリーズ第1作は未読なので、その中で経歴がどこまで描かれていたのかは知らないのですが。
最後に「なお、この話はフィクションであり、実在する個人、団体等とはいっさい関係ありません。」と書かれていますが、ジャーナリスト村野が追う2つの事件のうち一方は、実際に1962~3年に起こった草加次郎事件をそのままの名前でモデルにしています。実際に脅迫状が送られた吉永小百合の名前も出てきます。なおこの脅迫事件に対する警察の対応、犯人を罠にかけるはずが、犯人も現場に入り込みにくい警戒態勢をとっては、話になりません。
論理的にはそんな問題点もありますし、2つの事件の結びつきが偶然に過ぎないのも気になりますが、時代の雰囲気が感じられ、全体的印象はなかなかのものでした。


No.1473 7点 ロニョン刑事とネズミ
ジョルジュ・シムノン
(2023/10/06 20:29登録)
(原書 "Monsieur la Souris" を読んでのコメント)
原題のSourisは英語ではMouseに当ります。つまり本来ミッキーみたいなかわいい奴なのですが、この二十日鼠氏、年老いた浮浪者です。シムノンの非メグレものの常からすると、ほぼこの浮浪者の視点から描かれることになると思われそうですが、そうではありません。メグレこそ登場しませんが、「無愛想な刑事と消えたロエム氏」とサブタイトルを付けてもいいような、メグレもののスピンオフ警察小説になっているのです。
瀬名秀明氏の「シムノンを読む」で無愛想な刑事ことロニヨンの初登場作だと知り、気になっていた作品です。ロニヨン以外にも、リュカが警視として、またジャンヴィエ刑事も登場。後半はロニヨンが何者かに頭を殴られ、二十日鼠氏は誘拐されという展開を見せ、クライマックスはほとんど『メグレ罠を張る』あたりにも匹敵する緊迫感があります。謎解き要素もしっかりできた、楽しい作品です。


No.1472 5点 死のオブジェ
キャロル・オコンネル
(2023/10/02 21:36登録)
キャシー・マロリー刑事(作中では「巡査部長」と階級表記)のシリーズ第3作。なお、彼女は自分をただ「マロリー」とだけ呼んでくれと言っています。美術界で起こった事件で、邦題は作品、原題("Killing Critics")は美術評論に焦点を当てています。
天才ハッカーのマロリーですが、本作ではむしろ彼女の並外れた身体能力が誇示される作品です。年老いたとは言え元オリンピックの金メダリストである美術評論家クインとフェンシングの試合をやったり。このシーンは、ただクインを心理的に追い詰めればいいだけで、試合が必要だとは思えません。このクインは礼儀正しい好人物ですが、いったい何考えているんだかというところもあります。
捜査妨害をしてくる刑事局長に関する描き方が最後中途半端なのは不満でした。また、クライマックス、「その人物」はどうやって部屋に入ったのか等、論理的な疑問もあります。


No.1471 6点 妄想名探偵
都筑道夫
(2023/09/29 00:15登録)
タイトルの探偵役は、新宿のバー「まえだ」の常連、アルジェの忠太郎、略してアル忠さん、ミステリ作家の津藤幹彦の一人称で語られる7編の連作短編集です。「妄想」なのかどうかわかりませんが、アル忠さんは現在無職ながら、作品ごとに元は刑事だったとか新劇俳優だったとかポン引きだったとか言う、居所も定かでない正体不明人物です。最初の『「殺人事件」殺人事件』から最後の『「殺人事件」盗難事件』まで、最終作を除いてほぼ「×…×」殺人事件というパターンのタイトルになっています。
第1作はさすがに無理じゃないかと思えますし、第2作もまとめ方がすっきりしませんが、基本的には都筑道夫らしいロジック中心の作品集です。それだけに異色の『「ハードボイルド」殺人事件』が笑えました。最終作はアル忠さんの正体を明かしてくれるのかと思っていたら、結局そうはならず、という肩すかしを狙ったものでした。

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