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ミステリの祭典

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空さんの登録情報
平均点:6.12点 書評数:1515件

プロフィール| 書評

No.1515 6点 死体銀行
カトリーヌ・アルレー
(2025/04/01 19:44登録)
訳者あとがきによれば原書裏表紙に「この作品はSFではない」と書かれていた、1977年発表作です。あえてそのように言う以上、逆にSF的なところはあるということで、実際当時の科学技術水準からすれば、タイトルの発想はまだ実験的段階と言ってよかったぐらいでしょう。アルレーはその発想を、政治体制と結びつけて小説化しているのですが、それが作者のこの新技術に対する捉え方だったのかもしれません。なお「近未来」という言葉があらすじで使われていますが、時代設定は発表当時。
作品自体は、ボアロー&ナルスジャック、あるいは現代ミステリをも思わせるような、主人公が目覚めてみると全く知らない他人として扱われていたという不可解な出来事から始まります。この謎は巻半ばで解き明かされることになるのですが、日付の問題だけは気になりました。その後、表題問題が話の中心になり、なかなか息苦しくなる展開です。


No.1514 7点 私が愛したリボルバー
ジャネット・イヴァノヴィッチ
(2025/03/28 20:42登録)
厳密にはハードボイルドでも私立探偵小説でもないのですが、ジャンルとしては一応ハードボイルドにしました。2作目以降はコメディー色が強くなるこのシリーズですが、本作ではラブコメ的ユーモアはあっても、スラプスティックな笑いというと、一ヶ所メイザおばあちゃんの暴走ぶりぐらいのもので、むしろサスペンス・スリル・バイオレンスの要素が強いのです。最後には、ステファニーもマジでガン・アクションを見せてくれます。作中の一人称は「あたし」となっていますが、タイトルどおり、「私」でもよかったかもしれません。
捜査で手がかりをつかむところは、かなり偶然を重ねたご都合主義があるというものの、説得力を持った工夫も見られますし、ミステリとしての真相の意外性も一応あります。
なお、原題は "One for the Money"、ステファニーが前の職を解雇され、お金欲しさでバウンティ・ハンターを始めたことを示しています。


No.1513 6点 山下利三郎探偵小説選Ⅱ
山下利三郎
(2025/03/24 23:34登録)
山下利三郎の選Ⅱは8編の創作(うち戯曲2編)と評論・随筆31編+アンケート等への回答で構成されています。分量的には創作が約2/3。
中編の『横顔はたしか彼奴』、長めの短篇『見えぬ紙片』『野呂家の秘密』の3編は、現代的な意味での「本格派」と言えるかどうかはともかく謎解き的興味のある作品で、作者の古風な文体も相まって、なかなか読みごたえがあります。『横顔~』の真相は複雑で意外ですが、巻末解題でも触れられているとおりタイトルが内容に合っていません。『見えぬ紙片』は被害者と加害者の過去の因縁に重点を置いた作品、『野呂~』は吉塚亮吉シリーズの一編だそうですが、それを知らずに読むと展開に意外性があります。
作者自身まえがきで「探偵味が希薄」と認めているラジオドラマ戯曲『運ちゃん行状記』、難解な文体が特に読みづらい『小奈祇の亡霊』、歴史小説の『越中どの三番勝負』も結構印象に残りました。


No.1512 6点 甦える旋律
フレデリック・ダール
(2025/03/19 18:07登録)
フレデリック・ダールは、フランス語版Wikipediaによれば公式には288冊の小説を発表しているそうです。訳者あとがきには本作がダールの3作目のミステリであると書かれていますが、ミステリかどうかはともかく、本作以前に別ペンネーム作を含めると既に60冊以上の作品があります。
ともかく、フランス推理小説大賞を受賞した本作は、記憶喪失の美女と恋におちる画家ダニエルの一人称形式で書かれた作品です。まあそれだけだと平凡な話ですが、さすがに話術が巧妙です。彼女は誰なのかという謎は最初からあるわけですが、実際にある手掛かりから彼女の過去が明らかになり始めるのは、ほぼ半分ぐらい経ってからです。そしてそこから、緊迫感が盛り上がってきます。
「みごとなドンデン返し」だとは思いませんが、皮肉で哀しいオチはきれいにまとまっています。残念なのは冒頭の出来事の直接経緯が最後まで不明なこと。


No.1511 7点 断崖
スタンリイ・エリン
(2025/03/15 14:25登録)
エリンの長編第1作は、父親を辱めた男を殺そうと決意した16歳の少年ジョージの一人称形式物語です。ポケミスで約140ページ(文庫本なら200ページ弱)の短い作品ですが、作中の経過時間も短く、たった一晩の出来事です。
実際の断崖(『ゼロの焦点』ラストのような)が出て来るわけではありません。原題は "Dreadful Summit"、冒頭に『ハムレット』のホレーショーの「(わが君を)恐ろしき断崖の絶頂にみちびこうとして…」というセリフが引用されています。
話の転がっていき方は、ほとんどコメディと言ってもいいくらいのとんでもなさなのですが、ジョージの必死な思いが、作品をシリアスな雰囲気にとどめています。彼が特に背が高いこと、また彼の父親が酒場の経営者であることが、重要な意味を持っている点も、うまく考えられています。そして訪れる衝撃的な結末…これはさすがエリンという感じでした。


No.1510 6点 美しき屍
藤田宜永
(2025/03/11 20:15登録)
1988年に『モダン東京物語』のタイトルで発表された、私立探偵的矢健太郎シリーズとしては最初に書かれた作品です。その後、本作より前の時代設定の第4作『蒼ざめた街』執筆により、1996年に加筆訂正・改題されて、本作はシリーズ2となっています。
昭和6年(1931年)5月に起こった事件ということで、まあ時代ミステリと言えなくもありません、的矢が「秘密探偵」と言われたりしているのも、時代を感じさせ、当時の雰囲気はよく出ていると思いました。あとがきには参考文献が多数並べられています。当時と言えば、ハメットが出てきたころですが、一方乱歩の『吸血鬼』等が発表されていた時代でもあるわけで、本作もスタイルこそハードボイルドで、格闘や銃撃シーンも豊富ですが、ほとんど乱歩のいわゆるエログロナンセンスに近いところもあります。あまり具体的に書くと、ネタバレになってしまうので控えますが。


No.1509 7点 消える魔術師の冒険
エラリイ・クイーン
(2025/03/05 21:03登録)
クイーンのラジオドラマ・シナリオ集の第4作に収められた7編は、「活字化されたもの」(本や雑誌で出版されたものの意味でしょう)ではなく、脚本から直接訳したのだそうです。それに日本で上演された短い舞台版「13番ボックス殺人事件」脚本も付いています。
さすがにここまで来ると質が多少落ちているのではないかと危惧してもいたのですが、そんなことはありませんでした。最初の『見えない足跡の冒険』からして、カーばりの雪密室、しかもそのトリックはディクスン名義の某作品とも共通する発想で、なかなかうまくできています。表題作もタイトルどおりの不可能を演出(犯罪ではなく一種のショー)、これは『三つの棺』の中で解説されていた方法のバリエーション。『十三番目の手がかりの冒険』では後に『十日間の不思議』以降クイーンが得意とするパターンが見られます。
個人的には『不運な男の冒険』『タクシーの男の冒険』が気に入りました。


No.1508 6点 この声が届く先
S・J・ローザン
(2025/03/01 09:47登録)
リディア&ビルのシリーズ第10作は、なんとリディアが誘拐され、ビルが彼女を救出するためニューヨーク中を駆け回るという話です。原題 "On the Line" は、巻末解説では「危機的な状況の意」と書かれていますが、誘拐犯人からの電話による指示も意味しています。その電話を聞いた複数の登場人物から「狂っている」と言われる男が相手で、ビルがいつもの冷静さを完全に失うシーンが何度もあります。その彼をなだめるのが、リディアの親戚で18歳のライナスで、ガールフレンドのトレラと共に、ビルを補佐して活躍します。ライナスが専門家であることもあり、ネット系技術がふんだんに使われるのも本作の特徴です。
そんなストーリーなので、ハードボイルド・私立探偵小説とは言い難い内容になっています。巻末解説で引合いに出されているジェフリー・ディーヴァーは未読なので、どの程度共通点があるのかわかりませんが。


No.1507 4点 死刑狂騒曲
嶋中潤
(2025/02/25 17:54登録)
裁判シーンのプロローグとエピローグの間が4章に分けられた作品。判決確定後、刑が未執行の死刑囚を解放しないと、人質を殺害するという脅迫状が、警視総監等に送られてきた、という事件です。こんな大げさな事件の捜査で重要な役割を果たすのは、雲上(うんじょう)菜奈刑事で、第3章まではほぼ彼女の視点から描かれます。
真相には驚きはないものの、展開はサスペンスフルでおもしろくできています。ただ問題は80ページ近くある第4章です。その大部分は、それまでの警察捜査ではなく、雑多な人物の会話や心理でできているのです。それも本作のテーマ性とは関係ない描写までかなりあります。丹下親子のシーンで、本作の発想の問題点がある程度示されるものの、本来その人物の行為は許されるかどうか、それが問われるべきことだと思えました。
エピローグも意外性はあるのですが、テーマにそぐわないような…


No.1506 6点 ミッドナイト・ララバイ
サラ・パレツキー
(2025/02/16 11:57登録)
ヴィク・シリーズとしては前作の4年後、2009年に発表された作品です。その間にもシリーズ外作品はあるのですが。原題は "Hardball"、直訳そのもの「硬球」の意味で、ヴィクの父親がしまい込んでいた有名選手(実在の)のサイン入り野球ボールのことです。このボールが事件に重要な意味を持ってくるらしいことは、発見時から明らかです。その事件というのが、1966年キング牧師が中心となったデモ行進の時に起こった殺人で、ヴィクの父親が警官としてその事件に関わっていたということもわかってきます。さらにヴィクの従妹や叔父も登場し、親族を巻き込んだ事件になっていきます。過去の事件をヴィクが再調査しようとしたため新たな殺人まで起こることになる構成で、なかなか楽しめました。
前作に続き、冒頭に印象的なシーンを持ってきて、その後過去に戻る構成になっていますが、本作はそうする必要があったのかなとも思えました。


No.1505 5点 魔女の不在証明
エリザベス・フェラーズ
(2024/09/15 17:15登録)
ナポリからそう遠くないイタリアの町を舞台にした作品で、巻末解説によれば、フェラーズには本作を含め9編外国を舞台にした作品があるそうです。主人公のルースが、ある意味共犯者の男とナポリまでバスで向かうシーンなど、なかなかイタリアらしい雰囲気が味わえます。全編ルースの視点から描かれていて、殺人事件に巻き込まれた彼女があたふたしながら身の潔白を証明しようとするところ、のんびり系サスペンスとして楽しめました。解説ではコージー・タイプとも書かれています。
冒頭一見不思議な事件が起こるのですが、ただ読者にすぐ見当がつくだけでなく、作中人物たちも簡単に解明してしまいますし、謎解き的にはnukkamさんご指摘のとおり、ゆるゆるです。真犯人の設定もすっきりできません。ただ、途中のすっとぼけた会話の中で出てきたことが伏線になっていた点だけは、感心しました。


No.1504 6点 鉄の花を挿す者
森雅裕
(2024/09/04 20:28登録)
刀剣についても詳しい作者らしい作品で、冒頭に刀の構造や刃文の図解が載っています。
島根県の山奥に住む刀鍛冶門松一誠が、彼の師匠の訃報に接するところから始まります。最初のうちはその師匠の遺作となる刀をめぐる話で、あまりミステリらしくありません。誰か殺されることになるんだろうかと思いながら読んでいくと、1/3ぐらいのところで意外な人物が死にます。それも事故死に見えたのが、警察で一応調べてみると、どうも殺人らしいということになります。さらに派手な事件も起こり、その真相はということなのですが。基本的には、ほとんど意外性はありませんが、門松が絶体絶命の危機に陥るクライマックスの決着のつけ方には、感心しました。
それにしても、最後警察の捜査が入ることになる、岡山市にある刀剣を収集する「森原美術館」…美術に多少詳しい者には、その名称からしてもモデルは明らかなのですが。


No.1503 7点 少年殺人事件
ローレンス・ヤップ
(2024/08/31 18:20登録)
児童文学の賞をいくつも獲っているベテランの中国系アメリカ人作家による1983年の作品です。作者名の綴りはYep、Wikipediaではイェップと表記され、邦訳のあるファンタジー系の2作はこの名義になっています。なお、中国語名は葉祥添。
訳者あとがきでは本作をまず児童文学と捉え、「少年の心の動きや情緒をうまくつかんで描かれた好作品」とし、「しかもミステリーの味つけまでしている」と書かれています。そこを読むとミステリ要素が少ないように思えますが、実際には単なる味つけではなく、主人公の高校生だけが、ある有力者が犯人であることを知っているというタイプのサスペンス系として、なかなかよくできた作品です。クライマックスもなかなか緊迫感がありました。原題は "Liar, Liar"、つまり、主人公に対する周囲の疑惑、無理解を表していて、そのような状況設定もうまくできています。


No.1502 6点 探偵稼業は運しだい
レジナルド・ヒル
(2024/08/26 19:46登録)
レジナルド・ヒル初読です。この作家はダルジール警部で知られていますが、本作はもう一つのシリーズ、外見は冴えない黒人の私立探偵ジョー・シックススミスを主人公にした作品の第5作にして最終作です。このシリーズ、1993年から1999年までの間に4作書かれた後、2008年になって本作が久々に発表されました。軽いユーモア・ミステリ・タイプです。私立探偵が主役でも、ハードボイルド的な感じはあまりしませんが、他の4作はどうなんでしょう。
ゴルフ試合で不正にからむ疑惑が、そのゴルフ・クラブの将来に関わる大規模な事件に発展していく話です。原題 "The Roar of the Butterfly" は、ゴルフでの緊張した瞬間には蝶の羽ばたきさえうるさく聞こえるということを意味しています。登場してくる人物たちがみんな事件に何らかの関連を持っていたり、シックススミスが運に恵まれているとかいうご都合主義が、かえって楽しい作品です。


No.1501 6点 流れる砂
東直己
(2024/07/07 23:21登録)
私立探偵畝原(うねはら)浩一シリーズ長編第2作です。第1作『渇き』はふざけたようなシーンで始まっていましたが、本作は冒頭衝撃的な事件が起こります。56歳の父親が息子に一方的な暴力をふるった挙句、無理心中をするのです。その後、どうしてそうなるに至ったかを描いた後、事件は畝原が引き受けた別件とも関連を持ち、思わぬ方向に発展し、公務員が何人も関係してくる大掛かりな結末を迎えます。意外な人物が悪役の仲間だったことも判明するのですが、それが事件解決の糸口になるものの、今一つすっきりできませんでした。
娘の冴香や、畝原とつきあっているデザイナー姉川明美(「酒井和歌子に生き写しだ」そうです)も登場し、最後の方では事件に巻き込まれることになります。とは言え、姉川明美とその娘真由が関係する最後の事件は肩すかしで、むしろない方がよかったかなと思えました。


No.1500 7点 緋色の記憶
トマス・H・クック
(2024/06/30 17:11登録)
クックの邦題に「記憶」が付く作品群の中で最初に翻訳されたのが1996年発表の本作 "The Chatham School Affair" で、エドガー賞受賞というのが、選択理由でしょう。訳者あとがきを読むと「死」と「夏草」も刊行予定に入っていたようで、「記憶」をタイトルに入れたのはシリーズ的に売り出そうとの狙いもあったのでしょうか。
時代設定は1926~7年、老いた「私」が高校2年だった時の話です。校長である父親の「型にはまった」生き方を嫌い、新任美術教師ミス・チャニングの父親の著書に書かれた「自由」にあこがれる「私」が直面した悲劇的現実。過去の様々なシーンと現在を交錯させ、過去に何が起こったのかを少しずつ明らかにしていく筆致は、いかにもこの作者で、この真相ならこの構成が確かに効果的です。どんな事件がどんな直接的理由で起こったのかを明らかにする第25章には、なるほどと思わせられました。


No.1499 7点 オートルート大爆破
ミシェル・ルブラン
(2024/06/27 00:12登録)
リュパンのルブランは Leblanc ですが、この作家は Lebrun。定冠詞のle+白に対して茶色の意味です。本作原題はただ "Autoroute"、直訳すれば自動車道路、つまり高速道路のことです。高速道路の一角に過激派が爆弾を仕掛けようとし、〈ローザ・ラローズ〉と呼ばれる女が爆弾をパリ近くからリヨンまで自動車で運ぼうとするのですが…
高速道路を利用する様々な登場人物の視点から描かれ、そのうちの何人かはローザとも絡み合ったりして、話は展開していきます。ただ過激派の計画だけではなく、他にも泥棒や、その泥棒の追跡者、また別件の泥棒をしようとする者など、ミステリ要素を取り入れ、サスペンスフルに仕上がっています。最後本当に「大爆破」になるかどうかは、読んでのお楽しみ。
第5章の最初に、J・G・バラードの『クラッシュ!』からの引用が添えられていたのには、ちょっとびっくり。


No.1498 6点 虚空の糸
麻見和史
(2024/06/22 23:33登録)
講談社文庫版では「警視庁殺人分析班」となっている捜査一課十一係シリーズの第4作です。主役の如月塔子巡査部長と鷹野秀昭警部補がなかなか魅力的です。タイトルもなるほどと思わせられます。
事件は「警視庁脅迫事件」、東京都民を殺されたくなければ二億円を払え、という無茶なもの。まあそこはミステリですから、裏があるわけです。事件の展開は意外性もあり、楽しめました。
ただ、疑問点もかなりあります。まずこの犯人、いくら何でもある人物を信用しすぎです。また、二者択一のもう一方だった場合、さらに「想定外のこと」が起こらなかった場合、犯人がどうするつもりだったのか、全く不明です。第2の殺人現場検証段階で、ある予測を考えたものの、犯人の視点から書かれた部分を読んで、予測は違っていたのかと思ったのですが、実際には合っていました。犯人視点部分はない方がよかったでしょう。


No.1497 5点 忘れじの包丁
ジル・チャーチル
(2024/06/13 20:40登録)
このシリーズ第5作のタイトル元ネタが、映画 "A Night to Remember"(『SOSタイタニック』)であることは、巻末解説の最初に指摘されています。まあ他の作品についても、映画化でより知られるようになった小説もかなりありますけれど。このドキュメンタリータッチの傑作映画を監督したロイ・ウォード・ベイカーは、ホラー映画などもずいぶん撮っています。
で、本作はジェーンの家の裏の空き地が映画のロケに使われることになり、有能だけれど嫌われ者の小道具主任が殺されるという事件です。原題のKnifeは、殺人に使われたジェーンの包丁のこと。その包丁にも関することで、ごく早い段階から、これが伏線だなと思ったことはあったのですが、そのことにジェーンが気づくのは最後近くなってからで、ちょっと間抜けな感じはしました。第2の事件が起こった時点で、それが殺人なら犯人は明らかな点も気になりました。


No.1496 8点 裏切りの街
ポール・ケイン
(2024/06/10 20:02登録)
訳者あとがきの中で、チャンドラーの言葉「超ハードボイルド文体」の「超」には、「ウルトラ」とフリガナがしてあったんですね。原文では "ultra hard-boiled manner"、むしろ「極限的ハードボイルド様式」と訳したいところです。
1932年に「ブラック・マスク」に分載された後、翌年に単行本出版ですから、『影なき男』の前年。しかしハメットの長編のような私立探偵小説系統ではありません。一応巻き込まれ型の犯罪小説で、様々な人物が絡み合い、話がどう転んでいくのか、見当がつきません。
あとがきに、「原題のFast Oneは、ペテン、詐欺、裏切りといった意味だが、〝すばやいやつ〟の意味もこめられている」とされていますが、どうなんでしょう。"pull a fast one" は「だます」の意味ですが。fast には、速い、放蕩な、忠実な、等の意味があり、それらの意味に当てはまりそうな登場人物たちが登場します。

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