文生さんの登録情報 | |
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平均点:5.85点 | 書評数:456件 |
No.456 | 8点 | 禁忌の子 山口未桜 |
(2024/11/14 09:42登録) 第34回鮎川哲也賞。 救急医の主人公が運び込まれた自分そっくりの溺死体を見て茫然するシーンは最高のオープニングでした。魅力的な冒頭の謎という点では申し分なしです。しかし、同時に、この謎がミステリのロジックで解明されるとは到底思えず、これは本当に本格なのかと疑問に思っていると、瓜二つの死体の真相は前半であっさりと明かされます。むしろ本番はここからで、第2の事件とそれに伴う探偵役の推理が読み応えありまくりです。真相も意表を突くもので本当に驚かされました。偶然が過ぎるという意見もありますが、偶然の連続で単純な事件が複雑になっていくといった類のものではなく、偶然は事件が起きる契機にすぎないのでその点は大きな疵ではないのではないでしょうか。運命のいたずらによって事件が起きるのは現実でもあることですし。個人的には、歴代鮎川哲也賞のなかでも屈指の傑作だと思います。特に気に入ったのは密室の扱い方です。トリックの解明には焦点を当てず、意外な真相を導くための手がかりとして密室を用いる発想に唸らされました。 |
No.455 | 7点 | 架空犯 東野圭吾 |
(2024/11/09 11:28登録) 『白鳥とコウモリ』の五代刑事再登場の続編的作品です。都議会議員の夫と元女優の妻が殺され、とんでもない人物が捜査線上に浮上する展開が面白い。一部上層部がパニック状態になり、捜査本部のトップに対してもその事実が秘匿されるくだりなどは警察小説として実によくできています。被害者の過去を調べていくにつれて意外な人間関係が明らかになっていく後半の展開も秀逸で、先が気になる語り口はさすが東野圭吾です。個人的には『白鳥とコウモリ』より好きな作品。 以下ネタバレ ネタバレ ただ、追いつめられても妙に余裕のある態度から最初に浮上した容疑者は真犯人ではなく、誰かをかばっているのだろうということが比較的簡単に予想出来てしまう点がミステリーとしては少々残念。 |
No.454 | 5点 | 逆転ミワ子 藤崎翔 |
(2024/11/07 15:22登録) 芸人ミワ子の失踪事件を扱った作品ですが、事件について具体的に言及されるのは終盤近くになってからです。それまではミワ子が雑誌に連載しているエッセイやショートショートが延々と続きます。お笑い芸人出身の著者らしくこの辺は安定の面白さです。しかし、肝心の肝心のトリックがいただけません。非常に凝った仕掛けではあるのですが、『逆転美人』を読んだ後では全く驚けないのです。同じシリーズだからといって、いやシリーズものだからこそ同系統のトリックは避けてほしかった。 |
No.453 | 3点 | 牢獄学舎の殺人 未完図書委員会の事件簿 市川憂人 |
(2024/10/23 09:38登録) アマチュア作家だった学校の教師が解決編の存在しない未完ミステリーを100作以上遺し、しかも、それらが犯罪に利用されているという設定は大風呂敷が過ぎると思いつつも個人的には嫌いではありません。ただ、問題は未完ミステリーそのものにあります。100作以上存在するという未完ミステリーのうち本作で紹介されるのはタイトルにもなっている『牢獄学舎の殺人』なのですが、作中での説明を聞いた限りでは、犯罪者たちを魅了してやまないものとは到底思えません。せいぜい、ミステリ好きが嵩じた素人が創作にチャレンジした結果出来上がった愚作程度のレベルではないでしょうか。 そのうえ、実際に起きた事件の方の真相も到底納得できるものではなく、犯人の意味不明すぎる思考には頭を抱えるばかりです。構想の壮大さに完成度が追い付いていない駄作です。 |
No.452 | 6点 | ボタニストの殺人 M・W・クレイヴン |
(2024/09/29 21:01登録) ワシントン・ポーシリーズ第5弾。 テレビに出演中の男が殺害予告を受け取ったと主張した直後に絶命し、その一方で、ポーの仲間であるエステル・ドイルが父親殺しの容疑で逮捕される冒頭の展開は最高に面白い。しかも、前者は不可能状況下での毒殺で後者は容疑者以外出入り不可能な雪密室と、謎も実に魅力的です。テンポも良くてお馴染みのキャラにも感情移入しまくりな極上のエンタメ作品といえるでしょう。 ただし、謎解きに関してはガッカリ。毒殺の方は専門知識に基づいたトリックで知識がなければ解くことは絶対に出来ませんし、雪密室の方も突っ込みどころ満載の脱力トリックです。考えてみるとこのシリーズは『キュレーターの殺人』を除けば謎解きでガッカリしたものばかりですが、今回は特に話の面白さとのギャップが大きかった気がします。 |
No.451 | 5点 | 捜査線上のアリア 森村誠一 |
(2024/09/26 08:58登録) 1981年の作品であり、森村本格としてはかなりの異色作です。 得意のアリバイ崩しなどもあるものの、それらはあくまでも前振りで本番は終盤明らかになる大技。 しかし、これがいたずらにこねくり回しただけの代物で意味がよくわからない。 新しいことにチャレンジする意欲は買うものの、なんとも評価に困る作品です。 |
No.450 | 7点 | 日本扇の謎 有栖川有栖 |
(2024/09/22 14:18登録) 本格ミステリとしては非常に地味な作品です。 驚くようなトリックも息をのむどんでん返しもありません。 現場は一応密室なのですが、密室ものを期待していると間違いなくがっかりします。 かといって名作『双頭の悪魔』のような華麗なロジックを堪能できるかといえば、それほどでもない。 しかし、それでも小説に力があり、ぐいぐいと読ませるのはさすがです。 まず、記憶喪失の男がある町に現れる冒頭のシーンから読ませますし、事件が起きてからも捜査のプロセスや火村&有栖の掛け合いが魅力的で飽きさせません。 そして、大きな仕掛けやどんでん返しがなくても、巧みなミスディレクションによって読者の目をそらし、予想外の真相に着地させる手管は見事です。ベテランならではの味と深みのある佳品だといえるのではないでしょうか。 |
No.449 | 8点 | ぼくは化け物きみは怪物 白井智之 |
(2024/09/22 13:45登録) 前作の『エレファントヘッド』は本格ミステリの極北とでもいうべき傑作ではあったものの、あまりにもマニア度が高すぎてついていけない部分がありました。その点、本作は十分に尖っていながらも間口もそこそこ広くて個人的にはいい塩梅でした。5つの短編は特殊設定&多重解決といつもの白井作品であると同時に、1作ごとに趣向が凝っていて読み応えは十分です。 著者ならではのエログロ趣味をミステリの仕掛けとして活用しつくした「奈々子の中で死んだ男」も良いですが、なんといっても圧巻なのは多重解決の新機軸を編み出した「天使と怪物」でしょう。予言と多重解決を結び付けたところが慧眼です。 また、稀代の洗脳犯であるお婆さんと侵略宇宙人との対決を描いた「大きな手の悪魔」も着想がユニークで面白い。 |
No.448 | 5点 | ササッサ谷の怪―コナン・ドイル奇譚集 アーサー・コナン・ドイル |
(2024/09/22 11:38登録) デビュー短編を含めた14篇収録のコナン・ドイルのマイナー作品集。 幽霊屋敷マニアの主人公が自分の屋敷にも幽霊がほしくて胡散臭い男に幽霊を斡旋してもらう「幽霊選び ゴアズソープ屋敷の幽霊」が英国人の気質を皮肉たっぷりに描いており、面白い。巨大怪獣のような食虫植物が出てくる「アメリカ人の話」もなかなか。しかし、さすがに全体的な古臭さは否めないところ。 |
No.447 | 3点 | わが一高時代の犯罪 高木彬光 |
(2024/09/22 09:47登録) ストーリーは可もなく不可もなくといった感じですが、表題作の人間消失トリックにはただただ脱力しました。 |
No.446 | 2点 | ネコソギラジカル 西尾維新 |
(2024/09/22 09:42登録) 戯言シリーズ最終話 『クビキリサイクル』『クビキリロマンチスト』の第1弾第2弾の頃にみられた本格ミステリとしての面白さは微塵もなくなっています。 代わりに世界の終わりを賭けて戦いが繰り広げるバトルものになっているのですが、なんのためにどのように闘っているのか、文章を読んでも皆目見当がつきません。スケール感のない中二バトルはただただ退屈でした。 |
No.445 | 5点 | マークスの山 高村薫 |
(2024/09/22 09:28登録) 犯人像や一枚岩ではない警察組織の描き方は臨場感があってよかったのですが、そうした描写に力点が置かれすぎていて、肝心の事件や捜査そのものにミステリ的な面白みをさほど感じられませんでした。大変な力作とは思うものの、自分の嗜好とは今一つかみ合わなかった作品です。 |
No.444 | 4点 | シンデレラの罠 セバスチアン・ジャプリゾ |
(2024/09/22 09:02登録) 本格ミステリ至上主義者だった学生の頃、 ー史上空前のトリック! 「私は事件の探偵であり、証人であり、被害者であり、そのうえ犯人でもあるのです」 という有名な煽り文句にワクワクしながら読んでがっかりした作品です。サスペンス小説も楽しめるようになった今なら評価も変わるのかもしれませんが、フレンチミステリ特有のスタイリッシュなノリはやはり合わないような気がします。 |
No.443 | 6点 | フェイク・マッスル 日野瑛太郎 |
(2024/09/16 11:08登録) あまり一般的でない職業を紹介しつつ、事件の謎を解いていくという、久しぶりの王道的乱歩賞作品といった感じ 若手の落ちこぼれ編集者が疑惑のトレーニングジムに潜入取材を敢行するというメインの話はとぼけたユーモアが効いていてなかなか読ませます。 一方で、女性視点から語られるサブエピソードは(ミステリー要素を高めるために挿入されたものだと思われますが)途中からオチがみえみえでなかった方がよかったという感じ。 この辺りもかつての乱歩賞あるあるパターンで懐かしささえおぼえます。総合的にみればエンタメとしては十分に楽しい作品でした。 |
No.442 | 5点 | 名探偵の有害性 桜庭一樹 |
(2024/09/08 09:53登録) 桜庭一樹久しぶりのミステリー作品です。 ストーリーは、50歳になったかつての名探偵と助手がYouTubeチャンネルで弾劾されたのをきっかけに過去の事件を振り返る旅に出るというもので、90年代に起きた事件を回想形式で一つ一つ紹介していく連作ミステリの形をとっています。 一見、新本格のようですが本格ミステリとしてはあまり面白くありません。名探偵を時代の徒花として描いているいるせいか、中途半端にリアルで推理もトリックもパッとしないものばかりなのです。 本作はむしろ名探偵という存在を通して世代間ギャップについて語る社会派ミステリーの側面が強い気がします。その着眼点はなかなか面白いのですが、ただそれを語るのにわざわざ名探偵を持ち出す必要あったの?という気がしないでもありません。あと、50歳のコンビが妙に可愛らしく描かれているのは現代ならではで、時代の変化を感じます。 |
No.441 | 5点 | 死んだ石井の大群 金子玲介 |
(2024/08/25 13:26登録) 白い大きな部屋に監禁された333人の石井たちが生き残りをかけてゲームを始めるというデスゲームものです。ゲーム自体は、カイジとか嘘喰いみたいな駆け引き要素は隠し味程度で、実にあっさりとしています。その代わり、女子供でも容赦なく死んでいくえげつなさは悪くありません。ただまあ、読む前から薄々気がついてはいたけれど、これを本格的なデスゲームものだと思って読むと間違いなく失望します。 以下ネタバレ 一言でいうと本作は多重人格ものです。人格が333人に分裂した石井が本来の自分を取り戻すまでの物語。話としてはそれなりに面白かったけれど、とっくにカビが生えている多重人格オチはそろそろ勘弁してもらいたいものです |
No.440 | 4点 | 僕は■■が書けない 朽無村の怪談会 阿泉来堂 |
(2024/08/19 10:27登録) ミステリー作家志望のホラー作家がとある怪談会に参加し、一見怪異の仕業に見える事件を推理して真相を見破っていくというホラーミステリーです。しかし、語られる怪談がどれもハリウッドのホラー映画並みに派手な展開なので静かにたちのぼってくるゾッとする恐怖を味わうといった怪談ならではの赴きはありません。個人的にはそこが不満。しかも、伏線が割とあからさまなのでオチが最初から見えてしまっていてミステリーとしても楽しめませんでした。まずもって主人公の設定からしてオチはあれしかないだろうという。第一の事件における被害者に関する錯誤もヒントが分かりやすすぎてむしろ、引っかかる奴がいるのかというレベル。 |
No.439 | 7点 | 法廷占拠 爆弾2 呉勝浩 |
(2024/08/17 16:46登録) 最初から最後までサスペンスに満ちた展開が続く物語は文句なしの面白さです。ただ、1作目におけるスズキタゴサクというキャラのインパクトやどんでん返しの衝撃と比べてしまうとどうしても見劣りがしてしまいます。とはいえ、今後も続いていきそうな気配があるのでシリーズものの2作目と考えれば十分すぎる出来ではあります。 |
No.438 | 6点 | 白薔薇殺人事件 クリスティン・ペリン |
(2024/08/03 10:52登録) 16歳だった1965年に占い師から「お前はいつか殺される」と言い放たれて以来、ずっと何も起きなかったのに今になって何者かに殺害されてしまうというつかみは悪くありません。しかも、自分が殺されることを織り込み済みだった彼女の遺言状には「一週間以内に犯人の正体を暴けば、全財産を譲る」と書かれていたために犯人探しゲームの様相を呈してくるという流れも楽しい。ただ、犯人当てミステリーの大傑作と謳っている割にこれといった仕掛けやロジックが用意されていなかったのにはがっかり。ストーリーは十分に楽しめたものの、本格ミステリとしては物足りなさを感じてしまいました。 |
No.437 | 5点 | 夜の挽歌 鮎川哲也短編クロニクル1969~1976 鮎川哲也 |
(2024/07/26 10:06登録) 倒叙ミステリーメインの短編集。さりげない描写をオチに持っていく手管はさすがの上手さだとは思うものの、なんだか似たようなパターンが多くて単調に感じました。いくつかあったアリバイ崩しものも今ひとつ。50代の作品だということもあって力の衰えを感じます。個人的ベストは不可能犯罪の謎を凝ったプロットで描いた「地階ボイラー室」。 |