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ミステリの祭典

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文生さんの登録情報
平均点:5.89点 書評数:420件

プロフィール| 書評

No.420 8点 冬期限定ボンボンショコラ事件
米澤穂信
(2024/05/01 06:38登録)
小鳩君と小佐内さんの物語は今後新作が発表される可能性もなきにしもあらずですが、春夏秋冬の4部作としては本作が完結編という位置付けになります。
物語は冒頭で車に跳ね飛ばされた小鳩が病院のベットで中学時代のひき逃げ事件について回想をするというもの。
この中学時代の事件はミステリーとして大きな仕掛けがあるわけでもなく、小鳩の探偵ぶりも未熟な部分が見え隠れしています。単体のミステリー小説と考えるならばパッとしたできではないのですが、それによって小鳩の思い上がりを浮き彫りにし、小市民というシリーズのテーマにつなげていく手管が見事です。同時に、現代進行形の小鳩ひき逃げ事件と対比しつつ、小鳩との関係性の変化についても巧みに描き出しています。ラストの着地点も素晴らしく、本格ミステリといよりは青春ミステリーとして高く評価すべき傑作です。


No.419 6点 スリー・カード・マーダー
J・L・ブラックハースト
(2024/04/27 07:56登録)
第1の事件では封鎖された5階の部屋から喉を切り裂かれた男が墜落し
第2の事件では誰も乗っていないはずのエレベーターで男が刺殺され
第3の事件は施錠されたホテルの一室で男が射殺される
といった具合に不可能犯罪の尽くしの作品なのですが、重大犯罪班の警部である姉と詐欺師である妹の関係を描いたドラマに重点が置かれていて思ったほど本格していないのが惜しい。
とはいえ、現代の英国でこれほどまでに真正面から密室殺人を描いたミステリー作品は珍しく、それだけでもうれしいところ。
密室トリックとしては、第2第3の事件は凡庸で数合わせ感が強いののだけど、第1の事件における盲点を突いた仕掛けはなかなかではないでしょうか。


No.418 9点 化物語
西尾維新
(2024/04/26 07:27登録)
主人公の阿良々木暦が怪異に憑かれた少女たちと出会っていく連作短編。
西尾維新の最高傑作との呼び声高い有名作品だけに物語の完成度、キャラの魅力、シリアスとギャグの配分など、すべてが高水準。個人的にも『クビシメロマンチスト』と同じくらい好きな作品。


No.417 4点 鬼怒楯岩大吊橋ツキヌの汲めども尽きぬ随筆という題名の小説
西尾維新
(2024/04/26 06:35登録)
ペットシッターの主人公が世話をすることになったある猫について語る話なのですが、実のところ猫に関する描写はほんの少ししかありません。差別的表現に敏感な昨今の風潮を踏まえてページの大半が「そういう意味で言ったのではなく」という言い訳というか予防線で埋め尽くされています。西尾維新らしい実験的な作品あり、最初は面白かったのですが、そのパターンが割と終盤まで続くのでさすがに飽きてしまいました。


No.416 5点 ウェルテルタウンでやすらかに
西尾維新
(2024/04/26 06:02登録)
町おこしのために自殺の名所をつくるという発想は非常に面白かったものの、そこからあまり話が膨らんでいかないのが良くも悪くも西尾維新です。
オチを含めて決して悪くはないのですが、シリアスな問題を含む今日的な問題をテーマにした作品としては掘り下げ不足に感じ、個人的には物足りなさを覚えました。
町おこしコンサルタントの生前没後郎(いくまえ・ぼつごろう)が狂気の町おこし構想を嬉々として語るところがピークかな。


No.415 7点 ダブル・ダブル
エラリイ・クイーン
(2024/04/25 09:27登録)
世間的な評価はイマイチですが、童謡殺人の扱い方がユニークで、個人的にはかなり楽しめました。1950年以降の後期クイーン作品ではこれが1番好きかも。


No.414 5点 ミノタウロス現象
潮谷験
(2024/04/23 18:48登録)
世界中にミノタウルスが現れて人を襲い始めるという展開は面白く、主人公である20代の女性市長の奮闘ぶりも楽しく読むことが出来ました。一方で、本格ミステリとしてはかなりもの足りなく感じます。デビュー当初のロジックに対するこだわりは何だったのかと思うほど推理や真相が雑です。大した仕掛けでもないのに「そんなにうまくいかないだろ」と思えてしまう点がいかにも厳しい。面白いのはケンタウロスに関することだけで本格としては全く魅力が感じられない作品でした。


No.413 6点 六法推理
五十嵐律人
(2024/04/16 02:50登録)
全5編の連作短編
法学部の学生である古城が法律の知識を駆使して事件の謎に迫っていくという設定がユニークで、従来のものとは異なる推理のプロセスが面白かったです。また、詰めが甘い古城を直感推理でアシストする戸賀とのコンビぶりも楽しく、学園ミステリーとしてもよくできています。ただ、古城の推理の詰めの甘さというのがちょっとわかりやすすぎて読み手側も「その推理はちょっとおかしいのでは?」とすぐに気付いてしまいます。その点が少々興醒めです。古城が推理に一定の説得力があり、読者も納得した後に戸賀がひっくり返していくという感じならもっと良かったのですが。


No.412 6点 鏡は横にひび割れて
アガサ・クリスティー
(2024/04/13 09:30登録)
事件のシチュエーションがミステリーあるあるパターンなので犯人はすぐに見当がつきました。一方、分かりやすいフーダニットに対してホワイダニットはなかなか巧妙。パーティーでの毒殺で意外な動機といえば同著者の『三幕の殺人』を彷彿とさせますが、それとは全く異なる意外性を演出してみせたのが見事です。ただ、これは晩年のクリスティ作品全般にいえることですが、とにかく展開が単調すぎて退屈。特に、ミスマープルものはその傾向が顕著でそこが個人的には評価を下げる原因となっています。


No.411 8点 サロメの断頭台
夕木春央
(2024/04/10 19:18登録)
大正ミステリーシリーズの第4弾であり、内容は、油絵画家の井口が未発表の自分の絵を誰かに盗作されたことを知って犯人捜しをしていると、贋作作りの集団に行き当たり、やがて戯曲サロメに見立てた連続殺人事件に巻き込まれるというもの。
エログロ色の強い乱歩的雰囲気を帯びながら、ミステリーとしてはあくまでも論理性にこだわった作りになっています。たとえば、盗作と贋作と見立て殺人の意外な関係性をロジカルに解きあかしていくところなどは思わず唸らされてしまいました。また、見立て殺人も単なる虚仮威しや単純なカモフラージュではなく、論理的かつ意外性満点の理由が用意されているのが素晴らしい。非常によく出来た本格ミステリです。一方で、残酷すぎて夢に出てきそうなクライマックスは、(好き嫌いは分かれそうですが)忘れ難いインパクトを読む者に与えてくれます。著者の作品としては『方舟』次ぐ傑作ではないでしょうか。


No.410 7点 乱歩殺人事件――「悪霊」ふたたび
芦辺拓
(2024/04/06 22:32登録)
『悪霊』は江戸川乱歩久しぶりの本格作品ということで探偵小説専門誌の新青年が大々的に宣伝を行い、1933年11月号から連載が開始されました。しかし、わずか3回で休載に入り、そのまま未完に終わってしまいます。
そして、問題の本作ですが前半部分は新青年に掲載された『悪霊』がそのまま引用されており、後半から芦辺拓がその続きを書くという形をとっています。読んでみてまず驚いたのが乱歩の書いた前半部分から芦辺拓の書いた後半部分に移っても違和感が全くない点です。また、ミステリとしても前半部の意外なところから伏線を拾い上げ、おそらく乱歩が当初想定していたものよりも魅力的な真相を提示しています。
ちなみに、乱歩は当初の構想で想定していた真相を仄めかす発言をしていますが、それを逆手にとって新たな真相を上書きしていく手管も見事です。さらに、本作では単に作中内での真相だけではなく、『悪霊』が未完に終わった理由についても言及しています。しかし、個人的にこの部分はリアリティが感じられず、あまり好きではありません。『悪霊』自体の真相であれば少々リアリティに欠けていても問題ないのですが、『悪霊』の中絶という現実に起きた出来事の真相に関しては実際にあり得そうな答えを用意してほしかったところです。


No.409 8点 紅楼夢の殺人
芦辺拓
(2024/04/06 21:21登録)
中国4大名著として、『三国志演義』『水滸伝』『西遊記』と並び称される『紅楼夢』の世界を舞台にした連作ミステリです。毎回奇怪な不可能犯罪が起き、美少年貴公子・賈宝玉と司法官の頼尚栄がその謎を解いていくという趣向なのですが、個々のトリックは正直大したことはありません。そもそも、本作においてトリックはおまけのようなものであり、より根本的な問題は、なぜ犯人は無駄に手の込んだ犯行を毎回繰り返すのかというホワイダニットにあります。この解答がなかなかに衝撃的です。『紅楼夢』の世界観を活かした仕掛けが素晴らしい唯一無二の傑作。


No.408 7点 三幕の殺人
アガサ・クリスティー
(2024/04/03 04:24登録)
善良な牧師はなぜ殺されたのか?というホワイダニットに対する解答は、現代の読者には大きな驚きを与えることはできないでしょう。しかし、当時としては読者の意表を突くものであり、また、いろいろな角度から動機を検討していくくだりもなかなかにスリリングです。三幕仕立てのプロットもよく出来ており、古き良き時代の探偵小説として読み応えがあります。


No.407 5点 火曜クラブ
アガサ・クリスティー
(2024/04/01 07:02登録)
『黒後家蜘蛛の会』の雛型ともいえる推理合戦ものですが、今読むとたわいもないものが多くて物足りません。そのなかにあって「舗道の血痕」の巧妙さはなかなか


No.406 6点 家族解散まで千キロメートル
浅倉秋成
(2024/03/30 15:01登録)
青森の神社から盗まれたご神体が何故か主人公一家が暮らす山梨の家の倉庫から出てきて大慌て。放浪癖のある父親の仕業に違いないと結論づけ、ご神体を返して許しを請おうと一路青森を目指す物語は文句なしの面白さ。家族のキャラがそれぞれ立っていますし、ユーモアも効いています。ただ、旅路の最終局面で繰り広げられる多重解決の趣向は一つ一つの解答が雑に感じられてやや微妙。それに、騒動後のエピソードとして語られる「家族のあり方論」みたいな話が結構長くてミステリー作品としては蛇足に感じました。テーマ性はメインストーリーのなかにさりげなく溶け込ませてほしかったところ。


No.405 5点 ガラスの村
エラリイ・クイーン
(2024/03/29 14:30登録)
当時アメリカで吹き荒れていたマッカーシズムを批判した社会派ミステリーであり、50年代クイーンの数少ない代表作とされています。クイーンとしては珍しい社会派作品だったり、即席裁判の趣向だったりは大いに興味をそそられたものの、やはり本格ミステリとして地味な点は否めません。


No.404 5点 中途の家
エラリイ・クイーン
(2024/03/29 14:13登録)
中途の家という殺人現場の設定は面白く、裁判シーンなどもまずまず楽しめたのですが、犯人を指摘するロジックにはあまり感心できませんでした。なかには鋭い指摘もあるものの、どうしてもこじつけめいた推理が少なからず含まれている点が気になります。自分がロジックものが苦手なのは、こうした断定できない根拠を積み重ねて犯人を特定してしまうところにあります。ロジックの切れ味自体も『オランダ靴の謎』などに比べると劣る印象で、全体的な評価は低めです。


No.403 6点 災厄の宿
山本巧次
(2024/03/27 23:05登録)
大型台風が接近している最中に散弾銃を持った男が旅館に押し入り、疑惑の人物をテレビに出演させろと要求。さらに、クローズドサークルと化した旅館では殺人事件が起き、土砂崩れの危機までといった具合にイベント盛りだくさんでリーダビリティの高さはかなりのものです。その反面、一つ一つのネタは小粒だったり、ご都合主義的に感じたりともの足りなさを覚えました。面白かったけれどミステリーとしての満足度はいまひとつといった感じでしょうか。


No.402 4点 象は忘れない
アガサ・クリスティー
(2024/03/23 09:18登録)
トリックはありふれていても巧みなミスディレクションによって読者の意表を突くのがクリスティの真骨頂ですが、晩年の作品においてはそのテクニックにも衰えがみられます。本作も過去の事件の真相を探っていくという物語自体は結構引き込まれたものの、トリックはバレバレでした。ミステリーの場合、物語はそれなりに面白くても真相があまりにもバレバレだとさすがに興が削がれてしまいます。デビュー時から晩年まで一貫して当たり外れの少ない作家といわれるクリスティですが、個人的には『ポケットにライ麦を』や『葬儀を終えて』を発表した1953年までが全盛期でそのあと20年は衰えが目立つという印象。


No.401 4点 殺める女神の島
秋吉理香子
(2024/03/21 16:53登録)
イヤミスの女王がクローズド・サークルに挑戦ということで、外部との連絡を断たれた孤島にて連続殺人&美女7人によるドロドロ展開が始まります。このイヤミスとクローズド・サークルの組み合わせはなかなか相性が良くて読ませますし、どんどん謎が深まっていく展開にも引き込まれるものがあります。意表を突いた動機もホワイダニットものとして悪くありません。しかし、事件の真相といい、犯人の計画といい、あまりにもあり得なさそうなことが多すぎます。スケールが大きいが故に本格としては大味で、納得度の低さがかなりのマイナスポイントです。

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