文生さんの登録情報 | |
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平均点:5.86点 | 書評数:500件 |
No.500 | 7点 | 世界の終わりの最後の殺人 スチュアート・タートン |
(2025/04/17 18:39登録) 黒い霧によって人類のほとんどが死に絶え、100名あまりの人々が暮らす人類最期の砦たる島にも危機が迫るという終末SF的なシチュエーションは非常に好みではあるものの、著者ならではの複雑な設定に最初はかなり手こずりました。しかし、馴れてくるとその設定が面白く、最初は混乱の一因となった特殊な視点も新しい試みとして興味深いものがあります。そして、SFど真ん中な設定を用意しながら、一方で名探偵の苦悩を描いてみせるのも新本格ぽくていい。さらに、二転三転する展開もミステリーとしての魅力に満ちていて悪くありません。ただ、仕掛けやロジックに関してはパンチ不足でもの足りなさが残るのが惜しいところ。 |
No.499 | 5点 | 謎解き広報課 わたしだけの愛をこめて 天祢涼 |
(2025/04/17 12:47登録) 広報課三部作の完結編。東日本大震災をテーマにしており、大地震に遭遇した主人公たちの苦悩や奮闘はヒューマンドラマとして読み応えありです。ただ、ミステリー要素があまりにも薄いのはどうにもものたりません。代わりに、シリーズ全体を通して謎が明らかになるので、ミステリーとしてはその辺が最大の読みどころでしょうか。したがって、手を出すのであれば、やはり1冊目から順番に読んでいくことをおすすめします。 |
No.498 | 6点 | 謎解き広報課 狙います、コンクール優勝! 天祢涼 |
(2025/04/17 12:39登録) 町役場を舞台にした日常ミステリーの第一2弾。ミステリーとしては小粒ですが、広報課の仕事にさりげなく謎を絡ませ、お仕事小説+謎解きの合わせ技で読み手を引き込んでいます。要所要所で散りばめられたラブコメ要素も楽しい。 |
No.497 | 6点 | 写楽 閉じた国の幻 島田荘司 |
(2025/04/17 07:26登録) 意表を突いた写楽の正体は推理ものとしてなかなか楽しい。ただ、後半に舞台が江戸時代に移り、再現ドラマになっているのはミステリーとして蛇足に感じました。ページが足りなくて伏線回収がしきれなかったとありますが、それならば江戸編を丸々カットしてほしかったところです。 |
No.496 | 7点 | 弥勒戦争 山田正紀 |
(2025/04/16 13:16登録) 朝鮮戦争の行方を巡って神の力を持つ一族が戦いを繰り広げる物語は、スケールが大きくて面白い。また、仏教をベースにした設定も独創性に富んでいて魅力的ですし、史実との絡ませ方も巧みで歴史SFとしても読み応えありです。ただ、惜しむらくはストーリーの壮大さに比べてページ数が少なすぎます。約240ページと中編程度の長さしかなく、ボリューム不足からくる物足りなさは否めないところです。 |
No.495 | 5点 | ダブルマザー 辻堂ゆめ |
(2025/04/15 18:57登録) 若い娘が駅で飛び込み自殺を行い、死んだのは自分の娘に間違いないと2人の母親が名乗りを挙げるという謎はかなりのインパクトです。しかし、このからくりがあまりにも無理筋すぎてにわかには納得できません。家族の欺瞞を暴くドラマやダークな結末など、ストーリー自体は読み応えがあるだけに仕掛けの雑さが残念です。 |
No.494 | 6点 | 壁から死体? ジジ・パンディアン |
(2025/04/15 05:20登録) 若くして引退に追い込まれたイリュージョニストの女性が不可能犯罪に挑む〈秘密の階段建築社〉の事件簿シリーズ第1弾。 新たに塗りなおした痕跡もない何十年も前に作られたはずの壁から殺されたばかりの死体が発見されるという謎はなかなかスリリングですが、トリックや謎解きは正直大したことはありません。しかし、全編を貫くディクスン・カーへの愛が素晴らしい。カーマニアの幼馴染を登場させて新たな密室講義に挑戦するのもうれしいところ。同じカー好きとして評価は甘めに。 |
No.493 | 5点 | 1(ONE) 加納朋子 |
(2025/04/14 12:09登録) まさか新作が読めるとは思ってなかった20年ぶりの駒子シリーズ。 しかし、著者が冒頭で説明しているように続編というよりは、世界観を同じくしたスピンオフの色が強く、期待していたものと違っていたのはがっかり。 ミステリー色は前作の『スペース』と比べても低いですし、犬が主役のエピソードなどは旧シリーズとは全くの別物です。まあ、ヒューマンドラマとしてはよくできた作品なのでまったく楽しめなかったわけではなく、母親になった駒子も相変わらずちょっと天然でチャーミングなのはよかった。 でも、できるならば『スペース』の直接的な続編で愛ちゃんやふみさんとの絡みをみたかったところ。 |
No.492 | 5点 | 天女の密室 荒巻義雄 |
(2025/04/12 09:44登録) 古文書や浦島太郎伝説を絡めた伝奇小説的な道具立てはそそりますし、そこに密室殺人を重ねることで事件の不可思議性が強調されていくのもスリリング。密室トリック自体もなかなかユニークで悪くありません。なのにあまり面白くない。どうも事件解明に向けてのハッタリが不足しており、謎解きがそっけなさすぎてカタルシスに欠ける印象です。非常に惜しい作品。 |
No.491 | 7点 | 蜘蛛の牢より落つるもの 原浩 |
(2025/04/10 20:05登録) 関係者の口から語られる21年前の集団生き埋め事件が訳がわからなすぎてとにかく怖い。その事件を調べているうちに起こる現代の事件もかなりの不気味さです。このまま怪異ホラーとして突っ走っても十分に面白そうですが、最後は伏線を回収してミステリーとして着地します。これだけの怪現象を論理的に説明したのはなかなかに見事です。ホラーミステリーとして十分レベルの高い作品だといえます。ただ、謎解き自体にホラー描写ほどのインパクトはなく、前半と比べてパワーダウンの印象も。 |
No.490 | 8点 | 死んだら永遠に休めます 遠坂八重 |
(2025/04/08 20:09登録) パワハラ上司が突然失踪し、続いて「私は殺されました」と記されたメールが送られてくる。しかも容疑者として彼の部下である総務経理本部全員の名前が挙げられており…。 限界会社員ミステリと銘打たれた本作はなんといっても事件の謎を追う女性2人のコンビがが秀逸です。仕事に疲れ果てて今にも倒れそうな主人公と、底抜けに明るく空気を読まない派遣女子のかけ合いはブラックなコメディとしてよくできています。そして、紆余曲折の末、最後に明かされるあの真相。これがもう犯人の意外性とかトリックの独創性とかとは全然別の意味で衝撃的です。完全に読者の心をへし折りにかかってきています。 エグい話をユーモアで包み込んで苦みのあるエンタメ作品に仕上げ、そこに意表を突く真相をぶち込んでさらにエグさを引き立てるという作風はもともと作者の十八番ですが、本作ではその持ち味が最大限に引き出されています。デビュー3作目にして才気が大きく花開いた傑作です。 |
No.489 | 6点 | 終着点 エヴァ・ドーラン |
(2025/04/07 21:01登録) ロンドンの集合住宅に住む年配の女性・モリーは母娘のように親しくしている活動家のエラに呼び出される。彼女の待つ空き部屋に行ってみると、そこに男の死体が転がっていた。エラは男の顔に見覚えはなく、突然襲われたので身を守るために返り討ちにしたのだという。2人はエレベーターシャフトに死体を隠して隠蔽工作を図るが...。 以上が物語の冒頭部ですが、それ以降、モリーのパートでは時系列順に事件後の経緯が描かれていくのに対し、エラのパートでは事件を起点として過去に遡っていくのがユニークです。そして、その構成を利用して意外な真相を演出してみせた手管にも感心させられました。ただ、本作は読者の意表を突こうとして、普通に描けばどうということもない事件をわざと特殊な構成で描いている故に、読者からすれば少々回りくどく感じてしまう点は否めません。実際、前半から中盤は結構冗長で、本格的に面白くなってくるのはかなり終盤になってからですし...。 |
No.488 | 4点 | 口外禁止 下村敦史 |
(2025/04/06 13:31登録) 近年急速に普及し、人類社会を大きく変容させる可能性を秘めた生成AI。それを用いて「あなたの人生をプロデュースします」という勧誘メールが冴えない青年のもとに届くという導入部は興味を惹かれます。実際にサービスを利用してからは運が向いてくるも、次第にトラブルに巻き込まれていくという展開も割と面白い。しかし、この仕掛けは到底うまくいくとは思えません。絶対にグダグダになってしまいます。そもそも、仕掛けの準備段階からして運任せの要素が強すぎます。ちなみに、個人的に一番ガッカリしたのはAIのすごさを証明するためにワールドカップにおける両チームの得点を3試合連続で当てるトリック。詐欺の常套手段というべき手法であり、多くの人が読んだ瞬間に見抜いてしまったのではないでしょうか。というわけで、リーダビリティはそれなりに高いものの、内容的には凡作の域は出ていないというのが結論です。 |
No.487 | 6点 | 7人殺される 周浩暉 |
(2025/04/05 10:43登録) 刑事羅飛シリーズの一篇で、『邪悪催眠師』の続編。前作を未読のまま読んだわけですが、次から次ととんでもない凶悪事件が起き、サスペンスとして大いに楽しめました。ただし、読んでいる間は楽しかったものの、犯人の催眠術がなんでもありすぎて改めて振り返ってみると大味感が拭えません。作中では「催眠術も万能ではない」といった感じの台詞がありましたが、とてもそうは思えない無双ぶりです。小説より映画にした方が面白いように思います。映画といえば連続殺人の手口が某映画にそっくりだなと思っていると、実際に某映画の模倣だったというオチだったのですが、大した意味があるとは思えず、ちょっと首をひねってしまいました。 |
No.486 | 6点 | パンドラブレイン 亜魂島殺人(格)事件 南海遊 |
(2025/04/02 17:13登録) 前作『永劫館超連続殺人事件 魔女はXと死ぬことにした』のような特殊設定ミステリを期待するとちょっとがっかりな作品。永劫館のようなこれぞっといった大ネタはないし、なんなら特殊設定ミステリーというよりはミステリーの皮を被ったSFといった方が近いかもしれません。また、中二ラノベのような作風も好みのわかれるところでしょう。それでも、新本作の要素を切り貼りしつつ、怒涛の展開で突き進む物語はそれなりに楽しめました。清涼院流水などのファウスト世代の作風を彷彿とさせます。 |
No.485 | 4点 | 伊根の龍神 島田荘司 |
(2025/04/01 18:28登録) 京都の伊根湾で巨大な龍神が目撃されたという話を聞いて石岡とネッシー研究会の一員で大学院生の藤波麗羅が現場に急行。すると伊根湾に向かう陸路は自衛隊によ封鎖されており…。 この時点でいやな予感はプンプンしています。これだけ大風呂敷を広げてはとてもまともな解決を期待できそうにはあらりません。加えて、島田荘司の作品をある程度読んでいれば、「どうせ××が××して自衛隊に関しては××××××だろう」といった具合に全体の仕掛けがだいたい予想できてしまいます。石岡と麗羅の掛け合いメインでテンポ良く読めるのはいいのですが、リアリティのない真相なのに意外性も乏しいというのはどうにもいただけません。 |
No.484 | 7点 | あかずめの匣 滝川さり |
(2025/03/31 11:59登録) 自室、トイレ、風呂といった閉鎖空間にいるときに中の人間を閉じ込め、そのまま窒息死させるあかずめの呪い。その呪いの謎に挑む連作ホラーです。ホラーとしての怖さはぼちぼちで、呪いの騒動のなかで人間の醜さが浮き彫りになっていくプロセスが読みどころになっています。しかし、白眉なのは最終章。それまでに張り巡らせていた伏線が一気に回収され、見えていた風景が次々と反転していくプロセスが実に心地よい。呪術系ホラーには違いないのですが、むしろ謎解きミステリーとしての要素に魅力を感じた逸品です。 |
No.483 | 5点 | めぐみの家には、小人がいる 滝川さり |
(2025/03/30 16:35登録) 美少女の主人公を庇護する無数の小人たちが人々を襲っていくというシチュエーションはゾッとするものがあり、なかなかそそられたのですが、実際に読んでみるとあまり怖くありませんでした。問題は被害者がいじめっ子や毒親ばかりでむしろ小人たちを応援してしまいたくなる点。復讐ものならともかく、ホラー小説の筋立てしてはどうにも盛り上がりません。終盤でようやくこちらの期待するような流れになるも時すでに遅し。その先が読みたかったのにここから先は読者の想像にお任せします的な結末だったのが残念です。 |
No.482 | 5点 | さかさ星 貴志祐介 |
(2025/03/28 11:38登録) 著者らしい綿密な取材に基づいた作品であり、次々と語られていく呪物に関する蘊蓄が興味深い。とはいえ、蘊蓄がいささか長すぎで中弛みを起こしているのは否めないところ。それに貴志ホラーといえば、『黒い家』といい、『天使の囀り』といい圧倒的な怖さがウリだったはずですが、本作は蘊蓄が続くせいで全然怖くない。最初の惨劇は事件の概要が語られるだけで具体的な描写はありませんし、クライマックスの惨劇も不完全燃焼に終わってしまいます。ちょっ怖かったのはラストぐらいでしょうか。中盤におけるフックの効いた展開はゾクゾクしましたし、全然つまらないということはないものの、蘊蓄が多すぎて物語としての起伏が乏しい印象を受けました。 |
No.481 | 6点 | スミルノ博士の日記 S・A・ドゥーセ |
(2025/03/26 23:44登録) ご多分にもれず、私もあの有名作の解説やら評論やらのなかでネタバレを喰らった後に読んだクチですが、思ったよりも楽しめました。なんといっても、探偵と犯人のキャラが立っているので2人のせめぎ合いが面白い。そして、そのうえで迎える犯人指摘のクライマックスがなかなか印象的です。ああいうパターンは結構珍しいのではないでしょうか。 真犯人の行動が怪しすぎという点は個人的にはあまり気にならなかったですね。ミステリー小説の世界では怪しい奴ほど犯人の可能性は低いという鉄則があることから、もし私が例のトリックを知らないでこの作品を読んだとすれば真犯人を無条件で容疑者から除外し、結果、犯人の意外性はいささかも損なわれないと思うので。以下ネタバレ ただ問題は日記の存在をあまりにも強調しすぎている点で、その結果として「台詞以外の地の文章ははすべて真実である」という大前提が揺らいでしまっています。その点、真犯人を指摘するまで、手記の存在感を可能な限り消し去ったクリスティはやはりさすがです。 |