ダブルマザー |
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作家 | 辻堂ゆめ |
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出版日 | 2024年09月 |
平均点 | 6.00点 |
書評数 | 1人 |
No.1 | 6点 | パメル | |
(2024/12/23 19:22登録) 馬淵温子は、一人娘の鈴が駅のホームから列車に飛び込み自殺をしたため、深い悲しみに沈んでいた。遺品のバッグを調べていた温子は、見慣れないスマートフォンと財布を発見する。財布の中には、鈴と同じ年頃の柳島詩音という女子大生の学生証があった。連絡を受けて駆け付けた詩音の母・柳島由里枝は、馬淵家に飾られていた鈴の遺影を見て、あれは私の娘の詩音だと声を上げる。二人は瓜二つだった。 二人の母親が、死んだのは自分の娘だと主張し合うという、通常では考えられないシチュエーション。しかし鈴も詩音も二年ほど前、自分の顔が気に入らないといって整形手術を受けていた。温子と由里枝の胸にある疑惑が浮かんでくる。もしかして、どちらかの娘が二重生活を送り、二つの家庭で娘として振舞っていたのではないか。 二つの家庭環境は対照的だが、共通しているのは二人の母親とも娘としっかり向き合っていないし、父親も娘への興味が薄い。しかし二人とも自分たちの子育ては正しかった、と思っている点だ。母親視点のストーリーと併行して、鈴と詩音の高校時代を描いたパートも進行していく。物語が進むにつれ次々に新しい情報が開示され、事件の印象が目まぐるしく変化する。その構成の巧みさに思わず唸る。序盤は荒唐無稽の設定に半ば呆れていたが、徐々にあり得るかもと思えてくるから不思議だ。 ライフスタイルも性格も対照的な二人の母親が、娘の素顔を探るという辛い作業を通して、無二のバディとなっていく。いくつかの捻りを加えて予想だにしないその展開の皮肉な面白さ。ある情報を手掛かりに娘たちの足跡を辿った二人は、やがて慟哭の真相に辿り着く。二重生活が意味するもの、複数の手掛かりが一つに繋がり、人の心の複雑さを露にするクライマックスの展開には、ミステリの醍醐味に溢れている。恐るべきアプローチで真の家族のあり方を問いている衝撃的な物語。 |