剣の八 ギデオン・フェル博士シリーズ |
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作家 | ジョン・ディクスン・カー |
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出版日 | 1958年01月 |
平均点 | 4.25点 |
書評数 | 8人 |
No.8 | 4点 | レッドキング | |
(2021/02/06 12:40登録) これも複数者の犯行企図の重なりが引き起こす「?」の話で、こんがらがった「現」況から、「元」況を解き分けるフェル博士の解釈が見事。「何故に諸料理の中から大好物のスープだけ食べ残したのか?」てなロジック展開よいなあ。残念なことに、この現象、フェル以外の一般人には別に「不思議」には見えないんだよな。あの部屋が密室だったら、人間消失していたら・・さらにポルターガイスト現象やタロット「剣の八」カードと有機的に結び付いていたら・・「三つの棺」に近づいていたかも。※探偵マニア聖職者やミステリ作家とフェルの推理マウント合戦が笑える。 |
No.7 | 4点 | 雪 | |
(2020/03/17 10:19登録) イギリス・グロースターシャー州の警察本部長、スタンディッシュ大佐の田舎屋敷グレーンジ荘で奇妙な事件が起きた。帰りの最終バスに間に合わず、やむなく泊まることになった教区の牧師プリムリーがポルターガイストに襲われ、騒ぎを聞きつけて集まった皆がふと窓の外を見ると、賓客として休暇をすごしていたマプラムの主教、ヒュー・ドノヴァンが寝巻き姿のままで、平らな屋根の上に立っていたのだ。危険な犯罪者がゲストハウスのほうへ向かっていくのを見たというのが、主教の言い分だった。 メイドの髪を引っ掴んだり手摺りを滑り降りたりとドノヴァンの奇行はその後も続き、やがて彼はスタンディッシュにしかるべき警官と面会させるよう要請してきた。主教によれば、この近辺で何かとんでもない犯罪がたくらまれているらしい。 押し切られた大佐は半信半疑のままロンドン警視庁に連絡を付けると同時に、一年間の遊学から帰国したドノヴァン・ジュニア、同じく三カ月ぶりにアメリカから帰ったギディオン・フェル博士と共にハドリー警部に面会するが、その直後大佐にかかってきた電話は、グレーンジ荘のゲストハウスに住む学者セプティマス・デッピングが、頭を撃ち抜かれて殺されたというものだった・・・ 『帽子収集狂事件』に続くフェル博士シリーズ第三作。1934年発表。ハウダニットよりもフーダニット、という作品で、それは密室風の現場に抜け穴が存在するという設定に表れています。もっと言えば悪ふざけ。コメディ風の発端に見られるように、趣向自体をおちょくってますね。ハヤカワ文庫版の解説で作家の霞流一氏が、〈「探偵がいっぱい」テーマ〉〈クイーンのロス名義「悲劇シリーズ」に挑戦〉と指摘していますが、多重解決と言うほどでもなし、そんなマジメな作品ではないと思います。 内容もコメディーから本格推理、最後はスリラー風の派手な銃撃からの決着と、キメラというか鵺的。同年発表のファース『盲目の理髪師』と重複を避けての路線変更でしょうか。この年の作者はH・M卿シリーズの開始に加え初の歴史小説の発表と、計5冊もの作品を刊行しており、ワリを食ったのが本作だと見た方がいいようです。 ただ中心の発想は、カーがその後二十年あまりこね回すことになる〈究極の犯人〉の原型。フェル博士では拙いと思ったのか作例はこれきりですが、更にエキセントリックなH・Mを用いて翌年の『一角獣殺人事件』(1935)『五つの箱の死』(1938)と二度三度試み[『読者よ欺かるるなかれ』(1939)もか?]、後年の歴史ミステリ『喉切り隊長』(1955)で一応の完成を見ています。解決には名探偵の存在が必要なれど、シリーズ探偵をもってしてもその効果は発揮し難いというもの。本書でもせっかくの奇想がやや唐突な結末に終わっています。 その結果出来上がったのは的を絞りきれなかった失敗作。フェル博士ものにも関わらず着地はスリラー。カーファンでも高い点は付けられません。 |
No.6 | 4点 | クリスティ再読 | |
(2019/06/06 08:31登録) さて評判の良くない作品である...実際読んでみると何か「ゆるい」ままズルズル続いて山がかからずに終わる作品だと思う。作品で何を面白いと読むのか、ポイントがはっきりしないんだよね。 一番面白い部分が、訪問者の正体に関する推理なんだけど、これが速攻で前半に推理されちゃうという構成のまずさはどうしたものだろう?最後の真犯人絞り込みの推理が内容的にこれに負けているんだよね。小説としても終始グダグダで読みどころがない。登場人物の一人が探偵作家(政界の事件専門の探偵らしい)でメタっぽいことを少しクスグるから、そっちを活かしたお笑いにするとか、手はあるんだろうけどねえ。 考えてみると、カーって結構な濫作家なんだよね。2つのペンネームを使って、1933年から41年まで、最低年3冊、標準年4冊新作書き下ろしを出しているわけだ。特に本作の1934年は「黒死荘」「白い僧院」本作「盲目の理髪師」それにロジャー・フェアベーン名義の歴史ミステリ「Devil Kinsmere」と5冊出している忙しい年である。カーター・ディクスンの当り年のワリを食ったようなものだろうか。 (よく考えたら名作「〇〇の〇」の元ネタだね。訪問者の正体とか、プチ銃撃戦のW構成とか) |
No.5 | 5点 | 弾十六 | |
(2018/10/30 20:37登録) JDC/CDファン評価★★★☆☆ フェル博士第2作 1934年出版 ハヤカワ文庫の新訳(2006年)で読了 (HPB1958年も参照) 三十数年前に読んだポケミスを引っ張り出して読んだところ、妹尾訳はセリフがめちゃくちゃ。どーにかならないか、と探したらハヤカワ文庫の新訳がありました。ハドリー退職?フェル博士ももーやらん!と弱音。JDCはシリーズ二作目でキャラをお払い箱にするつもりだったのでしょうか。 探偵作家のモーガンが良い味を出していてもーちょっとキャラ立ちさせれば… (JDCには無理な相談ですが) いつもの通り最初の犯罪は納得出来るのですが、2回目が苦しい感じです。全体的に小粒な印象ですが謎の解明部分はとても素晴らしい。ボタンフック(button hook)というものの存在を初めて知りました。(ググると素敵なのが見られます) さてフェルシリーズ恒例、歌のコーナーです。今回は原文が手に入らず翻訳をもとに調べました。(ページ数は妹尾訳のもの) {★R3/10/16}原文を入手したので若干追記。 p24 讃美歌の≪進め、キリストの兵士たちよ≫(妹尾訳では省略): "Onward, Christian Soldiers" (words: Sabine Baring-Gould 1865 / music: Arthur Sullivan 1871) p170 ≪陽気なしゃれ男≫を口ずさみながら(妹尾訳: 口を閉じて鼻で歌をうたい…): A Gay Caballeroでしょうか。1920年代後半に流行。エノケンも「洒落男」として歌っています。{★R3/10/16追記} 原文and humming, The Gay Caballero p173 私はバーリントン バーティ/朝起きるのは十時半/それから散歩に出かけるのさ、紳士気取りで… : Burlington Bertie from Bow (1915) p175 ≪オールド ジョン ウェズリー≫を歌ってくれよ!(妹尾訳: なつかしのジョン ウェスリーをうたえ!): John Wesleyはメソジストの創始者。メソジストは、当時の流行歌に歌詞をつけ、口語による平易な讃美歌を普及させた。{★R3/10/16追記}原文“Sing 'Old" John Wesley!” p181 「おれのはき古したコーデュロイ」と歌う声(妹尾訳: おれの着古しのコール天の服): 不明。{★R3/10/16追記}原文Somebody, in an unmusical baritone, was singing, "Me Old Corduroys” この歌詞で検索したが調べつかず。19世紀中盤に流行し、ミュージック・ホールでも流行ってたらしい伝承曲Corduroy(Roud 1219)と関係あり? 銃はS&W38口径、オートマティック拳銃(状況から考えるとコルトM1911?)、モーゼル拳銃(状況を考えると大型のC96ではなく、小型で隠し持つのに便利なHSc拳銃…と思ったら年代が合いません。ポケットピストルでしょうか?)が登場。 ところで最後のフェル博士の講釈がですます調なのには違和感ありでした。 |
No.4 | 5点 | 空 | |
(2014/11/30 14:12登録) カーを原書で初めて読みました。結果感じたのは、文章表現が凝りすぎているということ。「馬から落馬」的な不要な形容が多く、また、「家庭的シーンが進行中であった(was in progress)」(第9章)とか、「彼女は…肖像画に指を突き刺した(stabbed a finger)」(第11章)とか、原文に忠実に翻訳すれば、批判をあびそうな言い回しも見受けられます。さらに英和辞書に「格式語」なる註が附される単語が高頻度にて使用され…といったわけで、かなりうんざりさせられました。 内容的には、皆さんのご指摘どおり、探偵役(もどき)が多すぎるとは思いますが、それほど悪いとは思いませんでした。個人的にはカーを必ずしも不可能犯罪だけの作家とは思わない(『皇帝の嗅ぎ煙草入れ』等も不可能性を前面には出していません)ので、謎の訪問者の正体や犯人指摘の根拠には、普通に感心しました。ただし、タロット・カードを犯人があえて残した理由が不明なのはいただけません。 |
No.3 | 5点 | E-BANKER | |
(2013/12/05 21:55登録) 1934年発表の長編作品。 フェル博士ものとしては、「魔女の隠れ家」「帽子収集狂殺人事件」に続く三作目という位置付けとなる。 ~幽霊屋敷に宿泊中の主教が奇行を繰り返すという訴えがあった。主教は手摺りを滑り降りたり、メイドの髪の毛を掴んだり・・・。さらに彼はとてつもない犯罪がこれから起こると言っているらしい。警察はその言葉を信じていなかったが、主教の言葉を裏付けるように隣家の鍵のかかった部屋で射殺死体が発見される。そして死体の側には一枚の不吉なタロットカードが! 続出する不可解な謎にギデオン・フェル博士が挑む~ 確かに世評通り“中途半端”な作品だ。 紹介文を読んでると、いつもの怪奇趣味や密室をはじめとする不可能趣味など、カーらしいギミック溢れる作品ではないかと期待してしまうのだが、そのどれもが切れ味に欠けている。 冒頭からポルターガイストが出現するという突飛な謎が提示されるのだが、その真相は実に腰砕け。 密室っぽい現場は密室ではなく、足跡の謎もうやむやのまま進んでしまう・・・ 唯一、被害者側の行動にミステリーっぽい仕掛けが凝らされているのが救い。 これがフェル博士によりロジカルに解き明かされるあたりが、本作随一の見せ場かもしれない。 (これが何と序盤に終わってしまうのだが) フーダニットについては、一応意外性はあるのだが、人物の書き分けが十分でないせいか、読んでて今ひとつピンとこないというのが本音のところ。 (「被害者の代わりに犯人が夕食をとった」理由というのが面白いのだが・・・) まぁ駄作だろうなぁ。 巻末解説で解説者の霞流一氏が、同時期に発表されたA.バークリー「毒チョコ」を引き合いにして「探偵がいっぱい趣向」について書かれているが、それも成功しているとは言い難い。 評点は甘めに付けてもこんなものかな。 (「剣の八」とはタロットカードの絵柄のこと。トランプでいうならスペードの8ということかな?) |
No.2 | 4点 | kanamori | |
(2010/07/01 21:04登録) フェル博士ものの第3作。 幽霊が出る噂の館もので設定に新味がありませんし、代名詞の不可能犯罪ものでもありません。多くの素人探偵を登場させていますが、推理合戦というほどの見せ場もありませんので、微妙な出来です。 しいて言えば、意外な犯人もののフーダニットを狙った作品ですが、伏線不足の感は否めません。 |
No.1 | 3点 | Tetchy | |
(2008/11/25 22:27登録) カー作品の中でも、あまりいい評判を聞かない作品で、確かに正直何をやりたかったのか、よく解らない。 実は、フェル博士物でありながら、終わってみれば本格ミステリでないというのが最大の特徴だろうか。 しかも本作ではフェル博士以外にも、『不可能犯罪捜査課』のマーチ大佐というもう1人の名探偵も出演しつつ、さらにヒュー・ドノヴァン・シニアという元犯罪研究家、その息子の大学で犯罪学を専攻している刑事の卵、それに加え、スタンディッシュ大佐の出版社お抱えの推理小説作家ヘンリー・モーガンという、まさに探偵のオンパレードなのだ(とくにヘンリー・モーガンのイニシャルがH. Mというのがまた面白い)。 なのに、本格ではないという実に奇妙な作品。 結局やりたかったのは、「船頭多けりゃ、船、山へ登る」っていう趣向だったのかしら? |