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ミステリの祭典

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もの言えぬ証人
エルキュール・ポアロ

作家 アガサ・クリスティー
出版日1957年01月
平均点5.30点
書評数10人

No.10 5点 nukkam
(2024/07/02 11:52登録)
(ネタバレなしです) 1937年発表のエルキュール・ポアロシリーズ第14作の本格派推理小説です。このシリーズは長編33作が書かれましたがクリスティ再読さんのご講評で紹介されているようにヘイスティングス大尉の登場は本書以降は最終作の「カーテン」(1975年)までありません。お馬鹿なワトソン役を使い続けるのが難しくなってきたのかもしれません。本書の次にはあの「ナイルに死す」(1937年)が発表されましたが、対照的と言っていいほど本書は地味です。物議を醸す遺言書に対して利害関係者の反応の直接描写がないし、死亡事件はなかなか他殺と確定しないし(医者は病死と判断)、ポアロが容疑者たちと会話するのはやっと中盤からととにかく盛り上がりません。推理も心理分析がほとんどで説得力が強いとは言えません。多くの方がご指摘されているように第18章で過去作品の犯人名をネタバレしていたのには驚きました(作品名は明かしていませんけど)。その衝撃だけが記憶に残りそうな作品です。

No.9 5点 レッドキング
(2021/02/21 21:28登録)
ヴィクトリア朝の生き残りの様な狷介だが情誼あふれる大富豪老女。莫大な遺産を巡る遺族達・・小賢しい甥、傲慢な姪、いじけた姪、温柔な外国人医師の婿、無垢で鈍重なメイド・・。事故死と判断された老女の怪死と書き換えられた遺言。配達の遅れたポアロへの事件解明依頼の手紙。最小限の容疑者で老女殺害フーダニットを引っ張るが、ちとズッコケるハウダニット小粒ネタ・・ヒモと燐光って・・のオマケが付く。ポワロのポロリ「スタイルズ荘」「アクロイド」等ネタバレおまけも付く。老女の友人の毒舌老婆の諧謔が実にいい。「当たり前の事でしょ。誰か死んだら必ずゴタゴタがあるに決まってますよ。死人が棺桶の中で冷え切らないうちに、生き残った連中はお互いに爪を立てて財産争いさ」 ※ところで、あの犬、ヘイスティングスに貰われるんだね。

てことで、アガサ・クリスティー30年代の長編ミステリ全17作の採点修了したので
私的「30年代アガサ・クリスティー」ベスト5(6)

  第一位:「ポワロのクリスマス」
  第二位:「シタフォードの秘密」
  第三位:「メソポタミヤの殺人」
  第四位:「そして誰もいなくなった」
  第五位:「死との約束」
  同五位:「ABC殺人事件」

No.8 6点 E-BANKER
(2021/01/28 22:39登録)
だいぶ少なくなってきたポワロもの未読作品のひとつがコレ。
著名作の間に埋もれた佳作なのか、はたまた埋もれるべくして埋もれた駄作なのか?
原題は“Dumb Witness”(そのままだね) 1937年の発表。

~ポワロは巨額の財産を持つ老婦人エミリイから、命の危険を訴える手紙を受け取った。だが、それは一介の付添い婦に全財産を残すという問題のある遺言状を残して、彼女が死んだ二か月後のことだった。ポワロとヘイスティングズは、死者からの依頼に応えるとともに、事件に絡む愛すべきテリア犬「ボブ」の濡れ衣も晴らす~

これ、設定だけを取り上げると“いかにもクリスティ”のように見える。
「悪意のある遺言状」や「五指に余る疑わし気な親族=容疑者たち」。「容疑者ひとりひとりの証言の齟齬、心理を読み、真相に迫るポワロ」などなど、数多の彼女の佳作と比べても遜色ない“枠組み”だと思った。
最終的にはミスリードが見事に嵌まり、斜め上から抉るような真相が語られるに違いない・・・
その筈だった。

実際は・・・やや微妙か。
他の方も書かれてますが、特に中盤の展開がモヤモヤしていて、すっきりしない。確かに伏線は張られてるし、ポワロの推理にも一定のキレはある。ただ、どうもね・・・
序盤での不穏な空気間から醸し出される私の期待感からすれば、この真相はちょっと龍頭蛇尾に思えた。そういう意味では、本作が「埋もれてる」のもむべなるかな、ということなんだろう。

でも、日本国内でこの設定(上に書いた「悪意のある遺言状」など)なら横溝正史辺りが思い浮かぶけど、それならおどろおどろしい、血みどろの惨劇なんていう作風になっちゃうんだろうな。
これがクリスティにかかれば、英国の伝統的な田園風景のなかで、牧歌的とさえ言えそうな作風になるんだもんね・・・やっぱり違うよなぁと思った次第。
ちょっと辛口に書いてしまったけど、別に駄作というわけではない。水準給の面白さは十分備えてるし、何より「ボブ」が愛らしい。犬の言葉が理解できたら、こんな感じなのかな?

No.7 6点 虫暮部
(2020/10/27 14:53登録)
 ボブがなんともチャーミング。“彼”と訳されているが原文も“ he ”なのだろうか。とはいえ犬が“変な音をたてて失礼。しかしこれが僕の仕事なんだよ”とか話すわけないのであって、それはみなヘイスティングズおいちゃんの脳内変換であって、ならば真にチャーミングなのはこっちか。依頼者の“何も言ってない手紙”も可笑しい。

No.6 6点 青い車
(2016/07/22 17:53登録)
 『ポアロのクリスマス』や『葬儀を終えて』『パディントン発4時50分』のような、クリスティーに数多い一族内部の描写が目立つ長篇です。ただ、内容は長さの割に淡白で、最終的な犯人にも驚きはありません。やはり問題なのは巻末の解説にもある「むつかしい説明を要する毒」です。当然それがあっては素直になるほど!とは感心できず、へえ、そうなんだ、で終わってしまいます。霜月蒼氏は高く評価していたので、意外と大人な読者には深みがわかるのかも。近いうちに丁寧に読み返したいです。

No.5 4点 クリスティ再読
(2015/12/27 11:27登録)
企画物の「カーテン」を別にすると、ヘイスティングス大尉の最後の登場作品になる。ポアロという探偵は大概「なぜ事件に介入するか」がちゃんと描かれているケースが多いんだが、心理的な理由はともかく、これは法的な介入根拠が全然ない事件のために、関係者に話を聞きにいく口実にいろいろと苦労している...でこういう場面が客観的に見ると「疑惑をネタに一稼ぎしたい小悪党」っぽいんだよね。だからヘイスティングスの今更の登場も、こういう印象を弱めるための苦肉の策じゃあなかろうか。
まあ「上から目線の名探偵様」なんて厨二もいいとこな設定だから、介入根拠に神経質なのは評者はいいことだと思う。それで言えば後年「マギンティ夫人は死んだ」みたいなハードボイルド風味とかあるわけで、いいじゃないか、少々いかがわしい感じでもね...と思わなくもないんだけど。
で二人連れでぐるぐる関係者の周りを回る小説なので、小説的に全然ヤマがかからないのが困ったものだ。まったりとテンション低く二人の漫才を楽しむくらいの気持ちで読んだらいいのかもしれないが...ミステリとしても手がかりらしい手がかりもなくて「別にこの人が犯人でもいいけどさ」という感じの真相。タイトルから期待される犬のボブくんは大した証人でもなく「犯人逮捕に大殊勲」みたいなお楽しみがあるわけでもない。また中盤で過去作品の犯人バラしてるから本作の読書優先順位は遅めで、「ポアロ物なんて大概読んじゃったよ~」なんて人だけが読めばいいくらいの作品。
あと後光の正体...だけど、どう考えてもムリだと思う。光るのは酸化されやすい猛毒の白リンだけ(マッチは光らない)だし、呼気に出るのは微量だしね。最近では人魂の正体=リンでさえ怪しいみたいですね。

No.4 6点 ミステリ初心者
(2012/08/16 11:08登録)
 かなり昔に読んだ作品のためか、この作者の作品にしては、内容を思い出すのに苦労しました。

 オリジナリティーはあると思います。

No.3 5点 りゅう
(2011/03/19 08:37登録)
 題名から、被害者の愛犬ボブが重要な役割を演じるものと思っていましたが、そうでもありませんでした。読者が合理的に犯人を推理できるような作品になっていないのが残念です。殺人に係るトリックには、ある分野の特殊知識が使われています。ポアロの犯人特定手法も、容疑者の性格分析などによるものであり、必然性が感じられません。犯人は、クリスティーの一般的傾向から推測される人物ではなかったのが意外でした。最後にポアロが犯人に対して取った措置は、これで良かったのでしょうか。

No.2 5点 seiryuu
(2011/01/16 10:30登録)
ポアロが勘で事件にしてしまったり、ポアロの想像だけで事件解決したりと
なんだか変な感じのする話でした。
クリスティーって犬好きなんだなと思いました。
ほかの作品の犯人達が堂々と書いてあったのには驚きました。

No.1 5点
(2009/10/04 12:33登録)
もの言えぬ証人とは、被害者の老婦人の愛犬ボブのことです。とは言っても、ボブがドイルの『銀星号事件』のような意味で重要な証人になるわけではないので、看板に偽りありという気もします。
1937年発表の本作、ヘイスティングズの一人称形式ものとしては、『カーテン』を除くと長編では最後の作品のはずですが、最初の50ページぐらいは三人称形式という異例の構成をとっています。作者もワトソン役による手記形式の限界を感じていたのかもしれません。
三人称形式部分による登場人物紹介の後、ポアロが2ヶ月以上も前に書かれた事件依頼の手紙を受け取るという謎から始まり、捉えどころのない事件の全貌を明らかにしていく手際はさすがですが、結末の意外性はクリスティーにしてはそれほどと思えませんでした。「犯人の意外性パターン」として分類しにくい犯人像のせいか、完全にだまされたという人もいるようですが。

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