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ミステリの祭典

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黄土館の殺人
館四重奏

作家 阿津川辰海
出版日2024年02月
平均点6.11点
書評数9人

No.9 6点 ボナンザ
(2024/11/07 21:02登録)
このシリーズらしい大トリックと全体の構成の仕掛けが楽しめる良作。
後半、あそこまで行けば大抵の人には犯人分かると思うが、かなりのページ数引っ張るのはしつこい(笑)。

No.8 7点 Arca
(2024/10/13 03:44登録)
ページ数的にはコンパクトだが、内容はややとっ散らかり気味な紅蓮館、ミステリとしては大幅な進化を遂げながらも、詰め込みすぎな感も強かった蒼海館、それぞれのいいとこどりをしたような作品。

真犯人の予想がつきやすいにもかかわらず、作中では犯人の指摘がかなりひっぱられる。この、読者側の視点との噛み合わなさはかなり気になった。
しかし、豪勢な物理トリックと高いリーダビリティを両立した、よくまとまった1作。

蒼海館と比べてどっちがよかったかは人によるだろうが、私は黄土館の方が面白く感じた。着実にステップアップを続ける館四重奏シリーズのラストに期待。

No.7 2点 hsiyehmeipo
(2024/09/19 08:12登録)
誤字、誤植が多すぎる。五ヶ所くらい気になる箇所があった。校正してるのかな?
特に三女殺しの際の時系列や足跡の向きとか、誤植なのかそうじゃないとしても誤解を招く表現。

ミステリーとしても、三部構成という構成で犯人はわかってしまう。解決時に時系列などで驚かしてくれることを期待したが特に目立ったものはなかった。

トリックも以下が気になって全然入ってこなかった。
・死体を高所から糸で運搬したら別に塔が回転しなくても重力で落ちていくのでは…?
・塔とオブジェにしろ塔と塔にしろ、線を張ったとしてもあの距離でしかも死体をぶら下げたら絶対にずり落ちてくると思う。特に描写がないだけで引っかける場所があったのかもしれないけど。
・塔が回転する際に地震と間違えるほど揺れるのに他の人が全然気づかないというのも想像しづらい。
・信号弾の仕組みはよくわからないけど信号弾の音で発砲音を書き消したのに信号弾を窓際にたたせそこで見上げた長男を射殺したというのは、光ったあとに音が聞こえる描写があるにしても距離的に音ずれも1秒もなさそう。
・地震が起きたあとに皿が割れてたら普通は地震で割れたと思うとおもう。
・長女が巨人の絵を描いた時塔の向きは変わっていたとあったが普通窓の向きが変わってたら気づきそう。いくら霧で見えないとは言え…あと光源の話で太陽トランプが出てきていつの話をしてるのかわかりづらかった。
・自分を交換殺人の対象にすることで監視させアリバイを作るとのことなのに犯行時間だけは完全にフリーなのがご都合主義過ぎる。

話の流れ的には面白いのに誤字や物理トリックで気になる点が多すぎて、モヤモヤが残る作品だった。

No.6 7点 人並由真
(2024/07/20 17:14登録)
(ネタバレなし)
 レビューを書くため「黄土」のキーワードで、本サイト内の本項を検索したら、出てきたのは本作と生島治郎の『黄土の奔流』のみ。なんかエエなあ(笑)。

 ちなみに「館四重奏」シリーズは、「カラーの館」シリーズでもあると思うが、今回は劇中の正式名称「荒土館」が一向に「黄土館」の別称に転じないのに軽く戸惑った(特にネタバレの類とかには関係ない)。前二作もこんなんだっけ?

 第一部から第二部へのあまりにも鮮やかな転調のくだりまでで、ほぼお腹いっぱいになってしまい(笑)、そのあとの大部のページは良くも悪くも「普通の館もの」の気分で読み進めた。

 先行のレビューを拝見すると、真犯人の予想はついた方も少なくないようだが、私には隙を突かれた思いでかなり意外であった(汗・笑・涙)。
 なるほどあとから考えれば(中略)からも確かにそうなるだろうし、伏線もしつこく張ってあったので、これは気づかないこっちの方が悪い(大泣)。大部の一冊の情報量の多さに、幻惑された面もある。そういう意味でも、作者の作りが見事だったのであろう。

 とはいえスナオに楽しめたかというと、満腹感が強過ぎていささか消化不良を起こした面もある。その点では、作者が<この作品でどんな新規のミステリをやりたいかのテーゼ>が当初から明確だったシリーズ前二冊の方が、受け止めやすい部分もある。

 いや大トリックの強烈さをふくめて、よくできた作品なのは間違いないのだが、前作ではほぼ同じページ数ながらまったく苦にならなかった本の厚さが、今回はちょっとだけタルかったんだよなあ。ゼータクな物言いなのは百も承知しているが(汗)。

No.5 7点 虫暮部
(2024/05/24 14:06登録)
 実のところ何となく判ってしまう。内と外に舞台が分かれる→じゃあ全体の構造としてはこう? 被害者が多過ぎて生き残りがこれしかいない→じゃあ犯人はこのポジション?
 だから、楽しんだけど、それは騙されたとか驚いたとかではなく、良く出来ているなぁと言う “感心” に近い。
 作者と対峙するのではなく、そうやって “共有” する読書も悪くはないが、上手さが仇になっているとも言える。

 そしてツッコミ。三人姉妹の二番目、月代。その漢字は “さかやき” だ。

No.4 7点 makomako
(2024/03/17 08:11登録)
大胆な殺人方法と意表を突くトリックを名探偵が解決していくといった、本格推理物は常に過去のトリックではない新しいものを考え出す必要があるので、半島に意表を突くような話を作ることが困難になっていると思われます。
そういった高いハードルを越えるためには過去のトリックの複合化、パロディー化、一部SFの要素を入れる、昔の時代の話とするなど、作者は常に工夫を凝らしていると思いますが、これほど大胆な殺人方法を提示して合理的に解決に結びつけるとは。ちょっとびっくりです。
凄い話です。
作者は親切にも込み合った話となってくると、まとめを読者に示してくれます。
まさに数学の試験問題の提示のようです。
解決も実に精緻に検討されたうえで(一人の探偵は犯人に憑依するようにして解決へ導くのですが)示されます。
こういった展開は本格物が好きな私にとっては実に面白いのですが、作者の頭についていけないところがあって、全部がきっちりと把握できたとは言えません。最後は試験の解答を教えて頂いたような感じが伴いました。
でもこの作者は目が離せません。
新作が出たらきっと買ってしまいます。

No.3 5点 mozart
(2024/03/13 08:24登録)
(超)序盤から(分かりやすく?)真犯人の正体が仄めかされていたこととかについては特段ネガティブな感想に繋がらなかったけれど、やはり一連の犯行に偶然の要素が関わっていたことに不満が残りました。葛城も「偶然さえねじ伏せ」る「膂力」のない「凡才の犯罪」と表現しているし(著者の言い訳?)。
今回は「地火水風」のうちの「地」の災害つまり「地震」がテーマになっていて何より偶発的・突発的に起きる自然現象であるため意図的な設定だったのかも知れませんが。

キャラについても飛鳥井はともかく葛城も友人である田所に対して「万年助手」であると言い放つとかエキセントリックな探偵と言うより単にイヤな奴になっていてそのあたりもちょっと残念だったかな……。

No.2 7点 HORNET
(2024/02/25 19:50登録)
 高名な芸術家・土塔雷蔵の滞在する「荒土館」に招かれた名探偵・葛城輝義と助手・田所信哉。ところが到着した途端に地震による土砂崩れが起き、葛城だけが土砂のこちら側に取り残されてしまった。クローズド・サークルとなってしまった荒土館では何が起きているのか?心配する葛城のいる側でも、殺人を匂わせる不穏な動きが起きていき―

 シリーズを通して館、クローズド・サークルを貫く姿勢は大変うれしく、作者の本格ミステリ愛を強く感じる。
 今回は、葛城と田所が分かれてしまうという設定で(有栖川有巣の某名作ををちょっと思い出した)、タイトルにある事件のメインは田所が残された荒土館になる。一方冒頭では、外側に残された葛城の方で未遂事件が起きるのだが、あくまでその時は「前段エピソード」のような印象。だったが…最終的にはそちら側のストーリーも真相の伏線として巧みに機能しており、改めてこの作家の腕を感じさせる見事な組み立てだった。
 ただ、事件の「真犯人」は、物語の構成上でほぼほぼ想像ができてしまうのではないかなぁ。もちろん、「どうやって?」「なぜ?」という謎を見破らなければただの当て推量なのだが…。「どうやって?」の部分は複雑なトリックや本作でいえば「偶然」も多々絡んできているのでちょっと推理は無理っぽい。そして「なぜ?」の部分は、これこそわかってしまう感じだった(「双○」というワードをさらっと流されて、反応しないミステリファンはいないって)

No.1 7点 nukkam
(2024/02/25 12:52登録)
(ネタバレなしです) 2024年発表の館四重奏第3作の本格派推理小説で講談社タイガ版で600ページ近い大作です。過去の2作品も王道的な謎解き路線を維持しながら個性を発揮していましたが本書も同様でした。プロローグとエピローグの間に三部の物語が挿入されています。まず第一部が犯罪小説スタイルなのに驚かされます。地震による崖崩れでクローズドサークル状態になった荒土館の外側で殺人を犯そうとする語り手と名探偵の葛城輝義の対決を描いています。それにしても過去2作の色々な経験で人間的に成長したのかもしれませんが葛城ってこんな陽気なキャラクターでしたっけ?そして全体の1/2を占める第2部が荒土館を舞台にした連続殺人事件の謎解きです。葛城不在状態で謎解きに挑むのは助手役の田所信哉ですが、何と「紅蓮館の殺人」(2019年)でのかつての名探偵が再登場しています(プロローグにも顔を出してますが)。いったい誰がどのように謎を解き明かすのかという謎も含めて充実の謎解きが第3部で用意されています。葛城が「こんなにも偶然に彩られた事件を僕は知らない。(中略)これは凡才の犯罪だったんですよ」と犯人に厳しいコメントしていますが、ある偶然を利用して大胆なトリックを即興で発想していて一概に凡才とも言えないように思います(凡才の私の意見ですけど)。偶然がなかったらこの犯罪はどうなったかを想像してみるのも一興かもしれません。

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