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ミステリの祭典

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黄土館の殺人
館四重奏

作家 阿津川辰海
出版日2024年02月
平均点6.50点
書評数4人

No.4 7点 makomako
(2024/03/17 08:11登録)
大胆な殺人方法と意表を突くトリックを名探偵が解決していくといった、本格推理物は常に過去のトリックではない新しいものを考え出す必要があるので、半島に意表を突くような話を作ることが困難になっていると思われます。
そういった高いハードルを越えるためには過去のトリックの複合化、パロディー化、一部SFの要素を入れる、昔の時代の話とするなど、作者は常に工夫を凝らしていると思いますが、これほど大胆な殺人方法を提示して合理的に解決に結びつけるとは。ちょっとびっくりです。
凄い話です。
作者は親切にも込み合った話となってくると、まとめを読者に示してくれます。
まさに数学の試験問題の提示のようです。
解決も実に精緻に検討されたうえで(一人の探偵は犯人に憑依するようにして解決へ導くのですが)示されます。
こういった展開は本格物が好きな私にとっては実に面白いのですが、作者の頭についていけないところがあって、全部がきっちりと把握できたとは言えません。最後は試験の解答を教えて頂いたような感じが伴いました。
でもこの作者は目が離せません。
新作が出たらきっと買ってしまいます。

No.3 5点 mozart
(2024/03/13 08:24登録)
(超)序盤から(分かりやすく?)真犯人の正体が仄めかされていたこととかについては特段ネガティブな感想に繋がらなかったけれど、やはり一連の犯行に偶然の要素が関わっていたことに不満が残りました。葛城も「偶然さえねじ伏せ」る「膂力」のない「凡才の犯罪」と表現しているし(著者の言い訳?)。
今回は「地火水風」のうちの「地」の災害つまり「地震」がテーマになっていて何より偶発的・突発的に起きる自然現象であるため意図的な設定だったのかも知れませんが。

キャラについても飛鳥井はともかく葛城も友人である田所に対して「万年助手」であると言い放つとかエキセントリックな探偵と言うより単にイヤな奴になっていてそのあたりもちょっと残念だったかな……。

No.2 7点 HORNET
(2024/02/25 19:50登録)
 高名な芸術家・土塔雷蔵の滞在する「荒土館」に招かれた名探偵・葛城輝義と助手・田所信哉。ところが到着した途端に地震による土砂崩れが起き、葛城だけが土砂のこちら側に取り残されてしまった。クローズド・サークルとなってしまった荒土館では何が起きているのか?心配する葛城のいる側でも、殺人を匂わせる不穏な動きが起きていき―

 シリーズを通して館、クローズド・サークルを貫く姿勢は大変うれしく、作者の本格ミステリ愛を強く感じる。
 今回は、葛城と田所が分かれてしまうという設定で(有栖川有巣の某名作ををちょっと思い出した)、タイトルにある事件のメインは田所が残された荒土館になる。一方冒頭では、外側に残された葛城の方で未遂事件が起きるのだが、あくまでその時は「前段エピソード」のような印象。だったが…最終的にはそちら側のストーリーも真相の伏線として巧みに機能しており、改めてこの作家の腕を感じさせる見事な組み立てだった。
 ただ、事件の「真犯人」は、物語の構成上でほぼほぼ想像ができてしまうのではないかなぁ。もちろん、「どうやって?」「なぜ?」という謎を見破らなければただの当て推量なのだが…。「どうやって?」の部分は複雑なトリックや本作でいえば「偶然」も多々絡んできているのでちょっと推理は無理っぽい。そして「なぜ?」の部分は、これこそわかってしまう感じだった(「双○」というワードをさらっと流されて、反応しないミステリファンはいないって)

No.1 7点 nukkam
(2024/02/25 12:52登録)
(ネタバレなしです) 2024年発表の館四重奏第3作の本格派推理小説で講談社タイガ版で600ページ近い大作です。過去の2作品も王道的な謎解き路線を維持しながら個性を発揮していましたが本書も同様でした。プロローグとエピローグの間に三部の物語が挿入されています。まず第一部が犯罪小説スタイルなのに驚かされます。地震による崖崩れでクローズドサークル状態になった荒土館の外側で殺人を犯そうとする語り手と名探偵の葛城輝義の対決を描いています。それにしても過去2作の色々な経験で人間的に成長したのかもしれませんが葛城ってこんな陽気なキャラクターでしたっけ?そして全体の1/2を占める第2部が荒土館を舞台にした連続殺人事件の謎解きです。葛城不在状態で謎解きに挑むのは助手役の田所信哉ですが、何と「紅蓮館の殺人」(2019年)でのかつての名探偵が再登場しています(プロローグにも顔を出してますが)。いったい誰がどのように謎を解き明かすのかという謎も含めて充実の謎解きが第3部で用意されています。葛城が「こんなにも偶然に彩られた事件を僕は知らない。(中略)これは凡才の犯罪だったんですよ」と犯人に厳しいコメントしていますが、ある偶然を利用して大胆なトリックを即興で発想していて一概に凡才とも言えないように思います(凡才の私の意見ですけど)。偶然がなかったらこの犯罪はどうなったかを想像してみるのも一興かもしれません。

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