夜と霧の誘拐 矢吹駆シリーズ |
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作家 | 笠井潔 |
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出版日 | 2025年04月 |
平均点 | 8.00点 |
書評数 | 1人 |
No.1 | 8点 | ことは | |
(2025/05/05 11:40登録) 期待以上に面白かった。「哲学者の密室」以降の大作の中では、ミステリ的構成は最も充実していると思う。 序盤にタイトル通りに誘拐が起きるのだが、並行して別の事件が語られる。この2つの事件がどう繋がるのか、興味をひかせながら、身代金の受け渡しがサスペンスフルに進行していく。すると、身代金の受け渡しの終盤に、意外な形で事件がつながる。いや、ここからなかなかよい。 さらに、本書の中盤にカケルが提示する構図が、かなり魅力的。途中で気づく人も多いと思うが、私は気づけなかったので、「おぉ、なるほど」と胸の中で声を出してしまった。その上、本書の終盤では、それを踏まえて、何回も構図を変えて見せる。これは力作。 分刻みで事件の進行を検討するので、ここはかなり気合が必要だが、それに見合う読み応えがある。 思想部分について、本作では犯人の動機の拠り所となるものであるが、それ以上に関わっていなくて、判りやすく整理されていて、読みやすい。構成的には、序章、中盤、終章の三箇所で、「バイバイ、エンジェル」のテロリズムの問題を引き継ぐ形で、第二次大戦後の政治的分析が行われるが、それ以外はあまりページを割かれず、事件の進行を妨げない。シリーズの中でもかなり読みやすいと思う ただ、本シリーズは10作で完結とのことだが、イリイチとの対決はあまり進行した感じはなく、この対決がシリーズできれいに完結するのか、すこし心配になった。 |