| 夜と霧の誘拐 矢吹駆シリーズ |
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| 作家 | 笠井潔 |
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| 出版日 | 2025年04月 |
| 平均点 | 7.00点 |
| 書評数 | 3人 |
| No.3 | 7点 | kanamori | |
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(2026/01/17 11:16登録) 矢吹駆シリーズ。また「哲学者の密室」以降は鈍器本シリーズともいわれているらしい。この最新作は650ぺージほどで比較的おとなしめ、片手で持てるので鈍器としての使い勝手もいい 感覚的に第一作から半世紀近く過ぎているかと思っていましたが、作中に「三年前のラルース家の事件」という記述が出てきて、頭がクラクラしました。読み手側の時間の流れる速度と、作中の時間のギャップの大きさが凄いですね。 「キングの身代金」オマージュな誘拐事件から始まり、ナディア主役の身代金受け渡しを巡るスリリングな展開、並行して起きる別個の殺人事件と、畳み掛ける前半の展開はリーダビリテイがあります。 途中で一度、目次に戻って各章題を眺めていたら、中盤でカケルが提示する「意外な構図」が閃いて来ました。まあ私の場合は本質直観ではなく「本質山勘」なのですが、 エド・マクベインのアイデアを謎解きミステリに取り入れて、このような良質なパズラーを書き上げた点は素直に称賛したい。 あと1つ、翻訳ミステリがらみのウンチクを披露しておくと、ナディアがマルティン・ベック・シリーズを読んでいることが判る、年代的にも整合性はある。 |
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| No.2 | 6点 | nukkam | |
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(2025/07/09 05:45登録) (ネタバレなしです) 矢吹駆シリーズ第8作となる本格派推理小説で、雑誌連載は2010年でしたが前作の「煉獄の時」(2022年)と同じように改訂作業に時間をたっぷりかけ、単行本出版は2025年になりました。「哲学者の密室」(1992年)のダッソー家が再登場し、誘拐事件と殺人事件の2つが絡み合います(作中で「哲学者の密室」がネタバレされていますのでまだ未読の読者はご注意下さい)。前半のカケルは謎解きよりも哲学議論の方で目立っていますが、それでも中盤でのアドバイスで謎解きが大きく前進します。7つの疑問点を列挙しているところは「バイバイ、エンジェル」(1979年)を連想させます。哲学議論は私には難解過ぎですがシリーズ作品中では控え目な方で、読みやすいということはさんのご講評に賛同します。といっても大作なので読書時間はそれなりに求められますが。某米国作家の1930年代の本格派推理小説をもっと複雑で緻密にしたような真相が印象的です。最後の数行の哀愁漂う演出も巧みで、こちらについてはクリフォード・ウィッティングの「知られたくなかった男」(1939年)が頭に浮かびました。 |
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| No.1 | 8点 | ことは | |
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(2025/05/05 11:40登録) 期待以上に面白かった。「哲学者の密室」以降の大作の中では、ミステリ的構成は最も充実していると思う。 序盤にタイトル通りに誘拐が起きるのだが、並行して別の事件が語られる。この2つの事件がどう繋がるのか、興味をひかせながら、身代金の受け渡しがサスペンスフルに進行していく。すると、身代金の受け渡しの終盤に、意外な形で事件がつながる。いや、ここからなかなかよい。 さらに、本書の中盤にカケルが提示する構図が、かなり魅力的。途中で気づく人も多いと思うが、私は気づけなかったので、「おぉ、なるほど」と胸の中で声を出してしまった。その上、本書の終盤では、それを踏まえて、何回も構図を変えて見せる。これは力作。 分刻みで事件の進行を検討するので、ここはかなり気合が必要だが、それに見合う読み応えがある。 思想部分について、本作では犯人の動機の拠り所となるものであるが、それ以上に関わっていなくて、判りやすく整理されていて、読みやすい。構成的には、序章、中盤、終章の三箇所で、「バイバイ、エンジェル」のテロリズムの問題を引き継ぐ形で、第二次大戦後の政治的分析が行われるが、それ以外はあまりページを割かれず、事件の進行を妨げない。シリーズの中でもかなり読みやすいと思う ただ、本シリーズは10作で完結とのことだが、イリイチとの対決はあまり進行した感じはなく、この対決がシリーズできれいに完結するのか、すこし心配になった。 |
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