ことはさんの登録情報 | |
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平均点:6.22点 | 書評数:279件 |
No.279 | 3点 | ビール職人の秘密と推理 エリー・アレグザンダー |
(2025/05/11 23:28登録) ひとつ前に読んだ作品が、分刻みに事件の検討をしていてパワーが必要だったので、軽い本作を読んでみた。 シリーズ3作目だが、1,2作と同様、ミステリは風味づけ。(1,2作と同様なのは、期待通りということで、いいことだけとね) でも、まあ、するすると読めてしまう。これはきっと、主人公の抱える問題、「仕事の問題(小さなビール工房のやりくり)」、「家族の問題(離婚した元夫と息子との関係)」、「出生の問題(自分は何者?)」、「殺人事件(ちょっと聞きまわるだけだが)」の出し入れがうまいからなのだろう。案外、テクニカルに作られているのかもしれない。 でもミステリ部は、なんの工夫もなく、ダメダメ。ミステリ部を期待して読んだわけではないので、それでいいのだけれど、本サイトでの採点は、ミステリとして1点、お仕事小説として5点で、間をとって3点にしましょう。 |
No.278 | 8点 | 夜と霧の誘拐 笠井潔 |
(2025/05/05 11:40登録) 期待以上に面白かった。「哲学者の密室」以降の大作の中では、ミステリ的構成は最も充実していると思う。 序盤にタイトル通りに誘拐が起きるのだが、並行して別の事件が語られる。この2つの事件がどう繋がるのか、興味をひかせながら、身代金の受け渡しがサスペンスフルに進行していく。すると、身代金の受け渡しの終盤に、意外な形で事件がつながる。いや、ここからなかなかよい。 さらに、本書の中盤にカケルが提示する構図が、かなり魅力的。途中で気づく人も多いと思うが、私は気づけなかったので、「おぉ、なるほど」と胸の中で声を出してしまった。その上、本書の終盤では、それを踏まえて、何回も構図を変えて見せる。これは力作。 分刻みで事件の進行を検討するので、ここはかなり気合が必要だが、それに見合う読み応えがある。 思想部分について、本作では犯人の動機の拠り所となるものであるが、それ以上に関わっていなくて、判りやすく整理されていて、読みやすい。構成的には、序章、中盤、終章の三箇所で、「バイバイ、エンジェル」のテロリズムの問題を引き継ぐ形で、第二次大戦後の政治的分析が行われるが、それ以外はあまりページを割かれず、事件の進行を妨げない。シリーズの中でもかなり読みやすいと思う ただ、本シリーズは10作で完結とのことだが、イリイチとの対決はあまり進行した感じはなく、この対決がシリーズできれいに完結するのか、すこし心配になった。 |
No.277 | 4点 | 黒き舞楽 泡坂妻夫 |
(2025/04/14 01:18登録) 亜愛一郎シリーズの次にでも本作を手にとった読者がいたら、ものすごく戸惑うだろう。ミステリではなく恋愛小説だ。ミステリらしいフックや展開が少しはあるが、最終的にミステリとしてまとまるわけではないので、それらはミステリに擬態するためのものに感じた。 恋愛小説を全然読まないわけではないが、本作は、登場人物の行動に理解が及ばず、あまり楽しめなかった。共感できないだけでなく、なにを考えているかわからない。これはたぶん、相性なのだろう。 たまたま本作を読む直後、日本文化のTV特集番組を見たが、そこに本作を読み解く手がかりがあった。本作では浄瑠璃が絡んでくるが、その番組では能について取り上げていて、日本の文化には「余白」の文化があると説明していた。表情が変わらない能のお面から、鑑賞者が様々な表情を読み取ることで作品が完成する。「余白」を埋めるのは鑑賞者なのだ。 本作は、極めて「余白」が大きい作だ。様々な葛藤があったであろう展開を、ほんの少しのエピソードだけですませているし、各エピソードの描写も多弁ではない。そこで登場人物がなにを感じたか、それを埋める作業は読者に委ねられているようだが、私はどうもよい読者ではなかった。 |
No.276 | 5点 | 不自然な死体 P・D・ジェイムズ |
(2025/04/14 01:01登録) 再読。これもまったくおぼえていなかった。おぼえていなくて言うのもなんだが、昔に読んだジェイムズ作は、事件関係者の視点がおおいイメージだったので、ほとんどダルグリッシュ視点だったのには驚いた。 冒頭の「手を切断された死体」という描写や、それに続く「関係者が集まったところに事件発見の知らせが入る」導入など、全編ミステリらしい展開になっていて、ダルグリッシュ視点ということもあり、ジェイムズ作では読みやすい。 だが、展開はミステリらしくても、ミステリとしては、内容にいくつか残念な点がある。なかなかフックが効いている「手を切断された死体」について、切断の理由を考察することは少ないし、全編でダルグリッシュの推理はほぼ語られないし、解決の仕方もミステリ的興趣はない。(ミステリ的興趣としては、ダルグリッシュが潜在意識でなにか気づいたと感じる場面がよいかな。後から考えると、あの症状に対する言及とわかる。手を切断した理由にも、説得力があるのはよいところ) 読みどころは、サフォーク地方の風景描写と、登場人物の人間模様だと感じた。 風景描写はイメージ喚起力があり、1、2作目より断然によく、夜中に墓を暴く場面は印象的だ。恋愛小説家とその姪が、自宅で会話するシーンも味わい深く、3作目の本作から、ジェイムズらしさがでてきたと思う。ジェイムズの定番である「印象的な舞台設定(本作ではサフォーク地方の風景描写)」に加えて、これも定番の「終盤のアクションシーン」が本作にあることも、その理由のひとつだろう。 とはいえ、アクションの描写はいまひとつで、現場の状況、家の配置、登場人物の動線など、読んでいていまひとつわからなかった。前振りがないので、「そんなことが起こる場所なの?」という疑問も感じて、アクションにはあまりのれなかった。 ラストに描かれる犯人の造形は、なかなか強烈だが、全体的には、良いところと残念なところがまだらにあるという読み心地で、後の作を読んだ後では、習作感をおおいに感じた。 1、2作目から引っ張ってきたダルグリッシュ自身の恋愛については、本作でも相変わらず「これ必要だった?」と思うほどで、1作めからずっと、編集からの要請だったのかなと邪推してしまう。本作以降では描かれなくなるので、ラストシーンは、「本作でおしまい」という作者の宣言だったのかも。 |
No.275 | 5点 | 方壺園 陳舜臣 |
(2025/04/05 20:58登録) ちくま文庫版で読了。旧版の「方壺園」からの6作は、どれも不可能犯罪を絡めている。表題作はなかなか個性的な仕掛けで面白いが、他はそれほど魅力的な仕掛けではなかった。そもそも、不可能犯罪を扱っているが、不可能性に着目したストーリー展開ではない。 それより、読みどころは世界設定だろう。旧版の「方壺園」からの6作のうち、5作の舞台は現代でなく、4作は日本ですらない。異世界での異常な事件を読むのが、主な楽しみだ。ちくま文庫で追加収録された3作も、ミステリというより歴史秘話といった趣で、あわせて考えると、陳舜臣の楽しみは、異世界での異常な事件が主ということだろう。全体的に、謎と解決といったミステリ的興趣は薄いので、新本格のような作風が好きな人にはあわないとおもうが、ちょっと他にはない舞台設定もあるので、個性的な味わいがある。 |
No.274 | 5点 | ある殺意 P・D・ジェイムズ |
(2025/04/05 17:58登録) 再読だが、これもまったくおぼえていなかった。記憶していたイメージより、かなりミステリらしい構成だったが、構成のわりに、謎解きミステリとしての面白さは感じなかった。 後期のジェイムズとは違い、冒頭から事件が発生し、その後(本編231ページまでのうち)29ページから114ページまでが当日の捜査で、このパートはほぼ尋問になっている。この構成は初期クイーンに似ているので、比較するとジェイムズの特徴がみえる気がする。 クイーンでは、いつ、誰が、どこにいたといった、何が起きたのかに焦点があたっているが、ジェイムズは、誰がなにを考えていたかといった、動機、背景に焦点があたっている。 尋問は細かく描かれるが、検死の様子などは描かれないし、検視官も描写されない。尋問に同席している部長刑事にいたっては数回だけしか描写されなくて、「いたの?」と思うほどなので、もちろん捜査側で議論などはなく、事件の全体を整理するといった部分はない。 このため、謎解きミステリとしての読み心地は、かなり少なくなっている。 作者も、謎にアプローチするのではなく、群像劇がやりたいのだろう。謎解きミステリ志向がある私には、これが要因で、かなり読みづらかった。また、後期に比べると、情景の描写が少ないからか、ビジュアルが浮かばないのも、読みづらさにつながっている。 後半、ダルグリッシュはある調査をするのだが、ここに「気づき」が描かれていないので、突然といった感じがする。クイーンの「神の灯」や「中途の家」にある「気づき」の鮮やかさこそ、謎解きミステリとしての醍醐味だと思うが、そのような演出をする意図はないのだろう。 後期のジェイムズ作ほどの濃密なドラマはなく、謎解きミステリとしての面白さも薄いので、高得点はつけられない。退屈ではないんだけどね。 |
No.273 | 7点 | 11枚のとらんぷ 泡坂妻夫 |
(2025/03/29 19:30登録) Ⅱ部は抜群に面白い。ミステリ・ショート・ショートとして、これほどの出来の作品は他にないと思う。 全体の趣向もかなり好き。読み直してみると、キーとなる事(これは数十年ぶりの再読でもさすがにおぼえていた)は、冒頭からそれとなく匂わせてくるし、全編にいくつも振り撒いているのがわかる。解決編での、それらの伏線の指摘は素晴らしく、テンションがあがる。 そのわりに、そこまで高得点でないのは、Ⅰ部とⅢ部にある。Ⅰ部は、(再読では伏線を拾えて楽しめたが)趣向を知らずに読むと、ドタバタを含む奇術ショーなだけで、事件が起きるまでが長すぎて飽きてしまうし、Ⅲ部は、解決編までは奇術大会の模様で、ミステリ的興趣は薄い。この辺、奇術に興味がある人には楽しいのだと思うが、あまり興味がない私は楽しめなかった。 再読で気づいたのは、亜愛一郎シリーズのキャラ「三角形の顔の老婦人」が出ていること。なんで記憶していなかったかなぁ。 |
No.272 | 5点 | 秘密 P・D・ジェイムズ |
(2025/03/29 18:31登録) ダルグリッシュ、最後の事件。作者も最後の事件を意識して書いているのがわかる。ダルグリッシュも「最後の事件になる」(組織替えで立場が変わり、現場から離れる)と考えるシーンがあるし、ラスト・シーンも最後の事件だからこのシーンにしたと思う。 しかし、事件そのものは独立していて、最後の事件である要素はない。 ジェイムズの構成パターンに則って、1部は事件が起きるまでの関係者をじっくりと描き、2部から捜査が始まる。2部の冒頭は、前作「灯台」の冒頭と同様、捜査担当の3人の呼び出されるところからはじまる。スタイルとして、これは読みやすい。 その後の殺人事件という特殊な状況での濃密なドラマは、いつものジェイムズだった。そこが好きな人にはいつもどおりに楽しめるが、ミステリとしての意外性や反転などには、特に惹かれるものはなかったので、高得点はつけられないかな。 ネット検索したら「5部は不要」との意見があった。言われると、物語の作りとしては確かになくてもよいと思える。それでもこの章をつけたのは、ジェイムズが必要だと考えたからだと思う。未来への希望を描いたこの章を、書きたいと思ったのだろう。作品発表時に88歳だった著者の思いを想像するのも興味深い。最後の段落から抜粋しよう。”でも私たちには愛がある。……。私たちにはそれしかないのだから。” |
No.271 | 6点 | 累々 松井玲奈 |
(2025/03/29 18:10登録) 1作目を楽しめたので、2作目も読んでみた。期待以上に面白かった。すごいな、松井玲奈。 文章は、ドライで、1人称でも自身を客観視しているようで、心地よい。 ミステリ読みにも、受け入れられそうだ。共通の世界を背景にした短編集という体だが、ある見せ方にミステリ的なセンスがあるし、2、3話目は語り手のキャラクターが少し普通じゃなく、サスペンス小説の導入のような読み心地で、異色作家短編が好きな人には楽しめそう。 読み終わってから考えると、タイトル、表紙(文庫のほう)も、内容を暗示しているようでセンスがよい。 |
No.270 | 5点 | 犯罪カレンダー (7月~12月) エラリイ・クイーン |
(2025/03/09 18:11登録) 再読。前半よりはやや落ちるかな。でもクイーン好きでないと、琴線には触れなさそう。 「堕落した天使」 このころのクイーンらしい人物配置だが、クイーンらしい推理やプロットのひねりはなく、平凡な作。 「針の目」 解決の推理のために誂えた舞台やストーリーといった感じで、緊密感が足りず、肝心の推理もクイズ的でいまひとつ。 「三つのR」 作中にミステリがでてきて、結末もなかなか楽しい。けれど、「犯罪カレンダー(1-12月)」で考えると、ちょっと……とは思う。 「殺された猫」 これも、解決の推理のために誂えた舞台やストーリーといった感じで、緊密感が足りないが、推理は本集で1番よい。 「ものをいう壜」 全体的にバタバタして、とっ散らかってる感じがする。趣向は、有名海外ミステリドラマの1作目を思い出した。 「クリスマスと人形」 クイーンらしさとは縁遠い「怪盗との対決」を楽しめれば、なかなかよい話。仕掛けは手品的。 解説の村上さんもよい。ラジオドラマを紐解いていて、充実している。 |
No.269 | 5点 | 犯罪カレンダー (1月~6月) エラリイ・クイーン |
(2025/03/09 18:09登録) 再読。傑出した作品はないが、安定した作品集。でもクイーン好きでないと、琴線には触れなさそう。 「双面神クラブの秘密」 これはストーリも見るところがないし、推理もクイズといったところで、凡作。 「大統領の5セント貨」 アメリカ史に知識がないと「そうなんだぁ」という感じ。正当な評価はできず。 「マイケル・マグーンの凶月」 盗難に端を発し、別の殺傷事件、待ち伏せなど、次々とイベントが発生し、最後はきれいな手がかりでしめる良作。 「皇帝のダイス」 ややゴシック調の雰囲気で展開し、伏せられた真相を、エラリイはある手がかりからあばく。結構好み。 「ゲティスバーグのラッパ」 かなり特異な状況設定。解決は、エラリイでなくても優秀な刑事ならば出来そうなもの。アメリカの地方の町のメモリアル・デイの雰囲気を楽しむ作品だろう。 「くすり指の秘密」 事件が起きるまでの溜めが、ライツヴィル以降の作劇。短編としての締めはかなり好み。 解説の法月さんは相変わらずよいですね。まず書誌の紹介を行い、「クイーンがクイーンの声色をやっている」との評を引いて作風を示し、クイーンの歴史への傾倒に触れ、クイーンの作風の変遷の中での本書の位置づけに話をすすめる。さらに、本書のノスタルジックな性格を指摘して、本書の意義で締める。さすがです。 |
No.268 | 7点 | ダイヤル7をまわす時 泡坂妻夫 |
(2025/03/09 02:14登録) 再読。今回は創元推理文庫で読んだ。その解説で初めて意識したが、初出からすると「煙の殺意」と「ゆきなだれ」をつなぐ作品群になるとのこと。「煙の殺意」と「ゆきなだれ」が、どちらも傑作短編集なだけに、比較すると本作はやや見劣りがする。すこしきつい言い方をすると、2つの作品集に入れなかった落穂拾いの感もある。それでも最盛期の泡坂妻夫の作品なので、水準は十分にクリアーしている。特筆すべきは、語り口が各話で凝らされているところかな。ベストは「飛んでくる声」。 前半3作が、「煙の殺意」に似た「謎と解決」が主。ページ数が長め。 「ダイヤル7」は、手がかりと、そこから紡がれる反転が魅力的。こういう「手がかりと推理」の部分でも、泡坂妻夫はうまいなぁ。「芍薬に孔雀」は、作者らしい特殊なカードや設定で楽しいのだが、とんでもない偶然や展開に、無理がおおきいところがある。「飛んでくる声」は、サスペンス調の前半が泡坂妻夫としては異色。でも終わってみると、「構図の反転」と「伏線の回収」は、安定の泡坂印。 後半4作は、「ゆきなだれ」に似た「動機の謎、What done it」。ページ数が短め。 「可愛い動機」は、ちょっと奇妙な話。シンプルすぎるてあまり楽しめなかった。「金津の切符」は、本作ではすこし異色で倒叙もの。前半の、コレクターである主人公の心情が身につまされた。「広重好み」「青泉さん」はシンプルなWhat done it。「青泉さん」の足跡の処理に、謎解きミステリ作家としての泡坂妻夫のセンスがあると思う。 |
No.267 | 6点 | 本命 ディック・フランシス |
(2025/03/09 02:05登録) 再読。まったく忘れていて、完全に初読と一緒だった。 一読後の感想は「デビュー作からフランシスはフランシスだった」ということだ。他感想でフランシスの特徴として書いた「ハードボイルド風の語り口、ストイックで有能な主人公、せまる敵、おそってくる苦痛」といったものが、すでに揃っている。 さらに、終盤の見せ場で、障害競馬の騎手という設定が生かされていて、フランシスの経歴から読者が期待するものがあるのは、やはりデビュー作だからだろう。 フランシスの特徴がでていて、かつ、デビュー作という点で、代表作にはふさわしいが、面白さの点ではフランシスの標準作といったところだと思う。展開にぎこちないところもあるし、とくにラストは釈然としない。「あの人物と、これからどうする?」と考えると、中途半端な気がした。 |
No.266 | 6点 | 査問 ディック・フランシス |
(2025/03/09 02:02登録) 冒頭から主人公が困難にみまわれ、以降、それをなんとかしようとしていくのだが、寄り道することなく、一気にすすむ。安定のフランシスだ。 しかし、フランシスの良作と比べると、事件が小粒で、最後にわかる首謀者も小物感がある。フランシスの作品で、上位には推せないかな。 ただ、ヒロインは印象に残った。「あごをあげる」、「姿勢が良い」などの簡潔な描写が、キャラクター・イメージを表すスケッチとしてかなりよかった。主人公と比べると、年齢のバランスが悪いのはしょうがない。当時はそれが多かった。 |
No.265 | 6点 | 狩人の悪夢 有栖川有栖 |
(2025/02/09 18:19登録) 読んでいるときの心地よさが、実によい。 少しずつ事件の様相が見えてくる感じや、ひとつの事実がわかるたびにディスカションして全体の構図を確認するところは、初期クイーンの捜査パートや、鬼貫物の長編の読み心地だ。「これが謎解きミステリの楽しみだよな」と感じる。 それに比べると、解決部は、少し物足りない。犯人の思いや背景などは味があるが、それほど意外な推理や構図はなかった。 あと、編集者の江沢鳩子がとても魅力的に感じた。口調がよいのか? どこがいいのか説明が難しいが、プロな感じか? 生き生きとしているように感じた。 |
No.264 | 7点 | 三人の名探偵のための事件 レオ・ブルース |
(2025/02/09 18:06登録) 期待以上に楽しめた。 4人の推理がどれも楽しい。各探偵の推理が、パロディ元の探偵の特徴を出しているのが実によい。 好きなのは、神父の推理。Xが見えたというあたりの象徴性がよい。 これは、レオ・ブルースの他作品も、かなりそそられるなぁ。 |
No.263 | 7点 | 巴里マカロンの謎 米澤穂信 |
(2025/02/09 17:54登録) 「冬期」が書かれる前の本サイトの感想には、「このシリーズは今後どうなるの?」「終わらせずに今後も続く?」などと書かれていて、本サイトの投稿者をやきもきさせた(?)が、「冬期」できれいにふたりの関係性に結がついたので、「春・夏・秋・冬がメインストーリーで、本編は番外編」という位置づけにおさまったと考えてよいだろう。 春・夏・秋・冬は「ふたりのキャラ/関係性を描く」ことが主で、「謎と解決」は従だったが、本作は、「ふたりの関係性」を固定して「謎と解決」の方を主にしている。そのため、「謎と解決」に関しては、本作がシリーズでいちばん良い。意外性は大きくないが、納得感はある解決で、伏線のはられ方も、じつに良い。 Wikiによると、本になっていない作が3作あるとのことだが、早くまとまらないかなぁ。楽しみだ。 あと、この手のノリなら、アイディアが出ればいくらでも続けられるので、「冬期」以降の大学生編も作者の意思があれば可能なのだが、無いよね。出たら絶対買うのになぁ。 春・夏と同様、これもまた再読だが、これもまた初回より楽しめた。全体にちりばめられているユーモアがよかった。10年のブランクで小佐内さんのキャラがまるくなったのか? 演出は間違いなく春・夏よりうまくなっている。1作ずつ見てみよう。 「巴里マカロンの謎」。謎解きの動機に無理がないのが展開をスムーズにしている。春の「おいしいココアの作り方」なんかは、「その疑問にこだわらなくても……」と思ったが、本作で「店員を呼ばない」と決める理由が、いかにもキャラらしい理由で、ストーリーの流れをじゃましない。冒頭の名古屋に向かうところでも、「なにするのか言ってなかった」あたりのやりとりが楽しいし、推理の途中でも「ガナシのフィーリング?」をはじめ、ボケとツッコミの間合いが多く楽しい。謎解きは小粒でも、会話の楽しさで読ませる。 「紐育チーズケーキの謎」。導入部、チーズケーキの感想を語りあうところから、キャラのたった会話で実に楽しい。「そういうことなのよ、小鳩くん」という会話の締めまで実にいい。事件途中、古城さんが理由も聞かず走り出すときに語りで小鳩くんがツッコミをいれるところや、「それにはおぼやないわ!」という言い間違えなど、全編、いろいろと楽しい。謎解きもシリーズで上位で、満足度の高い一編。 「伯林あげぱんの謎」。犯人当てとして作られたためか、謎の検証はいちばん力がはいっている。そのためか、逆に、作内のユーモア分は薄くなっているが、ユーモア分はラストで全回収しているので、バランスのいい良作。 「花府シュークリームの謎」。謎解きとしてては、冒頭のxxxxxやxxが伏線として立ちあわわれる展開がよい。インタビューによると、作者の初期構想では、ふたりの立ち位置は「ハードボイルの探偵」と「名探偵」とのことなので、それからイメージすると、これは”いかにも”というストーリー。こういう”「行動力」と「推理力」の組み合わせで事件が解決される”話をもっと作ってほしいなぁ。ふたりの会話は、他作品以上にバディ感があって、そこもグッドポイントだ。 |
No.262 | 6点 | そこにいるのに 似鳥鶏 |
(2025/02/09 15:31登録) 短編ホラーでは、もはや斬新なストーリー展開はむずかしいと思う。そうなると、あとは見せ方、演出、描写で、いかにゾクリとさせるかだと思うが、本作は堂に入っていた。デビュー作を出版当時に読んでいた身としては、成長したなぁと感慨深い。(デビュー作は、まだ、だいぶ、こなれていなかった) 収録作でよかったのは「空間認識」、「労働後の子供」。 「空間認識」は、すこし有名ホラーを思い出す状況設定だが、描写がうまく、映像が目に浮かぶのがよい。 「労働後の子供」は、ひねりのあるまとめ方がよい。 あと、AMAZONによると、単行本と文庫本で、タイトルの異同がいくつもあるとのことなので、要注意。私は文庫本で読んだ。 |
No.261 | 6点 | 追憶の殺意 中町信 |
(2025/02/09 15:11登録) 書かれた時代を考えれば、しょうがないのかもしれないが、自動車教習所という舞台や恋愛事情などの話はあまり好みでなかった。 しかし、事件の様相が変わっていく過程は面白かったし、その過程で提示されるトリックや、トリックが見破られる契機はよく考えられていて、かなりよかった。この辺の、プロット作りやトリックや手がかりは、いかにも鮎川哲也風だ。(鮎川好きは、徳間文庫の「太鼓叩きはなぜ笑う」の解説で、熱く語っている) 残念なのは、キャラクターが立っていないために、情感に訴える部分が乏しいところで、中町信が再ブレイクまでマイナーだった要因はこういうところなのだろう。 |
No.260 | 4点 | 空白の殺意 中町信 |
(2025/01/03 01:36登録) これはいまひとつだった。なんといっても、高校野球という背景や、ラブホテルを舞台にした情事などの話の展開が、あまり好みでなかった。 警察も含めて、根拠もないのに「……としか考えられない」いう決めつけが多く、事件に対する試行錯誤が行われないのも、謎解きとしては残念。 途中、ある人物の独白が入るので、それについては、読者には事実だと担保できるが、登場人物にはわからないはずなので、「なぜ断定できるの?」 と思ってしまう。だから。その推定が覆されても、「いや元々根拠薄弱だったじゃん」と思って、意外性を感じない。 全体の仕掛けについて、カーのある作品をフィーチャーしているそうだが、カーのほうがよい。確かにそれはxxxxの謎を解くためのキーだが、そもそもxxxxに焦点があたっていないので、そこを強調されてもなという感じがした。 |