秘密 アダム・ダルグリッシュシリーズ |
---|
作家 | P・D・ジェイムズ |
---|---|
出版日 | 2010年02月 |
平均点 | 5.00点 |
書評数 | 2人 |
No.2 | 5点 | ことは | |
(2025/03/29 18:31登録) ダルグリッシュ、最後の事件。作者も最後の事件を意識して書いているのがわかる。ダルグリッシュも「最後の事件になる」(組織替えで立場が変わり、現場から離れる)と考えるシーンがあるし、ラスト・シーンも最後の事件だからこのシーンにしたと思う。 しかし、事件そのものは独立していて、最後の事件である要素はない。 ジェイムズの構成パターンに則って、1部は事件が起きるまでの関係者をじっくりと描き、2部から捜査が始まる。2部の冒頭は、前作「灯台」の冒頭と同様、捜査担当の3人の呼び出されるところからはじまる。スタイルとして、これは読みやすい。 その後の殺人事件という特殊な状況での濃密なドラマは、いつものジェイムズだった。そこが好きな人にはいつもどおりに楽しめるが、ミステリとしての意外性や反転などには、特に惹かれるものはなかったので、高得点はつけられないかな。 ネット検索したら「5部は不要」との意見があった。言われると、物語の作りとしては確かになくてもよいと思える。それでもこの章をつけたのは、ジェイムズが必要だと考えたからだと思う。未来への希望を描いたこの章を、書きたいと思ったのだろう。作品発表時に88歳だった著者の思いを想像するのも興味深い。最後の段落から抜粋しよう。”でも私たちには愛がある。……。私たちにはそれしかないのだから。” |
No.1 | 5点 | nukkam | |
(2022/09/10 02:11登録) (ネタバレなしです) 2008年発表のアダム・ダルグリッシュシリーズ第14作(コーデリア・グレイを主人公にした「女には向かない職業」(1972年)もカウントすれば第15作)の本格派推理小説で、結果的にシリーズ最終作となりました。田舎の荘園を改造したクリニックに顔の傷痕の手術のために入院した女性ルポライターが殺される事件を扱っています。地味で緻密な描写とじっくりした展開は晩年の作である本書でも相変わらずですが、序盤は目立たなかったある人物のとてつもない過去が暴かれる場面は緊張が走ります。その後はまた地味路線に戻ってしまいますが解決は唐突ながらもそこそこ劇的、しかし推理要素はわずかに「一つの事実が証明」に言及しているぐらいでほとんどが犯人の自白頼りです。犯人が判明したあとも完全には納得していないダルグリッシュが動機を追及する展開は東野圭吾の「悪意」(1996年)や「希望の糸」(2019年)を連想させます。もっとも登場人物リストに載っていない人物が大勢登場する過去の出来事の説明は私には難解で、すっきりできませんでした。 |