ある殺意 アダム・ダルグリッシュシリーズ |
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作家 | P・D・ジェイムズ |
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出版日 | 1977年01月 |
平均点 | 5.83点 |
書評数 | 6人 |
No.6 | 6点 | レッドキング | |
(2023/02/18 00:41登録) 精神病院の地下室で起きた女事務長刺殺事件。病院地下室は、外部者の犯行ではあり得ない「密室」状態だった。「密室」言っても、医師達に看護婦達、療法士にカウンセラー、事務員用務員達・・実に十数人もの容疑者達がひしめき、時間アリバイロジックらしき骨格も、明確な・チト素直すぎな・伏線も、Whoドンデン返し決着もあるが、容疑者達のキャラ描写と人間関係・・主に男女関係・・描写の方がミステリ展開を引っ張って行く。 |
No.5 | 7点 | 人並由真 | |
(2021/08/31 16:05登録) (ネタバレなし) そろそろ蔵書のポケミスで読もうかと思っていたら、ブックオフの100円棚でHM文庫版を発見。改訳決定版というので、じゃあ、とそっちを購入してこっちで読了した。許せ、我が家の蔵書のポケミス版『ある殺意』。 前作『女の顔を覆え』ほどの一大サプライズはないが、こちらもこちらで十分に面白かった。 あまりにも多い、そしてひとりひとりがみっちりと描写されたキャラクターたちは確かにヘビーだが、この数年来やっている登場人物一覧をまとめながら読む作業をしながらの読書なら、そんなには苦にならない。 むしろ情報が薄いキャラクターは、もっともっと、こちらが人物メモに書き込む要素を欲しながら、ページをさらにめくるようになる。 (逆に言うと、本作はそういうある種のぜいたくさを満喫できる作品ということだ。) でもって、物語の途中で実はかなり明確に手掛かりというか伏線は張られており、そこに留意すればたぶん一瞬で事件の真相の全貌は推察できる。(ただし評者は、一度はそのポイントをはっきりと意識しながら、後半の物語のうねる波のなかで失念していた。みっともないが、よくあることである。) これまでジェイムズの諸作のなかで、いちばんなんだかな、とこれは……と思った『皮膚の下の頭蓋骨』とかも踏まえて、ジェイムズって意外に伏線の張り方がぞろっぺいかも? しかし終盤、ダルグリッシュ&マーティン部長刑事が病院内の記録を調べ(カード整理式の分類データを利用する、パソコン普及直前の作業がすごい印象的)、その流れでちょっと遠出の捜査をするあたりから、なんかヒラリー・ウォーみたいな作風になった。フーダニットの興味を軸に置きながら警察捜査小説の道筋で、真相に迫っていく感じ。ジェイムズがどのくらい意識していたかは知らないが、形質的には近いものができていたかもしれない。 そこで最後のどんでん返し いや、そのウォー風警察小説っぽい波に乗っていたから、個人的には意表を突かれました。 ……とはいいつつ、実は前述のように、いちどは想定していた&心に引っかかっていた決着へと戻ってきただけだけど(負け惜しみ)。 故・瀬戸川猛資の遺した言葉「ジェイムズを読むなら時間があるときに一息に」の鉄則を尊守している身からしても、存分に楽しめた。 実にバランスのいい正統派&技巧派ミステリだった前作に比べて、今回はさらに一定の箱庭世界(本作なら名門の精神病院)を舞台に、そこで群像劇っぽい登場人物たちの右往左往を語ろうとする作者の筆の勢いが実感できた。 次の『不自然な死体』、そして『ナイチンゲール』が楽しみだ。 |
No.4 | 6点 | nukkam | |
(2016/05/12 18:55登録) (ネタバレなしです) 1963年発表のアダム・ダルグリッシュシリーズ第2作の本格派推理小説で、本書では警視に昇進しています。後年の作品に比べると本格派の謎解き要素が濃厚な作品で、結末のどんでん返しがなかなか鮮やかです。ただ「女の顔を覆え」(1962年)が家庭という極めて限定された世界を描いて背景が理解しやすかったのに対して、本書では診療所内の様々な人間関係が整理しきれず難解な印象を与えているのは否めません(それでも後年作に比べればまだまだ読みやすいですが)。 |
No.3 | 5点 | E-BANKER | |
(2014/02/24 22:24登録) 1963年に発表された作者の第二長編。 作者のメインキャラクターであるダルグリッシュ警視シリーズ。 ~ある秋の晩、ロンドンのスティーン診療所の地下室で事務長のボーラムの死体が発見された。彼女は心臓をノミで一突きされ、木彫りの人形を胸に乗せて横たわっていた。ダルグリッシュ警視が調べると、死亡推定時に建物に出入りした者はなく、容疑者は内部の人間に限定された。尋問の結果、ダルグリッシュはある人物の犯行と確信するが、事件は意外な展開を・・・。現代ミステリ界の頂点に立つ作者の初期意欲作~ 実に端正な英国本格ミステリー、というべき作品なのだろう。 精神病院という舞台設定、容疑者は内部の者=医師、看護婦、事務職員などに絞られ、分単位のアリバイが事件を解く鍵となる。 こう書くと、期待感がいやがうえでも高まってくる。 でもなぁ・・・何かしっくりこないというかモヤモヤしたような感覚が残った。 英国の女流作家らしく、人間描写はまるでクリスティを思い出させるように精緻に書かれており、中盤まではダルグリッシュ警視の尋問という形式で多くの容疑者たちが彼のふるいにかけられる。 ただそれがかなり冗長でなかなか事件が進展しない。 ようやく全員への尋問が終わった頃には、もう作品の終盤に差し掛かっており、いったいどうやってケリをつけるのかと心配になった。 一応ラストは、ダミーの容疑者が否定された後、真犯人指摘という“よくある”締めで終わるのだが、これもちょっとサプライズというには程遠い。(動機という意味では最も疑わしい人物が結局・・・というのもどうか?) 「気合がちょっと空回り」というのが適当な表現だろうか。 この程度のプロットであれば、もう少しシンプルな展開の方がよかったかもしれない。 でもこういうのが好きな人は好きかもね。 |
No.2 | 5点 | 蟷螂の斧 | |
(2013/10/02 12:04登録) ロンドンのある診療所で殺人が起こり、内部の犯行が明らかになる。警視による事情聴取が、一人ひとり行われる様子と登場人物の私生活が語られる。人間描写に定評があるとのことですが、この展開は冗長としか思えませんでした。顛末も想定内でした。 |
No.1 | 6点 | Tetchy | |
(2009/01/10 23:47登録) よく出来た小説だと思う。 何一つ過不足無く終末へと向かうし、文章も格調高い。 しかし、目くらましのために容疑者を増やしすぎたのではなかろうか? 以前に比べると登場人物の特性がそのために希薄になってしまっている。 未だにどんな人物だったのか区別がつかない人物が3~4人いる。 |