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ミステリの祭典

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凍てつく太陽

作家 葉真中顕
出版日2018年08月
平均点8.00点
書評数5人

No.5 8点 HORNET
(2024/05/06 22:12登録)
 昭和20年、終戦間際の北海道。実際の戦況は既に詰んでいるにも関わらず、「皇国臣民」の掛け声のもと、お国のために尽くすことが正義と信じて疑わなかった人たち。また、先住民でありながら、その流れに入っていくことを受け入れたアイヌ。混沌する時代状況の中、軍需工場の関係者が次々殺されていく。

 著者は、その時代の世相風俗を克明に描きながら、魅力ある物語にまとめ上げる手腕に本当に優れている。本作であれば、戦時下の人々のさまざまな価値観をそれぞれの登場人物に託し、時代の混迷を見事に描いている。
 また次々に「愛国第308工場」関係者が殺されていく、その真相を追う展開は、ミステリとしても一級である。私は正直、別の登場人物を真犯人「スルク」だと思っていたので、完全に騙された。
 最新作「鼓動」を書評した際に、サイトでの評価が高かったため手に取ったが、大正解だった。

No.4 8点 take5
(2024/01/14 18:24登録)
blueでもそうでした。
作者が表現する
歴史に翻弄されながらも
生きていく登場人物が魅力的です。
太平洋戦争の時代、
室蘭での軍部と警察、
アイヌと内地と朝鮮から連れてこられた人々
混在する混沌が見事に書かれていて、
500ページ以上一気に読ませます。
5時間以上がかかりましたが満足!
凍てつく太陽
タイトルもいいし、
表紙の鳥たちも効いています。

No.3 9点 E-BANKER
(2022/01/08 18:34登録)
皆さま、かなり遅くなりましたが、新年明けましておめでとうございます。まだまだ不自由な生活が続きそうな気配が濃厚ですが、とにかく読書については全く支障はないということに感謝をしつつ・・・
今回、新年最初の読書に選択したのは、第72回日本推理作家協会賞も受賞した、作者畢竟の大作。
2018年の発表。

~昭和二十年、終戦間際の北海道・室蘭。逼迫した戦況を一変させるという陸軍の軍事機密「カンナカムイ」をめぐり、軍需工場の関係者が次々と毒殺される。アイヌ出身の特高刑事・日崎八尋は、「拷問王」の異名を持つ先輩刑事の三影らとともに捜査に加わることになるが、事件の背後で暗躍する者たちに翻弄されていく。陰謀渦巻く北の大地で、八尋は特高刑事としての「己の使命」を全うできるのか?~

いやぁー。新年早々、久しぶりにこんな「すごい熱量」の作品を読んだ気がする。読了した後も、登場人物たちの熱い想いが心の中から暫し抜けなかった。
戦中を舞台とする作品は今まで何冊も読んだとは思うのだが、「北海道」「特高VS軍」「在日朝鮮人やアイヌなど当時真っ当な皇民とはみなされなかった人々」「網走刑務所」・・・etc
作者が題材にとった1つ1つが作品世界を彩るピースとして、見事なくらいに嵌まっている。

「太陽」かー。もともと戦時中の室蘭の街には2つの「太陽」があった。一大軍需都市となっていた室蘭には鉄工所で燃え盛る「太陽」があったのだ。そこに更にもう1つの「太陽」が・・・?
これこそが八尋、三影、そして〇〇の運命を決めることになる。
悪役となる「三影」も、実に見事な「悪役」を演じているし、魅力的な人物は枚挙にいとまがない。
そして、物語の最終版、いよいよ隠されてきた様々な真相が明らかになり、この大作も決してきた!と思った瞬間に炸裂するサプライズ!!
これこそがミステリー作家としての作者の矜持だろう。
振り返れば、この「大いなる欺瞞」をラストに持ってきたいと考えていたからこその中盤の数々のストーリーだったのだ。この「欺瞞」がこの哀しい物語に更なる深みを与えている・・・

これは、もう「大河ドラマ級」の作品。「時代」に流された人々、熱い魂、未来への希望・・・様々なものを読み手に与えてくれる作品。高い評価は当然だろう。

No.2 7点 八二一
(2020/09/03 18:26登録)
終戦まじかの北海道を舞台にアイヌ出身の特高刑事が事件を追う。混沌とした世界を描く渾身の一作。

No.1 8点 小原庄助
(2019/01/30 09:04登録)
葉真中顕は、次にどんな小説を書くのか楽しみにしている作家だ。心を躍らせ読み始めると、期待を裏切られることなく、一気に引き込まれた。
舞台は1944~45年の銃後の北海道。特高警察の巡査でアイヌの血を引く日崎八尋が朝鮮人になりすまし、室蘭の軍需工場の「飯場」に潜入する。もう、この設定だけで、わくわくしてくる。
小説の楽しみのひとつに、未知の世界を知る、というものがある。恥ずかしながら、アイヌや戦時中の北海道についての知識が希薄だったので、たいへん興味深かった。
殺人事件が新たな殺人事件を呼び、ページをめくる手が止まらない。軍需工場から網走刑務所、アイヌの集落、南方の戦地まで、物語の世界が重層的に広がっていく。膨大な資料を読み込み、綿密な取材を重ねたことが、行間から伝わってくる。この小説では、戦前の日本の皇民化政策の影響が色濃く描き出されている。日崎八尋が皇国臣民としての誇りを持つ一方、民族のアイデンティティーを堅持しようとするアイヌもいる。そのグラデーションは、朝鮮人労働者の内部でも同様だ。
大和人がアイヌを、日本人が朝鮮人を、つまりマジョリティーがマイノリティーを描くのは難しく、勇気がいる。当事者からの厳しい評価にもさらされる。だが、そんな懸念はいらないだろう。俯瞰の視点と想像力を駆使して登場人物に寄り添う姿勢の両方が見事に生きていた。アイヌや朝鮮人の心理は、畳みかけるように連なる骨太なエピソードによって巧みに描かれる。日本人に過剰適応する彼らの姿や朝鮮人の間のヒエラルキーは、被差別民族の悲哀をさらけ出し、戦争の愚かさを炙り出す。
小説にとって大事なのは、書く側の「まなざし」だと思う。著者の社会への問いかけは、物語のなかに、あまたちりばめられている。もちろん、エンターテインメント小説に欠かせない驚きもしっかりとある。細やかな伏線と鮮やかな結末には、思わず唸ってしまった。

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