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ミステリの祭典

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よんさんの登録情報
平均点:6.51点 書評数:79件

プロフィール| 書評

No.79 5点 黙秘
深谷忠記
(2024/10/23 11:33登録)
殺人容疑で逮捕された女は、被害者を刺した事実は認めたものの、それ以外に関しては黙秘を続ける。担当検事の森島宏之は、このままでは犯行動機が不明の状態で起訴せざるを得ないことに苦悩し、かつて恋した相手の母親である被告に公正な裁きを受けさせようとする。
罪を糾弾する側でありながら、心情としては被告に思い入れが深い森島のアンビバレントな立場が、検事もまた血も涙もある人間であることを印象付ける。


No.78 7点 録音された誘拐
阿津川辰海
(2024/10/23 11:28登録)
探偵事務所の所長が誘拐されるというのがまずユニーク。さらに依頼を受けた犯罪請負人が犯罪を美しく実行するというのもユニーク。そんな誘拐事件に、大野探偵事務所の他の二人の探偵、耳が良い探偵とカウンセリングを得意とする探偵が挑む。
という具合に、そもそもの事件の構図がユニークだし、そこからの展開もユニーク、そして真相は意外というものだが、それだけでは終わらない。終盤の終盤でこうだろうと思っていた光景が実はそうではなく、全く異なる綱渡りだったことが明かされる。二種類の衝撃を味わえる作品となっている。


No.77 7点 夏休みの空欄探し
似鳥鶏
(2024/10/23 11:20登録)
成田頼信は、会員2名のクイズ・パズル研究同好会所属の高校生。夏休みのある日、店で隣り合わせた姉妹の手元にあった暗号を見た彼は、つい解読してしまう。かくして彼は、七輝とその姉の雨音とともに、ある富豪が残したという数々の暗号に挑むことに。同級生の清春も加わって4人で過ごす夏休みは、七輝に惹かれていく頼信にとって忘れられない日々に。
姉妹との出会い、そして妹への想い、さらに自分とは別世界の住人と思っていた同級生の知らなかった一面を見て、頼信の世界は広がっていく。暗号を解読することが、頼信と七輝の関係の進展と重なり合う、そのプロセスを丁寧に描いているからこそ、全体の構図が明かされた瞬間の頼信の痛切な思いも、読む者の胸を打つ。


No.76 6点 七度狐
大倉崇裕
(2024/10/03 13:33登録)
落語雑誌の編集長と新人編集者の間宮緑がホームズとワトスン役を務める。名跡継承をめぐって開かれる落語一門会の取材のため、ある村を訪れた新人編集者の間宮緑。
豪雨により外界から隔絶された村で、落語家の後継者争いと思われる殺人が相次ぐこの作品、見立て殺人や安楽椅子探偵をはじめとして、本格ミステリの趣向が詰まっている。


No.75 8点 GOTH リストカット事件
乙一
(2024/10/03 13:28登録)
同級生の森野が拾った一冊の手帳。それは世間を震撼させている連続殺人鬼の日記だった。警察に届けることなど考えもせず、「僕」と森野は手帳に記されている、まだ発見されていない死体を探しに山へ出掛けた。
人間の暗黒部分に惹かれ、残虐な異常犯罪に興味を抱かずにはいられない「僕」と森野の目に映った6つの事件を描いた連作短編集。明るく健康的なクラスメイトたちに馴染めない森野と、完璧に馴染んだふりの出来る「僕」というキャラクターの魅力もさることながら、ミステリとしての驚きも十分。切なく胸に小さな傷を残すような物語。


No.74 6点 おさかな棺
霞流一
(2024/10/03 13:23登録)
迷走と妄想の迷探偵・紅門福助のもとに飛び込んできた、奇妙奇天烈な事件の数々。四季折々の旬の魚をモチーフに、笑いと伏線を見事に編み上げている。
表紙もさることながら、内容も実にバカバカしい。この「バカ」という魅力的な異世界ゆえに成立する奇妙な謎と美しいロジック、そして本格ミステリ魂が感じられる合理的な結末が味わえる4作品が収録されている。


No.73 6点 量刑
夏樹静子
(2024/08/08 14:30登録)
通りすがりの母娘を車で轢き、あまつさえ口封じのため殺害してしまったという事件をめぐる裁判劇。
被告の量刑が死刑になる事態を回避しようと考えた共犯者は、とんでもない手段で裁判官を脅迫する。
弁護士や検事ではなく、法廷ミステリではスポットライトが当たりにくい裁判官を物語の中心に据えて、その立場ならではの苦悩を描いている。


No.72 6点 囚われのスナイパー
スティーヴン・ハンター
(2024/08/08 14:15登録)
票目当ての議員が、老いた狙撃手のスワガーを公聴会に引きずり出し、勝手な法解釈や詭弁など、あらゆる手段で責め立てる。狙撃手にとって異質なその闘いに、麻薬をめぐる悪党たちの争いが飛び火する。
スワガーが二種の全く異なる闘いに巻き込まれる。それぞれの闘いも展開もスリリングで、悪党たちの造形も見事。なかには筋の通った考えを持つ者もおり、欲の溺れた政治家たちの対比も鮮やか。


No.71 6点 インビジブル
坂上泉
(2024/08/08 14:10登録)
作者が近代日本史の研究者だけあって、時代の描写がリアル。大阪市警視庁というその時代にしかなかった組織が、現代の警察へと変わっていく転換期を背景にしたバディ型の警察小説で、罪の動機にも登場人物たちの心理や背負っているものにも、戦中戦後の時代に確かにあったのであろう心の傷や社会の歪みが活用されていて、登場人物各々が昭和の歪みに立ち向かっていく様が胸を打つ。


No.70 8点 ラットマン
道尾秀介
(2024/07/17 14:36登録)
結成十四年になるアマチュアロックバンドが練習中のスタジオで、一人の女性が大型アンプの下敷きになって死んでしまう。
その死の謎をめぐって物語が展開する中、ギター担当の姫川の過去と、姫川の彼女である被害者のひかり、その妹でドラム担当の桂の三人の関係が浮かび上がってくる。
過去の事件と現在の事件を呼応させているばかりか、そこに絡む人間相関図まで重ね合わせたり、二パターンの見え方があるはずの絵が思い込みによって一方の見え方に誘導されてしまう心理を物語全体に有機的に絡めている手際が見事。


No.69 7点 孤宿の人
宮部みゆき
(2024/07/17 14:30登録)
妻と部下を殺した罪で流刑、預かりの身として四国の丸海藩に幽閉された、元勘定奉行の加賀と、両親に捨てられた少女・ほうの物語。
加賀の世話をすることになったほうが、少しずつ加賀の真実に気付いていく様がいい。加賀がほうに書き残した一文字が何なのかを知ったとき、感動のあまり涙が出た。


No.68 7点 侵略少女 EXIL girls
古野まほろ
(2024/06/17 15:35登録)
卒業を迎え、徹夜で伝統儀式を進めていた七人の女子高生たちが、「誤差領域」に迷い込んだ。天国の手前にあるというその謎めいた領域で、彼女たちは様々な経験を重ねる。
怪鳥に襲われ、天使と言葉を交わし、仲間が殺される。その後、作者が顔を出して〇〇を殺したのは誰かと読者に挑戦する。そしてその先を読んで、挑戦状までに数百もの伏線が張られていたことに気づく。
なお本書は単体でも十分に楽しめるが、三部作の読者は最後の数ページを余計に楽しめるだろう。


No.67 6点 闇の喇叭
有栖川有栖
(2024/06/17 15:26登録)
物語の舞台となるのは探偵行為が違法となった世界で、少しでも探偵っぽいふるまいをした人間を容赦なく追い立てる探偵狩りなるものが行われている。
ミステリは様々なジャンルを組み合わせることができるが、この作品ではSFの世界では定番となったディストピアと組み合わせることで「こんな世の中でなおも探偵をやることの意義とは何か?」「探偵として求められるものは何か?」ということを描き出している。


No.66 6点 在原業平殺人事件
山村美紗 西村京太郎
(2024/06/17 15:23登録)
山村美紗の遺作を西村京太郎が完結させた。在原業平ゆかりの古寺へ散策に出かけた明子は、大学教員の細川と出会い、交際を始める。ところが細川の同僚が殺される事件が起き、明子は図らずも探偵のような立場になる。
学長や教授のポストを巡る競争、学説を覆すような新しい資料の発見、複雑な男女関係など興味をそそられる背景が用意されている。
業平を巡る深い知識で物語を回していくのは、山村の真骨頂。西村が考えた結末もなかなかのもの。


No.65 8点 星詠師の記憶
阿津川辰海
(2024/05/07 16:14登録)
二〇一八年、星詠師たちの研究施設で発生した射殺事件は、組織の都合で隠蔽された。現場に遺されていた水晶の映像から、星詠師の石神赤司を射殺したのは息子と判断し、内部で彼を幽閉したのだ。
犯行の一部始終を記録した映像がある状況をひっくり返す難題に加え、そこに連なる昭和の事件も探る濃密な一冊。真相の意外性も抜群だし、謎解きの果てに浮かぶミステリとしての構図も意外で、かつ美しい。


No.64 6点 ベルリンは晴れているか
深緑野分
(2024/05/07 16:10登録)
一九四五年、ドイツの降伏によって連合国の統治下に置かれたベルリンにて、十七歳のドイツ少女・アウグステは謎の事件に巻き込まれる。被害者の死を彼の甥に告げるべく、様々な過去を背負った人々と旅をする主人公。
過去と現在を行き来する構成によって骨太に織りなされるロードノベルにしてミステリ、そして戦争によって暴かれる人間の生きざまを直視した普遍性のある歴史小説である。


No.63 6点 死んでもいい
櫛木理宇
(2024/03/07 14:32登録)
ある男のストーカーとなった中年女性が、男の妻を鉈で襲った事件を描く「その一言を」は、壊れた感情が幾重にも折り重なった一編で、そうした心の動きが読み手にじわじわと侵食してくる刺激が味わえる。「死んでもいい」の最後で明かされる若い心の虚無感や「ママがこわい」における毒と毒のぶつかり合いなど、生理的に否定したくなる感情が盛り沢山だが、読み物としては魅力的である。


No.62 7点 Another 2001
綾辻行人
(2024/03/07 14:21登録)
シリーズ第三作で、二〇〇一年の夜見山北中学三年三組を描いている。このクラスには、時折死者が紛れ込み、災厄を起こす。災厄が起きた年度では、教師や生徒やその二親等以内の者が次々と死んでいくのだが、今年はどうやらそれが始まったらしい。
超常現象を基本とした物語だが、記憶や記録の改変の中で死者が誰なのかを、手掛かりに基づいて推理することも愉しめるように仕上がっている。中学三年生たちの瑞々しい心が凄惨な死の連続や級友への疑念など散々にかき乱される中、論理とそれを超えたものの鮮やかな融合を堪能できる。


No.61 9点 大誘拐
天藤真
(2024/01/18 13:27登録)
紀州随一の大富豪、柳川家の当主・とし子刀自が、三人組の男に誘拐された。ところが、自分の身代金が五千万円と知った刀自は、「見損なうてもろうたら困るがな」と百億円に吊り上げる。かくして、どちらが被害者なのかわからないような誘拐劇が進行し、ついには身代金受け渡しの場面をテレビ中継させるという大作戦まで飛び出す。
奇想天外な発想、ハラハラドキドキの進行、そしてあっと驚くどんでん返し。これぞまさに史上最大の「人を食った話」といえる。


No.60 5点 60%
柴田祐紀
(2024/01/18 13:18登録)
派手で華麗なカリスマヤクザ・柴崎を周囲の人物の視点から描く。
マネーロンダリングに関する光と闇が鮮烈に打ち出されるが、柴咲は薔薇の花が舞う中で荒事をこなすなどして、言動にケレン味が増えていく。彼を見る周囲の目も偶像崇拝めいてきて、最後は真実とともに夢幻のかなたに消えていく。
ピカレスクロマンにおいて、リアリティレベルがこのように設定されるのは面白い。金の力、裏社会の反社会的力学を、半ば幻想的に描いている。

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