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ミステリの祭典

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テスカトリポカ

作家 佐藤究
出版日2021年02月
平均点8.60点
書評数5人

No.5 8点 take5
(2024/11/17 17:28登録)
冒頭からメキシコの乾いた風を感じ、
川崎の湿った闇を思う、550ページ。
臓器売買を巡るカルテルの群像劇で、
かつアステカ文明の歴史を元にする
血を血で洗う抗争の凄まじさが圧巻。

正直、
ミステリーなのかは分かりませんが、
6時間も一気に読ませる筆力と熱量。
時代も場所もちがいますが、例えば
『同志少女よ敵を撃て』が近いか?
そう感じましたが皆様如何でしょう

No.4 9点 ROM大臣
(2024/03/25 13:33登録)
やくざの父とメキシコ人の母との間に生まれたコシモと、メキシコで麻薬カルテルの抗争に敗れ臓器密売で再起を図るバルミロ。二人の運命は日本で交わる。
資本主義の裏側に張り付く暗黒を抉る筆致が容赦ない。犯罪者が利用するシステムの狭間、そこに堕ちた人間の心理、それを救い上げる組織など、闇の構造を執拗に描く。そして何より印象的なのが、全編に吹くアステカの風。登場人物たちに吹き込まれた古代の神々の息吹が、本作を闇の神話へと押し上げている。

No.3 9点 八二一
(2023/10/19 20:41登録)
国境を越えた違法臓器売買。クライムノベルのスリルに時と国をはるかに隔ててアステカの神話が一族の血を通して流れ込んでくる。
縁遠いようで舞台は近い。地続きの悪夢が気高く描かれた驚異の小説。

No.2 9点 びーじぇー
(2022/09/28 20:41登録)
カサソラ兄弟はメキシコ北東部の麻薬組織の頂点に君臨する存在だが、ある日、敵対勢力によって壊滅させられる。唯一難を逃れた三男のバルミロは、インドネシアのジャカルタに潜伏し街頭の商人に身をやつして復讐の時を待つ。一方、暴力の横行するメキシコを逃れて日本にやってきた女性ルシアは、日本人との間にコシモという息子を預かっていた。両親の育児放棄によってほとんど教育を受けずに育つコシモだったが、猛獣のようなたくましい肉体の持ち主になる。バルミロとコシモ。この二人が日本で邂逅を果たすのである。
神秘的な物語構造に極めて現代的な要素を組み合わせている。暴力によって他者の生命を奪うことで人間の歴史は発展してきた。その進化形というべき犯罪事業によって再び王国を築くため、バルミロは新たな組織を築き始める。
バルミロが企図するのは、人間をモノとして扱うことで成り立つ合理的なビジネス。その非情なほどに現代的な行いが、祖母から教えられて彼の血肉になっている土俗信仰と結びつく点が極めて興味深い。
犯罪小説として独自性が高いだけではなく、登場人物の個性も脇役の一人一人に至るまですべて際立っている。バルミロの王国に犯罪者たちが加わってくる展開は、梁山泊に豪傑が集う「水滸伝」のようだ。そのどこかに、もう一人の主役であるコシモがいる。そして感嘆の言葉すら奪い去る、活劇描写の素晴らしさ。暴力を描いたエンターテインメントとして完璧である。

No.1 8点 虫暮部
(2021/09/16 11:56登録)
 小説には進化圧みたいなものがあると思う。特にジャンル性の強いタイプは、シーンが或る程度先へ進むと以前のレヴェルでは作品として成立しなくなる。逆に、優れた先行作品あってこそそれらのエッセンスを煮詰めたような、シーンの落とし子が生まれたりもする。それは必ずしも作家や編集者がその作品を読んでいなくとも一種の集合知のような形で直接間接に不可逆的な合意を形成し、エネルギーが飽和状態に達した時、そこにポテンシャルを持つ書き手がいれば何処からか這い寄って種を植え付けて行くのだろう。つまりその誕生は必然的と言えなくもないが、選ばれた側は大変で、物語を形にするまで解放してもらえず血を流したり胃液を吐いたりする。この作者はよく頑張った。
 小川哲『ゲームの王国』、伊藤計劃『虐殺器官』、首藤瓜於『脳男』、あたりの交点に生じた黒い塊が本作だ。“パクり”みたいなネガティヴな意味合いは全く無いので誤解無きよう。

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