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ミステリの祭典

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爆弾

作家 呉勝浩
出版日2022年04月
平均点7.25点
書評数8人

No.8 7点 まさむね
(2024/03/26 23:04登録)
 微罪で警察に連行され、取調室で秋葉原の爆発を「予言」した中年男性。自らを「スズキタゴサク」と名乗り、霊感が云々、記憶がない云々を語る、この人物のキャラがすごい。
 彼は何者なのか、目的は何なのか。次の爆発を防がんとする警察との頭脳戦を経て、その全景が見えてくるのか…という興味でグイグイ読まされました。サスペンスとしても、警察小説としてもレベルが高いと思います。

No.7 8点 メルカトル
(2024/01/14 22:24登録)
些細な傷害事件で、とぼけた見た目の中年男が野方署に連行された。
たかが酔っ払いと見くびる警察だが、男は取調べの最中「十時に秋葉原で爆発がある」と予言する。
直後、秋葉原の廃ビルが爆発。まさか、この男“本物”か。さらに男はあっけらかんと告げる。
「ここから三度、次は一時間後に爆発します」。
警察は爆発を止めることができるのか。
爆弾魔の悪意に戦慄する、ノンストップ・ミステリー。
Amazon内容紹介より。

これは又目を瞠る程骨太の力作ですね。
何だか知らないけど、物凄い迫力です。息をも付かせぬとはこう云う事を言うんでしょう。まず何と言ってもスズキのキャラが濃すぎです。どう表現して良いのか分かりませんが、とぼけている様で妙に気が回る、故意に記憶喪失を装い手練れの刑事達を翻弄しまくる異様な雰囲気を持った謎の自称49歳の男。この人物の語りだけでも全く飽きが来ません。1ミリも無駄のない描写で圧巻の400ページ超えもダレることなく読み切れます。

対する警察側も負けてはいません。恫喝等にはまるで屈しないスズキは、自分の言い分を聞き入れる刑事達には対等に接します。刑事は入れ代わり立ち代わり尋問、というよりはスズキの出す遠回しなヒントを基に爆弾が仕掛けられた場所を必死に模索していきます。等々力、清宮、類家、伊勢、鶴久、紅一点の紗良、それぞれの内面がよく描き分けられています。中でも類家対スズキの頭脳戦は読み応え十分です、まあ本作に関しては最初から最後まで全てが読みどころと言えると思いますけど。
これだけ読ませる警察小説は滅多にお目に掛かれないと思います。傑作間違いなし。

No.6 8点 take5
(2023/07/23 11:28登録)
400ページ超を
4時間一気読みさせられた
迫力の作品。
爆弾はいつ?どこ?なぜ?
ほぼ、取り調べ室での知恵比べで
これだけ読ませるのは
犯人タゴサクも刑事も私たちも
潜在的な感情を
顕在化させられるからでしょう。
単に表現がグロテスクな作品とは
一線を画すととらえたいです。
警察小説としても秀逸です。

No.5 6点 みりん
(2023/04/09 10:57登録)
醜悪で狡猾な爆弾魔に翻弄される警察達を群像劇的に描いた作品。
フィクションを読んでいて心の底から嫌悪感を覚える犯人に久しぶりに出会いました。「この犯人が嫌い大賞」も受賞できるでしょう。取り調べ室での会話が物語のほとんどを占めるにも関わらず、なぜかページをめくる手が止まらず、作者の力量を感じさせます。

ジャンル的には「警察小説」が1番近い気がしますが本格・社会派・サスペンス要素もそれなりに含んでいるため一概にジャンル分けできないですね。

No.4 7点 HORNET
(2022/12/31 18:05登録)
 酔った勢いでの些細な傷害事件で、野方署に連行されてきた冴えない中年男「スズキタゴサク」。ところがその取り調べ中、スズキは「10時に秋葉原で爆発がある」と言い出し、直後、秋葉原の廃ビルが爆発。続けて男は「ここから三度、次は一時間後に爆発します」と言う。市民の命を人質に、とぼけた男と警察との頭脳戦が始まる―

 自己顕示欲の強い劇場型の犯罪者ではなく、「自分は社会のクズ」と自称しながらつかみどころのない爆弾魔を、取調室で警察と対決させるという舞台設定はまずます。取り調べ中のとりとめもない「雑談」の中に爆弾設置のヒントが隠されているという「クイズ形式」の知恵比べは、興味はそそるものの展開としてはやや安っぽいとも感じる。ただ正道の正義を標榜する刑事・清宮から、変人刑事・類家へとスズキの相手が交替していく取り調べの経緯や、すべてへの諦観が漂うダメ刑事・等々力の捜査への絡みなど、リーダビリティを保ち続けるには十分の魅力ある展開ではあった。
 「最後の爆弾」に行きつく推理はやや一足飛びで、面白い落としどころではあるが「そうか!」という納得感とは少し違った。

No.3 7点 パメル
(2022/11/14 07:31登録)
個々の登場人物及び集団としての人々を様々に重ね合わせた多視点サスペンス。
酔って暴れた男が野方警察署に連行された。その中年男、自称スズキタゴサクが取り調べの中で秋葉原で何かが起こると告げ、同じ頃に秋葉原の空きビルで爆弾が爆発する。男はさらに複数の続きがあると語る。次は一時間後とのこと。爆弾の在りかを特定すべく、警察は男が提案した「九つの尻尾」というクイズゲームに挑むことになる。ここから犯人と警察の知恵比べの構図が浮かび上がり、警察側もそれに対抗できる能力を有する探偵役が登場する。
取調室の中で迫り来るタイムリミットのもとでの、九問のクイズを通じた心理戦が実にスリリング。それと並行して語られる都内各所での警察の捜査活動も緊迫感に満ちていて読み応えがある。さらに爆発を通じてあぶり出される人々の心理、人の価値の判断や人の命の取捨選択は、自分自身の心理として響く。
そのうえで、終盤で突き止められる事件の構図に震撼する。そこまでに語られてきた情報から必然として導かれながらも意外な構図で、衝撃に打ちのめされる。波乱に満ちたサスペンスを愉しみながら、常に自らの内にあるものと向き合うことになる。

No.2 7点 人並由真
(2022/06/24 15:22登録)
(ネタバレなし)
 傷害と器物破損の容疑で逮捕され、野方警察署の等々力功刑事から取り調べを受ける、自称49歳の冴えない男「スズキタゴサク」。彼はもうじき爆発事件があると予告し、その通りの時刻に爆破事件が生じた。警視庁からも捜査一課特殊班捜査係の清宮と類家が野方署に赴き、改めて尋問が続くが、スズキがクイズ形式で情報を小出しにするなか、さらに次の爆弾が市民の被害を招く。この異常な事件の奥にあるものは。

 腰巻にある千街晶之氏によるコピー「この作家は自身の最高傑作をどこまで更新してゆくのだろうか。」がなかなかインパクトある。まるで後期~晩年のロス・マクドナルドへの、アメリカミステリ文壇の評価だ(笑)。

 で、評者がこれまで読んだ呉作品のなかでのベストは、文句なしに反転の強烈さと切れ味の鋭さが光る『ライオン・ブルー』(2017年)なのだが、これはそれに迫る手ごたえ。
 実績の積み重ねで作者自身も5年前よりもずっと多くの支持者、ファンを集めていると思うので、たぶん本作は今年の話題作&優秀作として相応の評価を得るだろう。
 
 どういう方向にストーリーが転がっていくかあまり書いてはいけない種類の作品なので、ここではそんなにものを言えない。
 多様な種類やベクトルのギミックの仕込みも多く、心地よく読者を疲れさせながら、最後まで一気読みさせる秀作。
 小説として叙述のこなれがちょっと良くない印象もないではないが、トータルとしての得点を考えれば十分にオツリがくる出来だ。

 評点は、8点に近いこの点数ということで。

No.1 8点 文生
(2022/05/04 19:55登録)
人を殴って警察に連行された男。
最初は単なる酔っ払いだと軽くみていた刑事たちだったが、彼の予言した時刻に秋葉原で爆弾が爆発したことで色めき立つ。男は、爆発はまだまだ続くと告げ...。

目的も本名もわからない犯人との取調室での駆け引きは手に汗握りますし、犯人がすでに逮捕されているにも関わらず、事態がどんどん悪化していく展開もサスペンス満点です。後半次々と明らかになっていく意外な事実に驚かされ、そのうえ、個性豊かな警察官たちの群像劇としても読みごたえがあります。なにより、和製ジョーカーというべき犯人の存在感が強烈。最初から最後までヒリヒリとした緊張感に満ちた警察小説+サスペンスミステリの傑作です。

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