十戒 |
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作家 | 夕木春央 |
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出版日 | 2023年08月 |
平均点 | 7.09点 |
書評数 | 23人 |
No.23 | 5点 | rosebud | |
(2025/09/10 03:58登録) <ネタバレあり 前作方舟のネタバレも> 率直に言って、最初からこいつが犯人だろうなと思っていた人物が犯人だったので、まあ、そうだろうなと思った。 犯人が最初から分かったというのは、後付けだろうと言われそうだが、これは理論的に説明できる。方舟も犯人は分かったのだが。 警察や探偵のいない素人たちの推理小説では私はまず積極的に推理する探偵役の人物を疑う習性がある。方舟では主人公のいとこであったが主人公と親しくなった女性が終盤で主人公とキスをして、ああこいつが犯人だと思った。意外性というのはそういうものである。ただ、方舟の場合動機が全く分からず、その動機がどんでんがえしの中核だったので衝撃を覚えた。 一方十戒でも当初からいろいろと推理をする主人公に近い立場にある聡明な女性が怪しいと思った、それが最後まで続き、ああそうかという感じで終わってしまった。 これは、この小説の根本的な手法にあると私は考える。 この小説は主人公の一人称で語られるという方式を取っている。しかも、基本的に島に閉じ込められた各人は犯人に部屋からむやみに出てはいけないと命令が課されているので、主人公が各キャラクターと接するのが限られているのである。それで各キャラクターの深堀が出来なくなった。クローズ・サーキットで全員が一つの部屋に入れば一人称も各キャラクターの深堀は出来るが部屋から出てはいけないという設定では各キャラクターのの深堀は不可能である。 つまり、私は初めから主人公に近づき推理そする女性が怪しいと思ったが、それを覆す根拠が何も提示されなかったということである。 |
No.22 | 8点 | ミステリーオタク | |
(2025/08/28 20:35登録) 作者の聖書ワードタイトル作品第2弾。 前作の「方舟」は文庫化が待ち切れず自分としては例外的に単行本で読んだが、本作は今月文庫化されたらしく運良くいいタイミングでそれを知ることができた。(「首無」なんか単行本で読んだ直後に文庫化された記憶がある) 「方舟」にマイミステリ史上屈指の衝撃を受けた自分が「方舟の痛撃の再帰」という宣伝文句を冷静にスルーできる筈もなく天命に感謝して迷わず購入クリック。 読み始めてみれば出だしはウンザリするほどベタシチュな孤島モノ。 しかしやがて見えてくる、登場人物達が到着する前に不審な人物達が如何わしい意図を持って潜伏していた痕跡がある別荘、そして作業小屋やバンガローのとんでもない状態、そんな中で犯人探しの禁止を含めた奇怪な警告文を伴うマーダーが発生・・・と異様な展開を呈し始める。 そして犯人に従わざるを得ない状況下で様々な事態が生じていくが、途中で何度も行われる犯人への御神託伺いは始めこそ不気味だったが段々笑えてきた。作者も段々バカバカしくなってきたのか、やがて「こっくりさん」とだけ表記するようになる。 自分は途中からある人物が犯人であることを確信していたが終盤でそれは作者のミスディレクションにまんまと嵌まっていたものだったことを悟る。それも一筋縄ではいかない形で。 解決編で様々な謎が芋づる式に説明されていくのには納得感が得られたが、靴やクロスボウの件は「そう都合良く、そううまくいくか」とのフィクション感を拭えなかった。が、しかしそれは・・・ 最後に未読の方は読まない方がいいであろう感想を一言。 この話も「方舟」同様、恐るべき頭脳が事件全体を支配していた訳だが、主人公視点による情景描写にはかなりキワドイものもあった。まぁギリギリセーフだと思うが。 いずれにせよ作者は「方舟」に続いて読者に問いかける。神の御前においてこの「選択」は罪になるのか、と。 |
No.21 | 6点 | suzuka | |
(2025/08/18 23:30登録) 都合よく平坦な島があってさらに満遍なく爆弾が設置されていて爆発したら全員死にます…というのがいかにも作者都合が透けて見えてどうかなと。 前作のようなインパクトも無いので少々期待外れでしたが、普通のクローズド・サークル作品としてはそこそこ面白かったです。 |
No.20 | 6点 | バード | |
(2025/08/11 13:43登録) (ネタバレあり) 残念ながらノックスの十戒を意識させるタイトルから感じられるワクワク感を超えられなかった。 個人的に構成面に問題があったと思う。以下にしっくりこなかった点を示す。 <しっくりこなかった点> 1犯人ではない里英視点で進むのに、不自然に心情が隠されている点 >手記形式や犯人視点でないのだから、心情描写であのことに触れない理由が無い。単に読者を欺くための手法になってしまっている。 2十戒のせいで捜査を出来ない状況が、ミステリ小説の形式とかみ合っていない >ミステリ読者は、謎を楽しみながら読むものだが、例の十戒のせいで読者も事件の手がかりをほとんど得られないのがよろしくない。読者への撒き餌となる謎が少なすぎて、一般的なミステリの楽しみ方が難しい不親切な構成となっている。 3探偵役不在 >本作には探偵役がおらず、犯人に抗える人物が不在であった。その結果、犯人の優秀さが伝わりづらい書き方になってしまっていた。『方舟』の翔大郎って必要だったんだなあと。相変わらずロジカルなthe犯人さんは素晴らしいの一言ですが。 (余談) 極力『方舟』とは比較しないように、読んでたつもりだが、どうしても 「勝手に作品を好きになって、期待して、それでがっかりすることが多いんだよね。」 となってしまいますね。勝手にハードル上げるのが悪いのですが。。。 |
No.19 | 8点 | よん | |
(2025/07/28 14:27登録) 舞台はリゾート開発の視察で訪れた孤島。参加者九人のうち一人が殺害された翌朝、犯人が残した「十戒」には「三日間、殺人犯の正体を探ってはならない」というルールが示される。違反すれば島全体の爆弾が起動するため、登場人物たちは犯人への忖度と監視状態に追い込まれる。 ミステリなのに謎解きができないという逆説が生む心理的圧迫感が作品の核となっており、犯人を探す本能とルール違反への恐怖の狭間で、読者も登場人物と同化した焦燥感を体験することとなる。 被害者と加害者の共犯関係という倫理的な曖昧さを突く作品で、強い緊張感と新鮮な読後感をもたらす作品。 |
No.18 | 4点 | たかだい | |
(2024/12/20 07:48登録) 犯人を見つけてはならない。島を出てはならない。30分以上人が集まってはならない。外部に事態を漏らしてはならない。etc. 島を吹き飛ばす大量の爆薬を盾に10のルールを課されるメンバー達。そして、メンバーが1人、また1人と殺されていく… あらすじ的には満点に近いサスペンス小説として、前作「方舟」の事もあって期待は大きかったのですが、正直期待し過ぎたかもしれません 作中そこそこの緊迫感はあるものの、その真相はちょい肩透かし感がありました 大筋の流れは納得出来るし面白いと思うのですが、(私の読解力の問題かも分かりませんが)結局何だったの?って箇所もあって、結末にモヤモヤ感が残りました とりあえず孤島に爆弾という舞台装置だけ整えて、それ有りきのストーリー展開って感じが拭えなかったです |
No.17 | 5点 | いいちこ | |
(2024/08/15 16:01登録) この作品も真犯人に意外性が感じられないが、これは作品のプロットそのものに起因する問題。 つまり本格ミステリとして堅牢性に乏しい、ユルユルの造りにしているから、誰でも犯人にできるような印象を受ける。 本作をフェアネスという点から問題視する向きもあるようだが、そこは減点しておらず、また一旦読了したうえで、2周目の読書が面白いという評価もあるようだが、そこは評価対象としていない |
No.16 | 9点 | zuso | |
(2024/06/18 22:12登録) 殺人犯を見つけてはならない。それが犯人から課された戒律。破られた場合、離島内の起爆装置が作動、全員の命が失われる。 戒律が課せられることにより、これまで無かったようなクローズドサークル化させている。 ラストの衝撃度は前作の「方舟」に譲るが、舞台設定はこちらの方が好み。また「方舟」との繋がりも隠されていて、作者のサービス精神も感じた。 |
No.15 | 7点 | 鷹 | |
(2024/05/12 08:49登録) 「方舟」に比べて真相にそれほど驚きはなかったのですがラスト2ページの文章にモヤモヤ感がありました。 ネットでネタバレを確認して納得しました。 「方舟」を先に読むことをお勧めします。 |
No.14 | 7点 | hsiyehmeipo | |
(2024/05/05 03:52登録) 読んでいる時に違和感は感じるものの、その違和感がどう回収されるか回収されるまで全然わからなかったし、驚きがあり面白かった。 その上にさらにもうひとびっくりあり、そちらも最初気づかなかったが、ネットの解説を読んで理解できたくらいだったが、それも面白かった。 |
No.13 | 8点 | ALFA | |
(2024/04/18 17:24登録) 大ヒット作に続く「旧約聖書」シリーズ第二作。それにしてもクローズドサークル二連発とは大胆な。 今回は登場人物の描き分けも的確で、落ち着いて展開を味わえる。 終盤、緻密なロジックで開示されたあげくの反転は見事。こちらは情が絡まない分、好ましい。 そして「・・・いっつも、自分が助かることしか考えてないかも。」ウーンこの趣向、嫌いではない・・・ 考えようによっては今回の方が大技かも。 曖昧な書きようだが、そういえば何かが奥歯に・・・ ウ~ン高評価。 |
No.12 | 8点 | パメル | |
(2024/04/02 19:41登録) 主人公の里英は、リゾート施設を開業することになった伯父が所有していた枝内島を、父や不動産屋などの関係者たちと総勢9名で視察に訪れる。しかし、島内の視察を終えた翌朝、一人の死体が発見される。そして十の戒律が書かれた紙が置かれていた。この島にいる間、殺人犯が誰かを知ろうとしてはならない。守れなかった場合、島内の爆弾の起爆装置が作動し、全員の命が失われる。こうして十戒に従う三日間が始まる。 まず、殺人犯を見つけてはならないという、ミステリを真っ向から否定するような設定がいい。その他、犯人とある物を使ってコミュニケーションを図ったり、クローズド・サークルにも関わらず電波は良好で、家族とも連絡を取れる状態というのは、今まで読んだことがない新しさがある。この人工的な閉鎖環境(心理的クローズド・サークル)で連続する殺人は実にスリリング。お互いに「絶対に犯人を探すなよ」と思っているし、犯人に対しては「絶対にミスを犯すなよ」と思っている。集団心理として牽制し合う設定が絶妙。そして、殺人が起きる度に、犯人が残した痕跡を消しながら犯人の手掛かりがないことを願うという、全員が共犯者であり連帯責任者というところが、他のミステリでは味わえない面白さがある。 完璧と思えるロジックで謎は解き明かされるが、真相が喝破されたと思われたその先にどんでん返しが待っていた。やはり一筋縄ではいかない。「方舟」に比べると衝撃度は落ちるが、またも絶望感を味わえ満足。 聖書に関するタイトルが続いたが、次のタイトルは何だろうと今から興味津々である。 |
No.11 | 7点 | take5 | |
(2024/01/13 16:53登録) 300ページに全く足らないから あっという間に読めるタイパ作品。 3時間に全く至らないで読了。 もしも、、、 この作品が「方舟」の前に書かれていたら 「方舟」がシンプル過ぎると言われてしまう そんな感じがします。 やはり前作の衝撃は 後の作品評価に影響しますね。 この作品では「そして誰もいなくなった」への オマージュや プロットの精巧さが感じられて好ましいのですが 爆弾という設定が 精巧さと合っていないかなあとも思います。 すみません私見です。 唯一衝撃的と言えるのが ある登場人物の台詞 好きになって、期待して、がっかりした人 というくだり、 やはりこの作品は 「方舟」の後に書かれるべき作品という事です。 怖すぎる、、、 |
No.10 | 8点 | まさむね | |
(2023/12/30 09:24登録) 衝撃度という点だけで見れば昨年の「方舟」に及ばないものの、この作品も相当に良質な本格作品。犯人とコミュニケーションがとれる「孤島モノ」の設定が秀逸だし、足跡のロジックも好印象。ラストも、最初は〝違和感〟レベルであったけれど、気づけばなるほど、なるほど。これも印象深い。 |
No.9 | 6点 | レッドキング | |
(2023/12/09 07:36登録) これも面白かった。 「方舟」「十戒」ときて、次は、「原罪」「預言」あるいは 「黙示」ってあたりか・・・ ※2日後追記。なんか「方舟」と同じ匂いが・・思ってたら・・おおサーガ!(ここの諸兄の評読んでナットク(^.^)) |
No.8 | 7点 | 虫暮部 | |
(2023/11/10 15:56登録) キャラクターが一人一人きちんと別の人になっていて、この立場でこれを知っている人ならそういう風に動くよな~、と言った部分がしっかり押さえてある。読み返すとまた面白かった。 『方舟』と似てるな~と、つい余計なことを考えてしまう。しかも、タイトルに共通性を持たせたせいで、実際以上に類似性が強調されてない? 最後の最後に出て来るサプライズ、実は他の方の書評を読むまで全然気付かなかった。でも “あー成程ね~” と言った、オマケ程度の印象しかない。 現時点では、せっかくの良作につまらない悪戯を加えている、と言う気もする。いずれ壮大なサーガになるんだろうか? あと細かいことだが、“犯人が、足跡から特定されるのを防ぐ為に、大股で歩く”。 厳密に言えば、小股なら誰でも出来るが大股は人によって限界が異なる。“自分はこんなに大股では歩けない” と言う者がいたら(言っちゃまずいけど)容疑者から除外されてしまう。 |
No.7 | 9点 | 人並由真 | |
(2023/09/28 04:19登録) (ネタバレなし) 面白いとかつまらないとかいう以前に、画期的なヒット作がひとつ出ると、送り手は柳の下の泥鰌を周囲から要求されるんだろうなあ、というのが第一印象。 それくらい今回の大設定には<クライシスもの+フーダニットパズラー路線>という、そうそう続投できるわけでもなかろうものを、むりやりまた仕立て上げた強引さを感じ、いささかシラけた気分もあった。 とはいえ一方で、そんなヤワな見定めに留まる作品でもないだろうという期待もあったので(この辺、かなり勝手な受け手である)、中盤の展開から少しずつ居住まいを正しながら読み進めたら、クライマックスはさすが! の歯応えだった。 しかし何といっても、最高なのはラストに浮かび上がる、あの趣向であろう。 小説そのほかのフィクションは、作者の思い付きの着想をとにもかくにも形にすることから、まずそこにロマンの萌芽が生じると思うが、これはそんな趣向・アイデアがものの見事に華開いた仕上がり。 しかしほんのわずかも、モノを言いにくい趣向で仕掛けだな。 この最後の大技で、この評点。 |
No.6 | 7点 | sophia | |
(2023/09/04 22:25登録) ネタバレあり タイトルを「百戒」に改めてほしいんですけど(笑)それはさておき。「方舟」とは違い、最後のどんでん返しがあまり効いていません。最初の解決で終わっていても、この作品の評価に変化はそう生じないと思うのです。「十戒」というテーマもあまり活かされていません。読み終わって「十戒」の内容を思い出せる人はあまりいないでしょう。なぜそのような条項を入れたのかというような謎があったりするとよかったんですかね。それとアリバイに関する記述がフェアなのかどうかはこの作品の問題点だと思われます。 追記 上記を書いた後しばらく考えていて気付きました。そういうことだったんですね。なぜ主人公以外は苗字しか出さないんだろうという地味な疑問がずっとあったんですが納得しました。しかしそれはあくまでプラスアルファの部分であって、分かったからと言って点数をプラスするには及ばないかなあと判断します。 |
No.5 | 8点 | mozart | |
(2023/08/30 17:47登録) 特殊な設定というか犯人のルールが秀逸で3日間とは言えなかなか緊張感の持続するストーリー展開で最後まで一気読みできました。謎解き部分でそれまでにさりげなく記載されていた伏線を回収していくロジックも極めて明快で十分納得させられました。少し余韻を残したラストも気になります。 確かに正当防衛にはならず「犯罪」になってしまうのでしょうが、その犯行動機も十分に理解できたし。ていうか他に選択肢はないような……。 |
No.4 | 7点 | HORNET | |
(2023/08/27 20:44登録) 浪人中の里英は、父、そしてリゾート施設を開業するため集まった7人の関係者たちと共に、亡くなった伯父が所有していた枝内島を訪れた。ところが、狭い島に設えられた建物の中にはぎっしりと爆弾が。視察も早々に、翌朝島を発とうとしていた一行だったが、翌朝、不動産会社の社員の死体が発見された。さらにそこには、犯人が書いた十の戒律が書かれた紙片が。「殺人犯を見つけてはならない。見つけようとしなければ、お前たちは無事に帰れる」―それが、わたしたちに課された戒律だったーー 孤島、集められた数人の人間、限られた期間は出られない状況…手あかのついた設定ではあるが、令和の時代にこの手で来るからには発想・仕掛けがあるんでしょ?って気になるよね。そして今回の手は「犯人を捜そうとしなければ、全員無事に帰れる」という設定。なるほど。また目の付け所が面白い。 とはいえ、(犯人の欲求があるため)おおっぴらに推理はしないものの、主人公を中心とした近しい存在では「犯人捜し」が行われる。まぁそうしなきゃ物語が進まないからね。 1日、1日と犠牲者が増えていくという展開は、ベタではあるけどある意味「期待通り」。一つ一つの殺人で少しずつ残されていく「違和感」を手掛かりに真相に迫っていく筋道は普通に王道だったし、普通に面白かった。 ラストのどんでん返しは…まぁミステリ読みには予想の範疇。ただ前年の「方舟」からかなり期待値が上がる本作だろうけど、自分としては結構期待に応えてくれる出来だったと思う。 |