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ミステリの祭典

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いいちこさんの登録情報
平均点:5.67点 書評数:541件

プロフィール| 書評

No.541 4点 クドリャフカの順番
米澤穂信
(2024/11/10 18:10登録)
青春小説として、それなりに読ませる作品ではある。
ただ、リアリティや必然性の呪縛がほとんどないライトノベルのようなテイストになっているから、著者が落としどころを自由自在に選べるという意味で、ミステリとしてはユルユルのつくりであり、これを楽しめるかどうかは読者次第。
批判的な立場をとるつもりは毛頭ないのだが、私の嗜好には全くあっておらず、この評価


No.540 4点 プラチナデータ
東野圭吾
(2024/10/28 14:17登録)
まずもって、DNA捜査システムをはじめ、作中に登場するさまざまなガジェットの解説がきわめて粗雑であり、構想・考証があまりにも不十分であると感じる。
そのうえ、叙述・描写が全般に雑で粗いから、リーダビリティが高い反面、作品全体として非常に安っぽい、稚拙な印象が否めない。
明かされた真相は、確かにさまざまな謎を一刀両断にするものだが、意外性には乏しく、犯人は、特殊解析研究所のセキュリティを考えれば、半ば自明というべきもの。
代表作に見られる著者の構想力・筆力は見る影もなく、もはや何を書いてもベストセラーになる状況のなか、作品が粗製乱造されつつあり、本作もその1つのように感じられ、非常に残念。
それなりにボリュームはあっても、カンタンに読めてしまう、2時間サスペンスドラマのような読後感は、西村京太郎の晩年の作品に酷似している


No.539 6点 慟哭
貫井徳郎
(2024/10/23 16:31登録)
デビュー作としては出色のデキ。
ただ、フェアプレイを徹底しすぎているあまり、一世一代のメイントリックは途中で完全に看破することが可能。
そうなると主人公の激しい変貌ぶりに強い違和感が否めない。
取り扱っているテーマの重さ・暗さ、主人公の異様な行動に対し、叙述のタッチがスマートすぎることも相まって、主人公の激しい変貌ぶり、堕ちていくさまを説明・納得させるだけの熱量・迫力に欠けている。
結果、ミステリとしてはよくできているものの、読物として読者の心に訴えるものが弱い。
6点の中位


No.538 3点 叙述トリック短編集
似鳥鶏
(2024/10/02 16:05登録)
「叙述トリック」という用語に確立された定義は存在しないのかもしれないが、本作のなかには一般に「叙述トリック」と解されていない作品が含まれているのではないか。
また、著者は「『叙述トリックが仕掛けられている』と宣言することで、フェアといえる」と述べているが、仮に叙述トリックの存在が明かされたとしても、その内容や配された手がかりの量・質によっては、必ずしもフェアとはいえないのではないか。
作品を楽しむ以前に、本作の立ち位置、拠って立つ考え方そのものに強く違和感を感じた。
作品の内容そのものも「背中合わせの恋人」以外は、到底水準に達しているとはいえず、この評価


No.537 5点 新 謎解きはディナーのあとで
東川篤哉
(2024/09/24 14:23登録)
非常に低調なデキであった前作から一転して、本格度をかなり回復したように感じられる。
反面、執事の毒舌は洗練を失って、丁寧な暴言という印象になっており、結果として通常の安楽椅子探偵ミステリに近づきつつある。
いかにも小品であるがゆえに、これ以上の評価は難しいが、気軽な読書のお供として悪い作品ではない


No.536 3点 彼女は存在しない
浦賀和宏
(2024/09/23 17:22登録)
多重人格というガジェットを活用すれば、いかようにでも荒唐無稽なストーリーが創作できるが、それに読者が感嘆する訳ではなく、そもそも地の文がすべて信用できないという重大な副作用を招くだけ。
それでいて、予定調和というか、読者が想像する範囲内の真相。
多重人格を登場させた時点で、とりうる選択肢が限られているとはいえ、正直に言ってもう少しがんばってほしかった。
4点または3点で悩んだ末に、本作に対してやや批判的な立場から、3点の最上位とした


No.535 4点 逆ソクラテス
伊坂幸太郎
(2024/08/15 16:02登録)
取り扱っているテーマに目新しさがないうえに、あまりにも踏み込みが浅いので、大人の心に何かを残すレベルには達していない。
あまり批判的な立場に立つべき作品ではないし、そんなつもりもないのだが、いかにも小品という印象が強く、4点の上位


No.534 5点 十戒
夕木春央
(2024/08/15 16:01登録)
この作品も真犯人に意外性が感じられないが、これは作品のプロットそのものに起因する問題。
つまり本格ミステリとして堅牢性に乏しい、ユルユルの造りにしているから、誰でも犯人にできるような印象を受ける。
本作をフェアネスという点から問題視する向きもあるようだが、そこは減点しておらず、また一旦読了したうえで、2周目の読書が面白いという評価もあるようだが、そこは評価対象としていない


No.533 4点 忌名の如き贄るもの
三津田信三
(2024/08/15 16:00登録)
意外な真犯人像を追求しすぎて、却って意外性が感じられないという点が最大の難点。
そのうえで、犯行のフィージビリティは低いというより、やや無理を感じるし、真相を解明・補強するために必要な手がかりの配置という点でも不満が残る。
4点の下位


No.532 6点 さらば長き眠り
原尞
(2024/06/24 17:09登録)
本作の全編にわたってタバコが登場するが、火を付けるライター・マッチの音、煙の匂いまでが漂ってくるような筆致から、著者の文筆家としての力量の高さは疑い得ない。
探偵の捜査プロセスを丹念に追うプロットには好感がもて、提示された謎のすべてに合理的な説明が与えられており、非常によくできたハードボイルド作品と評価したい。
ただ、きわめて高い世評、すなわちオールタイムベスト級の傑作というほどの印象は受けなかった


No.531 8点 方舟
夕木春央
(2024/05/31 17:55登録)
すでに各所で散々批評されているとおり、叙述そのものは、文筆家としてあまりにも稚拙・拙劣と言わざるを得ない。
それゆえに、特殊きわまる舞台設定・状況にもかかわらず、緊迫感・リアリティがまるでなく、違和感だけを感じる読書が続く。
一方、終盤で展開される探偵による真相解明は、非常に堅牢かつロジカルで、よくできている。
そして、エピローグで明かされる真相は、近年まれに見る抜群の奇想。
以上のとおり毀誉褒貶が非常に激しい作品だが、これらを総合すると「きわめてよくできたライトノベル」というような印象を受けた。
8点の下位としたい。
この内容で平均的な作家が執筆していれば、さらに高い評価としたことは間違いない


No.530 4点 赤い霧
ポール・アルテ
(2024/05/16 14:59登録)
犯行プロセスにフィージビリティが感じられず、かつ密室・消失トリックにもほとんど見るべきところがない。
切り裂きジャックの正体についても、序盤から示される伏線、犯人と思しき人物によるゴシック体の独白等により、半ば明らかであり、かつアイデアそのものに目新しさがない。
あとは、この奇妙な味わいのプロットをどのように評価するかが焦点であるが、消化不良というか、あまり練られていない印象が強く、4点の最下層と評価


No.529 7点 レイトン・コートの謎
アントニイ・バークリー
(2024/05/05 17:13登録)
本作の直後に執筆した「毒入りチョコレート事件」において、多重解決ものとして結実した著者の信念、すなわち物的証拠といえども、さまざまな解釈が可能であり、人間心理の洞察こそが重要という考え方が強く投影している作品。
したがって、個々の手がかりに対する探偵の推理には鋭さが感じられるのだが、それが容易に決定打とはならず、試行錯誤を繰り返す過程が、平易な叙述と相まって実に読ませる。
作品全体を貫く、明るい、ユーモアに満ちた雰囲気にも好感がもてる。
明かされる真犯人は、登場人物が少なく、また与えられた手がかりから、現代の読者にとっては意外性が感じられないものの、執筆当時とすれば相当に衝撃的な設定であったろう。
犯行プロセスのフィージビリティに若干の苦しさを感じるものの、全体に好意的に評価できる佳作


No.528 5点 化石少女と七つの冒険
麻耶雄嵩
(2024/05/05 17:11登録)
いくつかの先行作と同様に、既存のミステリの枠組みに挑戦する野心的な作品。
その心意気は大いに買うのだが、それが作品の面白さにストレートにつながっていない。
本作の立ち位置を批判するつもりはなく、むしろ好感がもてるのだが、どの短編にしても、プロットの作りこみが緩いので、著者の匙加減一つで、いかようにでも着地できるという印象が強く、この評価


No.527 6点 死の扉
レオ・ブルース
(2024/04/22 15:01登録)
事件後における犯人の不用意な言動等には違和感を感じるものの、プロットがそれらを巧みに隠蔽している。
その骨格は現代の読者には既視感があるものの、二人の被害者の人物設定や犯行の状況が絶妙で、非常に強力なミスリードとして機能している。
与えられた解決は、死体の移動や「右足を引きずる男」の謎を十全に説明するもので納得感がある。
単調な真相解明プロセスを退屈させないユーモアも感じられ、水準以上の作品と評価


No.526 5点 奇想ミステリ集
山田風太郎
(2024/03/31 16:53登録)
ミステリというより、ダークなテイストで、ツイストを効かせた短編小説集という印象。
前半の作品群は、それなりの水準にあるものの、後半はやや平凡というか、いかにも小品に映る。
ただ、これが作品そのものの出来・不出来によるものか、似たような球筋の変化球を見続けたことによるものかは、判然としない。
解説によると、本作の出版時点で絶版となっていた作品を集めたという経緯のようで、著者の代表的な作品群には、一歩も二歩も及ばない。
ただ、それでもこの水準にあるというのは評価されるべきであろうし、とくに当時の風俗を鮮やかに描き出す筆力はさすがの冴え。
5点の最上位


No.525 4点 霧と雪
マイケル・イネス
(2024/03/03 17:28登録)
すでに、さまざまなサイトで多くの読者に評されているように、翻訳があまりにもひどすぎる。
典型的な英語直訳調で、平素慣れ親しんでいる日本語の構文と、あまりにもかけ離れているから、筋が頭に入ってこない。
読みにくい文章を追っているうちに、集中力を失い、ミステリを楽しむという心境ではなくなっていった。
本作に対する正当な評価ではないことは重々承知しているが、この評価とせざるを得ない


No.524 5点 魔眼の匣の殺人
今村昌弘
(2024/02/24 16:25登録)
これほどまでに特殊な前提が設定されると、その解決に対し、当方のハードルが自然と上がってしまうところ、プロットそのものがいま一つで、それを華麗に超えたとは到底言い難い。
犯行動機にせよ、犯行の態様にせよ、著者の筆力の低さも相まって、説得力を欠いており、それを成立させるために少なくないご都合主義的な設定が置かれている点でも減点。
細部にわたって考え抜かれている点は伝わってくるものの、高く評価することは難しい


No.523 5点 顔のない敵
石持浅海
(2024/02/08 15:33登録)
各短編とも、それなりに考えられているのだが、少しずつ違和感や無理を感じ、完成度としてはいま一つ。
4点も頭をよぎったものの、それほど批判的なスタンスに立つべき作品でもなく、5点の下位


No.522 7点 背徳のメス
黒岩重吾
(2024/01/26 12:59登録)
ミステリとしては、いかにも小品であるが、サスペンス?ハードボイルド?としてとにかく読ませる。
昭和30年代の時代背景・風俗に加え、そこに暮らす人々の息遣いさえも伝える、生活感にあふれた描写と、乾いた筆致が実に見事。
本サイトの趣旨に照らし、これ以上の評価は難しいが、直木賞受賞作という宣伝文句に恥じない佳作

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