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ミステリの祭典

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いいちこさんの登録情報
平均点:5.68点 書評数:552件

プロフィール| 書評

No.552 5点 君のクイズ
小川哲
(2025/05/16 12:34登録)
以下、ネタバレを含みますので、ご留意ください。

冒頭に提示された謎は非常に不可解で、魅力的である。
それに論理的に解が与えられているが、全く面白くない。
どういうことか。

なぜ、ゼロ文字押し、すなわち問題が読み上げられる前に、解答することができたのか。
それは問題が読み上げられる前に、問題を特定できたから。
それは当該クイズ大会の出題者をよく知っていて、その出題傾向が事前に予測できたから。
そのうえで、問い読みが読み上げ直前に口を閉じたことで、1文字目が両唇音であることが確定し、問題を特定できたから。

最大の謎は、対戦相手が回答できないことが確実である以上、もっと問題を聞いてから回答すればよいのに、なぜゼロ文字押しをしたのか。
それは本大会をもって引退する決意を固めていて、仮に間違えたとしても、注目されればよいと思っていたから。

確かにきわめて論理的に説明できている。
しかし、全く面白くない。
真相が当然すぎて、何の意外性もない。

本作はミステリとして成立している。
ただ、密室殺人を「部屋の外から針と糸でカギをかけました」と説明する式の、ミステリである。

プロットの着想と、ミステリとしての筋のよさで加点し、サプライズが皆無の真相を大きく減点して、5点の最下層


No.551 8点 ジャッカルの日
フレデリック・フォーサイス
(2025/05/14 14:33登録)
読みたい書籍が常に山積みになっているので、一度読んだ書籍を再読するということは基本的にないのだが、今般、本サイトで本作を評価するために、十数年ぶりに再読した。
犯行プロセスが全体として合理的でリアリティがあり、描写がきわめて緻密であること等と相まって、抜群のリーダビリティを生んでいる。
このボリュームで犯人特定に至る必要があるため、警察が万能すぎる、すなわちしらみつぶし的な捜査の進行が速すぎる点や、警察サイドに有利なご都合主義が散見されるのは事実。
ただ、それをハニートラップによる捜査情報の漏洩で、犯人サイドに有利になるようにリバランスするなど、1個の読み物としてとにかくよくできている。
初読時と同様に、サスペンス、スリラーの世界で、オールタイムベスト候補として名を連ねて不思議ない作品という印象を受けた


No.550 6点 ホテルローヤル
桜木紫乃
(2025/05/13 14:32登録)
ラブホテルという異例の舞台設定を活かしきったプロット、作風の赤裸々さとは裏腹に、それを感じさせない乾いた筆致・読後感等、筆力の高さは明らか。
本サイトではこれ以上の評価は難しいものの、好意的に評価


No.549 7点 サーカスから来た執達吏
夕木春央
(2025/05/02 11:58登録)
ご都合主義的な展開や、細部における無理・アラ等、ミステリとしての完成度には難があるものの、真相が明かされることで、構図が鮮やかに反転するプロットを高く評価したい。
そして何より、大正時代という舞台設定、ユリ子のミステリアスな魅力を活かしきったストーリーテリングに、作者の確かな力量を感じる。
ミステリとしてはともかく、一個の読み物としては、既読の「方舟」「十戒」よりはるかに上。
全体として好意的に評価できる佳作


No.548 6点 一次元の挿し木
松下龍之介
(2025/04/24 17:45登録)
冒頭に提示される謎の不可解性、ストーリーテリングの巧みさ等、群を抜いて光るところがあり、強烈な求心力をもった作品。
ただ、登場するガジェットがことごとくチープで、明かされた真相にリアリティ・納得感がない。
デビュー作としては出色のデキであり、今後に期待したいところ


No.547 4点 ローマ帽子の秘密
エラリイ・クイーン
(2025/04/14 18:28登録)
本作のほぼ全編が「帽子がなぜ、どのように消えたのか」という謎の解明に費やされるのだが、それ自体にまるで魅力が感じられない。
犯人特定プロセスのロジックも万全とは言い難く、何より特定する証拠が提示されない。
後年の代表的な作品群に比べれば、あらゆる面で格段に見劣りすると言わざるを得ない。


No.546 8点 絶叫
葉真中顕
(2025/02/18 15:06登録)
生命保険業界の機関運営、生活保護ビジネスの実態等が取り上げられているが、とりわけ前者は、約20年前の実態に非常に近いさまが描かれており、丹念な取材の跡が伺われる。
こうした社会問題の描写を通じ、現代社会における個々人の疎外感が巧みに表現されており、社会派ミステリとして相当な水準に達している。
明かされた真相は、現代ミステリを渉猟している読者であれば、想定の範囲内であるが、独特の人物視点とあわせて考えれば、そのプロットの妙を称賛せざるを得ない。
そして何より筆力の高さ、すなわち登場人物の造形の細やかさ、心理描写の巧みさ、それらが読者の共感を呼び起こすことに成功している。
それゆえ、それなりに長尺の作品であるものの、とにかく読ませる、一気読み。
久々のヒット作というところ


No.545 5点 白ゆき姫殺人事件
湊かなえ
(2025/02/17 12:52登録)
関係者の証言(独白)だけで全編が構成されるという異色の作品であるが、それでも読者を惹きつける吸引力をもっている。
これはプロットが、人間の認識の相対性・いい加減さ・自己中心性や、人間の悪意を描くという点で明確であること、そして著者の筆力の高さゆえだろう。
ただ、ミステリとしては納得感が低い、というより、著者がミステリを意図して執筆した作品ではない。
本サイトではこの評価とするが、一読の水準には達している


No.544 4点 ブラウン神父の不信
G・K・チェスタトン
(2025/01/30 17:48登録)
とにかく翻訳がキツい。
構文が現代的な日本語とかけ離れているうえ、指示代名詞が著しく多用されるなど、英語翻訳調で、中身が頭に入ってこないまま、結末を迎えてしまう。
原文がそもそも難解という評価もあり、訳者の責のみに帰する訳ではないかもしれないが、いずれにしても快適な読書にはならなかった。
本作の評価として妥当性を欠くということは認識したうえで、読後感に正直にしたがって、この評価


No.543 7点 チェーン・ポイズン
本多孝好
(2025/01/06 16:36登録)
プロットにかなりの無理を感じるうえ、トリックは相当に既視感が強いものであり、ミステリとしては水準程度の評価。
ただ、本作に込められた問題認識やメッセージに強く共感を覚えてこの評価


No.542 5点 正欲
朝井リョウ
(2024/12/30 16:32登録)
著述は、情感過多というか、いかにも拙劣で、経験不足の若い文筆家が書いた文章というカンジ。
ダイバーシティが広く浸透するなかで、認知・承認されないマイノリティに目を向けた、テーマ設定の妙は評価するが、ここまで激賞されるべき作品とも思えない


No.541 4点 クドリャフカの順番
米澤穂信
(2024/11/10 18:10登録)
青春小説として、それなりに読ませる作品ではある。
ただ、リアリティや必然性の呪縛がほとんどないライトノベルのようなテイストになっているから、著者が落としどころを自由自在に選べるという意味で、ミステリとしてはユルユルのつくりであり、これを楽しめるかどうかは読者次第。
批判的な立場をとるつもりは毛頭ないのだが、私の嗜好には全くあっておらず、この評価


No.540 4点 プラチナデータ
東野圭吾
(2024/10/28 14:17登録)
まずもって、DNA捜査システムをはじめ、作中に登場するさまざまなガジェットの解説がきわめて粗雑であり、構想・考証があまりにも不十分であると感じる。
そのうえ、叙述・描写が全般に雑で粗いから、リーダビリティが高い反面、作品全体として非常に安っぽい、稚拙な印象が否めない。
明かされた真相は、確かにさまざまな謎を一刀両断にするものだが、意外性には乏しく、犯人は、特殊解析研究所のセキュリティを考えれば、半ば自明というべきもの。
代表作に見られる著者の構想力・筆力は見る影もなく、もはや何を書いてもベストセラーになる状況のなか、作品が粗製乱造されつつあり、本作もその1つのように感じられ、非常に残念。
それなりにボリュームはあっても、カンタンに読めてしまう、2時間サスペンスドラマのような読後感は、西村京太郎の晩年の作品に酷似している


No.539 6点 慟哭
貫井徳郎
(2024/10/23 16:31登録)
デビュー作としては出色のデキ。
ただ、フェアプレイを徹底しすぎているあまり、一世一代のメイントリックは途中で完全に看破することが可能。
そうなると主人公の激しい変貌ぶりに強い違和感が否めない。
取り扱っているテーマの重さ・暗さ、主人公の異様な行動に対し、叙述のタッチがスマートすぎることも相まって、主人公の激しい変貌ぶり、堕ちていくさまを説明・納得させるだけの熱量・迫力に欠けている。
結果、ミステリとしてはよくできているものの、読物として読者の心に訴えるものが弱い。
6点の中位


No.538 3点 叙述トリック短編集
似鳥鶏
(2024/10/02 16:05登録)
「叙述トリック」という用語に確立された定義は存在しないのかもしれないが、本作のなかには一般に「叙述トリック」と解されていない作品が含まれているのではないか。
また、著者は「『叙述トリックが仕掛けられている』と宣言することで、フェアといえる」と述べているが、仮に叙述トリックの存在が明かされたとしても、その内容や配された手がかりの量・質によっては、必ずしもフェアとはいえないのではないか。
作品を楽しむ以前に、本作の立ち位置、拠って立つ考え方そのものに強く違和感を感じた。
作品の内容そのものも「背中合わせの恋人」以外は、到底水準に達しているとはいえず、この評価


No.537 5点 新 謎解きはディナーのあとで
東川篤哉
(2024/09/24 14:23登録)
非常に低調なデキであった前作から一転して、本格度をかなり回復したように感じられる。
反面、執事の毒舌は洗練を失って、丁寧な暴言という印象になっており、結果として通常の安楽椅子探偵ミステリに近づきつつある。
いかにも小品であるがゆえに、これ以上の評価は難しいが、気軽な読書のお供として悪い作品ではない


No.536 3点 彼女は存在しない
浦賀和宏
(2024/09/23 17:22登録)
多重人格というガジェットを活用すれば、いかようにでも荒唐無稽なストーリーが創作できるが、それに読者が感嘆する訳ではなく、そもそも地の文がすべて信用できないという重大な副作用を招くだけ。
それでいて、予定調和というか、読者が想像する範囲内の真相。
多重人格を登場させた時点で、とりうる選択肢が限られているとはいえ、正直に言ってもう少しがんばってほしかった。
4点または3点で悩んだ末に、本作に対してやや批判的な立場から、3点の最上位とした


No.535 4点 逆ソクラテス
伊坂幸太郎
(2024/08/15 16:02登録)
取り扱っているテーマに目新しさがないうえに、あまりにも踏み込みが浅いので、大人の心に何かを残すレベルには達していない。
あまり批判的な立場に立つべき作品ではないし、そんなつもりもないのだが、いかにも小品という印象が強く、4点の上位


No.534 5点 十戒
夕木春央
(2024/08/15 16:01登録)
この作品も真犯人に意外性が感じられないが、これは作品のプロットそのものに起因する問題。
つまり本格ミステリとして堅牢性に乏しい、ユルユルの造りにしているから、誰でも犯人にできるような印象を受ける。
本作をフェアネスという点から問題視する向きもあるようだが、そこは減点しておらず、また一旦読了したうえで、2周目の読書が面白いという評価もあるようだが、そこは評価対象としていない


No.533 4点 忌名の如き贄るもの
三津田信三
(2024/08/15 16:00登録)
意外な真犯人像を追求しすぎて、却って意外性が感じられないという点が最大の難点。
そのうえで、犯行のフィージビリティは低いというより、やや無理を感じるし、真相を解明・補強するために必要な手がかりの配置という点でも不満が残る。
4点の下位

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