いいちこさんの登録情報 | |
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平均点:5.68点 | 書評数:570件 |
No.570 | 5点 | タイムマシン ハーバート・ジョージ・ウェルズ |
(2025/10/01 10:23登録) 社会主義に傾倒していたとされるウェルズの政治観が非常に強く反映していて、SFというより、そのフォーマットを使った風刺小説という印象が強い。 とくに、肉体も知能も退化したエロイ族が享楽的な生活を送っているさまは、労働から解放され、優雅に暮らす資本家階級の無気力・退廃を揶揄しているようにとれる。 本作の位置づけ・意義は別にして、SF・ミステリとしてはこの程度の評価にとどめたい |
No.569 | 6点 | アヒルと鴨のコインロッカー 伊坂幸太郎 |
(2025/09/30 10:03登録) 乾いた筆致や、メタファーの使い方から「村上春樹に似ている」と感じた。 ネットを渉猟したところ、やはりそのような評価が多いらしい。 物書きとしての実力の高さは疑い得ない。 本作はミステリとして、私の嗜好に外れているものの、水準には達していると評価 |
No.568 | 7点 | 白い僧院の殺人 カーター・ディクスン |
(2025/09/19 15:35登録) 冒頭に示された不可解状況を一刀両断にする、シンプルだが、意外な真相で、世評に違わぬ作品。 レッドへリングとして配された2つの仮説も大きな効果を挙げている。 ただ、これを成立させるためにプロットの各所に相当な無理が見られ、それらを総合的に考慮して7点の下位。 (ネタバレしています) 犯人ではない第一発見者が酷寒のなか、わざわざ死体を移動させる必要があるか。 その際、殺害直後であったにもかかわらず、雪の上に血痕が全く残らないということが起こり得るか。 ジョンがカニフェストを殴り殺したと思い込み、またマーシャを殺害していないと主張しながら、死体の移動のみは語らないなどの点は、さすがにご都合主義と言わざるを得ない。 |
No.567 | 5点 | 緑の草原に…… 田中芳樹 |
(2025/09/09 13:32登録) いずれの作品も悪くはないが、いかにも小品という印象で、著者の全盛期とは比肩するべくもない |
No.566 | 5点 | 快傑ゾロ ジョンストン・マッカレー |
(2025/09/09 13:31登録) 本作の立ち位置から割り引いて評価しているが、それにしても描写が全般に雑。 悪役の言動に強く不正義が感じられないから、それと相対する主人公ゾロの魅力がいま一つ弱い、という構造になっている。 また、ヒロインであるロリータに全く魅力が感じられない点は致命的と映る。 全体に盛り上がりに欠ける作品 |
No.565 | 5点 | 仮面病棟 知念実希人 |
(2025/08/19 16:30登録) すでに多くのみなさんが評価されているとおり。 叙述、各登場人物の言動、ガジェット等、あらゆる点でとにかく違和感が強い。 読んでいてずっと違和感を感じているから、次の展開、すなわちどんでん返しが読みやすいし、その衝撃を薄れさせている。 プロットはそれなりに練られていて、悪い作品ではないが、ディテールの綻びが多く、拙劣と言わざるを得ない |
No.564 | 7点 | 宇宙戦争 ハーバート・ジョージ・ウェルズ |
(2025/08/19 16:26登録) 恐るべき戦闘力を誇る火星人が地球人を蹂躙・虐殺しながら、地球上の感染症によって全滅してしまうというプロットが秀逸。 かつて、スペイン・ポルトガルをはじめ、多数のヨーロッパ人がアメリカ新大陸に上陸し、インフルエンザ・麻疹・天然痘等の伝染病をもたらしたことで、免疫をもたなかった先住民が大量に死亡した。 数年前、コロナという未知のウイルスが登場し、数億人に感染し、数百万人が死亡するという、人類史上に類を見ない惨禍をもたらした。 ミステリ・SFとして不足もあるものの、120年以上前に書かれたという事実に鑑みると、出色の作品ではあるまいか |
No.563 | 7点 | 絞首商會 夕木春央 |
(2025/08/05 16:08登録) 淡々とした筆致、物事をそのまま写生するような描写でありながら、やや難解な作風は、京極夏彦の再来を思わせる。 本作は、とにかく犯行理由と、主要登場人物の行動原理のユニークさ、奇想が群を抜いている。 そして、その判明をもって真相を一刀両断にできるよう、プロットが考え抜かれ、奇妙奇天烈なガジェットが周到に配置されている。 真相に論理的に到達できないとか、レッド・へリングが長すぎる、ボリュームが大きすぎるとか、さまざまな批判もあろうが、許容範囲ではないか。 一段上の実力を感じさせる作品 |
No.562 | 5点 | バスカヴィル家の犬 アーサー・コナン・ドイル |
(2025/08/05 15:49登録) 奇々怪々としたムードを散々演出しておいて、何の捻りも工夫もない真相は肩透かしそのもの。 作品としての歴史的意義の高さから過剰評価されていると言わざるを得ない |
No.561 | 5点 | #真相をお話しします 結城真一郎 |
(2025/07/29 16:47登録) いずれの作品も、取り上げられているテーマに同時代性が強く意識され、構想がよく練られている。 ただ、尺があまりにも短いので、納得感が不十分になりがちで、また同じ球種が連投されるから、徐々にサプライズを減じていく点が強くマイナスに作用。 非常に世評が高い作品だが、そこまでの水準とは感じられず、5点の最下層 |
No.560 | 5点 | 恋する殺人者 倉知淳 |
(2025/07/29 13:41登録) 明かされる真相は想定の範囲内。 真相解明プロセスは丁寧で、随所に上手さも光るものの、突出した点は見当たらない。 批判的な立場に立つべき作品ではないが、入門的な本格ミステリとして水準レベルにとどまるという印象 |
No.559 | 6点 | 霧に溶ける 笹沢左保 |
(2025/07/16 08:16登録) 本作のプロットは、現代ならいざ知らず、執筆当時としては相当に野心的なものであったろう。 ただ一方で、登場人物の行動が合理性・リアリティに欠け、犯行計画のフィージビリティに相当に難がある等、完成度の点では多くのアラを指摘せざるを得ない。 著者の大胆な稚気を前向きにとらえてこの評価 |
No.558 | 7点 | 凍てつく太陽 葉真中顕 |
(2025/07/02 11:54登録) 独特の乾いた筆致で、語り口も淡々としているのだが、とにかくリアリティが高くて読ませる。 取材が緻密であるうえに、筆力が高いということであろう。 本サイトでは、あくまでもミステリとして評価し、7点の最上位にとどめたが、1個の読物としてはそれ以上に評価されてしかるべき作品 |
No.557 | 4点 | ルビンの壺が割れた 宿野かほる |
(2025/06/23 12:51登録) メールのやり取りだけで構成される本作のプロットは、男性と女性の思考回路・様式の相違点に着目し、それを活かすために考案されたものであろう。 ただ双方、とりわけ女性側がメールのやり取りを続けていることそのものに合理性が見い出せないから、リアリティがまるで感じられない。 このやり取りが暴露合戦にエスカレートし、その先にあるラストに「日本一の大どんでん返し」という惹句がついているのだが、完全に読者の想定の範囲内であり、出版戦略上、意図的に過大評価したものでしかない。 作品に残された余白を含めて考えれば、ミステリとして成立しているのだが、構想・読み物としての完成度の低さを考慮してこの評価 |
No.556 | 5点 | ラインの虜囚 田中芳樹 |
(2025/06/23 12:37登録) 舞台・登場人物の設定はすばらしいが、プロットが平凡で、それらを活かして切れていない。 全体として悪い作品ではないが、いかにも小品であり、この程度の評価にとどめたい |
No.555 | 5点 | ノン・サラブレッド 島田明宏 |
(2025/06/12 18:10登録) ~わが国の競馬草創期に圧倒的な競争・繁殖成績を残した名牝ミラ。 ただ、血統書が存在しないがゆえに、サラ系として扱われ、母系からいくら活躍馬を輩出しようとも、父系が発展することはなかった。 もし、このミラの血統書が存在すれば、ミラから拡がる子孫の全頭がサラブレッドとして認められることになる~ 私は30年来の競馬ファンであるが、このテーマの妙に強く感銘を受けた。 たった1枚の血統書が存在しないことで、ミラのみならず、ミラの8代子孫に至るまで、莫大な数の馬、それも名馬たちの運命に決定的な影響を及ぼした。 サラブレッドの語源はサラ(徹底的な)+ブレッド(品種)であるが、本作はブラッド・スポーツという競馬の本質をまざまざと見せつけてくれた。 そのうえで、著者の競馬に対する知見がすばらしく、ホーリーシャークの臆病な性格と、それにあわせた馴致・調教、馬を取り巻く人間模様など、とにかく描写が具体的で、リアリティがあり、実に読ませる内容となっている。 その一方で、ミステリの中核を成す現代編は、捜索のプロセス・真相を含め、あらゆる点で凡庸な印象が強い。 ミステリとしては、いかにも小品であり、5点の上位にとどめるが、構想力・独創性・筆力、いずれの面でも見るべき点がある作品 |
No.554 | 6点 | テロリストのパラソル 藤原伊織 |
(2025/06/03 15:41登録) 非常によく書けていて、著者の筆力の高さは疑い得ない。 ただ、ミステリとしてはプロットがあまりにもご都合主義的であり、完成度の点で相当に問題があると言わざるを得ない |
No.553 | 4点 | 樹のごときもの歩く 坂口安吾 |
(2025/05/27 10:58登録) 坂口安吾の未完の作品を高木彬光が書き継いで完結させたというエピソードに興味を惹かれ、本作を手にとった。 他人が途中まで描いたミステリを完結させる作業がいかに難しいか、ということは理解しているものの、それを差し引いてもデキが悪い。 もちろん、安吾が生前に夫人に語っていたプロット・真相をもって、安吾自身が執筆していたとして、本作がどのような水準に達し得たかはわからない。 ただ、それでもなお、高木が描いた真相を評価するならば、「駄作」の一語に尽きる。 まず、「樹のごときもの」の正体はリアリティがないうえに、面白くないという意味で論外。 犯行の動機・プロセスは、平凡極まりないうえ、無味乾燥という印象を受け、前半部分の軽妙洒脱な作風との違和感も強い。 最後に、作品の前半部分に散りばめられた大量の伏線を全く回収できていない、というより、論点として言及もしていない。 言葉を選ばずに言うならば、1個のミステリとして完成していないとさえ言えるデキ映えであり、本来であればさらに低い評価がふさわしいところ、本作の誕生経緯等も考慮して、この評価としたい |
No.552 | 5点 | 君のクイズ 小川哲 |
(2025/05/16 12:34登録) 以下、ネタバレを含みますので、ご留意ください。 冒頭に提示された謎は非常に不可解で、魅力的である。 それに論理的に解が与えられているが、全く面白くない。 どういうことか。 なぜ、ゼロ文字押し、すなわち問題が読み上げられる前に、解答することができたのか。 それは問題が読み上げられる前に、問題を特定できたから。 それは当該クイズ大会の出題者をよく知っていて、その出題傾向が事前に予測できたから。 そのうえで、問い読みが読み上げ直前に口を閉じたことで、1文字目が両唇音であることが確定し、問題を特定できたから。 最大の謎は、対戦相手が回答できないことが確実である以上、もっと問題を聞いてから回答すればよいのに、なぜゼロ文字押しをしたのか。 それは本大会をもって引退する決意を固めていて、仮に間違えたとしても、注目されればよいと思っていたから。 確かにきわめて論理的に説明できている。 しかし、全く面白くない。 真相が当然すぎて、何の意外性もない。 本作はミステリとして成立している。 ただ、密室殺人を「部屋の外から針と糸でカギをかけました」と説明する式の、ミステリである。 プロットの着想と、ミステリとしての筋のよさで加点し、サプライズが皆無の真相を大きく減点して、5点の最下層 |
No.551 | 8点 | ジャッカルの日 フレデリック・フォーサイス |
(2025/05/14 14:33登録) 読みたい書籍が常に山積みになっているので、一度読んだ書籍を再読するということは基本的にないのだが、今般、本サイトで本作を評価するために、十数年ぶりに再読した。 犯行プロセスが全体として合理的でリアリティがあり、描写がきわめて緻密であること等と相まって、抜群のリーダビリティを生んでいる。 このボリュームで犯人特定に至る必要があるため、警察が万能すぎる、すなわちしらみつぶし的な捜査の進行が速すぎる点や、警察サイドに有利なご都合主義が散見されるのは事実。 ただ、それをハニートラップによる捜査情報の漏洩で、犯人サイドに有利になるようにリバランスするなど、1個の読み物としてとにかくよくできている。 初読時と同様に、サスペンス、スリラーの世界で、オールタイムベスト候補として名を連ねて不思議ない作品という印象を受けた |