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ミステリの祭典

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霧に溶ける
倉田警部補

作家 笹沢左保
出版日1960年01月
平均点7.22点
書評数18人

No.18 5点 ことは
(2023/09/17 17:51登録)
笹沢左保は未読なので、ひとつ読んでみようと、評価が高いものを読んでみた。
まずは、事件が起きるまでの、各登場人物の状況/紹介は楽しめなかった。生々しいというか、醜悪というか、社会派全盛頃の作品の、この手の雰囲気はやはり好みではない。特に1章に登場する男、まったく共感できなかったが、当時の人達はこれに共感できたのかなぁ。
事件が起きてからは、快調に読めたし、なかなか凝った構図が展開されるところは楽しめたが、トリックはどれも小粒。また、演出がいまひとつ好みでないのか、驚きやワクワク感は感じなかった。
世評ほど、私には刺さらなかったな。

No.17 8点 みりん
(2023/03/15 02:00登録)
密室トリックが面白かったです。

No.16 7点 ねここねこ男爵
(2022/09/10 21:51登録)
ネタバレ気味です。

この構造ネタはあちこちで見かけるけれど、本作はその中でもっとも「自然」かと思います…特に動機面で。殺害方法も一つ一つ切り出してみるとシンプルでそこそこ実現可能性ありそう。とくに密室は秀逸。さらにそのすべてがこの作者らしさ全開
時間的余裕があまりなく一つ歯車が狂うとすべて瓦解しそうなことと、ここまで上手に背中を押してあげられるか?というのはありますが

ただ前述の通り、この構造ネタは動機か実行技術面で「手段が目的化してる」的不自然さを拭えない作品が多いのに、本作は筆力もあいまってそこそこ納得できるように書かれています。読んでいる最中は全く別のことを考えていたので結構驚きました
読む価値ありありです。面白かった

No.15 7点 斎藤警部
(2022/07/13 23:45登録)
時はS30年代中盤、対象を会社勤めのBG(OL)に絞った、一風変わったミスコンテストが開催された。 ところが、最終審査に残った数名の女性たちが次々と兇悪事件に巻き込まれ、内三名は死亡!!! 

“ビシッと凄まじい音が、××の頬で鳴り、その軀は玄関の壁に叩きつけられていた。同時に、形容のしようもない絶叫が家の奥まで響き渡った。”

気を持たせる物語構造、そのストーリー展開の途上、妙な具合に疑惑の矛先が収斂するんだな・・と思ったら・・・・オ~ゥなかなかにおフレンチ、綺麗な絵空事を圧倒的チカラワザで具現化する、これぞ、犯罪ファンタジー。 それでいて物理トリック、心理トリック共に地道な味がある。 不思議なバランスだ。

“不貞腐れた笑いではなく、自嘲をも含んだ嘲笑であった。 今、過去の自分の愚かさをしみじみと後悔していた。”

小味なようで実はとんでもなく深いオチも、物語を苦く締めつつ、素敵に効いている。 最後に沁みるタイトルも良し。

“六年間の忿懣を一度にぶち撒けた××は、この家と永遠の決別を遂げるべく、篠つく雨の中へ去って行った。”

しかし、醜いぜ。。!

No.14 7点
(2021/01/30 10:38登録)
 輝かしい未来と膨大な特典が約束される、ミス全国OLコンテストの最終選考に残った五人の美女たち。最終審査を目前にして、彼女らのうちの四人が次々と死傷する。だが犯行現場では、候補者たちの不審な行動が目撃されていた。そんな中、唯一無疵の女への疑いが浮上する。が、そこには密室の謎や巧妙なアリバイが立ちはだかっていた。世間の注目を集める事件に、警視庁は総勢九名から成る「特別捜査班」を設けて追及を開始するが、やがて彼女も脅迫されていたことが発覚し――。完全犯罪の企みと女の狂気が引き起こす予測不能の本格ミステリー。
 惜しくも1959年度第五回江戸川乱歩賞を逸した処女作『招かれざる客』発刊の翌月に書き下ろし刊行された、著者の第二長編。この年十月~十二月には『結婚って何さ』から『死と挑戦』に至る諸長編が続けざまに発売されており、中でも第四長編『人喰い』は水上勉『海の牙』と共に、新人ながら翌1960年度の第14回日本探偵作家クラブ賞に選ばれました(他の候補作は佐野洋『金属音病事件』、結城昌治『長い長い眠り』など)。誠に将棋における藤井聡太並みの、華々しいデビューを飾ったと申せましょう。
 "当時のぼくはこの四冊に、惜しげもなく多くのトリックを投入した"と、笹沢自身も後に語る、最初期の書き下ろし四長編。その中でもマニアに一、二を争う高い評価を得ているのが本書です。ストーリーのキモは漠然と知っていましたが、本サイトでも評判がいいので「どんなもんやろ」と、おもむろに手を出してみました。
 結果は「うーん」。発想の軸はアレと言うよりこの七年後に刊行された、某山風忍法帖に当て嵌まるのですが、風太郎作品の方が後続だけあって問題点も難なくクリアしてる上に、読んでて楽しい。本家のオリジナリティは買えますがギスギスした読み心地で失点も多く、「凄い!」とまでは行きません。ずーっと前に書評した梶龍雄の『清里高原殺人別荘』みたいな感じ。あそこまで会話は酷くないので、それほど点は下がりませんが。
 一部ネタバレしますが、欠陥は利害関係に由来するもの。倉庫の事件の相手には直近の脅威として認識されているので、とても素直に応じてくれるとは思えません。岸壁沿いの事件とは異なり特に限定条件は無いので、わざと日取りを変えられるだけでも致命傷。この件に限りませんが当然シレッと興信所に手を回して尾行させ、一石二鳥の追い落としを狙うのは誰でも考えるので、実行者の動きは計測不能。事が上手く運んだのは単なる僥倖でしょう。〈事故で片付ける〉方針の割には冷蔵庫への締め込みも計画されるなど、手放しで称賛できる手口ばかりでもない。殺してくれと言わんばかりの川俣優美子の生活習慣その他も、ちょっと出来過ぎ。
 というふうに色々文句も付けましたが、メインの構想と盗撮事件で導かれた共犯者の意外性、トリックてんこ盛りの内容は素直に凄い。願わくばもっと充実した筆致で読みたかった作品ですが、現時点でも昭和三十年代の秀作として、取り上げる価値は十二分にあるでしょう。

No.13 7点 ミステリ初心者
(2020/11/06 18:21登録)
ネタバレをしています。

 文章は読みやすく、また多くの殺人事件が起こるため、テンポが良く、読了までにそれほど時間がかかりませんでした。また、話の構造が複雑ですがわかりやすく、衝撃の展開ですがそれほど無理がないです。非常に満足度が高いです!

 推理小説的部分も、密室があったり、海を使った時限装置的仕掛けがあったり、とても濃厚です。それでいて、変に馬鹿ミス調ではなく、現実に成功率が高め(と思わせてくれる)なトリックであり、それでいてしっかりと読者に解く余地をもたらすヒントも十分あります。
 小河内殺しの密室は、本格的な密室であり、時計のヒントも好印象ないい密室でした(笑)。普段、全く当てられない私ですら時計のヒントから気づきましたが、フェア度が高いという裏返しかもしれません。
 逆に川俣殺しはよくわかりませんでした。海の満ち引きを利用したところまでは予想しましたが…(笑)。
 殺人を計画し、教唆した共謀者が2人いて、さらに殺人者が3人…そして殺人未遂者が一人と、かなりの人物が殺人にかかわってしまっています。本当なら私の好みではなく、単独犯のほうが好きなのですが、ちゃんと伏線も張ってありまり、読後感としては「ありだな」と思いました(笑)。私は、"川俣を殺せたとしたら穂積"→"穂積は殺されている"ということから、被害者3人がお互いを殺しあったところまでは予想できました。ただ、新洞の主観の文から、新洞を首謀者から外してしまいましたし、波江が出てくるとは思いませんでした(笑)。今思うと、静子が新洞を狙っていたことはミスリード的効果がありますね。

 どうやって殺したか? 誰が殺したか? 何が起こっているのか? 全て楽しめる良い作品だと思いました。カーとアガサが一体となっているような(というと言いすぎか(笑))。

No.12 9点 パメル
(2016/09/05 11:16登録)
量産型作家として敬遠されがちな作者だがこれは傑作
ミスコンを巡って続発する怪事件
さまざまなトリックが詰め込まれ周到に張られた伏線から導かれる真相
絡みに絡み合った人間関係の構図が明らかになっていく
フーダニット・ハウダニット共に十分に楽しめる贅沢な作品
最後のオチもいい味出している

No.11 8点 ボナンザ
(2014/04/07 22:59登録)
うまい!笹沢のミステリ作品の中でもトップクラスの名作だ!

No.10 8点 蟷螂の斧
(2012/08/15 18:00登録)
犯罪構造のアイデアに一票という感じですね。ハウダニットが解明されても、フーダニットが不明という物語の流れも気に入りました。1960年代の金銭感覚や性意識が垣間見れて楽しめました。作者のあとがきにある「哀感のような、澱んだ感傷のような、そんな余韻が残る・・・推理小説」はラストで見事に描かれていると思います。

No.9 7点 あびびび
(2012/08/06 12:01登録)
動機がミスコンテストは分かるにしても、犯人がすべて納得しての犯行とはとても信じられない。でも当時はそれでOKだったのだろう?

密室トリックは楽しめた。作者が本格ものを強く意識して書いたのはまちがいない。そこに敬意を表したい。

No.8 7点 E-BANKER
(2011/02/20 21:24登録)
ミステリーから時代小説まで多くの作品を残した作者の本格ミステリー代表作。
光文社の復刻版で読了。
~ミスコンテストの最終予選に勝ち残った5人の美女。最終審査を前に脅迫・交通事故などの事件が次々と発生し、ついには怪死事件が起こる。自殺か他殺か? 警視庁特捜班の前には、巧妙なアリバイ工作、鉄壁の密室など複雑に絡み合った殺人連立方程式が立ちはだかる~

さすがに「名作」と呼ばれるだけあります。何よりプロットが秀逸。
後年の作品で、本作のプロットを応用したものを時折見かけますが、本家の切れ味はかなり鋭い!
気付かないでもないようなプロットなのですが、うまい具合に作者に隠蔽されていて、それが明かされる瞬間にはなかなかサプライズ感があります。
ただ、他はちょっと誉められない。
「密室」は「う~ん」というレベル。それに、このプロットで連続殺人を計画した犯人が、この殺人だけ事故死を装うのかが納得いかない・・・
「動機」はすさまじいですね。時代が時代だから(1960年)ということかもしれませんが、21世紀の現在からすれば、ちょっと想像できない・・・
まぁ、60年代を代表する「本格ミステリー」として、読む価値十分の1冊という評価で良いでしょう。
(最後の、女2人の会話は物凄い・・・いやぁー欲深い&嫉妬深い女って怖いね)

No.7 6点 kanamori
(2010/06/29 17:56登録)
初期の本格ミステリで、現在でも本格嗜好の読者に一番人気があるのが本書だと思います。
たしかに、いろいろなトリックが多数組み込まれていて、美女コンテストを描きながら同時にトリックの展覧会を見るようでした。
とくに自然現象を利用したトリックは実現性はともかく面白かったですが、人物造形とトリックがどうも相容れないチグハグ感が最後まで気になりました。

No.6 6点 itokin
(2009/11/06 11:33登録)
皆さん、高い評価なので読んでみました。トリックにこだわるばかりに物語に深みがない(個々の動機に無理があり、主人公の悲壮感も伝わらない)。
物語としては4点多様なトリックを評価してプラス2点。

No.5 7点 こう
(2009/05/04 01:47登録)
  そもそもコンテストで優勝するために他の候補者を殺すという動機自体ナンセンスな気がしますが社会派全盛時はOKだったのでしょう。
 個人的には犯罪計画の全容そのものは気に入っています。類似作はいくつもありますが50年前に書かれたことを踏まえれば非常に意欲作だと思います。 
 また成功、失敗はともかくトリックが惜しげもなく使われているところは感心しました。ただストーリーとトリックが合っていない気もしますし正直もったいない気がします。

No.4 6点 ロビン
(2009/02/26 17:52登録)
他の方の高評価にそそられて読んでみました。しかし、自分にはそこまでの作品とは感じられませんでした。
あの密室トリックはある意味バカミス(もちろんポジティブな評価の)だと思います。これは映像のほうがより驚けるんじゃないかな。
(以下ネタばれ)本書のような構図はあまり好きではありません。複数犯人、さらに裏で操っていた真犯人と、どうしても都合の良い仕掛けに感じてしまいます。

No.3 9点 teddhiri
(2009/02/04 11:41登録)
メインアイデアの凄まじさとありえなさは「姑獲鳥の夏」の密室、「翼ある闇」の密室(木更津の推理)とミッシングリンクに匹敵すると思っています。

No.2 8点 nukkam
(2009/01/21 09:10登録)
(ネタバレなしです) 作家デビューした1960年に発表された4作の本格派推理小説はどれもトリックを惜し気もなく注ぎ込んでいますがその中でも第2作である本書は屈指の傑作で、個人的には(それほど笹沢ミステリーを読んではいないのですけど)笹沢の最高傑作だと思います。密室トリックもよく出来ていますが、あのメイントリックのアイデアには(いくらなんでも実行不可能だろうとは思いつつも)びっくりしました。これだけアイデア豊かな本格派推理小説はそう多くは出会えません。ただ容疑者とはいえ女性の描写は男性と比べると差別されていると言わざるを得ませんね。最初は情けない人物として登場した男性でさえ後ではかっこいい場面を与えられているのに、女性については内面の醜さが強調されるばかりで男性の私が読んでもちょっと気になりました。

No.1 8点
(2009/01/11 21:04登録)
日本の「新本格派」という言葉は、もともとこの笹沢左保などのような、松本清張によって確立されたリアリズム推理小説を踏まえた上での謎解きミステリを意味するものとして使われていました。しかし、本書はその笹沢作品の中でも、綾辻以降の「新本格派」をも思わせる大胆なプロットを持っています。連続殺人のそれぞれに別の工夫があり(冷蔵庫のはどうということはないのですが、思いつきとしては悪くありません)、さらに全体的にも仕掛けがほどこされています。
1960年台新本格派ですから、もちろんいわゆる名探偵は登場しません。真相究明にあたるのは刑事たちと、容疑者の恋人です。叙情的なラスト・シーンでは、最後の謎解きとタイトルの情景が出てきます。

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