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ミステリの祭典

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絞首商會
大正ミステリー

作家 夕木春央
出版日2019年09月
平均点5.56点
書評数9人

No.9 4点 E-BANKER
(2025/10/26 12:31登録)
第60回メフィスト賞受賞作にして、作者のデビュー長編。
「方舟」で大ブレイクを果たす「前夜」ということになるのだが、その後に続くシリーズの第一作という立ち位置でもある。
単行本は2019年の発表。

~謎が謎を呼ぶ怪死事件。元泥棒が導く真相に瞠目せよ。和洋入り交じる大正の東京。秘密結社「絞首商會」との関わりが囁かれる血液学研究の大家・村上博士が刺殺された。不可解な点は3つ。遺体が移動させられていたこと、鞄の内側がべっとり血に濡れていたこと、そして、遺族が解決を依頼したのが以前村上邸に盗みに入った元泥棒だったこと――。
頭脳明晰にして見目麗しく、厭世家の元泥棒・蓮野が見つけた四人の容疑者の共通点は、“事件解決に熱心過ぎる”ことだった・・・~

どうしても「方舟」の余韻が残ってしまって、“あの”風味や出来栄えを期待してしまう。
そういう読者にとっては、きっと「物足りない」という感想になると思う。かく言う私もそう。
正直なところ、「比べるべくもない」というレベル。
でもまあ、デビュー作である。
ハードルを勝手に上げすぎたこっちが悪いのかもしれない。

本作のメインテーマとなるのは、フーダニットよりも「四人の容疑者がなぜこんなにも事件の解決に熱心なのか/真犯人を知りたがるのか」という謎。
で、確かにこの真相は納得する形で解決が成される。そして、それに付随するように真犯人も明らかとなる、という仕組み。
これ自体は良いし、プロットとしても面白く感じた。

ただ、それ以外の筋立てというかストーリー部分に面白みがなさすぎる。中盤の展開も、動機部分の肉付けもあるのだろうけど、関係ない脇筋が多くてダレる。「もういいや」っていう感覚になってしまう。
やっぱりミステリといったって「読み物」だからね。ストーリーそのものにも魅力がないと評価は下がってしまう。
本作はシリーズ物にもなったようだし、次作に期待というところ。

No.8 5点 ALFA
(2025/09/01 07:13登録)
チェスタートン張りの逆説に満ちた快作・・・になるはずだった。

ユニークな着想の足を引っ張ったのは文体と構成。
生硬でギクシャクした文体に加えて、古風なアレンジもあって読みにくいことおびただしい。いくらデビュー作でもいかがかと・・・フォローしておくと次作以降はまずまず。
物語は冒頭と終盤はいいが途中は冗長。こちらは構成の問題。
キャラ造形はいい。元泥棒紳士の蓮野はまだ近作ほど颯爽とはしていないが晴海社長は絶好調。

楽しいアイデアなんだから大幅改編でもう一度読みたいなあ。

No.7 7点 いいちこ
(2025/08/05 16:08登録)
淡々とした筆致、物事をそのまま写生するような描写でありながら、やや難解な作風は、京極夏彦の再来を思わせる。
本作は、とにかく犯行理由と、主要登場人物の行動原理のユニークさ、奇想が群を抜いている。
そして、その判明をもって真相を一刀両断にできるよう、プロットが考え抜かれ、奇妙奇天烈なガジェットが周到に配置されている。
真相に論理的に到達できないとか、レッド・へリングが長すぎる、ボリュームが大きすぎるとか、さまざまな批判もあろうが、許容範囲ではないか。
一段上の実力を感じさせる作品

No.6 5点 makomako
(2023/12/09 07:14登録)
読み始めは大正ロマンと探偵小説の雰囲気があってなかなか良いのです。
冒頭すぐに殺人事件が起きる。おっ古き良き探偵小説が味わえそうと、期待を抱かせます。しかしその後がだらだらと関係なさそうなお話が続き(まあこれも雰囲気作りと言えなくもないのですが)、ちっとも推理が始まらない。
かなりの長編なので、この辺りでいやになる人も多そう。
後に素晴らしい作品を書いている作者なので何とか我慢して読み進めると、3分の2ぐらいお話が進んだところでようやく推理小説らしい展開となる。
そして最後は探偵の推理によりさしもの難解な殺人事件も見事解決となるのです。
このお話、初めがもう少し短いともっとよかった。それと探偵の推理がほとんど独りよがりで、伏線もあるにはあるが読者が推理するには全く手がかりが不足で突然解決となる感じが否めない。
いい感じのお話なのに残念です。

No.5 7点
(2023/04/08 07:24登録)
時代背景と事件がマッチして良い感じです。
話が冗長と感じる方もいるかもしれませんが、私には読みやすく楽しめました。

No.4 5点 nukkam
(2022/12/21 08:36登録)
(ネタバレなしです) 夕木春央(ゆうきはるお)(1993年生まれ)の2019年発表のデビュー作である本格派推理小説です。色々なネタを仕込んでいて、解決編に当たる第9章で探偵役が最初に説明する「なぜ」の解答がチェスタトン風な逆説で印象的ですし、この探偵が元泥棒(今も現役?)という設定ですが何でこんな人物に真相解明の依頼をしたんだという容疑者たちからの当然の突っ込みに対する依頼人の論破場面も面白かったです。容疑者の1人が南京錠を取り付けてまで隠そうとする秘密は何なのかを確認するために意外な人物が活躍する場面のスリルも悪くありません。しかしデビュー作ゆえ書き方に慎重になったのか、全般的には展開も描写もメリハリに乏しくて読むのに集中力が必要でした。せっかくのネタを十分に活かしきれていない感じなのが惜しく思われ、虫暮部さんのご講評に同意します。

No.3 5点 レッドキング
(2022/11/17 19:01登録)
超美形・高学歴にして元泥棒の大正青年が主役探偵。初老の博士を裏切者として処刑した、アナキスト集団:絞首商會の覆面メンバーは誰か。容疑者達から犯人を探すフーダニットと見せかけて、犯人の驚くべきホワイ・ハウと、容疑者達の啞然とさせられるホワイ・ハウが、物語の主幹であった。面白かったが、せっかく大正の世が舞台なんだから、もちっとそれなりの「時代考証」描写もほしく・・

No.2 6点 HORNET
(2020/06/02 22:15登録)
 時は大正。帝大教授の村山鼓堂博士が邸宅の庭で殺害されているのが、居候の書生に発見された。亡くなった博士の鞄にあった品からは、以前博士宅に泥棒に入って捕まった奇人の美青年・蓮野の指紋が。しかし博士宅の女主人・水上叔子は、あろうことか蓮野に事件の真相解明を依頼する。
 村山博士の残した遺品から分かる、無政府主義秘密結社「絞首商會」の存在。博士は、その存在を警察に告発しようとして殺されたのか?だとしたら誰に?限定された容疑者たちを前に、蓮野の調査と推理が始まる。

<ネタバレ>
 「容疑を逃れようとする容疑者たち」というミステリの常識を裏返した仕掛けは確かに面白かったが、全員が「国外に行きたい」という動機のみで同じことを考えるか?という不自然さは感じた。当時の社会状況も一応理由になるのかもしれないが…
「絞首商會」というネーミングが何かの展開につながっていくのでは、という想像的な期待は全く的外れだったことも勝手に残念。仕組み方は確かに面白かった。展開もやや冗長ではあったは飽きは来なかった。が、強くもなかった。

No.1 6点 虫暮部
(2019/11/18 11:39登録)
 一点突破主義ではなく、ストーリー展開・キャラクター造形・文章力等を組み合わせて異世界を構築しようとするこの手の作品は、諸要素のレヴェルが或る閾値を超えると途端に活発な反応を起こして相乗効果が跳ね上がるものだが、その点で本作は惜しくも一歩及ばなかった。何か少しだけ足りない感じで隔靴掻痒。良く出来ているし真相のアイデアもなかなかだが、コレならもっと面白くなる筈なんだけどな~と首を捻りながら読み終えた。

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