同志少女よ、敵を撃て |
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作家 | 逢坂冬馬 |
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出版日 | 2021年11月 |
平均点 | 8.00点 |
書評数 | 9人 |
No.9 | 7点 | SU | |
(2024/07/19 22:28登録) 一九四二年、母を独軍の狙撃兵に殺され、戦うのか死ぬのかのの選択を迫られたソ連の少女・セラフィマが主人公。 敵を討つ道を選び、狙撃兵となった彼女が、実際に人の命を奪う経験を重ね、戦闘の現場での女性の扱われ方のリアルを知っていく様を圧倒的な筆力で描き切った本作は、狙撃の攻防のスリルを生々しく体感させてくれるとともに、死の重さ(仲間の死)と軽さ(狙撃成績としての殺害者数)を両面で理解させてくれもする。さらに女性を最前線に投入したソ連の特殊性や、終盤に配置されたサプライズなどもセラフィマを通じて語られていて素晴らしい。 戦争が終わっても人生は続く。物語の最後にその真実を綴るのは厳しくも優しい。 |
No.8 | 9点 | take5 | |
(2023/12/30 17:55登録) 初めて満票を得たという アガサ・クリスティ賞受賞作 独ソ戦を描いた戦争小説であり 広義のミステリーであり、 女性視点の社会派小説であり、、、 とにかく読み応え満載でした。 戦争の大義、 それでも生きる意味とは、 弾道学からロシアの生活まで 作者の綿密な取材力が光る大作。 作者はこれがデビュー作?本当に? あり得ない筆力です。 読書中盤から私の頭の中に ノーベル賞受賞作家の 「戦争は女の顔をしていない」 が浮かぶのですが、最後に、、、 いやもう冬休みに大作に出会えて良かった。 あとお二人で書評10人達成、 「飢餓海峡」で潰されてしまった 高評価に新しい血を送り込み計画 8か9か迷って9点にしました。 どなたか乗りませんか。 |
No.7 | 9点 | びーじぇー | |
(2023/08/25 23:03登録) 悲劇と衝撃的な邂逅を起点にした物語は、母を殺した顔に傷のあるドイツ人狙撃兵イェーガーを討つことを誓ったセラティマの復讐譚として動き始めるのだが、とにかく読みどころに溢れていて、終始感嘆することしきり。 魔女と畏怖される上級曹長イリーナによって村から連れ出されたセラフィマが、中央女性狙撃訓練学校で狙撃兵としての基礎を叩きこまれながら、同じような境遇の者たちと心を通わせていく序盤は瑞々しい戦争青春小説とでも呼ぶべき趣がある。訓練を終え、イリーナの指揮下で初陣を迎える場面、続くスターリングラード戦では、抜群の戦闘・戦場描写が光るのみならず、兵士の心理戦争における特殊な日常なども丁寧に織り込まれ、戦争が人間を変え非道に走らせる醜さ、戦争の中にあっても潰えることのない想いや覚悟、そうした一つ一つが胸に深く迫ってくる。 敵を撃ち、狙撃スコアを増やし、一流の狙撃兵として名を挙げれば挙げるほど、ある種の人間性が失われていく皮肉。その先で、ついに母の復讐という宿願を果たす絶好の機会が訪れた時、セラフィマが取った行動と行く末とは。素晴らしい出来栄えに惚れ惚れする。 |
No.6 | 8点 | ひとこと | |
(2023/05/28 17:20登録) アガサクリスティ賞に相応しい力作でした。 |
No.5 | 6点 | メルカトル | |
(2022/10/03 22:36登録) 独ソ戦が激化する1942年、モスクワ近郊の農村に暮らす少女セラフィマの日常は、突如として奪われた。急襲したドイツ軍によって、母親のエカチェリーナほか村人たちが惨殺されたのだ。自らも射殺される寸前、セラフィマは赤軍の女性兵士イリーナに救われる。「戦いたいか、死にたいか」――そう問われた彼女は、イリーナが教官を務める訓練学校で一流の狙撃兵になることを決意する。母を撃ったドイツ人狙撃手と、母の遺体を焼き払ったイリーナに復讐するために。同じ境遇で家族を喪い、戦うことを選んだ女性狙撃兵たちとともに訓練を重ねたセラフィマは、やがて独ソ戦の決定的な転換点となるスターリングラードの前線へと向かう。おびただしい死の果てに、彼女が目にした“真の敵"とは? Amazon内容紹介より。 凄く良く出来た力作だと思います。が、余りに出来すぎていて、何と言うか優等生的な作品になっており、戦争の生々しさや臨場感がいま一つ伝わってこなかったと云うのが私の感想です。期待度が高かっただけに、嫌な予感がしないでも無かったのです。購入したのは今年の3月頃だったと思います。私が買ったのは2月15日の印刷で、その時点で既に14版ですから凄い勢いで重版されていた訳です。本屋大賞受賞だけではない実力を見せつけられました。それを今まで読まなかった理由は、何となく自分に合わないのではないかとの不安からでしょうか。購入しておいてそれはないだろうと自分でも思いますが。 Amazonでの評価は高く、私は7点にしようかと迷いもしましたが、自分に嘘を吐くわけにはいかないのでやはり6点としました。何がいけなかったとは言い難いものがありますが、主人公に感情移入できない、戦争はそんなに生温いものではない、全体的にやや期待外れだった、戦闘シーンに迫力が足りないなどが挙げられます。 ただ、人間は良く描かれていますし、ストーリー性もあり、心に刺さるシーンもありました。まあ誰が読んでも良作だと思うでしょうし、それなりに内容は充実しています。ですから、これから読もうと思っている方は、私の書評は無視してどうぞ読んで下さい。きっと私が感性の欠けたダメ読者なだけなのであって、多くの人が共感できる作品ではないかと思いますよ。 |
No.4 | 8点 | 文生 | |
(2022/07/22 05:00登録) 実際に存在したソ連の女性スナイパー部隊を題材とした一級のエンタメ小説です。母をナチスに殺されたヒロインの復讐心を起点としての緊迫感あふれる狙撃シーン、仲間との友情、ヒロインの成長などが良く描けています。また、女性キャラたちがキュートに描かれており、シリアスな物語における緩急の付け方も見事です。後半テーマ性が前面に出すぎている点は個人的に好みではありませんが、それを差し引いても究めて完成度の高い作品だといえます。 |
No.3 | 9点 | sophia | |
(2022/02/24 23:20登録) 少女兵バージョンの「戦場のコックたち」という感じでした。女性の深緑野分が「戦場のコックたち」を書き、男性の逢坂冬馬が本作を書くというのは面白いですね。味方がテンポよく次々と死んでいき、その描写も至って淡泊なのですが、それはいつ誰が死んでもおかしくない戦場の過酷さを知らしめる著者の狙いなのだと思います。特に第三章でのあの人物の早々の離脱が象徴的です。 当初は復讐のため、途中からは女性を守るためという目的をも持って軍隊に身を投じたはずのセラフィマですが、次第に初心を失っていき、何のために戦うのかを自問自答し成長していく姿は共感を呼びます。そしてそれが衝撃的なラストへつながってゆくのですから、壮大な伏線回収を見た思いです。歴史ものとしても冒険ものとしてもミステリーとしても一級品であったと思います。なお、エピローグでロシアとウクライナの関係に触れられているのが実にタイムリーです。 |
No.2 | 9点 | 人並由真 | |
(2022/02/24 15:34登録) (ネタバレなし) 1941年。ドイツ軍がソ連に侵攻。翌年2月7日、村民わずか40人ほどの農村イワノフスカヤ村は、数名のドイツ歩兵とひとりの狙撃兵によって皆殺しにされる。猟師だった母まで殺され、自分も凌辱・殺害されかかった16歳の少女セラフィマ(フィーマ)・マルコヴナ・アルスカヤは、赤軍の女性兵士で元狙撃兵のイリーナ・エメリャノヴナ・ストローガヤに救われる。だがイリーナの冷徹ともいえる言動はセラフィマの心に、残忍なドイツ兵に対するものとはまた違う種類の憎しみを刻んだ。母譲りの優れた猟師=スナイパーの素質をイリーナに認められたセラフィマは、赤軍の「中央女性狙撃訓練学校」の分校に寄宿入学。セラフィマは、のちに「魔女の巣」と呼ばれるそこで狙撃兵としての訓練を積んでいくが。 第11回アガサ・クリスティー大賞受賞作。 Amazonでは膨大なレビュー数の高い評価がつき、北上次郎などは昨年は本書を読むための年だったとまで激賞している作品。 評者が参加するミステリファンサークル「SRの会」の2021年度ベスト投票の締め切りが迫っているなか、これは読んでおいた方がよいと判断し、ページをめくり始めた。 読み始める前に中から透ける世界観や文芸設定から、重厚で苛烈な物語を予見。これはどんなに頑張っても読了に2日はかかるな、と思っていたが、途中でまったくやめられず、一息に一晩で読んでしまった。 平明な文体で、しかし的確にエピソードを積み重ねていく小説作りのうまさ、そして膨大な資料を読み込んで構築したのであろう<世界大戦という地獄の場>の臨場感が、ただただ圧巻。 (復讐相手の狙撃兵ハンス・イェーガーと戦場で対決する好機を得たいという思惑で、打算めいた行動をよしとするセラフィマの図など、実に印象的。) たとえば、貧相な読書歴の評者などは、これまでにもし「21世紀の国産戦争冒険小説で、かの『ユリシーズ号』や『アラスカ戦線』に匹敵する可能性のあるものをあげろ」と問われたら「いや、とても思いつかない」と苦笑していたのだが(深緑野分の二冊は、ちょっと方向が違うと思う。それぞれ秀作だけけど)、今夜をもってその認識はガラリと変わった。これは唯一、それらのマイベスト作品に伍するポテンシャルのある一冊である。 個人的にはスターリングラード戦のくだりの強烈な密度感が圧巻だったが、終盤で作者が語ろうとする、セラフィマたちが撃つ「敵」の含意、その多重性にもシビれた。 よくできた、視野の広い、踏み込みの深い一冊だが、これで優等生的な作品としての嫌味をほとんど微塵も感じさせない、仕上がりのスキの無さも鮮やか。 (なお、本作の大設定である女子狙撃部隊という文芸ゆえに、キャラクター小説だのマンガだのと揶揄する読者もいるようだが、個人的にはそのあたりは、繰り返し作中でセラフィマたちが受ける問いかけの反復と変遷で、ちゃんとクリアされているんじゃないかと思うぞ。) 自分などが賞賛しなくても、前述のように世の中はすでに激賞の嵐だが、これは9点をつけなくてはなるまい。 |
No.1 | 7点 | HORNET | |
(2022/02/23 13:02登録) 時は世界大戦のころ。独ソ戦が激化する1942年、モスクワ近郊の農村に暮らす少女セラフィマは、急襲したドイツ軍によって、母親や村人を殺された。射殺直前、赤軍の女性兵士イリーナに救われたセラフィマは、「戦いたいか、死にたいか」――問われ、イリーナの訓練学校で狙撃兵になることを決意する。 訓練後、従軍するセラフィマは、各戦地で同志に出会い、ともに時を過ごし、死によって別れていく。激動の時代に命がけで生き抜いた狙撃手少女の、悲しくも凛々しい生き様。 戦争映画を観ているような臨場感のなか、極限状況をたくましく生き抜く少女たちの同志としての絆が心を打つ。誰が本当の同志で、誰が裏切り者なのか―。悲しく疑念に満ちた世界の中でも、確かな信頼関係を育んでいく少女たちの姿は、胸を打たれるものがあった。 何年も続く戦況と、地上戦の様子が延々と描かれる中盤はやや冗長で、少し長すぎる感もあったが、ラストでは読破してよかったと思える結末があり、受賞作の名に恥じない快作だった。 |