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ミステリの祭典

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平均点:5.92点 書評数:74件

プロフィール| 書評

No.74 6点 家庭教師は知っている
青柳碧人
(2025/03/24 21:19登録)
主人公は、首都圏に教室を持つ家庭教師派遣会社「SCエデュケーション」に勤務する原田保典。原田は半年前、鬼子母神の境内で被虐待児と思しき女児を保護し、児童相談所に駆けこんで女児を救ったことから、全教室内で有名人となっていた。
物語は、原田が主任として勤務する池袋教室を舞台に、何らかの異変の匂いを嗅ぎ取った担当の家庭教師から報告を受ける原田が、その異変の正体を明らかにしていく、というのが物語の縦糸。横糸は、原田自身のトラウマで大学時代時、自宅のアパートで卒論制作の最中に、ふとしたことから向かいのアパートで児童虐待が行われていることを知ってしまうものの何のアクションも起こさず、その児童を助けることをしなかったことだ。この縦糸と横糸の絡ませ方が巧い。
収録されている5編の連作は、どれも日常の謎系の優れたミステリであると同時に、児童虐待を含む問題も描かれている。一編ごとに深いテーマがあり、それぞれに読み応えがあるが、読後にはほろ苦さの先に垣間見えるものがある。


No.73 6点 世界の望む静謐
倉知淳
(2025/03/02 21:19登録)
痩身に死神を思わせる警部とその部下で人間離れした美貌をもつ鈴木刑事のコンビが犯人を追い詰めていく倒叙ミステリ連作。
国民的人気コミックを手掛ける漫画家を手に掛けてしまった編集者、悪徳プロモーターの命を奪った芸能生活五十年を迎えたベテラン歌手、夫の不倫相手であった自らの秘書を刺殺したライフスタイルアドバイザー、脅迫をする美大専門予備校の職員を殺害した美術講師の四名が各話の犯人となる。
犯人により消し去られた事件ん痕跡を乙姫警部は深淵を覗き込むように瞳に宿る観察力で現場にある不自然さを次々と見抜いていく。本シリーズの凄みは、犯人が弄した隠蔽工作を幾重にも推理を行うことで全方位から突き崩していく過程にある。とりわけ表題作において、自然なものとして見えていた光景において姫の語りによって小さな矛盾が、まんべんなく暴かれていく様は圧巻。


No.72 6点 此の世の果ての殺人
荒木あかね
(2025/03/02 21:11登録)
間もなく小惑星が衝突して人類は滅亡するということが判明する。大混乱の中、主人公はたまたま遭遇した殺人事件を解決しようとするのである。間もなくみんな死んでしまうし、法律など意味を持たなくなっているのになぜか、というのが大きな関心事になる。
展開はロード・ノヴェル的で、主人公・小春はその中で自身の生のありようを見つめ直す。青春小説の要素と謎解きの趣向を見事に合致させた点が素晴らしい。史上最年少、しかも選考委員満場一致で第68回江戸川乱歩賞を受賞したというのも驚き。


No.71 8点 異常【アノマリー】
エルベ・ル=テリエ
(2025/02/09 17:39登録)
手練れの殺し屋の動きを、フードを被った男が密かに窺っている導入部は、いかにも探偵小説風。それなのに設定はSFで、全体としては「自分とは何か」が問われる哲学的な思考実験になっていて、自分というものが揺さぶられる。
それでいて難解さはない。ニューヨークに向けたエールフランスの同じ便に乗り合わせた乗客に、ある異常事態が起きる。受け入れられない現実に直面した時、人はどう行動するのかを丁寧に描いている。乗客それぞれが抱える背景の設定が絶妙。


No.70 7点 罪の壁
ウインストン・グレアム
(2025/01/19 21:43登録)
一九五四年、主人公のフィリップ・ターナーは、優秀な考古学者だった次兄がグレヴィルがアムステルダムの運河で溺死したと知らされる。遺品の中には、レオニーという女がグレヴィルに宛てた別れを告げる手紙があった。またグレヴィルと一緒にアムステルダムのホテルに投宿したジャック・バッキンガムという男は、警察が捜査を始める前に姿を消している。フィリップは兄の死に秘められた謎を追い始めるが。
グレヴィルが以前は原子力専門家だったという設定が、大掛かりな国際的謀略小説として展開するのではと予想してしまうが、次第に物語は冒険小説の中に恋愛小説の要素が色濃くなっていく。舞台がイタリアに移動する後半では、登場人物たちが善意のモラルに関して論戦を繰り広げるなど、ディスカッション小説の側面さえ具えている。
主人公フィリップは、兄の死の真相を知りたいという思いと、ある女性への愛情という二つのモチベーションで無鉄砲に動き回るのだが、この二つの決着の地点がなんとも奇妙であり、通常の意味でのカタルシスとは程遠い。型にはまらない作品特有の、どちらに転がるか予測不能のスリルに満ちている。


No.69 5点 ボーンズ・アンド・オール
カミーユ・デアンジュリス
(2024/12/28 20:46登録)
人喰い少女の遍歴譚。赤ちゃんの時にベビーシッターを喰い殺して以来、マレンはしばしば人喰いの衝動を抑えきれず、相手を喰らっては母に連れられ、その地を逃げ出すという生活を繰り返していた。しかし、遂に母にも捨てられた彼女は、まだ見ぬ父を求める旅の途上、同じく人喰いの習性を持った奇妙な老人や青年と出会う。
この世界には人喰いが密かに遍在しているという吸血鬼物などにも似た設定はしかし、自分に好意や欲望を寄せる、あるいは自分が好意を抱いた相手を喰らってしまうがゆえに他者と関わりを持てないという主人公のキャラクターも相俟って、伝奇というより圧倒的な孤独や疎外感として顕れる。作者がヴィーガンであるとう、皮肉も含めて様々な読みを誘発する異色作品。


No.68 7点 少年トレチア
津原泰水
(2024/12/09 19:49登録)
沼地に建てられた巨大なニュータウンの緋沼サテライトでは、たびたび残虐な事件が起こる。住人たちの間では、白シャツ学帽姿の少年トレチアがその犯人であると都市伝説的に語られてきた。ある日、崇の友人・竜介が何者かに襲われ、さらには恋人の有希も失踪する。そもそもトレチアとは、崇たちが子供の頃に熱中した動物殺しや殺人を隠蔽するためにでっちあげた架空の存在だった。ところがトレチアの噂はまことしやかに広がり、十年の時を経て気が付けば自分たちが狩られる側になっていたのである。
物語は群像劇として進み、トレチアを自認する小学生や、サテライトを8㎜フィルム撮影する摂食障害の女、怪魚マカラについて調べる落ちぶれた漫画家など多数のキャラクターが入り乱れる。人工的で淀んだ世紀末のベッドタウンを舞台に、多くの謎と恐怖が複雑に絡み合う、幻想的かつ禍々しい怪作。


No.67 7点 揺籃の都 平家物語推理抄
羽生飛鳥
(2024/11/19 19:58登録)
舞台となるのは一一八〇年、清盛が都を福原に移して間もない頃。頼盛は、平家にとって縁起の悪い夢を見たと言いふらしている青侍を捕縛するように清盛に命じられる。見つけて追いかけたまではよかったが、なんとその青侍が逃げ込んだのは清盛の屋敷だった。
もはや袋の鼠と悠長に構え、清盛の息子たちと清盛邸に泊まった頼盛だったが、翌朝、その青侍がバラバラに説だsンされた死体で発見された。しかも清盛の寝床から大切な刀が盗まれたという。館は見張りも多く、勝手な出入り菜出来ない。外には降り積もった雪。さらに封印された密室の中で事件が。
物理トリックから錯覚を利用したものまで、様々な仕掛けに満ちていて実にエキサイティング。しかも、この時代ならではの価値観や習慣を上手く事件に絡めており、その腕に感心した。


No.66 6点 ヒートアイランド
垣根涼介
(2024/10/29 21:12登録)
大都会の夏は、ヒートアイランド現象のため熱がこもり暑い。その熱にうだりながら自らも行き止まりの人生に首まで浸かっているストリートギャングたちが、不正な大金を偶然に手にしてしまったために、本職のヤクザたちと命懸けの闘いを繰り広げることになる。
デビュー作の「午前三時のルースター」でテンポの良い文章を評価されていたが、本作ではリズムだけでなくメロディの美しさでも読ませる作家であることを証明してみせた。ここで扱われている主題は、時代を包む閉塞感をいかに打開するかという力強い問題提起である。


No.65 6点 先祖探偵
新川帆立
(2024/10/09 21:14登録)
依頼人の先祖を調査する専門の探偵、邑楽風子。高校卒業以来、興信所で働き二十六歳で独立、東京の下町に個人事務所を開いた。風子は何百年も前の先祖がどんな身分でも構わないではないかと思いながらも、遠い先祖をたどれる人を羨ましく思ってしまう。なぜなら彼女に母以外に係累の記憶がないからだ。
それぞれの依頼に応じた風子の調査を通じて、各編のタイトルに含まれる幽霊戸籍や消失戸籍など、特殊な事情が絡んだ戸籍をめぐる諸問題が浮かび上がってくる。本書は戸籍をめぐる蘊蓄ミステリとしての一面に加え、風子の両親探しという縦糸で全編が貫かれている。
誰から生まれ、誰と繋がっているのか。それを知ることが風子のアイデンティティの確立と不可分に結びついている。紙切れ一枚で示される戸籍から色々な感慨を覚えさせてくれる作品。


No.64 5点 ダンシング玉入れ
中山可穂
(2024/10/09 21:04登録)
主人公は無敵の殺し屋。彼のターゲットは、宝塚歌劇団月組トップスター・三日月傑。主人公が三日月のことを尾行すればするほど、驚くのは彼女のストイックな生活。この中でどうやって殺しを実行するのか。そして彼に殺しを依頼した犯人は一体誰なのか。
読みどころはなんといっても、そのストイックな青春の在り方である。若い女性のイメージに相応する余暇をかなぐり捨てて、全身全霊で舞台という名の青春に没頭する。その姿は、まるでオリンピックに邁進するアスリート姿と同じようだと、主人公の殺し屋は驚きをもって語る。
トップスターの三日月もまた、殺し屋に狙われるという数奇な運命を抱きながら、ある意味「命懸け」つつ、舞台へ向かう。宝塚がテーマの小説という華やかな舞台を描いた物語を想像するかもしれないが、実のところはスターが舞台上で見せる姿の裏にある、ストイックに自分を追い込む日々を切り取っている。宝塚に詳しくなくても、鮮やかなノワール小説として爽やかな青春小説として楽しめる。


No.63 5点 ディア・アンビバレンス 口髭と<魔女>と吊られた遺体
SWERY
(2024/09/18 21:44登録)
語り手は、吾輩は紳士であると自称する口髭のポコ。この小説は彼が実話をもとに書き上げた創作という形で始まる。舞台はイングランドの片田舎。ある日、十七歳の少女が、木に逆さ吊りにされた上、全身の毛を剃られ、内臓を抜き取られて殺される。まるで魔女狩りを想起させるような現場だった。
警察署の刑事たち、肉屋、牛乳配達員、怪しげなバーの店主と村人たち。果たして犯人は誰か?動機は?なぜ少女は殺されたのか?森の魔女クラブとは何なのか?エミリーとポコは事件を探るうちに、この町に眠っていた暗い過去と向き合うようになる。
ストーリーは言うに及ばず、ポコの書く文章は、どこか気品があり、登場人物たちの会話は皮肉とユーモアに満ちている。


No.62 6点 五つの季節に探偵は
逸木裕
(2024/09/18 21:31登録)
クラスメイトから担任の教師の弱みを握って欲しいと懇願される第一話「イミテーション・ガールズ」は高校時代のエピソード。清廉な雰囲気を漂わせる若手男性教師を尾行することで、歪んだ事態の構図と対峙する探偵のそれ以上に歪んだ心理を描いている。
総じて名探偵の個性と共鳴した苦みの強い終幕を迎える事件が並んでいるのが最大の特徴である。貴重な香りを放つ鯨の結石(龍涎香)を盗んだ人物を突き止める「龍の残り香」では依頼人の望まない結末に事態を導き常軌を逸した執着は、第三話「解錠の音が」のラストで探偵を異常な行動に走らせることになる。切れの良い伏線回収さえ霞ませる名探偵の性質が常に誰かを傷つけ、他者との間に軋轢を生むのだ。


No.61 5点 ポリス猫DCの事件簿
若竹七海
(2024/08/28 22:24登録)
住民の数より多くの猫が住みつき、観光地となった葉崎市猫島。島唯一の派出所の勤務員は、七瀬晃巡査と、ポリス猫DC。
のんびりした猫島に放たれる、作者お得意の悪意が絶妙。人間のひき起す事件に猫が絡んでのドタバタ劇。個性的な登場人物に、適度なユーモアが加わったコージーミステリとなっている。猫好きならお薦めするが、そうでなければ薦めない。


No.60 7点 暴虎の牙
柚月裕子
(2024/08/06 21:18登録)
極道にとことん歯向かう愚連隊・呉寅会を率いる沖虎彦の波乱に満ちた青春を描いている。
マル暴刑事・大上も、日岡秀一も、そして尾谷組組長となった一之瀬守孝も、これまでのシリーズ二作に登場してきた男たちの全てを脇に回し、沖虎彦の苛烈な生き方を見事に引き締めている。
「孤狼の血」よりも前の年代から始まるが、最後は「凶犬の眼」の先まで描く物語である。つまり本書は三部作全体を包含する物語なのである。まるで男たちの挽歌であるかのような、余韻ある哀しいラストが心にしみる。


No.59 7点 同志少女よ、敵を撃て
逢坂冬馬
(2024/07/19 22:28登録)
一九四二年、母を独軍の狙撃兵に殺され、戦うのか死ぬのかのの選択を迫られたソ連の少女・セラフィマが主人公。
敵を討つ道を選び、狙撃兵となった彼女が、実際に人の命を奪う経験を重ね、戦闘の現場での女性の扱われ方のリアルを知っていく様を圧倒的な筆力で描き切った本作は、狙撃の攻防のスリルを生々しく体感させてくれるとともに、死の重さ(仲間の死)と軽さ(狙撃成績としての殺害者数)を両面で理解させてくれもする。さらに女性を最前線に投入したソ連の特殊性や、終盤に配置されたサプライズなどもセラフィマを通じて語られていて素晴らしい。
戦争が終わっても人生は続く。物語の最後にその真実を綴るのは厳しくも優しい。


No.58 5点 虚魚
新名智
(2024/06/25 21:27登録)
物語は三咲の同居人カナちゃんが釣り堀で釣り上げたら死ぬ魚がいるらしいと聞いてきたことに始まる。三咲は怪談オタクの西賀昇に協力を要請、彼は静岡県釜津市の名刺に、人の言葉を話す恐魚伝説があるのを見つける。二人は現地に赴くが、地元の人によると恐魚がいるのは東海道の難所として知られた隣町の狗竜川の河口だという。帰郷した三咲は川に憑かれていく。
序盤の展開からして怪談小説ぽいが、三咲が川に取り憑かれるのはもともとトラウマがあるからで、体験したら本当に死ぬ怪談を探しているのも、実はそこに動機があることが明かされるや、ミステリ的なサスペンスも生成し始める。中盤からはミステリとホラーがバランスよく展開している。


No.57 5点 私が大好きな小説家を殺すまで
斜線堂有紀
(2024/06/04 20:25登録)
人気小説家が失踪し、自室のクローゼットには何者かがいた痕跡が残っていた。そしてノートパソコンのドキュメントファイルには、その同居人が書いたと思しき小説が。
自殺しようとしていたところを小説家に命を救われた女子小学生は、成長とともに相手への依存を深め、小説家はスランプに陥って少女の文才に頼る。最初から噛み合っていなかった歯車が、動き出すにつれてさらに歪みを大きくしていく物語のようでもあるし、崇拝、愛情、嫉妬、情悪などの歯車が、運命という設計図のもと正確に噛み合って崩壊へと二人を導いているかのようでもある。出会ったこと自体が間違いだったとしても、やはりこの二人はこうなるしかなかったのかも知れない。


No.56 6点 推理大戦
似鳥鶏
(2024/05/14 22:20登録)
日本のある富豪が発見したという「聖遺物」を手に入れるために、世界中のカトリックそして正教会は、名探偵を送り込んだ。理由は聖遺物争奪のために行われる、前代未聞の推理ゲームに勝利するためである。迎えるのはその富豪である祖父の遺言でゲームを手伝うことになった廻と彼のいとこの大和、そして弁護士の山川。アメリカ、ウクライナ、日本、ブラジル各国から選ばれた強者たちは、全員が論理という武器だけでなく、特殊能力を有する超人的な名探偵ばかり。さてこの中で最も優れた名探偵は誰か。
まるで「アベンジャーズ」を想起させられるが、戦う相手がヴィランではなく同じ目的を持った「スーパー名探偵」というだけであながち間違っていない。特殊能力や派手な演出はやはり心を掴まれる。本題である聖遺物争奪ゲームはもちろん、前半パート置ける各国の名探偵が登場する短編も充実している。


No.55 6点 悲鳴だけ聞こえない
織守きょうや
(2024/04/22 21:41登録)
表題作は、顧問先の会社でのパワハラの告発を二人が調査するが、目撃者はいても被害者が名乗り出ない状況が謎となる。以降、弁護士までが絡んだパチンコの打ち子詐欺の全容を暴く「河部秀幸は存在しない」、破産手続きを前にどうしても手放したくない財産を隠したい依頼人に懇願される「依頼人の利益」、偏った財産分与を記した遺言状の作成に苦慮する「無意味な遺言状」、子供たち三人による遺産分割協議が始まった矢先にもう一人の相続権を持つ人間の存在が発覚する「上代礼司は鈴の音を胸に抱く」の5編を収録。
極めて今日的な話題から普遍的な揉め事までを幅広く取り入れて、そこにトリッキーな解決を見せる。弁護士コンビの目を通して描かれる生々しくほのかな闇を垣間見せる人間模様が解明とともに浄化される気持ちになる。

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