完全なる白銀 |
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作家 | 岩井圭也 |
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出版日 | 2023年02月 |
平均点 | 6.00点 |
書評数 | 2人 |
No.2 | 6点 | SU | |
(2025/07/28 21:26登録) フリーカメラマンの藤谷緑里は、サウニケで知り合った二人の友人がいた。そのうちの一人のリタ・ウルラクが七年前に冬季デナリ単独行に挑み、下山途中で行方を絶っていた。リタは登頂に成功したらしいが、残されたのは頂上から「完全なる白銀」を見たという言葉のみ。それゆえ新進登山家として「冬の女王」の異名をとったリタは「詐欺の女王」呼ばわりされるようになった。緑里はその汚名を晴らすべく、もう一人の友人シーラとともに冬のデナリを登ることになった。 サウニケは、地球温暖化の影響で海に侵食され徐々に没しつつある。リタはその危機を世界に訴えるため登山家になり、急ピッチで世界の高峰を制覇し名をあげていった。この環境危機に女性の成長譚を交えた回想パートがいい。もちろん、その登山シーンもリアルで迫力がある。ブリザードにクレバスの罠、高山病など冬のデナリの凄まじさは想像を絶するが、それをサスペンスフルに描き切った筆力に感心させられた。 |
No.1 | 6点 | 猫サーカス | |
(2025/04/16 19:22登録) 二〇二三年一月、フリーカメラマンの藤谷緑里は、米アラスカで友人のシーラと合流し、標高6190メートルの北米最高峰テデナリに登頂する準備を進める。実は、シーラの幼馴染で緑里の親友であるリタ・ウルラクは、七年前に冬季デナリを単独登頂を果たした初の女性だったが、無線で登頂の報告をした直後に行方不明となった。すると、山頂に登頂したと言い張っているだけではないかと、リタへの疑惑がメディアで巻き起こる。緑里が冬季デナリに挑戦する動機は、リタが山頂で見たと無線で言い残した「完全なる白銀」を撮影し、彼女の単独登頂を証明することにあった。強風と荒天、氷点下50度からなる険しい山を女性二人が登っていく現在のパートの合間に。緑里が初めてアラスカに渡った二十歳の夏から数年おきに時を刻む、過去パートが挿入されていく。そこで語られるのは、男社会である写真の世界で戦う緑里の人生の軌跡であり、登山家として頭角を現していくリタの動機の変遷。登山家として有名になり情報を発信することで、故郷の危機に注目が集まると考えたが、途中から有名になることそのものが目的になってはいなかったか、という疑心を緑里に抱かせることで、サスペンスをラストまで持続させることに成功している。山頂に挑む最後のアタックの描写、ラストシーンの幽玄なビジョンは圧巻。 |