罪の壁 別邦題『小さな壁』 |
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作家 | ウインストン・グレアム |
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出版日 | 2022年12月 |
平均点 | 7.00点 |
書評数 | 2人 |
No.2 | 7点 | SU | |
(2025/01/19 21:43登録) 一九五四年、主人公のフィリップ・ターナーは、優秀な考古学者だった次兄がグレヴィルがアムステルダムの運河で溺死したと知らされる。遺品の中には、レオニーという女がグレヴィルに宛てた別れを告げる手紙があった。またグレヴィルと一緒にアムステルダムのホテルに投宿したジャック・バッキンガムという男は、警察が捜査を始める前に姿を消している。フィリップは兄の死に秘められた謎を追い始めるが。 グレヴィルが以前は原子力専門家だったという設定が、大掛かりな国際的謀略小説として展開するのではと予想してしまうが、次第に物語は冒険小説の中に恋愛小説の要素が色濃くなっていく。舞台がイタリアに移動する後半では、登場人物たちが善意のモラルに関して論戦を繰り広げるなど、ディスカッション小説の側面さえ具えている。 主人公フィリップは、兄の死の真相を知りたいという思いと、ある女性への愛情という二つのモチベーションで無鉄砲に動き回るのだが、この二つの決着の地点がなんとも奇妙であり、通常の意味でのカタルシスとは程遠い。型にはまらない作品特有の、どちらに転がるか予測不能のスリルに満ちている。 |
No.1 | 7点 | 人並由真 | |
(2023/03/02 07:11登録) (ネタバレなし) 「僕」ことフィリップ・ターナーは、カリフォルニアの航空機メーカーに勤務する30歳の英国青年。だが母国の長兄アーノルドから連絡があり、次兄で元物理学者、今は考古学者のグレヴィルが、アムステルダムで死亡したと知る。自殺の可能性が大と見なされたグレヴィルの死だが、その見解に疑念と不審が拭えないフィリップは、兄の学術調査仲間だった男ジャック・バッキンガムを探そうとするが、所在不明だ。フィリップはバッキンガムと知己という元軍人マーティン・コクソン中佐とともにアムステルダムに向かうが。 1955年の英国作品。CWA最優秀長編賞(のちのゴールデンダガー賞)の第一回を取った作品で、昨年の歳末に出た2022年度翻訳ミステリの最後の方の目玉作品群のひとつであったが、ようやく読めた。 物語の前半から、かなり明確なベクトルのストーリー(兄の死の真相を追う弟主人公)が築かれる。 翻訳も良い意味で現代調に振り切った感じで非常に読みやすいが、中盤からの展開がいささか冗長。さっさと次の行動に移ればよい主人公フィリップの言動がかなり足踏み状態で、正直、眠気を誘った。 しかし、最後の約100頁、物語の真相というか事件の骨格が見えてくるとその辺の不満を吹き飛ばすように面白くなり、最後はミステリとしてのポイントを押さえながらも、小説として練り上げて決めたな、という感慨にまで至る。 雰囲気でいえば、旧クライムクラブの上の下か中の上といった感じ。実際、同叢書の中の某作品のニュアンスを想起したりもした(こう書いても、120%ネタバレにはならないと信じるが)。 まあ21世紀に鳴り物入りで発掘するんじゃなく、リアルタイムかソレに近い1950~60年代に邦訳が出て、じわじわと読んだミステリファンが増えていってくれていた方がよかったタイプの作品だとも思うものの、それは無いものねだり。 むしろ本作をふくめて旧作発掘路線に本腰を入れてくれている新潮文庫に感謝、感謝、感謝の念。 繰り返すが、中盤はかったるかったよ。 でも、終盤の盛り上がりは実に良かったのだ。人間描写に深みと味のある作品だと思う。 どのくらい、他の人の共感を得られるかは知らんが(笑)。 【2023年3月3日追記】 SRの会の年間新刊リストを見たら、本書は奥付が1月1日ということで(実売は師走の下旬だったが)、SR内でのカテゴライズでも2023年の新刊扱いということになったようである。あらら。 |