home

ミステリの祭典

login
ジョン・サンストーンの事件簿 上
ジョン・サンストーン

作家 マンリー・ウェイド・ウェルマン
出版日2025年05月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 人並由真
(2025/10/03 07:56登録)
(ネタバレなし)
 作者M・W・ウェルマンは、息子ウェイドとの共作でホームズ&チャレンジャー教授ものの傑作パスティーシュ(あるいはシリアスパロディ)『シャーロック・ホームズの宇宙戦争』を著したことで日本でも知られるが、単独の作家としてもパルプマガジン文化の全盛時代から活躍。かの「ウィアード・テールズ」などでも健筆をふるっていた、20世紀アメリカミステリ界での息の長い書き手であった。

 そんなご当人のカントリー・ホラー・アクションもの(または対モンスターヒーローもの)の連作短編集『悪魔なんかこわくない』(主人公は吟遊詩人の「銀のギターのジョン」)は、評者の大のお気に入りの一冊。
 東西の特撮テレビシリーズ『悪魔くん』『事件記者コルチャック』などといった、バラエティに富んだ毎回の妖怪・モンスター退治譚もののの愛好家なら必読の傑作で、刊行当時、当時のSR会員で年下の友人から勧められて読んだ。
 「絶対に面白いから」の言葉に掛け値なし。同書『悪魔なんか』は、興味がありそうな未読の人に向けて、今でも「とにかく呼んでおけ」としか言いようがない。波長が合う人なら、痺れるような大傑作だと信じる(まーもちろん、最終的な評価は、読んだ人それぞれの勝手で自由なのだが)。

 で、そのウェルマンにはかの『悪魔なんかこわくない』とはまた別に、対モンスター、対オカルト存在相手の連作シリーズが実はあったことが、今回初めて(評者には)判明。
 それがこのオカルト、モンスター事件を事実上の専売に扱う、ニューヨークの私立探偵ジョン・サーストンシリーズであった。原作シリーズは1943年から1985年まで、途中の長い休止期間を挟んで十数編の短編と長編2本が書かれたが、今回の邦訳出版企画ではその中短編分のみを二分冊で翻訳(その長編2冊もぜひとも翻訳してほしい)。
 先に刊行されたこの上巻には、1940年代に書かれた8編の中短編が収録されている。

 序盤2編はブードゥーのゾンビ、幽霊屋敷など、定番のネタで開幕。その後、シリーズインシリーズ的な、セミレギュラーの常連悪役モンスター&オカルト関係者なども登場。
 ちょっと惜しいと思ったのは、そのセミレギュラーの悪役一派「シャノン」(わかりやすく言えば『ウルトラセブン』のノンマルトみたいな地球の先住民族が、『ウルトラマン80』もしくは『ウルトラマンパワード』までのバルタン一族みたいなポジションで主人公にからんでくる)の登場頻度が存外に多く、この手のモンスターハンターものなら、もっともっと多彩な妖怪や怪事件と戦ってほしいと思うところ、意外に話というか作品世界が広がらない点。

 セミレギュラー悪役の頻繁な顔出しは読者におなじみ路線的な安定感を与えるメリットもあろうが、一方で、もっとあれやこれやのモンスターを相手にすればいいのに、なんかもったいない、そんな思いでいっぱい。
 まあくだんのシャノン側の作戦が意外に毎回バラエティに富んではいるし、事件の流れやその形質も各編ごとに雑多なので、敵役が共通していてもさほど飽きは生じない。ある意味では、敵組織・敵集団がかなりの比率で同一ながら、その上でのどうバラエティ感を醸し出すか、的なシリーズ構成上の妙味も達成。だから全くダメというわけでもないが。
 
 ちなみにこのサーストンシリーズ、かのシーベリー(シーバリー)・クインの了解をとってるらしく、向こうの手持ちのオカルト探偵偵ジュール・ド・グランダンが彼のワトスン役の医師トロウブリッジ先生とともにしばし客演。現在のところ表立った活躍はしないが、電話や手紙などで、同じような怪奇事件に挑む者同士の連携で、連絡や相談などは頻繁らしい、という趣向が実に楽しい。神津恭介ものの長編『白妖鬼』のなかで同じ作品世界での存在が語られる、山田風太郎の荊木歓喜みたいだ。あるいはジョー・ゴアズのDKAシリーズの中にひょっこり顔を出す悪党パーカーか。

 期待した形120%というわけにはいかなかったが、それでもいろんな意味でサービス精神はやはり実に豊潤な一冊。格闘戦も得意な巨漢ながら頭も使うハードボイルド系の都会派探偵が、即妙にあるいは独自に探求して対モンスターのオカルト戦略を組み立てる描写などももちろん随所の見せ場で、そーゆーのが好きなこっちにはワクワクゾクゾク感がたまらない。下巻の方では、間を置いて書かれた80年代編の分に、旧作のエピソード群とどんな感じの差異が生じているのか、その辺の興味も楽しみどころである。

1レコード表示中です 書評