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ミステリの祭典

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医者よ自分を癒せ

作家 イーデン・フィルポッツ
出版日1956年01月
平均点6.00点
書評数2人

No.2 7点 人並由真
(2025/10/09 05:11登録)
(ネタバレなし)
 20世紀前半のイギリス。開業医として世の人々に尽くし、病理学者としても高名であった高齢の医学博士ヘクター・マックオストリッチが他界する。彼は一人称「私」の視点で、書籍一冊分の長大な手記を遺していた。そこには20世紀の初頭に当人が暮らした海沿いの地方の町プリトマスにて、七年の時を置いて、同じ景勝地マッターズ沼地で起きた二件の殺人事件についての記録が語られていた。

 1935年の英国作品。ポケミスは初版と1983年の再版を成り行きで一冊ずつ購入(どちらも古書で)していたが、今回の初読は後者で通読。重版の方が活字がくっきりしていて、いくらか読みやすい。

 格調さを意識したのであろう宇野利泰の訳文も含めて、文芸味の強い物語。
 遺された手記から真実が明らかになる趣向というか設定なので、当初から結末までの大筋が見えるような気がする。
 が、一方で、いくらクラシックミステリとはいえ、すでに当時の時点で大家のフィルポッツの商業作品、そこまでヤワな出来ではないだろ? との思いもある。じゃあ物語の着地点がどこになるのか? という興味で、ワクワクゾクゾクしながら読み進める。

 登場人物はモブキャラ、サブキャラまで入れれば、ネームドキャラだけで総数40人前後とそこそこ。だが実際には、手記内の主人公ヘクターとわずか数名だけの心理駆け引き、シーソーゲームの内容と言っていい。

 先が読めるとかどーとかは言っても、あまり意味はない、筋立ての細部を楽しんでいくタイプの小説。しかしながら最後の最後には……(中略)で、かなり面白かった。
 メインテーマはほかのフィルポッツの多くの長編同様、人間の心の悪、だが、それを十全に前もって認めた上でなお、最後までグイグイ読ませる。
 厚みのあるクロージングの余韻が最高で、8点にかなり近い、この評点で。

No.1 5点 斎藤警部
(2015/06/18 19:52登録)
英国田園地帯に住む医師の独白で構成される謎の文書、の様な小説。 この医師、最初は比較的まともな人物の様ですが、徐々にどうもおかしい所が見え隠れ。これは、何かあるぞ。。
古式ゆかしい面を差し引いてもなお読みづらい文章ではあります。が、物語の風格に圧されてまず退屈無しに最後まで読み切りました。これはやはり、ミステリの薫り漂う文芸作品。
現代の作家だったら、まして東野圭吾だったら、この物語の最後にまさかの劇的極まりないオチを付けて全てをブチ壊し、「おォ、本格推理小説だったんだ!!」と読者を唖然とさせる方に行くのではないかな。(このお話の最後だってドンデン返しっちゃそうなんですが)

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