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ミステリの祭典

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ペニクロス村殺人事件
フィリップ・ハンター首席警部

作家 モーリス・プロクター
出版日不明
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 人並由真
(2025/10/29 06:07登録)
(ネタバレなし)
 英国はヨークシャー州の田舎、総人口240人強のペニクロス村。そこの郊外にある「郭公(カッコウ)の森」でその年の10月、農園主ネッド・ボーマントの末娘の幼女ダフネが何者かに惨殺される事件が起きた。スコットランドヤードは「私」こと、30代初めの若手首席警部フィリップ・ハンターとその同年齢の相棒ダトン警部を現地に派遣。フィリップたちは所轄のアタバラ署の面々と協力して捜査に当たるが、犯人の正体すら掴めなかった。だがそれから8ヶ月を経た郭公の森で、再び罪もない幼女が犠牲になる。フィリップとダトンは今度こそ事件の真相の解明と真犯人の捕縛を目指して、ペニクロス村に赴くが。

 1951年の英国作品。本国では当初「首席警部の報告書」の題名で刊行され、同年に邦訳通りの原題『ペニクロス村殺人事件』に改題されてアメリカでも発売されたらしい。
 なお邦訳刊行のデータはまたamazonの表記が不順だが、昭和33年7月31日のポケミス421番。たぶん初版しか存在してないよね?

 地味で渋いが、細部まで描き込んだ味わいのある警察小説。
 この手の作品としては主人公探偵である上級刑事の一人称(プロローグやエピローグなど一部は例外)という形式が、ちょっと珍しく思える。もしかしたら類例はあったかもしれないが、ちょっとすぐに記憶から出てこない。

 ハンターは聡明で優秀な刑事だが、巨漢で牡牛のようなとても美男とはいえない外観を当人自身が気にしており、そんな彼が最初の事件で知り合った幼女被害者の上の姉、23歳の美女バーバリに思いを寄せている、という文芸も面白い。
(物語は2人目の幼女の殺人事件が起きた時勢から開幕。最初の事件の捜査の際に結局成果を上げられなかったペニクロス村に、フィリップとダトンが雪辱を晴らしに舞い戻るところからフィリップの一人称になる。)
 メインヒロインに当たるバーバリは妹を殺された際、フィリップが最大限の努力をしてくれたことは知っているので、犯人がいまだ不明でも恨んではいない。むしろフィリップに好意を抱いているが、両想いだと知って喜んだ彼が自分たちの関係を先に進めようとすると、恋愛の進展はあなたが犯人を捕まえてから、とやんわり釘を刺す。
 警察小説の枠組みで語られるこーゆー主人公探偵(警官)とヒロインの関係がなかなか面白い。

 真犯人は一応、フーダニットの仕様でヤマ場に至るまでは秘められているが、最初の伏線となるちょっと妙に丁寧な描写で、読みなれた人なら、ああ、こいつだな、と気が付くハズ。評者もそこでフックを掛けられ、まんまと当たった。ただその仕込みの文芸が最後の最後でエピローグに活きて来るのは、大人の作劇というか、とくできた小説の作りでなかなか味がある。
 サブキャラの配置や叙述など全体的にバランスの良い群像劇も、読み物ミステリとしてじっくり楽しめた。
 6点(犯人はわかりやすい)か7点(でも読んでる間、小説として面白い)か迷うが、最終的にこの評点で。0.3~0.4点くらいオマケかな。

 ちなみに日本ではこの一冊しか邦訳が出なかったフィリップ・ハンター首席警部の主役篇だが、英文サイトを調べてみると1952年と1956年に続編が書かれ、全3冊のシリーズになった模様。
 当然、多くの英国の先輩シリーズ探偵たちの定石に倣って、のちのちバーバリとも結婚してるんだろう。できれば残りの2冊も読んでみたいが……まあムリだろうな?
 もうひとりのプロクターのレギュラー探偵、ハリイ・マーティーノー警部も悪くはなかったが、こっちのフィリップ・ハンターはこのあとの恋の進展という興味も踏まえて、もうちょっとだけこっちの関心を煽る。

 何にしろ、読んでそれなり以上に楽しめた一冊でした。

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