(2025/04/24 10:39登録)
(ネタバレなしです) インドの女性作家ミッティ・シュローフ=シャーが2021年に発表したミステリー第1作です。英国推理作家協会(CWA)の賞候補になったそうですが英語での出版だったのでしょうか?ハヤカワ文庫版の裏表紙の粗筋紹介で「インドのアガサ・クリスティー」と表記されており、過去に同じキャッチフレーズでカルパナ・スワミナタンの「第三面の殺人」(2006年)を期待して読んで失望した経験があるので今度はちょっと身構えて読みましたが(笑)、本書はなかなか良かったです。主人公で作家のラディカ・ザヴェリはニューヨークに住んでいましたが恋人とは破局し、作品を書けなくなって帰郷します。友人に再会しようと訪問すると友人の父親の急死事件に巻き込まれます。容疑者たちとの会話を通じて嘘や矛盾を探り出していったり、第17章の葬儀場面で登場人物たちの内心が次々に描写されるのはクリスティーを連想させます。とはいえ1920年デビューのクリスティーとは相違点が多いのも当然で、インド風と一言では語れない多様な社会風俗描写(複数民族、複数宗教、多彩な料理や衣装など)が印象的です。舞台となるムンバイのテンプルヒルは豪華なアパートメントが立ち並ぶ富裕層の住宅街のようですが、玄関に鍵をかけずに出入り自由だったり約束なしでの家庭訪問が普通だったりと昔の習慣も残っているようです(第23章では変わりつつあるようですが)。決定的な証拠が足りない感もあり一部は犯人の自供に頼っていますが、しっかり謎解き推理している本格派推理小説として楽しめました。
|