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ミステリの祭典

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午後のチャイムが鳴るまでは

作家 阿津川辰海
出版日2023年09月
平均点6.40点
書評数5人

No.5 5点 パメル
(2024/10/12 19:38登録)
舞台となるのは九十九ヶ丘高校で、タイトル通り午後のチャイムが鳴るまでの65分間の昼休みに企てた完全犯罪を描いた5編からなる学園青春ミステリ。
「RUNラーメンRUN」外出禁止の校則を破り、学校を抜け出し人気のラーメン店でお昼を食べようとする生徒。
「いつになったら入稿完了?」部誌の原稿を仕上げるため、校内で徹夜合宿していた文芸部。締め切りが迫る中、表紙イラスト担当の部員が忽然と姿を消す。
「賭博師は恋に舞う」トランプの図柄を描いた消しゴムを使用する消しゴムポーカー。今回の優勝賞品は、誰もが憧れるクラスのマドンナに告白する権利。
「占いの館へおいで」教室の外から聞こえた「星占いなら仕方がない。木曜日ならなおさらだ」という声が妙に気になり、その一言から事情を推理する。
「過去からの挑戦」この最終話で全体の構成が明らかになる。脇役だった先生が主人公となり、高校生の名探偵が鮮やかに謎解きをする。体育教師の森山は、17年前の昼休みに囚われ続けていた。自分も生徒として通っていた時代、この学校の屋上で発生したある事件。淡い恋心とともに消失した女子生徒の身にあの時、何が起きていたのか。4話までに出てきた人物の秘密まで明かされ、大いに驚く仕掛けとなっている。
大人からすれば、くだらなく馬鹿馬鹿しい情熱なのかもしれない。でも誰でもそんな時があっただろう。今その瞬間を生きている、その思春期にしか分からない切実さがある。コロナ禍の学校生活に寄り添う描写とも併せ、一冊を通じて語られる「どんな青春も掛け替えのない青春なんだ」というメッセージには説得力があった。この馬鹿馬鹿しい青春群像劇が、魅力的な謎、緻密な伏線配置、的確な推理、加えて最後には連作を通した洒脱な趣向が明かされるミステリとしてよく出来ている。真相に察しがついてしまう話もあったが、青春小説として爽やかな読後感がある。

No.4 7点 mozart
(2024/04/02 17:00登録)
第1話、第2話あたりでは「普通の」青春ミステリーかなと思っていましたが第3話から俄然面白くなってきて第4話の違和感もさほど気にならず第5話できれいにまとめあげてくる作者の筆力に改めて感嘆しました。菅原はちょっとカッコ良過ぎですが。

自分の高校生時代には昼休みは1時間もなかったけれど早弁をして目一杯時間を確保した上でグランドでの球技とか結構「濃密」な時間をクラスメート達と過ごしていたことも思い出しました。

No.3 7点 まさむね
(2024/03/04 21:25登録)
 馬鹿馬鹿しいことに情熱を注ぐこの高校生たちは、馬鹿だ。お前は当時どうだったかって?ええ、勿論、馬鹿でした。懐かしくて愛おしい奴らだなぁ。「あの頃に戻りたいなぁ」と久方ぶりに思えた青春ミステリでした。
 こういった高校生たちの描写も含めて、上手い作品です。短編単独ではフィットしなくても、高校時代を思い起こしながら読み進めるのが吉。ラーメンも旨そうだったし。
 ちなみに、「Bでも仕方がない」とう言い回しは、少なくとも私は、「AでもBでも仕方がない(AもBもダメ)」という意味ではなく、「AはダメなのでBでも仕方がない(AはダメなのでBでもやむを得ない)」という意味で使いますねぇ。つまりは「次善の策」。虫暮部さんの別解には感銘を受けました。

No.2 6点 虫暮部
(2023/12/21 13:01登録)
 別解:【星占いでも仕方がない。木曜日ならなおさらだ】

 「~でも仕方がない」は「メロンソーダがないならコーラでも仕方がない」のように「次善の策」を意味するとも考えられる。本命の占いが別にあるけれど、それは駄目なので星占いで我慢しよう、と言うことだ。しかし、今時の男子高校生が、種類は何であれ占いに勤しむものだろうか。

 一つ大胆な飛躍を試みたい。「星占い」は、必ずしも占いそのものを指すとは限らないのではないか。
 注目すべきは占い研究会の宣伝ビラである。Xさんはそれを見て問題の言葉を口にした。ビラの文面を確認すると、「ビブリオマンシー」なる見慣れない語が目に付く。意味を知らない普通の人なら、ここから何を連想するか。「ビブリオバトル」である。
 文化祭ならビブリオバトルが開催されてもおかしくない。Xさんは書評の対象にどの本を選ぶか迷っている。ビラの幾つかの文言に触発されて、それが口を突いて出たのである。

 星占いの本などがビブリオバトルの対象になるか? これは「占星術」と言い換えれば明白であろう。島田荘司『占星術殺人事件』を意味するに違いない。
 この場合、「木曜日ならなおさらだ」を前のフレーズに追加する条件だと考えると意味不明であり、これは「木曜日」を「星占い」と並列しているのである。従ってそれもまた本のタイトルである。G・K・チェスタトン『木曜日だった男』それともハリイ・ケメルマン『木曜日ラビは外出した』だろうか。

 つまり、Xさんにとって『占星術殺人事件』は次善の策であり、『木曜日だった男』または『木曜日ラビは外出した』は「なおさら」だから三番目の選択肢なのであろう。冒頭の文例で言うところのメロンソーダ=イチ推し本の書評が上手くまとめられず、二番目三番目の本で挑む方が勝ちを狙えるのではないか、との迷いがこの独り言なのである。

 ここで再度飛躍する。そのイチ推し本も宣伝ビラに隠されているのかもしれない。ふと見たビラに、Xさんの迷いに関連した言葉が「ビブリオ」「星占い」「木曜日」そして「イチ推し本のキー・ワード」、四つも並んでいた偶然こそが、彼にその独り言を言わせたのではないか。
 なにしろ、「占いの『館』」と言う意味深長な文字がそこにあるのだ。黒死館? 十角館? いや、ここはやはりメタに忖度をかまして阿津川辰海『紅蓮館の殺人』を挙げるのが美しい解決と言うものであろう。

No.1 7点 人並由真
(2023/10/28 08:36登録)
(ネタバレなし)
 2021年9月。都内の「九十九ヶ丘高校」の校内で、登場人物の話題になった(あるいは心に浮かんだ)5つの<謎>を順々に語っていく連作短編ミステリ。

 作者の引き出しの多さ、広さはこれまでにも実感していたが、今回はひとつの場のなかでバラエティ感豊かなエピソードを並べ(メインの語り手たちもそれぞれ異なる)、一方で(以下略)。
 いや、相変わらずその技巧ぶりと、何よりも書き手自身が楽しんで書いている感覚は受け手のこちらも心地よい。

 一冊トータルで見て、手数の多い仕掛けのうちのいくつかは早々に見破れるが、しょせんは作者の豊富な仕込みの一角に過ぎない。
 気持ちよく、うん、やられたと思う。

 ちなみに基本的に「日常の謎」の「青春ミステリ」仕立て。
 なかには単品で読むと、ミステリ味が希薄とたぶん感じるものもあるが、それはそれで(以下略)。

 ちなみに終盤に行くにしたがって、あらぬことも考えましたが、それはたぶんこちらの思い過ごし……なんでしょうな?

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