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ミステリの祭典

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金時計
オーウェン・バーンズシリーズ

作家 ポール・アルテ
出版日2019年05月
平均点6.00点
書評数4人

No.4 6点 E-BANKER
(2025/10/26 12:32登録)
名探偵オーウェン・バーンズシリーズの長編作品。
翻訳者解説によれば、本作は本国以外の翻訳版が先に発表された珍しいケースとのこと。へぇー・・・
2019年の発表。短編「斧」も併録。

①「金時計」=~1911年の冬――霧深い森にそびえる山荘「レヴン・ロッジ」。貿易会社の辣腕社長ヴィクトリアが招いたのは、いずれも一癖も二癖もある男女。ヴィクトリアの弟・ダレン、アーティストから転身した副社長アンドリュー・ヨハンソン夫妻、アンドリューの秘書のシェリル。アンドリューはシェリルとの浮気に溺れ、妻のアリスはとうにそれに気づいている。ダレンは金と女にだらしない男で、山荘で出会ったシェリルにも気がある様子……そんな顔ぶれが揃った朝、森の中で死体が発見される。現場は完全な「雪の密室」だった。
1991年の初夏――劇作家アンドレは、子供の頃に観たサスペンス映画を探していた。スランプに陥っていたアンドレは妻のセリアの助言もあって、自身の創作の原点といえるほどの影響を受けながら、タイトルすら忘れてしまったその映画にもう一度向き合おうとしたのだ。隣人の勧めで、アンドレは映画マニアの哲学者モローを訪ね、彼の精神分析を通じて少年時代に立ち返っていく……~

本作を語るうえで外せないのは、まずは「雪密室」のトリックである。
このトリックの解法が説明されるのは、本当の最終盤。これは作者の狙いとしか思えない。
で、そのトリックなのだが・・・「良い」!
ただ、気になるのは、これっていわば「錯誤」を使ったトリックだと思うのだが、この「錯誤」はかなりリスキー。
普通は無理筋と一笑に付されてもやむないレベル。
オーウェン・バーンズもそこのところは理解していて、アレコレと補強はしているのだが、人間の感覚としての違和感は拭えない。
でもまあー、それを言っちゃあおしまい。
個人的には「面白い」と思った。特に、昨今の「雪密室」トリックで頻出するあのトリックの応用版とも言える今回のトリック。
確かに「足跡」についてはそう解釈できるよねー(いや、リアリティは横に置いといてだよ)
そしてもう一つ、重要なプロットとなっているのが、二つの年代を行き来しながらストーリーが進んでいくところ。
当然クロスしてくる。
1911年は、先に触れた雪密室が関わり、オーウェン・バーンズが登場するパート。一方、1981年は、自分が幼いころに見たはずの「映画探し」を軸に展開。
二つのストーリーが徐々に同じような方向に向かっていき・・・というようなストーリーライン。仕掛け、結末については、まあそれほど「ビックリ!」ではないし、どうもモゾモゾしたなという感覚が強い。
全体としては、評価はそれほど高くはならないけど、アルテにしては割ときれいにまとめたなという気にはなった。(全体的にですよ)

②「斧」=本当に短い短編。でもこれがなかなか。本格ミステリに必要なエッセンスだけに絞りました!と言わんばかり。もちろん不満な部分も結構あるけれど、結局はミステリってこういうものでは?という新鮮な感覚。

No.3 6点 レッドキング
(2024/02/06 17:16登録)
二十世紀初頭と終盤、ほぼ一世紀隔てた二つの「事件」。相互描写とくれば、興味は何より時を超えた連関に向くが、そこについては・・うーむ(-"-)。ミステリとしては、過去事件の雪足跡密室・・なんちゅうテクニカル・・に3点(満点)。現代(今では四半世紀前だが)事件の方の不可能トリックは、なんちゅうカー=アルテ(^^)。クリスティー風の人間関係トリックと時を超えた「狂気のヒロイン」造形見事で、点数加点。

No.2 7点 人並由真
(2020/02/27 04:28登録)
(ネタバレなし)
 本筋の1910年代パートと、現代の1990年代パート。
 一方は正統派パズラー、一方は(中略)の作りでぐいぐい読ませはするものの、結局はしょぼい接点でリンクするだけじゃないかと舐めていたが……。最後は「こう来たか!?」という快い驚きが待っていた。
 例によって人物メモを作りながら読んだが、その作業に意味があったのにもほくそ笑む。
 ホックの短編パズラーの感覚を思わせる不可能犯罪の真相にもニヤリ。モダンパズラーの作法なら、これで良いのだと思うぞ。
(※ちなみにAmazonのレビューは事前に読まないように。盛大にネタバレされています。評者はまったく知らずに楽しめて、ラッキーだった。)

 前作も面白かったけど、今回はそれ以上に満足度が高い。本シリーズの未訳5本がどんなレベルかは当然まだ分からないんだけど、少なくとも本作はたぶん上位の方だろうね? 少なくともこんな(中略)的な大技が、そうそう使えるわけはない(とはいえそんな予感が裏切られるのなら、それはそれでもちろん幸福)。
 あえて不満を言うなら、過去設定の日常描写に1910年代という時代色がいまひとつ感じられないことかな。この作品ならもう少しその演出が濃厚な方が、さらに終盤に向けての効果があがったように思える。
 
 何はともあれ、今後もシリーズの邦訳が順調に続くことを切に願います。

【一箇所だけ重箱の隅】
P87の6行目
ダリル(×)
ダレン(○)
……電子書籍版は、直ってるのであろうか?

No.1 5点 nukkam
(2019/06/10 23:05登録)
(ネタバレなしです) 2019年発表のオーウェン・バーンズシリーズ第7作の本格派推理小説ですが、行舟文化版の巻末解説によればフランス本国よりも日本での翻訳版の方が先に出版されたらしいのには驚きました。雪の上の死体の周辺に犯人の足跡が残っていない不可能犯罪が発生しますが、本書の最大の特徴は2つのエピソードを交差させながら物語が進むプロットでしょう。1つは1911年に発生した殺人事件の謎解きでオーウェンが活躍しています。もう1つは時代を1991年とし、1966年頃に見た映画のタイトルは何かという謎で始まるミステリーらしからぬエピソードですがだんだんと様相がおかしくなっていくのが印象的です。図解入りで丁寧に説明される足跡トリックは本格派好き読者を満足させるでしょうが、悪夢を見てるかのような(両方の時代の)結末の重苦しさは何と表現したらよいのやら。

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