死のある風景 鬼貫警部シリーズ |
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作家 | 鮎川哲也 |
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出版日 | 1965年01月 |
平均点 | 7.00点 |
書評数 | 13人 |
No.13 | 7点 | ぴぃち | |
(2024/11/10 19:43登録) 阿蘇で起こった女性の投身自殺と、金沢で発生した看護婦の射殺事件を中心に、熊本、石川、東京、千葉、宮城と、日本全土を股にかけたスケールの大きな犯罪計画が展開される。 各地の風情ある光景が物語に彩りを添える一方、鬼貫警部が繰り出す推理は実にスマートで、ロジカルな謎解きの面白さがある。 |
No.12 | 7点 | ことは | |
(2023/01/15 02:47登録) 再読。 鮎川作品では、ページ数も多い方で、高い評価もきく作品だが、ページ数の割にはトリックは小粒と感じられるので、自分の中では評価の高いほうではなかった。鬼貫警部の登場も少ないし、謎解き興味の観点からは不要に感じるシーンもおおい。 ただ今回は、以前は不要と感じた謎解き部分以外の点が、意外に楽しめた。「進駐軍」や「夜行列車」、「金沢や東京の風景」など、当時の風俗の描写に「近過去」の趣をつよく感じて、ファンタジー感が増して感じられた。もっと年を経れば、ホームズ物のヴィクトリア時代のように、時代描写を楽しむ観点もつよまるのかもしれない。 けれど、恋愛観/結婚観については、今と違いすぎて違和感が大きく、作品に対する印象も下がってしまった。これも年を経れば、ホームズ物の恋愛観/結婚観が現代と違っても「そういうものだったんだろう」と思うように、受け入れられるようになるのかな? あと、今回は元となった中編が併録されている「死のある風景 増補版」で読んでみたので、比較について書いてみる。中編版を読むのは初めて。 まず、想像以上に中編版の文章がそのまま使用されていることに驚いた。中編版の文章の7割以上を、再使用しているのではないか? シーンをごっそり移植したものがおおく、そのようなシーンでは、数ページにわたって「数個の言葉の選択の変更」、「数行の文章追加」しかされていない。 被害者の家に捜査者が訪ねるシーンの描写では、中編版では訪問は1回で、文章は”ABC”となっているのに対し、長編版では、事件を追加したことで別々の人物がそれぞれ訪ねる2回になり、1回目には”B”、2回目には”AC”の文章を使用しているところがあった。「使える文章はできるだけ使用するぞ」という意志が感じられる気がして、おもしろい。 全体として、中編版はアリバイの調査/解決が駆け足すぎて、その部分をもっと書き込んでほしい気になるので、長編化の元になったのはよく分かる。 |
No.11 | 8点 | クリスティ再読 | |
(2020/11/24 08:03登録) 小林信彦のパロディに登場する鬼面警部は「これ1冊あればどんな難事件でも解決できる」と国鉄時刻表を取り出して豪語する...んだけど、いや実際には「時刻表だけでアリバイトリックが成立する」ミステリって、鮎哲でもそうたくさんは書いていない。これが実質その稀な1冊の部類。 (ネタばれゴメン) 仙台での証言はまあ誰が見てもでっち上げと推測がつくから、実質「●●よりも早く」が時刻表だけで実現してしまうのが、この作品のロマン、という部分なんだと思っているよ。何よりも早く届くのが●●だったわけだから、それを超える早業が、単なる時刻表トリックというあたりに、この作品の最大の喜びがある、というのが今は伝わりにくいんだろうなあ。 であと金沢の事件も「急行よりも速く」で、これは読者がわからなくても仕方ないかもしれない特殊手段。金沢だけで長編を書いたら、「なんだ」ということになるだろう。「アリバイトリックだけで小説を作り上げる」というのは、いろいろなバランスを考えて書かないといけなくて、なかなか難しいことなんだなあ、と今になるとそう思う。鮎哲でも全盛期の筆力で、淡白な描写に見えて、視点を入れ替え入れ替え、工夫して書いているのがよく見える。 まあだから、アイデア的な面を別にして、「アリバイ崩し小説」のテクニカルな面だけに限って評価すると、トップクラスの作品になるんだと思う。 |
No.10 | 6点 | パメル | |
(2019/09/22 01:12登録) 序盤に提示される魅力的な謎、複数のトリックが絡み合い効果を発揮している巧妙なミスディレクション、難攻不落に思える鉄壁のアリバイ、思いがけない糸口から鮮やかに崩していく推理過程など、本格ミステリとしての魅力に溢れている。3つの事件が、それぞれどのように絡むのかといったプロットの妙も加わり、ワクワクさせてくれる要素は多い。 ただ、アリバイ崩しにかなりの分量が割かれているので、冗長に感じてしまった。(仕組まれたアリバイ工作の有効性が高いので、アリバイ崩しが好きな方は、読み応えがあり楽しめると思います。)また、鬼貫警部シリーズですが、登場するのは第十二章の一章のみ、しかも真相の解説は別人が行うため、シリーズのファンにとっては物足りなさを感じるかもしれません。 |
No.9 | 7点 | E-BANKER | |
(2017/04/15 09:52登録) 鬼貫警部シリーズの長編。 原型となる中編が「オール読物」誌で掲載されたのが1961年。長編化されて1965年に単行本化された作品。 今回は創元文庫版ではなく、ハルキ文庫版で読了。 ~結婚を目前に控えて、幸福に包まれているはずの女性が、ある日突然姿を消した。やがて彼女は阿蘇山の噴火口に自殺体となって発見される。一方、金沢の内灘海岸でもひとりの女性が射殺されるという事件が発生する。一見無関係に見えたふたつの事件の背後に、次第に明らかにされる犯罪の構図。堅牢にして緻密なアリバイを前に、鬼貫警部の推理が冴える! 本格推理小説の傑作~ まさに“正調”鮎川ミステリー、という表現が似合う作品だろう。 鬼貫警部シリーズも結構読んできたけど、ここまで「典型的」な作品は他にないかもしれない。 そんな気さえした。 何より、序盤の「謎の提示」が魅力的だ。 阿蘇火口と金沢・内灘海岸。一見まったく無関係の事件がそれぞれ描かれ、現地の警察の捜査が進められるものの、早々と挫折させられる。 さらに奥多摩での殺人事件まで登場し、混迷の度合いを深めるかと思いきや、ここで名“露払い”丹那刑事の出番となる。 ここまで来ると、「待ってました」とばかりに、犯人側が築いた堅牢なアリバイ砦が作中の刑事&読者の前に立ち塞がることになる。 もう・・・まさに“正調”って感じだろう・・・ 今回、「電報」がアリバイの鍵となる点など、いかにも時代性を感じさせるプロット。 列車を使ったアリバイトリックは、それほど凝ったところはないのだけど、あれほど堅牢と思えた「アリバイ砦」が、鬼貫警部のちょっとした“気付き”で、あっという間に崩されていくカタストロフィ! これこそが本シリーズの楽しみ方に違いない。 不満点も当然あるのだけど、そんなことはもういい。 名人芸の落語や漫談でも見たような、そんな満たされた気分にさせられた・・・感覚。 ファンにとっては堪えられない作品なのかもしれない。 (毎回思うけど、現在の時刻表ではこういうアリバイトリックって絶対不可能だよね・・・) |
No.8 | 5点 | nukkam | |
(2016/01/24 00:15登録) (ネタバレなしです) 創元推理文庫版の作品紹介で「鮎川ミステリ屈指の傑作」と評価の高い1965年発表の鬼貫警部シリーズ第8作の本格派推理小説です。事件関係図や時刻表が豊富に揃えられ、(部分的には時代の古さを感じさせるものの)緻密に考えられたアリバイトリックなど鮎川らしさはよく発揮されていると思います。ところで創元推理文庫版の巻末解説(ネタバレありなので作品を読み終えてからどうぞ)では鬼貫をクイーンの流派の天才探偵として位置づけ、「アリバイ崩しにクイーンの作法を持ち込んだ」と絶賛していますが、本書の場合はどうでしょう?全13章の内、鬼貫の登場はわずか1章のみ、おまけに真相説明しているのは別人なのです。これでは鬼貫の天才ぶりがまるで伝わらないのでは。 |
No.7 | 9点 | 斎藤警部 | |
(2015/05/25 18:51登録) 第一の現場が阿蘇山頂という出だしの勢いも手伝い、えも言われぬ雄大な謎の雰囲気が魅力的な力作。 事件は三つ。容疑者二人。いくつもの手掛かり、複数のトリックが鮮やかに噛み合う風景を俯瞰する結末は圧巻だ。 |
No.6 | 7点 | あびびび | |
(2015/02/26 19:59登録) 短編を膨らませて長編にしたせいか、削ぎ落すべき箇所があるような気がしたが、解決編になると、それまでの謎がいとも簡単に崩れていく。ただ、アリバイトリックだから、読者の方もかなり頭の中を整理しなければならないが。 惜しいと思うのは、最後の語り手が傍観者ではなく、初めから鬼貫警部が関わっていて、執念の調査、追跡のパターンだともっと盛り上がったのではないか。それならプラス1点、いや、プラス2点にもなる作品ではなかったか? |
No.5 | 7点 | 空 | |
(2015/02/09 22:07登録) 角川文庫版巻末解説で河田陸村氏は、鮎川哲也と海外の巨匠たちとの関係、比較を書いていますが、その中でクロフツについては、あえて違いを述べています。鮎川の場合にはクロフツと違って、地名が日本人にとってお馴染みだというのがその趣旨ですが、これは読者の側の違いにすぎないでしょう。それよりも、鮎川はむしろクロフツ流の、1人の警察官(主にフレンチ警部)が思いつきを地道に検証していく、その捜査過程で読ませる作家ではないと思えます。本作でも、聞き込み捜査は何人かの刑事が行っていて、鬼貫主任警部の出番は全13章のうち1章だけです。 さらに本作では第1章の自殺事件が、その後の殺人とどう絡んでくるのかという構成的な興味もありますが、そのような構成の意外性は、私が今まで読んだ限りではクロフツ作品にはありません。まあ、本作でもその結び付きを最後まで引っ張るわけではなく、途中であっさり明かしてしまいますが。 |
No.4 | 8点 | ボナンザ | |
(2014/04/07 15:29登録) 鬼貫警部最大の事件と呼ばれるだけあって中々すばらしい。この時期になるとやや途中でだれる部分が出てきますが、そこも楽しめるようになりたいもの。 |
No.3 | 7点 | 測量ボ-イ | |
(2009/05/19 20:36登録) これもアリバイ崩しものだが、時刻表はあまり関係しない です。地味な作品なるも、昔あった大規模アンケ-トでは 上位にランクインした実績有り。 |
No.2 | 8点 | ギザじゅう | |
(2003/10/09 00:44登録) 鮎川作品の中でもっとも丁寧に推理のプロセスを書き込んである。 些細なところから論理をどんどん組み立てる鬼貫警部は見事・・・なのだが鬼貫警部が捜査を始めてあっという間に終わってしまうのが残念。 |
No.1 | 5点 | 由良小三郎 | |
(2002/06/01 17:29登録) 1960年台のたぶんオーソドックスなアリバイくずしの推理小説なんですが鬼貫警部ものといいながら、1章だけの謎解き担当という構成で、3つの事件のそれぞれは所轄の警察の刑事が謎を追求し、データ集めるという造りです。 当時の推理小説のお約束というのがリアリズム優先なのかと思うのですが、(鮎川さんあまり読んでいないので、よくわからないのですが)犯人、探偵ともにあまり書き込んでなくて、小説として平凡な印象です。 |