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ミステリの祭典

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アリアドネの糸

作家 キャロル・クレモー
出版日1984年09月
平均点6.00点
書評数2人

No.2 6点 ことは
(2022/10/31 00:55登録)
訳者あとがきに、作者の言葉として「わたしが書こうと思っているのは、(中略)パズル的要素でもって読者を惹きつけるタイプ(後略)」とあるが、その言葉から想像するミステリとは少し違った。1980年代のアメリカのミステリだから当然なのかもしれないが、古典的ミステリよりは、(主人公は探偵でなく大学の準教授だけれど)私立探偵小説の味わいのほうが強い。
(だからジャンルはハードボイルドにしました。本サイトのジャンル分けは、ネオ・ハードボイルドといわれる”文体がハードボイルドでない私立探偵小説(探偵が主人公でない捜査小説も含む)”の投票は迷いますね)
事件は捜査されて、徐々に全貌がみえていき、最後に解明する。そのプロセスが主体で、古典的ミステリ風の謎と解決ではない。それは、最初に発生する事件で明確だ。
主人公の勤める大学で発生した「エーゲ文明の展示品の盗難」と「女生徒の失踪」。古典的ミステリ風の謎としては地味だが、私立探偵小説としては普通の切り出しだ。
しかし、「だから、つまらない」ということはなく、ギリシャ神話を踏まえたキャラクターづくりとキャラクター配置で、事件の全貌が見えてくる手際はなかなか面白く、かなりの良作だった。ただ、ある1点、「それに気づかないとは思えない」ところがあり、そこはおおきなマイナス。
作者の言葉から想像するような古典的ミステリとしての味わいも、すこしはある。中盤の「てがかり発見」のときの、「主人公はなにを見つけた?」と読者に思わせる溜めはワクワクするし、解明に至る手がかりがxxxxxxxxxxなのは、ご愛嬌かな。
次作も読みたいと思わせる作だったが、これ以外は短編が1作の模様で残念。英語Wikiでも同じなので、翻訳されていないのでなく、原作の出版状況がそうなのだろう。

No.1 6点 nukkam
(2015/08/16 21:55登録)
(ネタバレなしです) 米国の古典文学の大学教授であるキャロル・クレモー(1935年生まれ)の1982年発表のミステリーデビュー作です。「犯人は誰か、動機は何かというパズル的要素でもって読者をひきつけるタイプの古典的ミステリを書きたい」と本格派推理小説ファンなら諸手をあげて歓迎したいコメントを寄せています。プロットとしてはD・M・ディヴァインの傑作「こわされた少年」(1965年)を髣髴させるところがあり、失踪や盗難といった些細に思える事件が中心の前半は盛り上がりを欠いていますが事件の凶悪性が増してくる後半はなかなか読ませます。ディヴァインと違って犯人当てとしては容易過ぎますが、展示品盗難事件の背景に珍しい動機が隠されていたのが印象的でした。

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