| 人並由真さんの登録情報 | |
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| 平均点:6.35点 | 書評数:2279件 |
| No.1739 | 8点 | 影と踊る日 神護かずみ |
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(2023/03/03 08:18登録) (ネタバレなし) 新潟県警生活安全課の巡査部長で29歳の女性警官、鈴山澪は、地元の報道番組「夕方情報ワイド」の防犯コーナーに出演。なりすまし詐偽の対策を啓蒙する婦警として人気を集めていた。そんななか、番組の共演者で防犯、詐偽被害者市民グループの代表で80歳の老婆、山野麻子が突然、本番中に激情を高ぶらせる。一方、澪と知り合いの、人命救助に貢献した26歳の青年・沢田一平が行方不明になるが。 乱歩賞を受賞した作者の、三冊目の長編ミステリ。 新刊が出てることに少し前に気づいて、読み始める。 なんだ主人公は、前二作のトラブルシューター、西澤奈美じゃないのかと、ちょっと残念だったが、本作の主人公、鈴山澪もなかなかキャラクターの造形がいい。 さすがは女戦士萌えを自認する、作者だけのことはある。 ネタバレにならない限りに語るなら、全編を貫く主題は、まぎれもなく「善とも悪ともつかぬ人間の二面性」であり、そんな文芸テーマに沿った登場人物それぞれの叙述が実に面白かった。 その辺は主人公の澪自身も例外ではないが、そういった主題をときにミステリ的なサプライズとして呈し、ときに泣かせの小説的な旨味として語る作者の手際はとてもいい。 (作中のリアルでいえば、この登場人物にソコまで、できたのかな、と思わされる部分がまったく無きにしもあらずではあるが。) あ、とはいえ二人だけ、まったく裏表のないキャラクターがいたな。でもそれがまた……(以下略)。 よくある、キャラクターものの警察小説の大海のなかに沈んでしまいそうな作品、という面もある(言い換えれば、良くも悪くも、記号的に特化したものは少ない)のだが、単品のポリスものとしては、十分に面白かった。 作者は、ミステリ執筆に本格的に舵を切ってから、一冊ずつ、レベルアップしていく感じがある。たぶん。 西澤奈美のキャラクターがそれなり以上に好きな身としては彼女の今後の再登場も望むけれど、こっちの主人公、澪の方もシリーズ化してほしいのお。 (特にあの、悪役令嬢というか意地悪お嬢様風のキャラは、次作でもっと掘り下げてほしい。作者もたぶん、好きそうな気配がある。) |
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| No.1738 | 7点 | 罪の壁 ウインストン・グレアム |
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(2023/03/02 07:11登録) (ネタバレなし) 「僕」ことフィリップ・ターナーは、カリフォルニアの航空機メーカーに勤務する30歳の英国青年。だが母国の長兄アーノルドから連絡があり、次兄で元物理学者、今は考古学者のグレヴィルが、アムステルダムで死亡したと知る。自殺の可能性が大と見なされたグレヴィルの死だが、その見解に疑念と不審が拭えないフィリップは、兄の学術調査仲間だった男ジャック・バッキンガムを探そうとするが、所在不明だ。フィリップはバッキンガムと知己という元軍人マーティン・コクソン中佐とともにアムステルダムに向かうが。 1955年の英国作品。CWA最優秀長編賞(のちのゴールデンダガー賞)の第一回を取った作品で、昨年の歳末に出た2022年度翻訳ミステリの最後の方の目玉作品群のひとつであったが、ようやく読めた。 物語の前半から、かなり明確なベクトルのストーリー(兄の死の真相を追う弟主人公)が築かれる。 翻訳も良い意味で現代調に振り切った感じで非常に読みやすいが、中盤からの展開がいささか冗長。さっさと次の行動に移ればよい主人公フィリップの言動がかなり足踏み状態で、正直、眠気を誘った。 しかし、最後の約100頁、物語の真相というか事件の骨格が見えてくるとその辺の不満を吹き飛ばすように面白くなり、最後はミステリとしてのポイントを押さえながらも、小説として練り上げて決めたな、という感慨にまで至る。 雰囲気でいえば、旧クライムクラブの上の下か中の上といった感じ。実際、同叢書の中の某作品のニュアンスを想起したりもした(こう書いても、120%ネタバレにはならないと信じるが)。 まあ21世紀に鳴り物入りで発掘するんじゃなく、リアルタイムかソレに近い1950~60年代に邦訳が出て、じわじわと読んだミステリファンが増えていってくれていた方がよかったタイプの作品だとも思うものの、それは無いものねだり。 むしろ本作をふくめて旧作発掘路線に本腰を入れてくれている新潮文庫に感謝、感謝、感謝の念。 繰り返すが、中盤はかったるかったよ。 でも、終盤の盛り上がりは実に良かったのだ。人間描写に深みと味のある作品だと思う。 どのくらい、他の人の共感を得られるかは知らんが(笑)。 【2023年3月3日追記】 SRの会の年間新刊リストを見たら、本書は奥付が1月1日ということで(実売は師走の下旬だったが)、SR内でのカテゴライズでも2023年の新刊扱いということになったようである。あらら。 |
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| No.1737 | 6点 | われら闇より天を見る クリス・ウィタカー |
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(2023/03/01 07:55登録) (ネタバレなし) 2005年。米国カリフォルニア州の地方の町ケープ・ヘイブン。そこに、30年間服役していた45歳の男性ヴィンセント(ヴィン)・キングが、帰ってくる。ヴィンセントは30年前に、ガールフレンドのスター・ラドリーの当時7歳の妹シシーを死なせてしまい、10年間服役の判決を受けたが、刑務所(矯正施設)内で重罪を起こし、収監期間を長大に延ばされていた。そんなヴィンセントを、今はわずか3名の地方警察署の署長となったかつての友人ウォーカー(ウォーク)が迎え、そしてその帰還をラドリー家の面々が注視するが。 2020年の英国作品。 昨年2022年の翻訳ミステリのなかでは確実に話題作の一角だったはずで、SRの会のベスト投票が迫るなか、なんとかギリギリ読んでおこうと二日かけて読了。 ただ、個人的には、う~ん……。 日本アニメーション「世界名作劇場」版の『小公女セーラ』みたいで、恣意的に登場人物を逆境に追い込む話の作りが、いまひとつ受け入れにくかった。 まあ、送り手がほくそ笑んだり、ニヤニヤ笑いながらメインキャラをイジめている雰囲気はないので、その辺に関する限りは良いのだがよいのだが、なんつーか、全体的に、昭和40年代の小学館の学習雑誌の谷ゆき子の漫画みたいで 編集者「まあ先生、これは悲しいお話ですね」 作者「ええ、私も書いていて、自分で涙が出てしまったんです(よよよよよ……)」 という印象である。 力作……なんだろうけれど、読むのに相当、エネルギーを使った。 でもって、トータルとして、そこまでパワー使ったのに見合う充実感かといえば、絶対にそーでもない。 好きなキャラクターはなあ……後半、主人公の姉弟のために精一杯尽力してくれた、ベテラン中年ケースワーカーのシェリーだなあ。このヒトだけは、本気で泣いた(あ、厳密には、泣かされたのはこの人「だけ」ではなかったか)。 イヤミや皮肉でなく、読んでズッポリとシンクロされる方がいるというのなら、それは大変、結構なことだと思います。 |
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| No.1736 | 6点 | 最後の鑑定人 岩井圭也 |
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(2023/02/22 21:53登録) (ネタバレなし) 警察の沿革組織である科学捜査研究所を訳あって7年前に退職した「科捜研のエース」土門誠は、今は民間の科学鑑定所を開設。たった一人の文系の女性をスタッフに、それでも警視庁などから重要事件の証拠や関連情報の解析を頼まれる「最後の鑑定人」として職務をこなしていた。そしてそんなある日--。 初読みの作者だが、伊岡瞬のホメl言葉ほか評判が良いようなので手にしてみる。 内容はいわゆる専門技術職のお仕事プロワークもので、全4編の連作中編を収録。最後のエピソードが主人公、土門の辞職の事情にからむ、とりあえず連作のまとめ譚でそういう意味では広義の長編ともいえる作り。 ミステリというよりは、善と悪の狭間に立った人間ひとりひとりがどう処すべきか、そして目前の相手がそうだと知ったときにどうすべきかの主題を語った小説として読みごたえがあった。 (ただ第四話の事件の形成の事情など、妙なリアリティがあってちょっと面白い。そんなに大したネタでもないが。) 科学的客観性において首根っこを掴まれ、次第にグウの音も出なくなる犯罪者という図は結構サディスティックな感じもあるが、そんな冷徹な作劇の構造に惹かれる面もある。 そうほいほい出さなくてもいいから、また本シリーズの続刊をいつか読みたいともおもう。 評点は6点だけど、悪い数字じゃない。 |
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| No.1735 | 8点 | 祈りも涙も忘れていた 伊兼源太郎 |
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(2023/02/21 16:26登録) (ネタバレなし) 2020年代のはじめ。「私」こと警察組織の要職で40代後半の甲斐彰太郎は、かつて自分がⅤ県でキャリア組として捜査一課の管理官であり、ノンキャリアの現場刑事たちを指揮した2002年からの事を思い出す。それは――。 2020年9月から2022年5月にかけてミステリマガジンに連載された長編を加筆修正の上、書籍化したもの。 作者は2013年に横溝賞を受賞してデビューし、すでに10年近い作家歴があるそうだが、評者が読むのはこれが初めて。本サイトにもこれまで作者の登録もなかった。 帯や表紙周りのいろいろな推薦文、それにいかにも昭和国産ハードボイルドミステリっぽいタイトルに気をそそられて読んでみたが、読みごたえはかなりのものだった。 本文400ページの紙幅で、しかりした文章は結構なボリュームがあるが、それでも全体の3分の1を読んだところで、これは最後まで頑張っていっきに読みたいな、という種類の手ごたえを実感。4時間前後で読了した。 ひとつの事件が解決しないうちにさらにまた次の事件に連鎖し、ストーリーが複雑化してゆくあたりは、後期ロスマクなどさえ思わせるが、うまいと思えたのはそういう作りのため自然と登場人物の総数はべらぼうになるものの、あくまで主要、準主要なキャラクターのみにネーミングを与え、ほかは簡略化した記号的な情報で済ませていること。いかにも21世紀の長編ミステリらしい器用さを感じた。 その上で、キャラクターひとりひとりに味があり、特に自分の職責における立場的な若さ(26歳で30~50代のベテラン捜査陣を仕切る)を自覚しながら、酸いも甘いもかみ分けた指揮官たらんとする主人公・甲斐の描写がとてもいい。たぶん自分が昨年の新刊で出会った国産ミステリの中では、五本の指に入る、好きになれる主役キャラだろう。 弱点は、のちのち、ある種のキャラクターシフトが悪い意味で頻繁化してしまうことで、その辺にはいろいろと思うことがあった。とはいえ一方でその辺にも作者は、リアリティを損なわない自然な形で多くの登場人物を作中に配置し、読み手の側に生じがちな不満を希釈する作法を行なっている気配もあるので、単純に謗る訳にもいかないかもしれない。 いろいろと作りこまれた作品ではある。 ほぼ全編を、現在形のプロローグとエピローグで挟む構成にしたのは、物語のリリシズムをその辺に固めておきたいと思った作者のこれもまた戦略かなと思うが、それでも20年前の事件を語る本筋のドラマのなかの随所に自然となんともいえないペーソス感がにじみ出ている。その辺もまた、適度なユーモアや全編を彩る苦みとのバランスにおいてとてもいい。 昨年の国内の新刊はこれで通算80冊以上読んではいるが、マイベスト10には入れたいと思う優秀作。 |
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| No.1734 | 5点 | 平成古書奇談 横田順彌 |
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(2023/02/20 20:07登録) (ネタバレなし) 「僕」こと、小説家志望で、現在はフリーライターの25歳、馬場浩一は、創作の資料を求めて、学芸大学駅の周辺にある古書店「野沢書店」を訪れる。脱サラして古書店を営む主人、野沢氏の蘊蓄はいつも興味深いが、もう一つ、浩一が同店に通う理由は次女で女子大生のガールフレンド、令子に会うためだ。そんな彼らの周囲で、またも古書に関する奇妙な事件が。 小学館の季刊小説誌「文芸ポスト」に2000年から02年にかけて連載された、9本の連作短編を初めて書籍化。 「文芸ポスト」の編集部には機動力がなかったのか、あるいは当時の小学館の書籍企画営業の動きが緩慢だったのか、同誌には山田正紀の長編ミステリほか、まだ雑誌掲載のまま単行本化されてない作品がいくつか眠っているらしい。 いつぞや読んだ、同じ作者の『古書狩り』同様の古書収集の世界を主題にした短編集だが、向こうがノンシリーズ編の集成だったのに対し、こちらはレギュラー登場人物が固定されている完全な連作もの。ただし、内容の自由度は向こうに負けず劣らずで、SF、ホラー、幻想譚、非スーパーナチュラルな古書界の秘話もの……と幅広いストーリーを見せる。 巻末の解説で日下センセイがおっしゃるほど「傑作」だとはとうてい思えないし、もしヨコジュンのネームバリュー無しに、無名の新人作家がこれを書いていたら、たぶん活字にすらしてもらえなかったんじゃないの? と思いたくなるような出来なのもある。 それでもサクサク読めるのは、まあよろしい。その程度にはソコソコ楽しめる、一冊ということで。 |
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| No.1733 | 6点 | 七つの裏切り ポール・ケイン |
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(2023/02/20 16:16登録) (ネタバレなし) 登場人物の内面描写いっさいなし、ひとつひとつの叙述は明快ながら、なぜそこでその展開が? がすぐに呑み込めないのが当たり前なほど、ポンポンと、あくまでカメラアイ視点で、作中人物の言動を読者に放り投げてくる作品ばっかり。 なるほどこれは……(汗)。 これが本物のハードボイルド小説というのなら、今までオレが読んできた、たぶん数百冊以上の作品は、みんなハードボイルドミステリっぽいキャラクター小説でしかない、と思い知らされる(え!?)。 木村二郎さんの解説がまた絶妙というか、要は、 ・こういう作風ゆえにストーリーはわかりにくい ・複雑な物語を簡潔な文体で語り ・読んだだけで自慢? できる ……などなどの主旨? の予防線? 張りまくり。 まあ、この解説文は、端的に作者の個性&作風を語りきっているとは思う。 評者は、人物一覧メモを作るのは基本的に長編ばっかで、短編は名前や情報の書き出しをやらないんだけど、本書はこれはもうムリだ、と3作目から書き始め、おかげでいくらか、ほんのいくらか読むのが楽になった。 一番わかりやすいのは、その3本目の「パーラー・トリック」。まあ短いしな。 ドライブ感を含めてそれなりに面白い? と思えたのは最後の「鳩の血」「パイナップルが爆発」の2編。 評者は 『裏切りの街』は、十何年も買ったまま未読なのだが、そちらも気構えが要りそう? まあ、なんのかんのいっても小説で、エンターテインメントだけどな。 |
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| No.1732 | 7点 | 夏休みの空欄探し 似鳥鶏 |
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(2023/02/19 07:59登録) (ネタバレなし) あとがきで、作者にとって初めて「青春小説」を意識して書いた作品とある。 それだけ切り取って聞くと、えー、ウソでしょ、これまでいくつかそういうのあるじゃん、という感じだが、これに関しては今回はそこまで本気度の高いもの、ということで了解できる。そんなタイプの作品。 おっさんも十分に楽しませてもらったが、やはりこれはリアルタイムで若い人、せいぜい二十代半ばくらいまでの読者が読んでおいた方が心に刺さるだろう。これからそういう出会いができる方が、ちょっとうらやましい。 |
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| No.1731 | 7点 | 二重らせんのスイッチ 辻堂ゆめ |
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(2023/02/18 06:38登録) (ネタバレなし) 21世紀のしょうゆ味風に仕立てたアンドリュー・ガーヴというか、これでもかこれでもかの二転三転のツイストぶりにハドリー・チェイスの影を感じるというか。 いずれにしろ、どことなく全体に、50~60年代の英国技巧派サスペンスの趣がある作品。 その意味で、期待以上に楽しめた。 大ネタが早々と明かされるのも、ソノ後に勝負所をもってきた作者の確信行為以外の何ものでもないでしょう。 最後まで読むと小説としての仕上げには、ちょっとだけ照れるというか、本当にごくうっすらと苦笑したくなるところもあるけれど、それでも色々と工夫を凝らした秀作だとは思う。 |
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| No.1730 | 5点 | マーダー・ミステリ・ブッククラブ C・A・ラーマー |
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(2023/02/17 08:15登録) (ネタバレなし) 作品そのものは結構、面白かった。 特に、終盤で明かされる、仕掛け人側の戦略にからむある真相(詳しくはナイショ)に、ニヤリ。 しかし腹が立ったのは、作中で特にほとんど本筋に関係なく、アイラ・レヴィンの『ステップフォードの妻たち』の話題が登場人物たちの口頭に上るのだが、そこで大きなお世話で、わざわざ翻訳での訳注らしい記述で、そのレヴィンの物語の秘められた真相は×××……とネタバレで明かしていること(評者はまだ未読である)。 ちなみに翻訳者は訳者あとがきで、実は私もミステリファンで読書会もしているのです、とかホザいている。 ✖でもくらえ! この訳者の本は、今後、要注意である。 (担当編集の責任も、あるかもしれんが。) |
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| No.1729 | 7点 | 秘境駅のクローズド・サークル 鵜林伸也 |
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(2023/02/16 18:19登録) (ネタバレなし) 5編それぞれが楽しかった。 作風も形質もまったく違うんだけれど、連城の『変調二人羽織』辺りの初期の作品をリアルタイムの「幻影城」で読んでいたころの感触に通ずる楽しさ、そして若い作家のフレッシュさを認めた。 ベスト編を選びたいとも思ったが、なかなかこれ一本に決められない。 ネタの仕上げの面白さで「ボール」、趣向の面白さと推理の持っていき方で「ベッド」、シチュエーション(ロケーション)の魅力で表題作か。残りの二編も、ともにくっきりした魅力がある。 |
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| No.1728 | 9点 | このやさしき大地 ウィリアム・ケント・クルーガー |
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(2023/02/16 18:03登録) (ネタバレなし) 大恐慌の災禍に全米がさらされた1932年。ミネソタのネイティブアメリカン専門の孤児院「リンカーン救護院」には、特別に二人だけ白人の兄弟がいた。その弟の方で「ぼく」こと12歳のオディ・オバニオンは、16歳の兄アルバート、スー族の友人モーゼズ(モーズ)そして6歳の少女エアライン(エミー)・フロストとともに、「黒い魔女」ことセルマ・ブリックマン院長が恐怖で治める救護院からの脱走を図るが、そんな4人の前には多くの人々との出会いと別れが待っていた。 2019年のアメリカ作品。 作者クルーガーの著作はこれが初めての出会いで、すでに紹介されているシリーズものなども全く知らない一見の読者の評者だが、非常に面白く、そして強い感銘を受け取りながら読了した。昨年2022年度の翻訳ミステリで自分が読んだ作品の中では、『真珠湾の冬』とともに、これが現時点でのトップ2だ。 作者の当初の構想は『ハックルベリー・フィンの冒険』だったというが、正にその通り、主人公たち4人の旅路の軌跡は大河を下って、兄弟の縁者がいるはずのセントポールに向かうもの。その道中で実に多くの起伏に富んだ挿話が用意され、そのひとつひとつが絶妙に面白い。 登場人物も良い意味で何ら臆することもなく、ほぼ聖人といえる善人(それでもどこかダメ意味での人間味がある)から極悪人(こちらもまた、非常に奥深い部分にではあるが、一端の同情の余地がある~それでもやっている非道の肯定はまったくできないのだが)まで惜しげなくお話を紡ぐために導入し、そんな極端ともいえるふり幅の中で、悪い人かと思ったらそうでもなかった、またはその逆、などの反転が実に効果を上げている。 二段組で480ページ弱。最初の100頁あたりで、これはもう最後まで一気読みだなと予見し、その通りになった。翻訳も良いのだろうが、全体の美文調の文章もとても味わい深い。 なお、およそ80年前のアメリカの一角を舞台にした作品だが、その後、この本で語られた主軸の物語の時代から、21世紀の現在に至るまでの現実の世相の推移を展望すると、さらにいろんなものが見えてくるような気もする。そういう感興を読む者の心に求めて託す、作品でもある。優秀作。 |
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| No.1727 | 7点 | 地羊鬼の孤独 大島清昭 |
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(2023/02/15 11:10登録) (ネタバレなし) 栃木県の市内で、棺に入った全裸の遺体が続々と発見される。しかも内蔵など死体の部位はそれぞれ模型に変えられている、猟奇殺人だった。現場の痕跡から事件に関係するらしい、中国の妖怪の名前「地羊鬼」というキーワードが浮上する。所轄の若手刑事、八木沢哲也は、オカルトがらみの犯罪の名捜査官と噂される? 女性刑事、林原理奈とともに、オカルト研究家の船井仲丸を訪ねるが。やがて現在形の事件は、過去に生じた複数の密室殺人? 事件に繋がっていく? いやまあ、どっかで見たようなネタのパッチワークではあるが、それはそれとして、なかなか面白かった。21世紀の新本格なら、こーゆー趣向盛りだくさん、ケレン味十分なものこそを、読ませてもらいたい。 (まあ、ラストの展開だけは、いささか×××すぎるんじゃないの、で、あったが。) 令和の一級のB級パズラーという、我ながらヘンなレトリック(汗)で、ホメておきます。 |
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| No.1726 | 4点 | 明智卿死体検分 小森収 |
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(2023/02/14 06:07登録) (ネタバレなし) ランドル・ギャレットの「ダーシー卿」シリーズの世界観を拝借し(ちゃんとダーシー卿当人の名前も、作中の実在人物として出て来る)、同シリーズの魔術法則を援用した「逆密室」という面白いことをやってるのはわかるのだが、文章が淡々としすぎ、外連味皆無で、提示される蠱惑的な(はずの)謎がまったく盛り上がらず、非常に退屈であった。 Twitterでは大方の人が本作を褒めていて、ただ一人「個人的にはただただ辛い読書だった」と言っているのが、ミステリレビュアーとしてよく名前を拝見する麻里邑圭人氏だけ。 評者としてはこの場で、二人目に「うん、王様は裸だ」と、言わせていただく。 あの「~傑作である」小森収の実作で、面白そうな趣向&設定だから、期待していたんだけどな。世の中、うまく行かないものである。 |
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| No.1725 | 5点 | 人面島 中山七里 |
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(2023/02/13 07:29登録) (ネタバレなし) いわゆるヨコミゾものを、赤川次郎のルーティンワーク、レベルの作りで、仕上げた感じであった。 まさに「まぁ、楽しめた」なので、この評点で。 |
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| No.1724 | 8点 | やっと訪れた春に 青山文平 |
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(2023/02/13 05:34登録) (ネタバレなし) 19世紀の初め。橋倉藩は、本家の岩杉家と分家の田島岩杉家から交代で、代々の藩主を出してきた。それは分家出身の第四代目藩主、岩杉能登守重明による、英雄的な藩政改革の史実に始まる藩の伝統だった。だが現十一代当主で本家筋の昌綱、その後任藩主を田島岩杉家が辞退した。現在まで橋倉藩の近習目付(主君サイドからの目付役)は、藩がそのように藩主継承上での二系列体勢だったため、本家筋の長沢圭史と、分家筋の団藤匠が担当してきた。圭史と匠は盟友でともに67歳。藩主継承が一本化され、今後の藩の情勢もより良い方向に向かうだろうと期待を込めるが、そんななか、藩の要職にある人物が暗殺される。 Twitterとかで評判がいいので、ほほう? と思って読んでみたが、時代小説、フーダニット&ホワイダニットのパズラー、ハードボイルドミステリ、全部の面で良質な優秀作。 昨年2022年の国産ミステリの層の厚さというか、結構な豊作ぶりを、さらにまたこの一冊で、実感させられた。 評者は青山作品はまだ『遠縁の女』しか読んでないので、まさかこのヒトはこんなレベルのものを当たり前に書いてるのか!? といささかぶっとんだが、Amazonのレビューとかを覗くと、さすがにこれは著作の中でも、出来のいい方らしい。そうだろう、そうだろう。 正直、時代小説はやや苦手な方な評者だが、時代設定の中での必要な情報や知識は、送り手の方で饒舌にならない範囲で逐次、ちゃんと丁寧に説明してくれるので、スラスラ読める。なるほど、人気作家な訳だと改めて実感。 優秀作~傑作。 |
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| No.1723 | 8点 | 山狩 笹本稜平 |
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(2023/02/12 09:17登録) (ネタバレなし) 主人公たち(良い連中)VS悪党&汚職捜査官の構図があまりに図式的すぎるのはナンだが、タイトルの意味が(以下略)。 読み応えとしては、十分に面白かった。 ヒラリィ・ウォーみたいな「警察小説としての外連味」で語った、和製「シャーキーズ・マシーン」という感じ(実は、そっちの小説も映画もまだ未読で未視聴だが)。 お話の流れも、色んな意味で、スムーズに行きすぎちゃうようなとこもないではないが、それでもフツーに良作ではあると思う。 |
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| No.1722 | 7点 | 闇に堕ちる君をすくう僕の嘘 斎藤千輪 |
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(2023/02/12 05:29登録) (ネタバレなし) 東北出身の20歳の若者・鏡大輝は、世田谷のダリア専門店にバイトとして就職。その配達先の周辺で大輝は、謎めいた17歳の美少女、天原巫香に出会う。彼女は元、人気の子役俳優だったが、現在は周囲からなぜか「魔女」と呼ばれて、不登校の日々を送っていた。大輝と巫香の関係は、新たな展開を迎える。 2016年から活躍されていて、すでに著作も何冊かある(ミステリに限らないらしい)作者さんらしいが、本作は、まったくの一見で読んだ。2年前に同系列の青春ミステリ、同じ双葉文庫で「双葉文庫ルーキー賞」の大賞の2回目を受賞しており、それに続く作品(シリーズものではない)のようである。 じわじわと薄皮を少しずつ剥いでいくように、人間関係の綾を見せていく形質の作品。相当の筆力を感じさせる文章の効果もあって、3時間ほどで一気読みさせられた。 登場人物は多くない(モブキャラを数えても15人前後)が、ストーリー上の配置はかなり巧妙で、話作りのうまさを実感する(ひとりふたり、行動が極端なキャラクターがいるが、本作の場合、それが良い方の印象に転化するので、文句には当たらない)。 終盤、真実が判明してからの感慨は相応の手ごたえで、読後感は、まあ、とにかく、読んで良かった一冊、という感想が真っ先に来る。 広義のミステリで青春ミステリなのは確実だが、それと同時に、謎解きミステリの尺度でどーのこーの言わなくてもいいようなタイプの作品。 (悪口などではまったくなく、一時期の、文芸味の強いギャルゲーの、メインストリームのシナリオ、みたいな印象もある。) この作家には、今後もちょっと注目してみたい。 評点は8点に近い、この点数というところで。 |
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| No.1721 | 7点 | ブラックランド、ホワイトランド H・C・ベイリー |
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(2023/02/11 07:17登録) (ネタバレなし) 1930年代の英国。医学者でアマチュア名探偵のレジナルド(レジー)・フォーチュンはダーシャー州の友人で、アマチュア考古学者のデュドン将軍の屋敷を訪ねる。現地は肥沃な黒土と痩せた白い土地に二分される田舎で、かつて地球の太古に巨人族がいたという説を信奉する将軍は、近所の地層からその証拠となるという化石を発掘していた。だが医学者のフォーチュンは、そこにあるのが、およそ十年ほど前に死亡した、おそらく十代の男子の骨らしいと気がついた。 1937年の英国作品。 フォーチュン氏の長編、ようやっとの邦訳でバンザイである。 で、私事ながら、この二週間、クソ忙しくてほとんど何もミステリが読めなかったが、ようやく余裕ができたので、とびついてページをめくる。 会話の多い文章、そこまでサービスせんでも……と言いたくなるくらいに細かい、実に読みやすい章立て、矢継ぎ早にしかもかなりサプライズ感も豊かに続発する事件……と、リーダビリティは最強。 (名探偵のクライシス描写も、結構とんでもないネタで、ハラハラしつつ笑える。) いやー期待通りに、いや、ソレ以上にオモシロいね! とウハウハであったが、ラストというか終盤の解決、事件の決着部分でいささかズッコケた。 大山鳴動して鼠一匹とはこーゆーのを言うんだろうな、という印象で、しかも伏線などもあまり万全とは言えない。いい話っぽくまとめてある、小説的な仕上げはまあ悪くないが、5分の4までが頗る楽しめただけに、このクライマックスはガッカリ。 でもまあ、読んでるうちの大部分は楽しかったので、オマケしてこの評点で。 もう一、二冊くらい、本シリーズの長編作品は読んでみたいので、続けて発掘紹介は、ぜひよろしく。 (ところで、なんでAmazonのデータ登録が不順になるんだろ、これ? :2023年2月11日現在。) |
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| No.1720 | 7点 | アバドンの水晶 ドロシー・ボワーズ |
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(2023/01/31 09:32登録) (ネタバレなし) ふたたび世界大戦の影が迫りつつある1940年9月の英国。5年前に教師を辞めて今はアパート暮らし、そろそろ老人ホームに入ろうかと考えていた61歳の独身女性エマ・ベットニー(ベット)は、以前の自分の家庭教師時代の教え子で、年下の長年の友人であるグレイス・アラムから手紙をもらう。現在40歳のグレイスは教職生活を経て、地方で新興の学校を創設し、その校長となっており、エマを教師として迎えたいというものだった。何か訳ありと考えたエマは、迷った末にグレイスの学校に赴くが、その校舎兼寄宿舎は、以前は入院病棟だった施設だった。そして現在の学校には、施設が病院だった時代から現在に至るまで、住み慣れた場から転居したくないといって学校の宿舎に暮らし続ける二人の資産家の老女がいたが、エマはその片方が何者かから毒を呑まされているようだと聞かされる。 1941年の英国作品。バードウ(バルドー)警部シリーズの第四長編。 以前に読んだ『謎解きのスケッチ』はさほど面白いとは思えなかったが、これはなかなかイケる。 作者が明確に、執筆刊行当時での現代ゴシックロマンの線を狙っており、その辺のゾクゾク感が、これがいつどこでどのようにパズラーに転調するのだ? という期待のワクワク感とも相まって、かなりオモシロかった。 事件の真相はすこぶる大胆なもの。作中のリアルを考えるなら、犯罪としては結構リスキーだとは思うのだけれど、オハナシとしてのミステリ、謎解きフィクションとしてはギリギリ、アリだとも考える。 小説としてはとても、謎解きミステリとしてもなかなか、良作である。 この一冊で、ボワーズの評価がかなり格上げ。 同じ近い時代? の女流作家でいえば、評者が割と好きなエリザベス・デイリィくらいのクラスになったわ。 |
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