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ミステリの祭典

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アバドンの水晶
ダン・パードウ警部

作家 ドロシー・ボワーズ
出版日2022年12月
平均点6.50点
書評数2人

No.2 7点 人並由真
(2023/01/31 09:32登録)
(ネタバレなし)
 ふたたび世界大戦の影が迫りつつある1940年9月の英国。5年前に教師を辞めて今はアパート暮らし、そろそろ老人ホームに入ろうかと考えていた61歳の独身女性エマ・ベットニー(ベット)は、以前の自分の家庭教師時代の教え子で、年下の長年の友人であるグレイス・アラムから手紙をもらう。現在40歳のグレイスは教職生活を経て、地方で新興の学校を創設し、その校長となっており、エマを教師として迎えたいというものだった。何か訳ありと考えたエマは、迷った末にグレイスの学校に赴くが、その校舎兼寄宿舎は、以前は入院病棟だった施設だった。そして現在の学校には、施設が病院だった時代から現在に至るまで、住み慣れた場から転居したくないといって学校の宿舎に暮らし続ける二人の資産家の老女がいたが、エマはその片方が何者かから毒を呑まされているようだと聞かされる。

 1941年の英国作品。バードウ(バルドー)警部シリーズの第四長編。
 
 以前に読んだ『謎解きのスケッチ』はさほど面白いとは思えなかったが、これはなかなかイケる。
 作者が明確に、執筆刊行当時での現代ゴシックロマンの線を狙っており、その辺のゾクゾク感が、これがいつどこでどのようにパズラーに転調するのだ? という期待のワクワク感とも相まって、かなりオモシロかった。 
 事件の真相はすこぶる大胆なもの。作中のリアルを考えるなら、犯罪としては結構リスキーだとは思うのだけれど、オハナシとしてのミステリ、謎解きフィクションとしてはギリギリ、アリだとも考える。
 
 小説としてはとても、謎解きミステリとしてもなかなか、良作である。
 この一冊で、ボワーズの評価がかなり格上げ。

 同じ近い時代? の女流作家でいえば、評者が割と好きなエリザベス・デイリィくらいのクラスになったわ。

No.1 6点 nukkam
(2022/12/16 22:00登録)
(ネタバレなしです) 英国の「タイムズ」紙で「1941年最高のミステリ」と激賞されたダン・パードゥ警部シリーズ第4作の本格派推理小説です。主人公は61歳のエマ・ベットニーで(英語原題は「Fear for Miss Betony」)、35年間家庭教師を務めて引退した彼女に寄宿学校の校長であるかつての教え子から学校で働かないかと誘いがかかります。重苦しい雰囲気を漂わせる舞台に癖のある登場人物たちと少々ゴシック・ホラーめいています。語り口がスムーズとは言えず何が起きているのか混沌として読みにくいですが、その中で混乱しつつも怖がってばかりではないエマの心理描写が光ります(鋭い推理や大胆な行動もあります)。事件が発生するのが遅くパードゥもなかなか登場しないため中盤までは本格派らしさを感じませんが、最後は複雑な真相をしっかりと説明しています。ハッピーエンドではありませんけど一筋の希望の光は残っているような締めくくりが印象的です。謎解きとしては地味な本書が高く評価されたということはミステリーに求められるものが変わってきたことを予感させ、1920年に始まる(というのが通説の)英国本格派推理小悦の黄金時代がいよいよ終焉を迎えつつあったのだなと思いました。

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