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ミステリの祭典

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バイバイ、エンジェル
矢吹駆シリーズ

作家 笠井潔
出版日1979年07月
平均点6.47点
書評数32人

No.32 9点 じきる
(2021/05/23 18:04登録)
斬新な首切りの真相や端正なロジックなど、一個の本格ミステリとして優れている。
心情・情景描写が瑞々しいのも良い。
思想対決も小説としてのインパクトを強めており、圧倒された。作者の迸る熱気が感じられる、会心の一冊。

No.31 5点 葉月
(2021/01/31 14:14登録)
注意:ネタバレがあります!


現象学的直感というガジェットには引きつけられましたが、最後までそれが作品内でうまく機能しているようには、私には見えませんでした。小説的なところでもナディア視点のパートは面白く読めたのですが、モガール警視視点のパートは説明描写が多くかなり退屈です。しかし一番がっかりしたのが首切りの理由が真犯人であるマチルドの思想そのものとなんら関係のないものであったことで、このことが思想対決という一種の小説的魅力と、探偵小説としての魅力が乖離することにつながっているように感じられました。
しかしそれでも私がこの作品を嫌いになれないのは冒頭のナディアの心理描写が素晴らしいからで、特に「春が来て、私は二十歳になった」という冒頭の一文は大好きです。

No.30 6点 名探偵ジャパン
(2019/11/17 23:39登録)
新本格真っ盛りの時代の作品かと思ったら、初出は1979年ということに驚きです。この時代にこんな「ガチ」な本格が出ていたとは、もうオーパーツと言ってよいのでは?
首切りトリックの真相など、ミステリとしての骨子は素晴らしいですが、作者が評論家でもあることが関係しているのでしょうか、ミステリを出汁にして作者の主義主張を読まされた、という印象も強かったです。
次回作以降を読むかどうか、悩ましい作家(シリーズ)です。

No.29 7点 ことは
(2019/11/17 12:58登録)
「推理方法は現象学的還元」というガジェットが、まず魅力的。
翻訳調のかたい文章も作風にあっていて、ヴァン・ダインが好きだった自分としては好感。
ただ、思想対決は、1作目だけあって、まだミステリ部分とだいぶ乖離している気がする。それでも異様な熱量がある作品で、面白い。

No.28 9点
(2018/07/07 07:22登録)
 意外に端整なミステリ部分と、単なる装飾に留まらない過剰なまでの哲学・思想ドラマの両面を持つ本作。普通なら両立しないはずですが、この作品に限れば二つの要素の組み合わせが、真犯人の狂気をより引き立たせるというプラスの効果を挙げています。複数共犯者=組織犯罪という要素が、ミステリ部分をあまり損なわないのも特異な例と言えるでしょう。ワトソン役?であるナディアの恋愛部分も作品の構成と巧みに噛み合っています。
 「首切りのロジック(なぜ首を切断する必要があったのか?)」は独創的。ホテルのトリックは証言者の記憶頼みなのが若干詰めが甘いですが、それでも十分に楽しめます。ミステリ部分のみの作品にすれば完成度はより上がったでしょうが、それだとここまで読者を惹き付ける長期シリーズになったかどうか。両者の並立は結果的に正解でしょう。
 雪降りしきる真冬のパリを舞台に起こる血塗れの連続殺人。そこに佇みながら一人暗い口笛を吹く謎めいた青年というビジュアルも圧倒的です。
 以前は「サマー・アポカリプス」の纏まりと物語性を重視していましたが、現在は作者の精神的な傷跡も生々しい本作を上位に置いています。

 追記:基本的に「書評の無い作品又は少ない作品に当たる」という方針でやっておりますが、「ジャーロ」誌上にてシリーズ最終作「屍たちの暗い宴」連載中との事で、急遽採点いたしました。
 矢吹駆シリーズは「オイディプス症候群」で投げたままです。シリーズを追う毎にどんどん主人公の存在が希薄化していくように見えたからですが、成り立ちからしてそれが許されるキャラクターではないと思っていますので。
 この第一作目はミステリとしての純度、ペダントリー、雰囲気、登場人物のせめぎあいその他のバランスが、作品自体の持つ熱気によって、過剰ながらもなんとか取れていると思います。時を経るにつれてそれが崩れ、カケルは哲学要素の影に姿を隠していっています。
 「哲学者の密室」を私はさほど評価しません。「オイディプス~」以降の作品にも一切期待しません。この連作の魅力は初期三作に尽きると判断しています。

No.27 9点 クリスティ再読
(2018/02/10 23:06登録)
本作高評価の理由は、本当に「探偵の方法論」と「事件の真相」のマッチ度が極めて高度なこと、これに尽きる。現象学的還元とはねぇ...ぶっちゃけいうと、現象学的還元(エポケー)というのはね、絶対に「空気を読まない」ことなんだよ。名探偵の最高の資質というのが、まさにソレなわけだ。物語の圧力に対して、あえてそれを無視すること、これを徹底的に方法論として掲げるのなら、それはKYの極みとしての「名探偵」ということになるのだよ。これは実に「名探偵論」として正鵠をえてると思う。
というわけで、本作の名探偵像と推理の内容と、これほど密接に関連しあってるさまが、実にすごい。トリックを考え付いたから、そこらから探偵像を逆に構築した、といっても評者信じちゃうよ。
改めて読むとねえ、全共闘崩れのイイ気な議論が気になって評者若干もにょるのは仕方がない(団塊たぁ相性ワルいんだよ)が、実のところ80年代の奥義たる「シラケつつノリ、ノリつつシラケる」が実はこの現象学的方法論だということにちょいと気が付いて、本作の意外な射程に驚かされるところである。

No.26 7点 ロマン
(2015/10/20 17:32登録)
現象学、哲学、思想的な対話。アンチミステリという要素。思想家・哲学者としての一面もある著者の、あらゆるものが詰め込まれていた感じ。小難しいのかと思いきや意外と読みやすかったが、物語全体に漂う陰惨で重苦しい空気には少々疲れた。首の無い死体、爆破された死体、不在証明を絡めたトリックも面白いけれど、犯人との思想的な対決という構図がまた面白かった。

No.25 5点 ボナンザ
(2014/08/18 00:24登録)
本筋は及第点。
ただ、多くの方がおっしゃるとおり、駆の推理法やキャラクターには突っ込みどころが満載。
それだけ凝ったキャラなのに所持してる大地の歌は鉄板の三枚なのかよ。

No.24 4点 yoshi
(2014/04/17 16:04登録)
現象学的直観で犯人を指摘するというやり方にどうしても疑問を感じてしまう。それただの直観とどう違うんですか?

No.23 2点 mohicant
(2012/09/16 22:19登録)
 哲学(現象学)を用いる手法というのがピンとこなかった。専門用語が多くて難しいので、ページをめくるのが苦痛だった。
 わかる人にはおもしろいのだろうが、万人受けする作品ではないように感じた。
 

No.22 5点 蟷螂の斧
(2012/03/01 16:46登録)
ミステリー、哲学、革命論の融合?。その結果、ミステリー部分(特にフーダニット)がぼやけてしまって、集中できませんでした。また、登場人物の名前や関係を確認するため、登場人物表を何回もひっくり返しながら読まなければなりませんでした(笑)。首なし死体の真相は面白いと思いますが、犯人の設定(誰?および真相)についてはあまり感心しませんでした。

No.21 8点 りゅう
(2010/12/04 21:49登録)
 この作品の特徴とも言うべき点は、ミステリと哲学の融合。矢吹駆が語る哲学的内容はそれなりに興味深いものでした(最後の犯人との対話は抽象的で理解できませんでしたが)。
 本格ミステリ作品として、高く評価できると思います。死体の首が切られていた理由が実に斬新です。最初に発見された殺人における犯人特定のロジックも素晴らしい。死体の首が洗浄されていた理由や、電話の記録帳が盗まれた理由も、なるほどと思いました。惜しむらくは、設定を複雑にしすぎたために真相がすっきりと理解しにくいことです。また、犯人の設定がフーダニットの魅力を損なっています。

No.20 8点 E-BANKER
(2010/12/04 18:59登録)
記念すべき、矢吹駆シリーズの第1弾。
まだ島田荘司デビュー前の70年代後半、このように重厚かつ高貴な本格推理小説が出版されていたことは、素直に驚くべきことではないかと・・・
作風は好き嫌いがはっきり分かれるかもしれません。
冬のパリという舞台設定が醸し出す陰鬱な作風、現象学という小難しい哲学、不遜かつクールすぎる探偵矢吹駆、当然ながら登場人物は駆以外全員フランス人(名前がなかなか覚えられない!)、クソ生意気なナディア・・・など読者を遠ざけそうな条件が目白押し。
(個人的にはそんなことは気になりませんでしたが・・・)
本作の主題は「なぜ真犯人は被害者の首を切ったか」ということになりますが、他の本格物でよく出てくる「首切りの理論」を一蹴し、独自の解法を試みる矢吹駆の推理は一読の価値十分と断言できます。(他のロジックも心地よい)
動機や事件背景など、当時の欧州の政治的事情に踏み込んでいるので、その辺りに疎い方は若干分かりにくいかもしれません。
とにかく、久しぶりにこんな「鬱陶しい」くらいな「ド本格」の作品に触れたことを感謝します。

No.19 6点 kanamori
(2010/08/01 14:25登録)
矢吹駆シリーズの第1弾、ラルース家殺人事件。
本書が出版されたのが70年代の終り、まだ島荘も登場していない時期ですから、本格ファンの話題作ではありました。
首なし死体の理由などいくらでもあると宣言し、本質直感とか現象学的推理などの探偵の尖鋭的な高説に半分感心しながら読みましたが、解決編の推理はいたって普通だった気がします。

No.18 7点 メルカトル
(2010/07/28 23:29登録)
哲学部分を取り除いてみれば、スッキリとした本格ミステリに様変わりする。
しかし、本作においてはその哲学が肝要であり、どちらかと言えば作者が描きたかったのは、こちらにあるのではないかとも思える。
それでも、メイントリックはまさに本格と呼べるものであり、それだけでも絶賛に値する。

No.17 6点 isurrender
(2009/07/22 00:45登録)
トリックは素晴らしいと思うんだけど、わざわざああいう書き方をしなくても・・・
受験生じゃないんだから笑

No.16 7点 測量ボ-イ
(2009/05/17 10:35登録)
「サマ-・アポカリプス」を先に読んでからこちらを読んだ
のですが、僕の印象はこちらの方が良かったです。「何故死
体の首を切ったか?」がメインテ-マですね。
哲学に関する薀蓄話しもそれほど苦になりませんでした。
突出した何かはなくとも、オ-ソドックスな出来栄え。

No.15 5点 nukkam
(2009/01/26 11:42登録)
(ネタバレなしです) 笠井潔(1948年生まれ)は学生時代に学生運動組織に参加していた過去を持つためか、連合赤軍集団リンチ事件を機に政治活動から身を引いたとはいえどこか思想家的な雰囲気を引きずっている作家です。謎解きと哲学を融合したと評される矢吹駆シリーズ第1作の本書(1979年発表)は「現象学」とか「本質直観」とか私には難しい用語が連発されながらも本格派推理小説としては正統派で、第3章で提示される六つの謎を明らかにする第6章の説明はわかりやすいです(ネタバレ防止のために詳細は書きませんが魅力ある謎の提示に対して何でもあり的な真相はちょっと残念ですが)。しかし本書のクライマックスはその第6章の後半部の思想対決で、半端なハードボイルド小説など及びもつかないほどの冷酷さと非情さを感じさせます。これは笠井潔にしか書けないであろう、作品の個性でもありますがちょっと近寄りがたいかも。

No.14 7点 ロビン
(2009/01/11 17:16登録)
他の皆さんの多くが批判なさっている問題の哲学の部分に関しては、同じく賛同しかねます。確かに本書の絶対的な個性でありテーマでもあるが、肝心なミステリの部分を喰ってしまっている。故に、誤魔化しのようにも感じられなくもない。
それでも、首切りの真相には驚かされたのも事実。他に例を見ない斬新な着想だと思います。
しかし、矢吹駆に魅力が全く感じられないのはもったいないなぁ。

No.13 8点 dei
(2007/11/15 21:12登録)
哲学部分も含めて自分好みでよかった。

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