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ミステリの祭典

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ロマンさんの登録情報
平均点:8.08点 書評数:177件

プロフィール| 書評

No.177 7点 僧正殺人事件
S・S・ヴァン・ダイン
(2015/10/29 20:03登録)
展開、キャラクター描写は現在でも色あせることなく、むしろ後世の作品に影響を与えるだけあって一級品。犯人を推定する証拠が不十分ではあるが、科学的捜査が確立していない時のプロファイリングを主としての推理物と考えれば興味深く読める。後半での犯人とのやり取りとどんでん返しにはまんまと踊らされてしまった。


No.176 9点 ななつのこ
加納朋子
(2015/10/29 19:58登録)
読み心地の良い小説だった。文章はラフだがとても丁寧で、描写も細かくてイメージしやすい。人物がどれも温かくて読みながら柔らかい気持ちになった。日常のちょっとした不思議を文通のやりとりで解き明かしていく安楽椅子探偵ものになるが、語り手の駒子が愛嬌があって親しみやすい。探偵役の「佐伯綾乃さん」の品の良い手紙は読んでいて気持ちが良い。人が死なない、悪意や憎悪ばかりがミステリーではない、良質な小説であった。


No.175 7点 記憶の果て
浦賀和宏
(2015/10/29 19:55登録)
実際に存在した「裕子」は十八年前すでに自殺していると告げる母。父は自殺した娘の生まれ変わりとして、コンピュータにプログラムしたのではないか?脳科学を扱う父の研究所や、彼女の本当の母親の元を訪ね回る。錯綜する人間関係が暴かれる衝撃的結末は、凡百のミステリの常識を破壊する。


No.174 7点 白い家の殺人
歌野晶午
(2015/10/29 19:11登録)
市之瀬徹は山奥の別荘に臨時の家庭教師として、やって来ていた。そこで担当の少女が密室の中、逆さ釣りの死体で発見される。警察の介入を断固として拒む一族に依頼され、探偵として譲二が呼ばれる事に。メイントリックの有無だけではなく、如何に読者を欺こうかと考える歌野氏の意図は強く感じます。トリックは分かりやすく犯人の予想も付きやすいが、構成自体に仕掛けがあり油断は出来ない作品だった。


No.173 7点 Zの悲劇
エラリイ・クイーン
(2015/10/29 19:05登録)
前二作とは違い、近い将来刑に服する事を定められた人物の無実を証明すると同時に、真犯人を割り出すという、のっぴきならない展開。そんな中でもサムの娘であるペイシェンスは鋭い推理力を発揮しながらも、おなじみのドルリー・レーンに力を借りる訳だが、前二作とは違った味わいがあり、ドラマ性が強くなっていることも見逃せない。個人的にはレーン氏の活躍ぶりがあまり見られなかった事がやや残念。


No.172 8点 ナイン・テイラーズ
ドロシー・L・セイヤーズ
(2015/10/29 18:58登録)
鳴鐘術という馴染みのない題材はイメージしにくいし、ペダンティズムも明らかに過剰。しかし、そういった全てのマイナス要素はこの物語を成立させるための必要物。顔を潰し手を切って身元を消された死体の謎と、かつての宝石盗難事件、そして暗号解読という探偵小説としての愉悦に満ち、生き生きとした登場人物描写も楽しい。終章でノアの箱舟が如く村が水没する事はイコール探偵小説だったはずの世界の崩壊である。“犯人”の正体が明らかになる事で自分が今まで読んでいたものが何だったのか分からなくなる感覚を味わう。


No.171 9点 奇想、天を動かす
島田荘司
(2015/10/29 18:55登録)
踊るピエロ、死体の消失、動く死体、白い巨人とどうやって収拾つけるんだという奇妙な謎のオンパレード。やっぱ島田作品はこうでないと。最後には多少力技もあるけど謎は綺麗に解き明かされる。「斜め屋敷の犯罪」「死者が飲む水」の牛越刑事、「火刑都市」の中村刑事もサポート役として登場するので、過去の島田作品を読んでる人には嬉しい内容となっている。作品のテーマとして戦後の日本が抱える様々な問題提起にもなっており、考えさせられる作品。本格と社会派が見事に融合した傑作。


No.170 8点 火刑法廷
ジョン・ディクスン・カー
(2015/10/29 18:52登録)
壁の中へ消えた女、棺から失せた死体、そして妻と瓜二つの毒殺魔…。怪奇めいた雰囲気たっぷりの中、鮮やかにトリックが解決されて真相が明らかに…と、ここまでだけでも、カーの本領発揮といった内容なのに、更に捻られたラストが用意されており、流石という感じ。エピローグは推理小説の観念を覆すものではあるが、全体的に漂う怪奇さが、そういうオチも有りだなと思わせる。でも一番驚いたのは解決篇に当たるⅣ章の最後。まさかあの人が!劇的すぎる!シリーズものの探偵は登場しないけれど、確かにカーの作品の中でも名作に位置すると実感した。


No.169 7点 星降り山荘の殺人
倉知淳
(2015/10/29 18:49登録)
雪に閉ざされた山荘で起こる殺人事件。ミステリでは使い回された舞台だけどやはり心躍る内容。名探偵は常人離れしているという思い込みが自分の中にはあったので、結末にてしてやられた感が強かった。作者の説明に裏があるなと警戒していたのにミスリードされてしまった。驚くようなトリックはないものの良いミステリ小説に出会えたと思う。星園さんは憎めないキャラクターだった。「闇夜に浮かぶ星のようにミステリ小説もまた無数に存在していて、あなたに謎を解いてもらおうと読まれたがっているのです」間違っても小指一本を立ててはいけない。


No.168 8点 死の殻
ニコラス・ブレイク
(2015/10/25 12:05登録)
一癖ある登場人物たちの中でも光を放つファーガス・オブライエンのアンビバレントな存在感が、その死の謎を際立たせる。連続する事件の中で最重要容疑者も推理も二転三転する謎の転がし方の上手いストーリーテリング。14章のチェイスシーンは黄金期的結末のオマージュとしてわざとやっているな。その先に見える悲しき復讐者の姿は、推理小説でありながら推理だけの物語からの脱却を示しているよう。会話に引用を挟むペダンティズムがあからさまとも言える伏線となり、ラストに言いようのない余韻を与える。


No.167 8点 女囮捜査官 2 視姦
山田正紀
(2015/10/25 12:02登録)
謎を解いていく過程で明らかになっていく様々な真相が、サイコキラー物の舞台に相応しい不健全さで、妙にリアルだ。ホワイダニット・ハウダニット・フーダニットの3要素が複雑に絡み合った巧緻な一品を堪能できた。


No.166 7点 爬虫類館の殺人
カーター・ディクスン
(2015/10/25 11:56登録)
タイトルや戦時下のロンドンという舞台設定からは、なにやら暗くて粘った雰囲気のものを想像してしまうが、これがじつに楽しくて愉しい作品となっている。気密性の高い密室に奇術師男女のコミカルなロマンス、さらには冒頭と終盤におけるH・Mの大活躍(?)と、たいへん盛りだくさん。また、犯人の醜悪さというか往生際の悪さも印象深く、トリックのしょんぼり感を補ってあまりあるほど、思いのほか面白く読むことができた。


No.165 8点 悪霊の館
二階堂黎人
(2015/10/25 11:53登録)
遺産相続を巡って暗雲立ちこめる資産家の敷地内で起こる連続殺人。密室、顔のない死体、洋館、不可解な謎の数々など、魅力的な要素のオンパレードで文句なしの出来でトリックもストーリーも十分満足いくもの。解決部分は多少ごちゃごちゃした感じは受けたが、数多くの謎を上手くまとめていると感じた。


No.164 7点 アイルランドの薔薇
石持浅海
(2015/10/25 11:48登録)
いわゆる「クローズド・サークル」ものだが、その隔離状況を作り上げるためにアイルランドという土地と社会問題を利用している。よくある「大雪で閉ざされた別荘」だの「嵐で取り残された離れ小島」だのという、もともと無理がある状況設定とは違う現実味のある隔離状態がミソの作品。その上での意外な犯人と事件の真相、探偵役となる人物(なぜか日本人)の名推理が楽しめる。


No.163 8点 愛は血を流して横たわる
エドマンド・クリスピン
(2015/10/25 11:42登録)
化学実験室からの薬品盗難、終業式の演劇に出演する女生徒の失踪に続き、教師二人が射殺されるという惨事に見舞われたカスタヴェンフォード校。さらに翌日には、村はずれの田舎家で第三の殺人が起き……。第三の殺人が明るみに出た段階で、犯人の主要な動機が判明し、無関係に見えたそれまでの事件との関連も明らかになってくる。しかし、鉄壁のアリバイが捜査陣の前に立ちふさがることに。盲点を突くアリバイトリックはなかなか巧妙。ただ、それを解明するには、やや特殊な知識が必要になる。カーチェイスシーンでのギャグの天丼には降参だ。


No.162 7点 fの魔弾
柄刀一
(2015/10/25 11:40登録)
現在パートと過去の捜査パートが交互に展開されストーリーが進んでいく。現在パートは探偵役の危機と、そこでの悪戦苦闘に緊張感がありとても引き込まれたが、捜査パートは性質上仕方ないとはいえ少々退屈に感じてしまった。 しかし、いざ解決篇に突入すると今までに提示されたものが見事に収束していき、特に序盤で描写されたある事柄が掛かってくる部分は、自分には絶対に出てこないような発想だったため、ちょっと感動。細部にもこだわり、とても丁寧に作られた誠実なミステリという印象の良い作品。


No.161 6点 スウェーデン館の謎
有栖川有栖
(2015/10/25 11:38登録)
読み終えて感心したのは著者の話作りの上手さ。事件の規模は決して大きくはない が、調査の途中で立ち止まって仮説を立てたり、犯人の動機を読者にあれこれと考える間を与えたりして、話をうまく膨らませている印象を受けた。火村の推理は、一見他に可能性がありそうな危ない橋のように見えるのに、他にめぼしい推理が見つからないのがなんだか悔しい。ただ、犯人の行動のリスクが高さとが気になるところ。


No.160 8点 隅の老人の事件簿
バロネス・オルツィ
(2015/10/24 23:40登録)
老人がカフェの片隅の席で記者一人に自分の推理をとつとつと語る安楽椅子探偵の先駆け的な作品。物的証拠ではなく検死審問でのやり取りなどから得られた情報のみで組み立てられる論理は秀逸。事件の様相もバラエティに富んでおり飽きの来ない作品。特に最終話の印象が読後にまで強く残る作品。


No.159 7点 体育館の殺人
青崎有吾
(2015/10/24 23:36登録)
「使い古されたもの」というのは、それがあまりに優れているがゆえに繰り返し擦り切れるまで使われていく運命にあるのだと思う。ロジックへの執拗なまでのこだわりは、クイーンの時代から変わらずミステリファンを魅了し続けている。体育館を舞台に起こる密室殺人の謎が、やはり歴史を彩る数々の名探偵と同じく変人ぶりを発揮する天才少年によって鮮やかに紐解かれていく様は、とても美しく興奮させられた。キャラクター描写や軽やかな筆致も心地よく、今後の展開にも期待が高まる。


No.158 7点 硝子のハンマー
貴志祐介
(2015/10/24 23:32登録)
高層ビル内で起きた密室殺人に挑む青砥と榎本の活躍を描いた本格推理小説。この手の密室殺人は「そんな馬鹿な」という感情が先に来てしまいあまり楽しめず終わる事が多いのでそこまで期待せず手に取った作品だったが、人物の描写が魅力的でトリックを証明する方法もじりじりと一つずつ可能性を検証していく形なのでその過程も含めて非常に楽しめた。防犯に関して知識のある探偵役がここまで頼りになるとは…。それにしても「硝子のハンマーは砕けてしまった後が一番危険なんですよ」は名言である。

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