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ミステリの祭典

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アイルランドの薔薇

作家 石持浅海
出版日2002年04月
平均点6.18点
書評数11人

No.11 6点 ぴぃち
(2024/09/09 21:31登録)
閉鎖された山荘という、いわゆる「密室」で演じられる本格ミステリながら、吹雪や嵐ではなく、北アイルランドにまつわる緊迫した政治状況を使い、閉鎖空間を作り上げている点が秀逸。
山荘内で変死体が見つかるが、和平交渉成立のために表沙汰にも警察沙汰にも出来ず、当事者のみで事件を解決しようという必然性が生まれるという設定が素晴らしい。

No.10 6点 パメル
(2024/06/25 19:33登録)
日本人科学者・黒川が同僚と出掛けた週末のバカンスで、嵐に巻き込まれ辿り着いた南アイルランド郊外のホテル「レイクサイド・ハウス」には奇妙な緊張感が漂っていた。
気立ての良い女主人、働き者のボーイ、三人組の釣り客、オーストラリアから来たビジネスマン、二人連れの女子大生、アイルランド人会計士。この中に正体不明の殺し屋が紛れ込んでいた。翌朝、ある人物の死体が発見されるや活動家たちは困惑する。そして捻りの効いたクローズド・サークルの状況で、知力と誇りをかけた論理ゲームの幕が開く。
アイルランド紛争という重たいテーマを扱いながら、その舞台設定を見事に本格推理の中に落とし込まれている。アイルランド紛争の歴史的背景や、その政治的・社会的・宗教的・民族的課題については作中で詳しく説明してくれる場面があるので知識が無くても大丈夫。「殺し屋」というカードを巧みに使いまわすことで、物語に厚みを加えているし解決につなげる論理の切れ味も鮮やかで心地よい。
真犯人の正体に意外性はないが、捻りの効いた状況設定とプロット、そして誰が嘘をついているのかを読者に考えさせるように仕向けるギミックが効果的。背景に滲ませた政治問題も緊迫感につながっており好印象。

No.9 6点 zuso
(2023/01/19 23:10登録)
アイルランドの宿屋で、武装勢力副議長が殺害される。彼の仲間たちは、和平目前なのに警察に通報などできないと、客たちを足止めする。そこで推理の先頭に立ったのは日本人科学者・フジだった。
政治情勢が複雑なために「嵐の山荘」状態になってしまう導入部の工夫がまず目立つ。殺人の謎だけでなく、正体不明の殺し屋が客に混じっている状況を嚙み合わせて進むストーリーは、本格の楽しさに満ちている。たとえ政治や社会派が苦手な人でも大丈夫。

No.8 7点 ロマン
(2015/10/25 11:48登録)
いわゆる「クローズド・サークル」ものだが、その隔離状況を作り上げるためにアイルランドという土地と社会問題を利用している。よくある「大雪で閉ざされた別荘」だの「嵐で取り残された離れ小島」だのという、もともと無理がある状況設定とは違う現実味のある隔離状態がミソの作品。その上での意外な犯人と事件の真相、探偵役となる人物(なぜか日本人)の名推理が楽しめる。

No.7 7点 Tetchy
(2014/03/22 19:23登録)
アイルランドの武装勢力NCFが殺し屋に依頼するある幹部の暗殺劇。このどうにもエスピオナージュ色濃い設定で本格ミステリを成立させるという異色な意欲作だ。
上に書いた物語のシチュエーションから本書が本格ミステリのいわゆる「嵐の山荘物」だと誰が想像するだろうか?石持氏はこの本格ミステリの典型とも云える、警察が介入できず、しかも外部との連絡が絶たれた状況の密室状況を、あくまで現実的で起こりうるだろう状況で実現させるためにアイルランドの武装勢力NCFの一味が宿泊先で何者かに殺害され、警察への介入を許さないというこれまでにない特異なアイデアで設定した。

そして舞台の特殊性に加えて本書には他の本格ミステリには見られない特異性がある。それは物語の状況が政治的に大事な交渉を控えていることから、NCFが納得のいく事件の解決しなければならないのだが、それは真犯人が違っていても構わないから論理的に誰もが納得のいく解答を見つけさえすればよいというものだ。
つまり本書では本格ミステリ作家がいつか直面するこの本格ミステリのジレンマをなんとデビュー作の時点ですでに取り入れているのだ。とても新人とは思えない達観した考えを持った作家である。

ただ目の前で人が亡くなっているのに、滞在客みんなで料理に興じるのには面食らった。そんな意欲が出るものだろうか?ましてや心的ショックから食欲など湧かないのではないだろうか?しかもみな嬉々として料理を楽しむのである。これにはさすがに違和感を覚えずにはいられなかった。

No.6 6点 E-BANKER
(2011/03/26 23:07登録)
作者のデビュー長編。
本格ミステリーにアイルランド問題を絡めた硬派な作品です。
~南北アイルランドの統一を謳う武装勢力NCFの副議長が、スライゴーの宿屋で何者かに殺された。宿泊客は8人、そこには正体不明の殺し屋が紛れこんでいた。やはり犯人は殺し屋なのか? 宿泊客の1人、日本人科学者フジの推理が「隠されていた殺意」を炙り出していく~

古くから南北が激しく対立しているアイルランドという土地、警察が介入できない隔絶されたB&B(宿屋)というクローズド・サークル・・・作者らしさは、デビュー作から健在って言わんばかりの特殊設定下で殺人事件が発生します。
フーダニットで言えば、真犯人はやや意外、殺し屋は「いかにも!」という感想でした。
まぁ、たいへん丁寧かつ生真面目に作りこまれたストーリー&プロットですし、アイルランド問題という政治的なトピックを使ってうまい具合にミスリードさせている辺りは「さすが」と思わせます。
ただ、評価としては「可もなく不可もなく+α」というレベルでしょうか。
(探偵役のフジについては、あまりデータが示されなかったので、最後に何か企みでもあるのかと思いきや、何もなくスルー・・・だったら、単発で終わらせず再登板してもらいたいですねぇー・・・なかなか魅力的な造形なので)

No.5 6点 江守森江
(2009/05/22 13:50登録)
犯人探しと殺し屋探しの2つが同時に楽しめる。
読みやすくサラッと読了できる。

No.4 5点 nukkam
(2009/04/22 12:48登録)
(ネタバレなしです) 風変わりな状況下で起きる事件を背景にしたミステリーを得意とする石持浅海(1966年生まれ)が2002年に発表した長編デビュー作の本書はスパイ・スリラーの舞台に本格派推理小説の謎解きを組み合わせた作品です(タイトル通り舞台は北アイルランドで、英国からの独立を目指す武装勢力が登場します)。謎解きはとても丁寧ですが個人的には殺し屋や武装勢力メンバーといったプロの犯罪者が容疑者にいる設定がいまひとつ好みに合わなかったです。

No.3 6点 こう
(2008/07/24 01:33登録)
石持浅海第一長編はアイルランドの宿屋で起こる殺人事件を扱っています。中身は宿屋の住人のみが容疑者となる実質上クローズドサークル物(厳密には違いますが)です。
 ひねりはないですが昔ながらの本格をアイルランドのテロ組織を登場させ成立させています。
 第一長編から設定がいかにも石持作品らしい設定ですが他作品よりも殺人動機は納得しやすい作品でしょう。
 その後の作品よりも本格に忠実な仕上がりだと思いますのであまりひねりや驚きはありませんが気に入っています。

No.2 6点 dei
(2008/03/10 22:31登録)
良くも悪くも普通。
もう少しひねれたはず。

No.1 7点 いけお
(2007/12/28 03:11登録)
謎やトリック、人物にしても若干浅い印象。
もう少し深く掘り下げられていてもよかった。

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