愛は血を流して横たわる ジャーヴァス・フェンシリーズ |
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作家 | エドマンド・クリスピン |
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出版日 | 1995年04月 |
平均点 | 6.40点 |
書評数 | 5人 |
No.5 | 5点 | nukkam | |
(2020/08/13 21:07登録) (ネタバレなしです) 1948年発表のジャーヴァス・フェン教授シリーズ第5作の本格派推理小説です。英語原題は「Love Lies Bleeding」で、日本語タイトルはほぼ直訳に近いのですがこの「Love」は被害者の名前であり、事件の陰に愛情のもつれがあったという真相ではないので非常に違和感を覚えました。まあそれは作者のせいではないのですが、国書刊行会版の巻末解説で「消えた玩具屋」(1946年)と並ぶ代表作との評価は個人的には首肯できませんでした。「消えた玩具屋」のような幻想的で印象的な謎が提示されるわけではなく、展開が地味だしユーモアも控え目、トリックは凝ってますけど「大聖堂は大騒ぎ」(1945年)や「白鳥の歌」(1947年)と比べると小粒な感じです。何よりも第14章の終わりでフェンが語る真相の一部が魅力に欠けてます。作者もそこは気にしたのか第17章で「これは事件の解釈の一面でしかなく、もうひとつ別の説明の仕方もある」とどんでん返しを匂わせますが、きちんと着地しないままでした。気の利いた手掛かり、細かな伏線の回収、スリリングな冒険シーン、劇的な犯人追跡など優れたところも一杯あるのですけど。 |
No.4 | 7点 | 人並由真 | |
(2020/04/03 01:56登録) (ネタバレなし) 1947年の英国作品。 プチ・ミッシングリンクといえる全貌の見えない数件の殺人に、前後して生じた少女失踪(誘拐?)事件がからむ。登場人物はべらぼうに多いが、ストーリーの流れは実にテンポ良くて面白い。 とはいえ中盤で大ネタが出てくると、そこで驚かされる一方、犯罪の動機がとどのつまりは……とわかってしまってやや興が削がれた。それでも英国風にユーモラスな叙述で最後までそれなりに読ませるが。 ちなみに終盤で明かされる真犯人については、E-BANKERさんがおっしゃるのとは別の意味でどうかなあ……という感じであった。 というのも例によって、自作の登場人物一覧表をまとめながら読み進めたが、作中で語られた当該の人物についての文芸設定、パーソナルデータはあまりに少なく、そのわずかな情報がそのまま、先に張られたあまりにもあからさまな伏線に直結してしまう。だから自分の場合は、E-BANKERさんの言われるように「これ、誰だっけ?」ではなく、「なんだやっぱり、こいつかあ」でした。まあフェンが最後に説明する、事件全体の細部まではとても先読みは不可能だったけどね。 新刊で買っておいてゼータクにも今まで積ん読にしておいた、国書のハードカバーの方で読みましたが、翻訳は全体的に丁寧でとても読みやすい。ただし評者がオッサンもしくはジジイなせいか、フェンの会話の中の一人称が「おれ」で、警視クラスの地元の警察官スタッグがへりくだった物言いなのが、実に違和感があった。 まだそんなにクリスピン作品を読んでないから、他の邦訳がどうかは確認してないけれど、この手の文学系の青年学者探偵なら一人称はやっぱ「ぼく」にしてほしいよね。エラリイやナイジェル・ストレンジウェイズみたいに。まあ「ぼく」にしちゃうとその手のあまたいるアマチュア(またはそれっぽい)名探偵とキャラがかぶっちゃうから、差別化したのかもしれないけれど。 あとこの作中では、16歳の女子にフェンが平気でタバコを勧める描写があるのに少し驚いた。翻訳ミステリを読んでれば、時代やお国柄によって多少は喫煙事情に差異があるのは自然とわかってくるが、大学教授の主人公探偵が自分の教え子ではないとはいえ女子高校生相手にね。まあ該当の女の子はふだんは親の前ではさすがに吸ってないとかイクスキューズしてますが。 |
No.3 | 8点 | ロマン | |
(2015/10/25 11:42登録) 化学実験室からの薬品盗難、終業式の演劇に出演する女生徒の失踪に続き、教師二人が射殺されるという惨事に見舞われたカスタヴェンフォード校。さらに翌日には、村はずれの田舎家で第三の殺人が起き……。第三の殺人が明るみに出た段階で、犯人の主要な動機が判明し、無関係に見えたそれまでの事件との関連も明らかになってくる。しかし、鉄壁のアリバイが捜査陣の前に立ちふさがることに。盲点を突くアリバイトリックはなかなか巧妙。ただ、それを解明するには、やや特殊な知識が必要になる。カーチェイスシーンでのギャグの天丼には降参だ。 |
No.2 | 6点 | E-BANKER | |
(2012/02/01 22:02登録) 名探偵・フェン教授登場作品。 全部で9作しか長編を書いてない作者ですが、本作はちょうど脂の乗った中期の作品。 ~化学実験室からの薬品盗難、終業式の演劇に出演する女子生徒の失踪という不祥事の連続に、スタンフォード校長は頭を抱えていた。だが事態はそれだけに留まらず、終業式前に2人の教師が殺されるという惨事まで発生するに至り、校長は来賓として招待していた名探偵・フェン教授に助力を求めた。早速赴いた犯行現場で、鋭い推理を披露するフェンだが、なんと翌日には第3の殺人が・・・ 卓越した着想とユーモアに溢れた英国探偵小説の傑作~ 本格ミステリーとしてのプロットはよくできていると思った。 「学校」を舞台とした連続殺人事件というのは、英国の本格物ではよく目にするが、本作も何となく既視感のある展開。 当初は連続殺人をつなぐ「環」が見付からないが、「○○ーク○○アの○○」という大きな「動機」が判明してからはほぼ一直線。 フェン教授の推理は、物証などから丹念に演繹していく推理方法で、なかなか読み応えがあった。 軽いタッチの文章は好みは分かれそうだが、読みやすさはかなりのもの。 ただ、この真犯人はどうかなぁ・・・ 特定されたロジック自体には何の不満もないが、この人物に対する描写があまりにも少ないので、いざ「こいつが真犯人だ!」と指摘されても、「こいつ誰だっけ?」というのが個人的には最初の感想だった。 犯人が弄したアリバイトリックも、ちょっとお粗末な気がするのも事実。 などという不満もあるのだが、全体的には好感の持てる作品なのは間違いなし。 欲を言えば、もう少し登場人物を絞って、人物造形に深みを持たせてくれればなおいいのだが・・・ |
No.1 | 6点 | mini | |
(2010/10/04 09:44登録) バーディン「悪魔に食われろ青尾蠅」、クリスピン「愛は血を流して横たわる」、バークリー「第二の銃声」の3冊が創元文庫で文庫化されるらしい 「第二の銃声」はバークリーだけにいずれは文庫化されるんだろうと思っていたし、創元からというのも予想通り しかしあとの2冊は少々予想外な選択だなぁ クリスピンで文庫で読めるのって言ったら現状では早川文庫の2冊だけだもんなぁ、それもほとんど絶版状態だし 創元がクリスピンを手掛けるのって初めてだよな多分 イネス、ブレイク、ヘアーらと並び英国教養派を代表する作家の一人クリスピンは、ファース色の強いドタバタ調が特色であるが、この「愛は血を流して横たわる」はやや控えめな感じで、クリスピンにそういう面を求めるファンには若干物足りない でも一応中盤でドタバタは入っているし、少なくとも「白鳥の歌」よりはらしさが出ている その反面トリックなど謎解き面はちょっと地味で、謎解き部分だけなら「白鳥の歌」の方にアドバンテージがある しかし派手さは無いが端正な謎解きといい、クリスピンの中では本格として無難に纏まった佳作だろう ちょっと変わった題名だけど、被害者の名前が”Love” それにしても文庫化だったら早川がさぁ、ポケミス旧訳のままの「金蠅」を新訳文庫化しろてぇ~の! あれっ、この書評、”蠅”で始まり”蠅”で終わるのかよ |