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ミステリの祭典

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爬虫類館の殺人
HM卿シリーズ 別題『爬虫舘殺人事件』『彼が陀を殺すはずはない』

作家 カーター・ディクスン
出版日1958年01月
平均点5.93点
書評数14人

No.14 7点 クリスティ再読
(2022/01/23 18:33登録)
シンプルでそこそこ面白い作品だと思う。空襲下のロンドンで「非常時」の危機に陥った動物園(爬虫類館)という設定が、やはりナイスだと思う。舞台設定が生きている。
密室トリックへのミスディレクションになるものが、空襲と関係があるあたりうまいものだと感じる(評者は空襲を知ってるわけじゃないがねえ)。何となく犯人・トリック憶えてたから何だけど、犯人特定は意外に分かりやすい? いや、メタな推理をした場合でも、この人以外には真犯人はないよね....

だから面白く読めたのはそうなんだけど、難点はケアリ&マッジの奇術師のロメジェリに好感が持てないこと。ここらへん、何とかしてよ~~というのが、読者の叫び(苦笑)。中盤のマッジのピンチをすっ飛ばして中編だったら大名作だったかしら?

密室はトリック自体よりも、「目張り密室」という「趣向の発明」の方を評価すべきだと思う。具体的な解法よりも「問題」を見つけだす方のがずっと偉いことだと評者は思うんだよ。最後の拷問(!)、HM卿らしさが全開で極めて印象に残る(しっかり覚えてた...)。絶対にカー、これがやりたくって仕方のない話だったと思う。必要がないかもしれないけども、お話なんだもん。詩的正義というものですよ。

No.13 6点 弾十六
(2022/01/05 23:46登録)
1944年出版。H.M.卿#15。創元文庫(1972、6版)で読了。
いがみあう男女コンビはJDC/CDお得意の進行。H.M.のドタバタ劇もお馴染み。余計な枝葉を取り払ったシンプルな話に仕上がっています。楽しいながらも傑作には至らない出来ですね。ダグラスグリーンのJDC伝には、あのキャラがJDCの××のイメージだ、とあってちょっとびっくり。
以下トリビア。
作中年代は冒頭に1940年9月6日(p9)と明記。
p6 ロイヤル・アルバート動物園(the Royal Albert Zoological Gardens)… ケンジントン公園のロイヤル・アルバート(Royal Albert, Kensington Gardens)◆いろいろ調べたが架空の動物園。実在のLondon Zoo(Regent's Park)は1828年開園、爬虫類館は1927年開館。
p9 空襲◆ドイツ軍は1940-9-7から57日間連続でロンドン空襲を実行した。
p14 半クラウン銀貨(half-a-crown)◆当時はジョージ六世の肖像、1937-1947のものは.500 Silver, 14.15g, 直径32mm。英国消費者物価指数基準1940/2022(59.65倍)で£1=9307円。半クラウン=2s.6d.=1163円。
p38 真空掃除機(a vacuum-cleaner)◆電化世帯(Wngland & Wales)でのいろいろな家事家電の普及率(1939)をみつけた。真空掃除機は30%、electric cloth “wash boilers”(洗濯機; お湯で汚れを落とす式?)は3.6%、電気湯沸かし(electric water heater)は6.3%、電気冷蔵庫は2.3%、電気調理器(electric cookers、電熱線式?)は16.8%とのこと。真空掃除機の値段は、1938年で高級品£20、普及品£10、安ものが£3〜4程度で、家事労働の低減効果が顕著(掃除婦は時間10ペンス。普及品で240時間分、週6時間なら約9か月で元が取れる)で、訪問販売の成功により普及率が高かったようだ。“Managing Door-to-Door Sales of Vacuum Cleaners in Interwar Britain” (P. Scott 2008)より。
p42 セント・トマス・ホール(St. Thomas's Hall)◆架空の劇場名。
p49 面会謝絶(do not disturb)
p57 紙マッチ… 勘ちがいしてパイプでこすった(paper packet of matches …. he juggled it along with the pipe)◆パイプを持った手に危なっかしくブックマッチを持った、ということなのでは?そこから空いた手でマッチを取り、ブックマッチのヤスリ部で火を付ける手順。
p63 連発ピストル(revolver)じゃない… 自動ピストルだ(automatic)
p64 安全装置(safety-catch)
p72 これは1940年の九月初めの出来事だったので、タクシーをつかまえることができた(a taxi…. since these events took place in the early September of nineteen-forty, he got one)
p73 ベイズウォーター・ロード(Bayswater Road)◆ケンジントン公園の北西角。そこら辺に「ロイヤル・アルバート動物園」がある、という設定。
p75 過去にH.M.が扱った事件がずらずらと。原文だけ示しておきます。
“There's the Stanhope case," continued Carey, "and the Constable case, and the deaths in the poisoned room, and the studio mystery at Pineham. There's Answell and the Judas window, there's Haye and the five boxes. As for the Fane case at Cheltenham…” 各タイトルを略号で示すとTGM、RIW、TRWM、ASTM、『ユダの窓』、DIFB、SIBですね。一応ボカシました。
p89 錠前開けの七つ道具(lock-picks)
p108 マスターズ大警部(Chief Inspector Masters)◆「主席警部」が普通かな?
p109 リジェンツ・パークとかホイップスネイドのような本式の動物園(Regent's Park or Whipsnade)◆Whipsnade Zoo, formerly known as “Whipsnade Wild Animal Park”、英国最大の動物園。1931年開園。
p127 貨物自動車(a lorry)◆トラックと同意だが、英国表現のようだ。
p127 ギルトスパー街(Giltspur Street)◆動物園から7kmほどの距離。
p128 バート病院(Bart's Hospital)◆St Bartholomew's Hospital
p154 ペッパーの幽霊(Pepper's Ghost)◆奇術のタネ。Wiki “ペッパーズ・ゴースト”として項目あり。1862年初公開。
p157 洗濯屋… シャツからボタンを丹念にちぎりとり(laundries … carefully tear all the buttons off your shirt)
p158 三二口径のコルト(a Colt .32)◆自動拳銃。一般にColt .32 Autoの名で知られるColt Model 1903 Pocket Hammerlessだろう。マガジンには8発入る。
p289 ソーセージの中のコーンミール(the corn-meal in the sausage)

No.12 5点
(2020/10/04 11:31登録)
 ガスだ! 流れ出してきた有毒な気体の波にその場の全員がたじろぐなか、ヘンリー・メリヴェール卿だけが部屋の中に突進していった。部屋には苦悶にねじ曲がった動物園長の死体が・・・しかも部屋は内側からゴム引きの紙で目張りされていたのだ。戦時下のロンドン、史上空前の密室に挑んだH・M卿が暴く驚愕の真相とは?
 『貴婦人として死す』に続くHM卿シリーズ第15弾。1944年発表。同年にはフェル博士シリーズの15作目『死が二人をわかつまで』も刊行されています。事件の発生日が一九四〇年九月六日からの二日間、バトル・オブ・ブリテンの真っ最中に設定されているだけあって、メイントリックの隠蔽に直接これを利用した、戦時ミステリここにありといった作品。ただこの頃になるとドイツの劣勢がほぼ確定しているせいか前作に比べるとコメディ調が強く、終始かなりはっちゃけたストーリーが繰り広げられます。他の方の書評にもあるように、特異な〈目張り密室〉でも名高い作品。
 あのトリックは結構有名なので〈それ以外の要素〉に着目して読んだんですが、結果は微妙。爬虫類館の管理人マイク・パースンズの動きを読み解きながら並行して重要な手掛かりを放り込むところや、しょっぱなの大騒動が第三の事件に繋がる部分は流石ですが、ドタバタを除くと割と平板な展開で、前作ほどの手際の良さは見られません。メインとなる密室構成に比重が掛かり過ぎてる気もしますね。シリーズ筆頭格『ユダの窓』のような〈ネタは割れてもやはり面白い〉名作ではありません。
 そういう意味で積極的に評価するのはいささか厳しいところ。水準はクリアしてるものの佳作の多い四〇年代前半の著作の中では、どちらかと言えば下位の出来でしょう。

No.11 3点 レッドキング
(2019/02/05 20:36登録)
爬虫類って銘打ってるんだから、トリックにオオトカゲかアナコンダが絡んでほしかったな。でも「爬虫類を愛してる奴が自殺のみちづれにするわけない」って少し良い話だ。

No.10 6点 ボナンザ
(2017/04/23 19:22登録)
中々の良作。密室トリックとその周辺の仕掛けも凝っているが、カーお得意のロマンスもドタバタしながらも楽しい。
カー作品の中では読みやすい一作。

No.9 6点 nukkam
(2016/07/18 18:33登録)
(ネタバレなしです) 1944年発表のH・M卿シリーズ第15作は単に施錠されているだけでなくドアや窓の隙間に目張りまでされているという、とんでもない密室の謎が提供されます。この謎についてはクレイトン・ロースンとアイデア競争があったという裏話があり、ロースンは短編「この世の外から」で謎解きしてますので本書と比較するのも一興でしょう(両者にトリックの共通点はほとんどありません)。戦時色濃厚な作品ですが単なる雰囲気づくりだけでなくプロットに活かしているところが巧妙です。完全に余談ですがプロットに若い男女のロマンス描写を織り込むのも恒例ではあるのですが本書の場合は冒頭の出会いの場面の印象が(個人的に)悪く、ロマンスを応援する気になれませんでした。

No.8 7点 青い車
(2016/05/18 23:25登録)
 カーター・ディクスン(ジョン・ディクスン・カー)の生んだ数ある密室殺人の中でも、一際異彩を放つ設定です。それまでも『赤後家』の毒殺を用いた密室という特例はありましたが、今回はガス自殺に見せかけたテープの目張り密室。不可能犯罪の大家も同じようなものばかりでなく、様々なパターンの密室に挑んでいたんですね。
 労力の割にあっさり他殺と見破られるなど、効率的なネタとは言い難いですがアイディアの面白さは抜群。トリックも奇想でありながら、さり気ないヒントの提示で、論理的な解決に成功しています。強いて弱点を挙げるとすれば若い男女のロマンスの描き方がクリスティーなどと比べてぎこちないところでしょうか。
 大山誠一郎さんが短篇で同じ目張り密室殺人をフェル博士に推理させています。こちらも面白いのでオススメです。

No.7 6点 斎藤警部
(2015/10/28 12:00登録)
トリックは どうでもいいけど 面白い(五七五)の典型。
雰囲気勝負で押し切られました。
こういう「照明暗い、雰囲気明るい」系のカー乃至ディクスンは好みです。「赤後家」しかり「緑のカプセル」しかり。

No.6 7点 ロマン
(2015/10/25 11:56登録)
タイトルや戦時下のロンドンという舞台設定からは、なにやら暗くて粘った雰囲気のものを想像してしまうが、これがじつに楽しくて愉しい作品となっている。気密性の高い密室に奇術師男女のコミカルなロマンス、さらには冒頭と終盤におけるH・Mの大活躍(?)と、たいへん盛りだくさん。また、犯人の醜悪さというか往生際の悪さも印象深く、トリックのしょんぼり感を補ってあまりあるほど、思いのほか面白く読むことができた。

No.5 6点 了然和尚
(2015/09/12 19:51登録)
数十年ぶりの再読ですが、密室のトリックはピンときました。この今でも2時間ドラマで出てきそうなネタも先生の発案でしたか。それでも、犯人は絞りきれなかったのでさすがです。(動機が金なのも明白なのですが) 最後の章で、「どうや、犯人は娘かおじさんかドクターかと思ったやろ」と書かれて、まいりましたという感じです。
 真犯人ですが、重要な役割の犯人の夫の方が、みごとに消えすぎていて影しかなく(いや、影薄すぎませんか)え、って感じであっけなかったです。共犯であるにせよないにせよ、もうすこし露出してくれれば読後感が良かったと思います。
 H.Mの拷問に近い強制自白(あるいは、仕返し)という結末に+1点。

No.4 6点 文生
(2012/04/09 13:07登録)
扉の内側からテープを貼り付けられた目張りの密室という設定が独創的で伏線の使い方も巧み。
ただ、トリック自体は単純な機械的トリックなので真相が分かった時の驚きには欠ける。
ストーリー自体も奇術師カップルの恋愛を軸に語られ、カーらしいケレンミに乏しく物足りない。

No.3 5点 kanamori
(2010/06/27 20:41登録)
この目張り密室は結構有名で、これまたトリックは事前に知っていました。
戦時下のある状況を利用したという点も評価されているようですが、物語そのものは面白味に欠け、トリックだのみのところがあるので、ネタを知った上で読むと厳しいです。

No.2 6点
(2008/12/27 15:15登録)
カーの作品ではおなじみ恋愛騒動を起こす2人は、今回は先代以前から仲の悪いマジシャン同士です。つまりトリックに関しては専門家なわけで、有名な目張り密室の謎は2人も見破ってしまいます。しかし、犯人が誰であるかを推理するのは、やはりH・M卿に頼らざるを得ないわけで、結局2人の設定はそれほど生かされていないのではないでしょうか。
密室について言えば、タネより効果の意外性が際立っていると思います。その意味では、クレイトン・ロースンの功績が大きいと言えるでしょうか。一方タネ(実現方法)も単純明快で、より現実的なロースンの方法より個人的に好きです。

No.1 7点 Tetchy
(2008/09/05 20:04登録)
哀しいかな、このメイントリックは某藤原宰太郎の推理トリッククイズに問題の1つとして丸々ネタバレされていたわ。
あのシリーズってまだ本屋に売っているのか?
絶版である事を祈る!

題名は微妙に間違えている。厳密に云えば殺人が起きるのは館長の家であり、爬虫類館ではない。
原題の“He Wouldn’t Kill Patience”を訳す方が非常にマッチしているのだが、もうこの題名で有名になってしまったなぁ。

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