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[ SF/ファンタジー ] さよならの儀式 |
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宮部みゆき | 出版月: 2019年07月 | 平均: 7.00点 | 書評数: 1件 |
河出書房新社 2019年07月 |
河出書房新社 2022年10月 |
No.1 | 7点 | 猫サーカス | 2019/10/30 18:56 |
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近未来を舞台にした八つの短編からなるが、登場人物はいずれも何らかの欠乏感を抱いている。巻頭の「母の法律」は、児童虐待する親から被害児童を切り離して救済する「マザー法」が制定された世界の話。保護され、善良な養父母の下で育った主人公は、しかし罪を重ねた実母に表現できない心の泡立ちを覚える。また表題作「さよならの儀式」は機械にすぎないロボットに家族のような愛情を抱く人々を冷ややかに眺める技術者の話。前者では虐待する親が、後者では冷淡な技術者が「悪人」になりがちだが、本書は単純ではない。ちょっと視点を変えると、「悪人」にも悩みや悲しみがあり、ハッとさせられる。巻末の「保安官の明日」では熟練した保安官の視線から、事件の真相が描かれている。一見、平和な地域にも住民間のさまざまな愛憎や欲望が潜んでいる。住民の全てを知り尽くしている保安官は、トラブルを芽のうちに摘み取ろうと努めるが、事態は次第に悪い方へと向かっていく。努力しても成功するとは限らない。善良な人間が正しい判断を下せるとも限らない。その事実から作者は目を背けてはいない。しかしやり直そうと努めている間は希望がある。そして努力を続けることそれ自体の中に「幸福」の種があるのだと、優しく語りかけているようだ。 |