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ミステリの祭典

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メルカトルさんの登録情報
平均点:6.04点 書評数:1835件

プロフィール| 書評

No.1755 4点 ラザロ・ラザロ
図子慧
(2024/03/17 22:23登録)
斑猫(はんみょう)の特別講義の質問時間に、学生が問いかけた。「不老不死を可能にすることはできるのではありませんか」…。"不老不死"の新薬をめぐる、ダークサイドミステリー。
『BOOK』データベースより。

各所で称賛されている本作、端的に言えば冗長。どうでもいい事をダラダラ書いている割りには肝心な事は1%程度しか書かれていません。勿論個人の感想です。一般的な見地から見れば私は圧倒的なマイノリティですが。しかし、若返りの秘薬を巡っての騒動をテーマに据えているのであれば、もっと如何わしい雰囲気や不穏な空気感を前面に押し出すべきだったのではないかと思えてなりません。その辺りの疑問、特に何を意識して描きたかったのかを作者の問うてみたい思いでいっぱいです。

小さめな文字で二段組み、単行本で325頁。とても苦戦しました。早い段階で挫折してしまったほうが良かったのかとも思いました。それでも意地で読破した自分を少しは褒めてあげたい気持ちもあります。
正直どこが良くて絶賛されているのか理解できません。文章が心に響くところがなく、全体的に平板で各人物像にも好感が持てませんでした。ここぞというところでの見せ方が上手くなく、驚けません。無論本格ミステリを期待した訳ではありませんが、サスペンスフルでもなければ医療ミステリでもなく、かと言って冒険小説でもないし、まあさしずめハードボイルドもどきでしょうかね、ジャンル的には。
期待を大きく裏切ってくれた、とんでもない代物でした。他の方の感想も聞いてみたいですが・・・とてもお薦めは出来ませんので何とも、ねえ。


No.1754 8点 秘祭ハンター 椿虹彦
てにをは
(2024/03/13 22:20登録)
なんらかの理由で世間から隠され、ひっそりと行われている祭――それが秘祭。
潮は大学で講義をしていた「秘祭ハンター」と呼ばれる小説家の虹彦に、幼い頃に見たであろう「桜の木に沢山の人がぶら下がっている祭」の捜索を頼むことに。
体よく虹彦に使われながら様々な秘祭に同行する潮。
そこで目にした現代とは思えないような神事と、祭と人々が秘めていた真実とは……?
摩訶不思議なお祭りミステリー開幕!
Amazon内容紹介より。

第一話が人が空を飛ぶ祭、第二話が一夜にして現れ祭が終わると跡形もなく消える村の祭、第三話が人形だらけの村で人形同士が戦う祭。確かに秘祭と呼べる奇妙なものばかりです。それらを大学の講師で作家の椿虹彦とお嬢様で彼の講義を受講する潮が体験するのだが、どれも訳ありで事件が勃発するという、長めの連作短編集。タイトルを見る限り、B級臭がプンプン臭いますよね。そして一種の冒険小説なのかと想像されるのも当然でしょう。しかし、これは本格ミステリだと私は断言します。普通の感覚だと6点が妥当な評価かも知れませんが、私にとってはこの上ない極上の読書体験だったと考えます。

てにをはは田舎を描くのも上手いのを実感しました。物語の流れもスムースで手際よく人物を紹介しながら進め、秘境に読者をグイグイ引き込んでいきます。虹彦と潮のマウントの取り合いも読みどころの一つで、人間の闇の部分を掘り下げる描写のえぐみを緩和する役割を果たしていると思います。
二話目は他にやや劣るものの、一話目三話目は雰囲気と言い、仕掛けと言い、事件の裏に隠された人間の業や歪んだ志向と言い、いずれも際立っており、最高のミステリでしたね。終幕の「祭の後」の余韻に浸りながら、とんでもない拾い物をしたなと思いました。多くの方に読んでもらいたい作品です。当然続編も期待したいところです。


No.1753 7点 フランケンシュタインの工場
エドワード・D・ホック
(2024/03/11 22:27登録)
メキシコのバハ・カリフォルニア沖に浮かぶホースシューアイランド、この島に設立された国際低温工学研究所(ICI)の代表ローレンス・ホッブズ博士は、極秘裏にある実験計画を進めていた。長期間冷凍保存していた複数の体から外科手術によって脳や臓器を取り出して殻(シェル)となる体に移植し、人間を蘇らそうというのだ。
コンピュータやテクノロジーに関するあらゆる犯罪を捜査するコンピュータ検察局(CIB)は、ICIの活動に疑念を抱き、捜査員アール・ジャジーンをこの手術の記録撮影技師として島に送り込む。潜入捜査を開始したジャジーンだったが、やがて思わぬ事態に直面する。手術によって「彼」が心拍と脈拍を取り戻した翌朝、ICIの後援者エミリー・ワトソンが行方不明となり、その後何者かによって外部との連絡手段を絶たれたこの孤島で、手術のために集められた医師たちが一人、また一人と遺体となって発見される。
現代ミステリの旗手ホックが特異な舞台設定で描くSFミステリ〈コンピュータ検察局シリーズ〉最終作。本邦初訳。
Amazon内容紹介より。

これは面白い。著者の他の作品の事は全く知りませんが、タイトルだけで選び読みました。敢えて苦言を呈するなら、移植手術の様子がほとんど描かれていないので、その後の展開がやや絵空事に思えてしまった事くらいでしょうか。そのせいか、あまり生々しさが感じられません。折角の素材なのにね。それでも、その後の殺人がテンポ良く起こり、フランクを含めて一体誰が何の為にという、サスペンスを盛り上げる要素は十分です。

衝撃は終盤にやって来ます。真相が明かされる前に意外過ぎる事実が浮き彫りになった段階で、これはやられたと思いましたよ。成程確かに言われてみればそこここに伏線は張られているし、これは紛う事なき外連味に満ちたミステリの真骨頂ではないかと。動機も問題ないと感じました。
SFとサスペンスと本格ミステリが融合した、異色の秀作と言って良いと思います。


No.1752 6点 じょかい
井上宮
(2024/03/09 22:34登録)
男はリビングでくつろいでいる。キッチンでは妻が夕食の支度をしている。幼い息子は冬でもないのにマスクをつけて、テレビ番組を見ている。男はキッチンへビールを取りに行く。妻の作っている料理に「美味しそうだね」と声をかけ「息子は風邪でもひいたのか」?と聞く。そしてふと気づく。自分たち夫婦に息子なんていただろうか? そして妻を見て驚愕する。誰だ、この女は? なんだ、この大きなマスクは?
Amazon内容紹介より。

正にノンストップホラーと呼ぶに相応しい作品。序盤こそそこはかとない郷愁の様な雰囲気を醸し出して、そこが私には好ましく心に刺さるものがありましたが、次から次へと様々な事件や事柄が起こり、話がスピード感を伴って動くのに付いて行くのが大変でした。最早途中から心が麻痺して何が起こっても驚かなくなってしまいます。よく考えてみれば異常事態の連続なのに、何となく納得してしまう説得力がこの小説にはあります。

読む程にこの作者は何者なんだと思わされる迫力を有しています。ウィキペディアでもあまり情報がなく、えぇーなんだよう、となりました。年齢さえ明示されていないのはあんまりじゃないですか。
デビュー短編で小説宝石新人賞を受賞したそうなので、そのうちそれを含む短編集でも出してくれないかなと思っている次第です。この人の実力は本物だと思いますね。


No.1751 6点 クロへの長い道
二階堂黎人
(2024/03/06 22:20登録)
私の名は渋柿。一匹狼の私立探偵。独身で6歳の、ちょっとシャイな黄色人種。母親や知人たちは、私のことを気安く《しんちゃん》と呼ぶ――。
ライセンスを持たない幼児探偵が難事件を次々と解決していくハードボイルド感漂う表題作、「見えない人」をテーマに描いた『八百屋の死にざま』など4編を収録。
Amazon内容紹介より。

自称私立探偵、幼稚園児のしんちゃんがハードボイルド風に語る、異色の本格ミステリ。これはユーモアミステリではなく、本格に属する小説だと思います。確かに傍から見れば滑稽と言えるかも知れませんが、作者本人にしてみれば真面目に書いている気がします。決して面白半分で園児を探偵に仕立て上げた訳ではなく、そうした設定でもミステリは成り立つという信念の様なものを感じます。

まあ『八百屋の死にざま』のタイトルはやり過ぎかとも思われますが、これもハードボイルドを意識しての遊び心の表れでしょうから、笑って許してあげて頂きたいものです。
正直最初の『縞模様の宅配便』を読んだ時はイマイチと感じました。それでも残りの三編はどれもなかなか意表を突いた優れもので、しんちゃんの語り口調に思わずニヤリとさせられながら、刊行当時の流行や子供達の喜びそうなアイテムを登場させるなどの工夫が凝らされ楽しませてもらいました。水乃サトルシリーズよりも面白いんじゃないですかね。


No.1750 5点 スイッチ 悪意の実験
潮谷験
(2024/03/03 22:34登録)
夏休み、スイッチをもって1ヵ月暮らすだけの簡単なお仕事。
日当は1万円、勤務終了後のボーナスは、なんと100万円!

スイッチは押しても押さなくても1ヵ月後には100万円が手に入る。押すメリットはない。「誰も押すわけがない」皆がそう思っていた。しかし……友人たちとアルバイトに参加した大学生の箱川小雪は思い知らされる。想像を超えた純粋な悪の存在を。
Amazon内容紹介より。

短いセンテンスと圧倒的なリーダビリティでワクワクが止まりません。途中までは・・・。話がどう転がるか想像出来ないので、序盤は妄想を膨らませる様に楽しみました。しかし、ある時点から道筋が見えてきて、そこからは悪い意味で普通のミステリに様変わりし、うーんとなりましたね。
要するに常識的に考えれば、スイッチを押すというか、スマホをタップする訳がないのに何故?と云う話ですよ。

面白いのは面白いです。話の広げ方も成程とは思いましたが、結局それを描きたいがためにわざわざこんな奇矯な設定を持って来たのかと、ちょっとばかりがっかりしました。そっちじゃないのかい?あっちなのかって感じ。暈かした表現で何の事か分からないかも知れませんが、ネタバレになりそうなのでお許しを。ただ反転は味わえます、余りカタルシスは得られませんけどね。


No.1749 6点 聞こえない君の歌声を、僕だけが知っている。
松山剛
(2024/02/29 22:14登録)
動画サイト上に投稿された「歌声だけがない歌う少女」の動画。様々な憶測を呼び、いつしか彼女は「無声少女」と呼ばれ、社会現象となった。
ある日、大学生の青年・永瀬は、突然なぜか世界でただ一人「無声少女」の歌声が聞こえるようになってしまう。彼は彼女の歌詞をヒントに「無声少女」を探そうとする。
動画の少女は誰……? 彼女の歌は、何のために? 目の前に現れた「サクヤ」という女の子は何者――?
全ての答え。それは『愛』。これは切ない『愛』の物語。
Amazon内容紹介より。

いやー、良い話ですねえ。これは万人受けしそうなラノベです。ありがちなボーイミーツガールでは、ありません。その出逢いはまさに運命と呼べるものでした。これ以上は何を書いてもネタバレになりそうなので控えます。

ただ、この点数に留まったのは、たった一つの謎が残されたままだったからで、まあ理論的に解明される筈がないので仕方ないかとは思いますが、其処だけはちょっと残念でしたね。
それにしても、この人はストーリーテラーとしての才能は間違いなく持っていると思います。全く先が読めない展開もテンポ良く進み、登場人物が少ない中にも確りとした深みを持たせており、単なるラノベで片付けるには勿体ない小説でしょう。読者の心に直に響いてくる何かがありますね、それを言葉で表すとすればやはり愛が根底に存在しており、「誰もが誰かを愛している」のだと言えるでしょうねえ。


No.1748 7点 衣裳戸棚の女
ピーター・アントニイ
(2024/02/27 22:40登録)
七月のある朝少し前、長身巨漢の名探偵ヴェリティはけしからぬ光景に遭遇した。町のホテルの二階の一室の窓から男が現われ、隣室の窓へ忍びこんで行ったのだ。支配人にご注進に及んでいると、当の不審人物がおりてきて、人が殺されているとへたりこむ。さらに外では、同じ窓から地上に降りた人物が。問題の部屋に駆けつけてみると、ドアも窓もしっかり鍵がおりていて、中には射殺死体が――戦後最高の密室ミステリと激賞される名編。
Amazon内容紹介より。

本作を読んだのは、ふと『みんな教えて』を見たら、なんとお二方から投稿がありまして、その中で以前購入していたものを選んだといった理由からです。この場をお借りして書かせていただきます、切っ掛けを下さったレッドキングさん、ありがとうございます。『シャム双児の秘密』もどこかにある筈なのでいずれ読みますよ。あとはやはり本命の『くたばれ健康法!』ですね、必ず読みます。そして臣さん、私のささやかな質問にお答えくださり、本当にありがとうございます。参考にさせていただきます。順番は前後しますが、蟷螂の斧さん、『レーン最後の事件』忘れてませんから。いつか読ませていただきます。みりんさんの『双月城の惨劇』もHORNETさん推薦の『鍵の掛かった男』も読まねば。みなさん貴重なご意見誠にありがとうございます。

で、本作ですが、こういう海外の本格ミステリを求めていたんだと声を大にして言いたいです。若干のユーモアを含みつつ、優雅に進行していくストーリーに酔いました。個人的にはバカミスではないと思います。立派な密室ものじゃないですか。そして最後の一撃に打ちのめされた私なのでした。探偵のヴェリティや警部のランブラーも良い味出していますし、各容疑者も個性的でその意味でも楽しめました。


No.1747 5点 夜を歩けば2 ガテラルデイズ
あやめゆう
(2024/02/25 22:30登録)
ライブ終了後に集団暴行事件が。2年前も同じ歌手の周辺で異能がらみの事件があったことから、一野たちが調べることになるが……
Amazon内容紹介より。

緩急を付けているのは良いですが、緩の割合が高すぎて退屈な面がありました。シリーズ一作目に見られた様な文章の表現力の豊かさは感じられません。情景描写も少なく、石本花梨の日常が少なめで、私としては前作と比較するとかなり出来がよろしくないと言わざるを得ません。何よりも、一応一話完結ですが、シリーズ物として設定は変わらないのに、各キャラの人格や人間関係が端折られているのがいけません。よって本作を最初に読んだ読者は、いきなりニートで独身男性の部屋で女子高生が勉強しているのはどういう事?ってなると思います。その辺りの説明不足が不親切と言えば不親切でしょう。

今回は連続集団暴行事件の謎を異能で調査するアルバイト探偵達の活躍を描いています。まあ活躍という程でもありませんが。オチはミステリやサスペンスでありがちなもので目新しさはありません。それでも特殊設定を巧みに利用し、真相に意外性を持たせているのは褒められる点かも知れません。


No.1746 6点 虚構推理 スリーピング・マーダー
城平京
(2024/02/23 22:44登録)
「二十三年前、私は妖狐と取引し、妻を殺してもらったのだよ」
妖怪と人間の調停役として怪異事件を解決してきた岩永琴子は、大富豪の老人に告白される。彼の依頼は親族に自身が殺人犯であると認めさせること。だが妖狐の力を借りた老人にはアリバイが!
琴子はいかにして、妖怪の存在を伏せたまま、富豪一族に嘘の真実を推理させるのか!?
虚実が反転する衝撃ミステリ最新長編!
Amazon内容紹介より。

主役が人ならざるモノだとこうなってしまうのでしょうかねえ。シリーズ第一弾もそうだった様に、ここでも色々と「真実」をでっちあげています。最初の高校時代の琴子を描いた、同じ部屋で三人連続で自殺した事件はまあ説得力がありました。なかなか面白い推測でなるほどなと感心させられるものでしたよ。しかし本筋の妖狐による妻殺しに突入してから、急に読み難くなった印象で、私にとっては好ましからざる展開になりました。ダミーの推理はそれなりに真実味がある一方、納得の行かない部分もあり多重推理ものと言う程中身が詰まっているとは言い難いですね。

肝心の真相となると完全に後出しで、伏線回収とかロジックの構築とかとは無縁の世界でかなり拍子抜けです。本格ミステリとしての矜持はどうした、と言いたくなる様な締め方で物足りません。という訳で冒頭で申し上げたように、二人の主人公がアレだとどうしても特殊性に頼らざるを得ない事になってしまう訳ですね。この作者の場合、一般的に見てトリックメーカー的な立場には無い為やむを得ないかも知れませんけれど。
しかし、メインテーマよりも高校生琴子がミステリ研に入部した経緯やその後のちょっとした活躍の方に惹かれたので、その点を鑑みて無難な評価に落ち着きました。


No.1745 3点 奥様は惨殺少女
神波裕太
(2024/02/21 22:24登録)
フリーホラーゲーム「奥様は惨殺少女」&「料理」が本人の手により、禁断のノベル化!
「みゆき」を選ぶと即BAD END。衝撃の展開の連続。そして、待ち受けるラストとは――!?

俺の名前は大志、商社に勤める将来有望なサラリーマンである。
今日も一日のお勤めを終えて愛する妻のいる我が家に帰る。
妻の名前はさゆり。可愛いさかりの中学生だ。
結婚できるのかとかそういう問題はこの際置いといて、存分に俺と幼妻とのラブっぷりを堪能してくれ――。
Amazon内容紹介より。

同じシーンが何度も何度もしつこく繰り返される、小説の体を成していない駄作。所々に挿入される幕間と閑話がグロくてちょっと良いんですが、それが無ければ最早小説とすら言えない代物です。流石にこれは4点以上は付けられませんね。
ゲームの作者自身が手掛けたノベライズ作品ですが、作家としては褒めるべき部分がありません。ルビに大変な不備があり、すわ叙述トリックかと思ったりもしましたが、只の誤りだと気づき業腹な私なのでした。この人には文章力がなく人間が描変えていないとか以前の問題です。根本的に読むに値せず、時間を無駄にするだけの愚を犯してしまいました。乱読しているとたまにある事なので諦めますが。

まず何を置いても面白くないのが致命的です。登場人物もたったの三人だけで、一向に盛り上がりもせず抑揚もなくストーリー性皆無で、何処が読みどころなのかさっぱり解りません。まあ読む方も読む方ですが、こんなものを出す方も出す方だと思いますよ。Amazonでは俄かには信じられない高評価ですが、これはゲーマー票で普段本を読まない人々のご意見でしょう。だから決して当てにしてはいけなかったのですね。無念、試し読みまでしながらこんなものを読んでしまうとは・・・我ながら不覚でした。


No.1744 6点 小説 ブラック・ジャック
瀬名秀明
(2024/02/19 22:15登録)
「医療ロボット」「iPS細胞」「終末期医療」などの現代医療、さらにはそれを飛び越え近未来をも予感させるテーマで描かれる、ブラック・ジャックの活躍。
そして、それぞれの事情を抱えた患者たち・医師たちと、無免許の天才外科医の邂逅が紡ぎ出すヒューマンドラマ。
もちろんピノコやドクター・キリコといった作品キャラクターは言うに及ばず、思わぬ手塚キャラたちとも再会できる1冊となっています。
誰もが読みたかった、誰もがもう読めないと思っていた、懐かしく新しい『ブラック・ジャック』がここにあります!
Amazon内容紹介より。

手塚治虫原作の漫画のノベライズ短編集。
それぞれ面白かった、特にAIロボットと対決する第一話、悲しい結末と少年の新たな出発が感動を呼ぶ第四話が個人的には好きです。
漫画も読んだ事がなく、キャラもブラック・ジャックとピノコしか知らない私が、これといった思い入れもないまま古本を購入してから随分経ちました。漸く読み始めて思ったのは、上手く先端医療を駆使し現代にB・Jを蘇らせているなという事です。

文章がこなれているとは思いませんし、B・Jにもあまり感情移入出来ませんでした。漫画なら違ったのかも知れませんが、あまりにクールで人間臭さがないと感じられたのが原因でしょうか。もう少し魅力的に描く事は出来なかったのかと思われてなりません。それでも、外科医としての執刀シーンは目を瞠るものがあり、その神業の様なメスの扱いや正確無比であまりのスピードの速さは文章を通してよく伝わってきます。エンターテインメント小説として優れていると思います。B・Jの過去に何があったのかも知れます。


No.1743 7点 決戦!忠臣蔵
アンソロジー(出版社編)
(2024/02/16 22:42登録)
夢枕獏が、山本一力が、諸田玲子が……「忠臣蔵」を描く! いままで戦国時代を舞台にすることが多かった「決戦!」シリーズだが、今回の舞台は江戸は元禄、テーマは「忠臣蔵」。当代きっての名手・七人が、日本人が愛し続ける物語に挑む。義挙を前にした人々の悲哀、本懐を遂げた男たちの晴れ晴れとした思い。そして、主君を守れなかった吉良方の無念……。今までにはない、”涙”の「決戦!」シリーズの誕生。
Amazon内容紹介より。

各賞を受賞した手練れの時代作家達がそれぞれの『忠臣蔵』を、思いを込めて書き上げた決戦!シリーズのひとつ。無論、真正面から描くには短編では容量が足りないので、スピンオフではないけれどサイドストーリーとなっています。主人公は大石内蔵助、不破数右衛門、内蔵助の妻りく、神崎与五郎の妻ゆい、吉良側のお抱え武士清水一学ら。勿論他の赤穂浪士の名前も色々出て来ます。その中で目立っているのは堀部安兵衛、小野寺十内、大高源五辺りか。

いずれも史実を基にしたフィクションでありながら、そんな事もあったかも知れないと思わせるだけのリアリティは持っています。全て佳作揃いで、中でもラスト二作は思わず落涙させられてしまいました。ありきたりな忠臣蔵には飽きた方にも珍品として重宝されそうな短編集です。


No.1742 5点 厭な物語
アンソロジー(出版社編)
(2024/02/14 22:11登録)
誰にも好かれ、真っ当に生きている自分をさしおいて彼と結婚するなんて。クレアは村の富豪の心を射止めた美女ヴィヴィアンを憎悪していた。だがある日ヴィヴィアンの不貞の証拠が…。巨匠クリスティーが女性の闇を抉る「崖っぷち」他、人間の心の恐ろしさを描いて読む者をひきつける世界の名作を厳選したアンソロジー。夢も希望もなく、救いも光明もない11の物語。パトリシア・ハイスミス、モーリス・ルヴェル、ジョー・R.ランズデール、シャーリ・ジャクスン、フラナリー・オコナーらの珠玉のイヤミス集。翻訳文学未体験者もゾクゾクしながら読める短篇揃い。有名作から、隠れた衝撃作まで、一人では抱えきれない「厭な」ラストを、ぜひ体験してみてほしい。
Amazon内容紹介より。

印象に残ったのはパトリシア・ハイスミスの『すっぽん』(既読)、シャーリィ・ジャクソン『くじ』、ローレンス・ブロック『言えないわけ』位です。『くじ』は有名作で期待していましたが、それ程でもありませんでした。いずれも先が読める作品なので、評価としてはあまり高得点は付けられないですね。他は訳が分からないものとか、退屈さを覚えるもの等、とても褒められたものではありませんでした。

こう云うのを読むにつけ思うのは、やはり日本のミステリは世界一だという事です。あくまで個人の感想ですので、お前が言うなというご意見は甘んじて受けますが、日本を除いた全世界が束になってかかっても日本のミステリには勝てないと思います。特に本格ミステリに関してはレベルが違い過ぎると言っても過言ではないです。古典はその限りではありませんけどね。
本作品集もジャンル的にはイヤミスになるかと思われますが、日本のイヤミスの方が洒落の効いた粋な短編が多いですよ。何度も言いますがあくまで個人の感想です。


No.1741 8点 バールの正しい使い方
青本雪平
(2024/02/12 22:21登録)
転校を繰り返す小学生の礼恩が、行く先々で出会うクラスメイトは噓つきばかりだった。
なぜ彼らは噓をつくのか。

友達に嫌われてもかまわないと少女がつく噓。
海辺の町で一緒にタイムマシンを作った友達の噓。
五人のクラスメイトが集まってついた噓。
お母さんのことが大好きな少年がつかれた噓。
主人公になりたくない女の子がついた噓。

さらにはどの学校でもバールについての噂が出回っているのはなぜなのか。
やがて礼恩は、バールを手にとり――。
Amazon内容紹介より。

その本質が判る人には判る、判らない人には判らない、そんな連作短編集です。
だから、賛否が分かれるのだと思います。肝心なのはこの作品のどこかが琴線に触れるか否か、でしょうね。端的に言えば好みの問題となってしまうかも知れませんが。私のフィーリングにはぴったりとフィットしました。文章は淀みなく流れる様で、情景描写も心に響くものがあり、ミステリとしては意外性を持っていて、そんなトリックを?と驚かされる事があったり、人間が描けている、読み応え十分です。

最後の『ライオンとカメレオン』とエピローグだけは他と毛色が違います。少しだけ混乱したので、ここだけは二度読みました。それまでのストーリ性が見られず、ややぎこちない感じを受けました。読みやすさがなりをひそめ、やや読解力を要するものになっている気がします。もう少しストレートに攻めても良かったのではないか、驚きの一撃を読者に食らわせる事も出来ただろうに、ちょっと勿体なかったかなというのが正直な感想です。
それでも高評価は変わりません。帯にある書店員の絶賛の声を侮ってはいけませんよ。彼らは本を売るプロですからね、それを信用して読んでみるのも一興ではないですかね。


No.1740 6点 でぃすぺる
今村昌弘
(2024/02/10 22:09登録)
残念ながら期待を上回る事はありませんでした。小学生が主役のせいか、ジュブナイル寄りな為か、折角の七不思議という魅力的な題材を上手く料理出来ていない気がしてなりません。もう少し怪談話らしく禍々しさを強調して欲しかったです。その謎に挑む三人の小学六年生の男女は中途半端に謎を残しながら、少しずつ真相に迫りますが、手付かずの疑問を残し過ぎではないでしょうか。結局最後にはその疑問点は全て解明される訳ですが、道中何だかモヤモヤする気分が抜け切れず、あまり乗れませんでした。

そして最大の不思議な点が最後に残った感じでしたね。何故そんな事をしたのか、もっと他に最善手が無かったものかと個人的に思ってしまいます。私の読みが甘いせいかも知れませんが。いずれにせよ、あまりスッキリした読後感ではありませんでした。ただ、なかなかの反転や、ミステリとオカルトの境界線を渡り歩きながら子供たちが協力して過去の事件の謎解きをしていく姿はまずまず描けていたと思います。それとミナの意外な活躍のシーンには感動しました。


No.1739 5点 長く短い呪文
石崎幸二
(2024/02/07 22:13登録)
呪いがテーマとなっている割りに、陰惨な空気がほとんど感じられません。
やはり物足りないのは、事件らしい事件が起こらない事。これでは本格ミステリを読んだ気になりませんね。それを補って余りあるのは、ミリアとユリ、石崎の掛け合いではなく、幼気な双子の姉妹が可愛くて癒されるところですね。この二人の露出度が高く、凄く無邪気で素直な言動に好感を覚えました。

ミステリとしては地味であまり誉められたものではありませんが、伏線を回収し論理的に詰めていく過程が一応読みどころですかね。少々強引な部分がないではないです。まあでも、結果全て丸く収まって、事件を未然に防いだトリオの活躍は、殺人ありきのミステリとは一線を画しているので、その辺りは評価すべきかもしれません。
あまり私の好みではないです。笑えるシーンもそこそこで、本シリーズのらしさは出ていると思いますが、今まで読んだ中では最もつまらなかった作品ですね。


No.1738 8点 暗闇の中で子供
舞城王太郎
(2024/02/05 22:31登録)
あの連続主婦殴打生き埋め事件と三角蔵密室はささやかな序章に過ぎなかった!
「おめえら全員これからどんどん酷い目に遭うんやぞ!」
模倣犯(コピーキャット)/運命の少女(ファム・ファタル)/そして待ち受ける圧倒的救済(カタルシス)……。奈津川家きっての価値なし男(WASTE)にして三文ミステリ作家、奈津川三郎がまっしぐらにダイブする新たな地獄。
――いまもっとも危険な“小説”がここにある!
Amazon内容紹介より。

激しく読者を選ぶ作品だけど、こういう荒唐無稽なの好きだなー。一見破綻している様で破綻していない所がまた良いですね。デビュー作『煙か土か食い物』ではあまりピンと来ず、すっかり忘れ去ってしまっています。20年以上経っていますからね、その間に私も少しは成長したって事でしょうか。家中を捜索して読み返してみますかね。本作はその続編だから、やはり再読してみないと何とも言えませんが、多分作風は変わっていないだろうし、今ならかなり楽しめるかも知れません。

それにしても次から次へと事件が起こり過ぎです。その書きっぷりは殴りつける様な感じで、文字による暴力と言っても過言ではありません。冒頭に『マニトウ』が出てきた時は何故かドキッとしました。その時予感しました、これはただでは済まないと。予想通り、普通の感覚では読み切れない何物かがこの作品には宿っている様です。それはおそらく作者の魂だと思います。改行が極端に少なく独特の福井弁なのか知りませんが、会話文も相当捻くれています。そんなのはまだ生温い方で、何を書くにも過激で特に最大にして最後に解かれる事件の結末には畏怖の念を覚えました。そんな馬鹿な・・・。そしてラストの何とも言い様のない、様々な感情がない交ぜになった主人公三郎の心情や如何に、と、思います。この結末は正直キツイです。


No.1737 6点 完璧な小説ができるまで
川崎七音
(2024/02/02 22:33登録)
レーベルがメディアワークスだけにラノベなのかなと思ったら、ラノベ臭は一切ありませんでした。単行本で出しても問題ない位のレベルです。
序盤はありがちな青春小説ですが、ここである事件が起こりながらも一旦通常運転に戻ります。本当の物語の始まりは中盤、主人公である社会人になった月村のスマホに送られてきた一通のメールだったのです。其処からじりじりとサスペンスが進行していきます。書き方が丁寧な上に、低刺激なので展開としては衝撃的なはずが、あまりそれを感じさせない所が損をしている気がします。

プロットは折原一に似ています、又心理描写は乙一辺りを想起させます。
テーマは作家とは何か小説家とは何か、そして「完璧な小説」とは何なのかというもので、多くの小説家がぶつかるであろう壁に真っ向から取り組んでいます。登場人物は少なくシンプルで、その分頭に入り易い優しい文章に仕立てて、閉塞感を覚えそうなシチュエーションにも拘らず、独特の世界観に読者を誘い魅了します。心情的には7点付けたいところでしたが、柱となるトリックにあまり驚けなかった点を考慮してこの点数にしました。


No.1736 7点 涜神館殺人事件
手代木正太郎
(2024/01/31 21:48登録)
“妖精の淑女”と渾名されるイカサマ霊媒師・グリフィスが招かれたのは、帝国屈指の幽霊屋敷・涜神館。
悪魔崇拝の牙城であったその館には、帝国が誇る本物の霊能力者が集っていた。
交霊会で得た霊の証言から館の謎の解明を試みる彼らを、何者かの魔手が続々と屠り去ってしまう……。
この館で一体何が起こっていたのか?
この事件は論理で解けるものなのか?
殺人と超常現象と伝承とが絡み合う先に、館に眠る忌まわしき真実が浮上するーーーー!!
Amazon内容紹介より。

前半はとにかくオカルトで押しまくります。死体が出てきても殺人が起こっても、ひたすらオカルト。それがインチキとか何らかの仕掛けではなく、本当の超常現象だから我々読者はそれを飲み込むしかありません。その辺を完全に理解してから読めば、結構楽しめます。それに加えてエログロ要素もかなりあるので、先行きが心配になる程です。でも本格なので安心して下さい。

それにしてもこのタイトル、神をも恐れぬ罰当たりなやつじゃないですか。しかし、それに見合った内容ではあります。過激と言えば過激です。まあミステリとしては地道に伏線を回収してロジックで推理を進める様なタイプではありません。反則気味な部分もありますし。それでも真相は一応理に適ったものであり、それなりに納得できます。やや動機が弱いと言うか、在りがちなものななので、その辺は減点材料。
普通のミステリに飽きた方にお薦め。かなり毛色の変わった怪作かと思います。

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