ぼくは化け物きみは怪物 |
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作家 | 白井智之 |
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出版日 | 2024年08月 |
平均点 | 7.50点 |
書評数 | 6人 |
No.6 | 7点 | HORNET | |
(2024/11/04 19:55登録) <ネタバレ含む> 「最初の事件」…タイトルに込められた真の意味がラストに分かる。といっても私は、それと物語冒頭とが結びつくまでに少し時間を要した。 「大きな手の悪魔」…トリックのためとはいえ、読み手が好感をもっているであろう登場人物を、あっさり殺してしまう作者の無情さは相変わらず。まぁ慣れたけど。 「奈々子の中で死んだ男」…令和の現代では倫理的に支障があるような表現の数々、作者らしい色の一編。 「モーティリアンの手首」…モーティリアンなるものが何なのか、作者の作風や西暦から早々に想像がつく。地層に散在する化石からの推理は、確かに論理的ではあるが…そこまで考えるものでもないのでは? 「天使と怪物」…本短編集ではこれが出色の出来であろう。「名探偵のいけにえ」以来、作者のカードの一つにもなってきている「多重解決もの」だが、その面白さを中短編で堪能できる。またラストがなかなかに切ない余韻を残すもので…これは秀逸な一編だった。 |
No.5 | 8点 | みりん | |
(2024/11/02 04:28登録) 「みんな教えて」のこのミス予想企画の期限もあと1ヶ月(隙あらば宣伝)、さすがにランキングに高確率で関わるであろう白井智之の新刊は読まねばなりませんね。はじめの方は「2年連続大傑作を拵えてきたシラユキ先生でもたまには凡作も書いちゃうよね…(安心)」と油断していたら……… 『最初の事件』 5点 掴みとしてはかなり良い、なんたって小学生名探偵の最初の事件だからね。ここからアフリカ・韓国・時間兵器…etcとお話が広がっていくかと思いきや、ぶつ切り!もったいない!! 『大きな手の悪魔』 6〜7点 「尼崎事件」が元ネタか。狡猾な老婆と紳士な悪魔の頭脳戦。いくらなんでも紳士すぎるでしょ山羊さん… 『菜々子の中で死んだ男』 7〜8点 犯人探しの遊郭巡りと飛躍ロジック楽しく、最後に浮かび上がるタイトルの意味もお見事。 『モーティリアンの手首』 6点 まさかの地学ミステリ。化石に執着する男とその貴婦人、それぞれの思惑は3万年の時を超えて地層に生き続ける。設定がいつもよりSF特化。いつかハードSFとかも読んでみたいね。 【以下ネタバレ注意 『名探偵のいけにえ』に関する言及もあり】 『天使と怪物』 9〜10点 1つ1つの密室は既出のアイデアであるが、本作の凄さは3通りの不具者に適した3通りの真相、多重解決に対する新たな試み、異様な現場の状況に筋を通す真犯人の動機。何から何まで計算され尽くさている。密室に対して数通りの解を出し、多重解決を意味のあるものに昇華させたという点で『名探偵のいけにえ』を思い出さずにはいられない。そう、怪物とは白井智之だったんだな… 短編でここまでの完成度の作品は正直見たことがない。 ただ、短編集としてみると『死体の汁を啜れ』の方が上かな。 |
No.4 | 7点 | レッドキング | |
(2024/10/18 23:01登録) 「最初の事件」 同じクラスの小学生に降りかかる窃盗・障害(+殺人)事件。封筒折り目ロジックが鮮やか。7点。 「大きな手の悪魔」 「幼年期の終わり」風味SF+ハードボイルド調+本格ミステリロジック&トリックに、5点。 「奈々子の中で死んだ男」 昭和三年の底辺遊郭街を舞台にした、娼婦探偵と幽霊ヤクザの毒殺犯捜し。6点。 「モーティリアンの手首」 プチ「星を継ぐもの」異星人化石ミステリより、ティプトリー風生物SFネタ部分がよく。7点 「天使と怪物」 フリークス見世物一座の密室殺人三重解決。密室三つ分の価値あり(第一のはチト無理じゃね)。 8.5点 で、平均で7点。 巻頭の二種のフリが、全作貫く展開になるのかと思ったが、5作とも、全く独立した短編であった。 |
No.3 | 8点 | メルカトル | |
(2024/09/30 22:22登録) クラスメイト襲撃事件を捜査する小学校の名探偵。 滅亡に瀕した人類に命運を託された〝怪物”。 郭町の連続毒殺事件に巻き込まれた遊女。 異星生物のバラバラ死体を掘り起こした三人組。 見世物小屋(フリークショー)の怪事件を予言した〝天使の子”。 凶暴な奇想に潜む、無垢な衝動があなたを突き刺す。 白井智之は容赦しない。 Amazon内容紹介より。 エログロが無くても十分面白い、最早白井智之は鬼才であり巨匠と呼んでも差し支えないのではないかと思います。それだけの風格すら漂っています。 これだけ時代や舞台が違い、SF的特異設定を含有する本格ミステリを書けるのはこの人を置いて他にいないでしょう。特に個人的に好みなのは『奈々子の中で死んだ男』で、意表を突く解決法は秀逸です。これだけでも読む価値は十分ありますし、他も秀作揃いで凡作は一つもありません。 しかし、書下ろしの最終話『天使と怪物』で全て吹っ飛ばされました。これは大傑作ですね。フリークスを用いた多重解決も見事で、単なる密室殺人では済まない凄みがあり、作者の脳みその中が想像も出来ない位、緻密に考えられています。 現在のミステリ界で唯一無二の存在に大きく成長し過ぎた白井智之、一体彼はどこまで本格ミステリの限界に挑戦しようと云うのでしょうか。今最も注目の作家であるのは間違いないと思います。今年も各ランキングの本命となるでしょう。 |
No.2 | 7点 | 虫暮部 | |
(2024/09/26 12:23登録) これはびっくりした。「天使と怪物」なんて皆川博子の歴史ミステリみたいだ。飛び道具無し、否、無しとは言わないが飛び道具と有機的に結び付いて織り上げられた物語性の豊かな発露! 御見逸れしましたと頭を垂れるしかない。まぁ今までが今までだしね……。 |
No.1 | 8点 | 文生 | |
(2024/09/22 13:45登録) 前作の『エレファントヘッド』は本格ミステリの極北とでもいうべき傑作ではあったものの、あまりにもマニア度が高すぎてついていけない部分がありました。その点、本作は十分に尖っていながらも間口もそこそこ広くて個人的にはいい塩梅でした。5つの短編は特殊設定&多重解決といつもの白井作品であると同時に、1作ごとに趣向が凝っていて読み応えは十分です。 著者ならではのエログロ趣味をミステリの仕掛けとして活用しつくした「奈々子の中で死んだ男」も良いですが、なんといっても圧巻なのは多重解決の新機軸を編み出した「天使と怪物」でしょう。予言と多重解決を結び付けたところが慧眼です。 また、稀代の洗脳犯であるお婆さんと侵略宇宙人との対決を描いた「大きな手の悪魔」も着想がユニークで面白い。 |