空さんの登録情報 | |
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平均点:6.12点 | 書評数:1517件 |
No.1297 | 6点 | デイブレイク 香納諒一 |
(2021/09/15 23:58登録) 自衛隊の空挺団に所属していた佐木が、北海道でのやくざから中央政権の大物まで絡む事件に巻き込まれて、派手に暴れまわることになる話です。彼がパラシュートで降下している夢のシーンから小説は始まりますし、カバーイラストもそのモチーフなので、実際にもパラシュートが使われることになるのかと思っていたら、そうではなかったのは少々残念でした。 佐木が自衛隊をやめなければならなくなった理由は、確かにその後の彼の行動に説得力を持たせているのですが、もう少し密接に結びつくような描き方ができなかったかなとは思えました。彼と敵対することになる悪役のやはり元自衛官である梶についても、彼の思想を形成するに至った過去がじっくり描かれていて、佐木よりも印象に残るキャラクターになっています。ただ梶が過去に囚われてクライマックス部分で出遅れるのはちょっと間抜けな感じがしました。 |
No.1296 | 4点 | ビンラディンの剣(サーベル) ジェラール・ド・ヴィリエ |
(2021/09/11 23:57登録) 大部分が創元推理文庫から出ていたマルコ・リンゲ殿下シリーズの翻訳は1980年の『エル・サルバドル殺人指令』(翻訳は1983年)以来しばらく途絶えていましたが、2004年に扶桑社ミステリーの文庫から本作が久々に出版されました。突然の復帰理由は言うまでもないでしょう。間のほぼ20年間も、原作は毎年3~4冊ずつ出ていたのですが。 で、正に時事ネタの本作ですが、マルコがビンラディンと過去にも会ったことがあることにしてあったり(その話も作品化されているのでしょうか)、まあもっともらしいことを虚実取り混ぜて書いています。9・11事件にあるCIA内部の人間が関わっていたらしいという設定で、その容疑者の尻尾をつかみ、新たなテロを阻止するのがマルコの使命。 しかし露骨すぎて色気の感じられないセックス・シーン(全部で5回)にもうんざりですが、それより最後のマルコ暗殺計画が間抜けすぎて。 |
No.1295 | 6点 | 仮面の佳人 ジョンストン・マッカレー |
(2021/09/06 23:34登録) マッカレーが1920年に発表した本作は、マダム・マッドキャップと名乗る仮面の女犯罪者を主役とした物語ですから、『快傑ゾロ』のヴァリエーションの一つとして構成されたと見ていいでしょう。ただし、彼女は剣の達人ではありませんし、シリーズ化は難しいプロットです。舞台は当時の都会、第2章に始まり、地下鉄か何度も登場するのは、むしろ『地下鉄サム』をも連想させます。 いかにも通俗的なスリラーという感じで、マッドキャップの行動には意外なところもあるのですが、手下集めから強盗実行など、最終的にどう決着をつけるのかは、すぐ予想のつくことばかりです。しかし作者は本気で読者を騙そうとしているわけでもないでしょうから、特に文句はありません。 私立探偵ウォルドロンが運が良すぎるのと、マッドキャップの手下になったライリーの最終的な扱いは気になりましたが。 |
No.1294 | 7点 | 湖底のまつり 泡坂妻夫 |
(2021/09/03 23:48登録) 久々の再読で、あの二重写しイリュージョン以外はほとんど覚えておらず、そうか、殺人事件もあったんだっけというぐらいの感じでした。 奇術は「効果がすべて」と言われることが良くありますが、大きく4章とエピローグ(終章)から成る本作の第2章の途中から始まる、その幻想的SFのようなイリュージョンには、驚かされます。仕掛けを知って読んでみると、きめ細かい官能的な第1章の文章の中に、伏線がたっぷり仕込まれていることがわかります。論理的に考えればこれ以外に考えられないということで予測はつきやすいでしょうが、そのことに気づかないかと皆さんの疑問視される部分はともかく、その効果が起こる経緯には、さすがに配慮が行き届いています。第4章における第1章との重複部分でも、第1章の伏線をさりげなく示すというこだわりぶり。 それにしてもラスト・シーンの後、どうなるんでしょうね。 |
No.1293 | 5点 | 真夏日の殺人 P・M・カールソン |
(2021/08/31 21:32登録) 1990年発表作ですが、ヴァージニア州モズビー1975年8月4日(月)、5日(火)午前、同午後と、大きく3部に分れた作品です。そんな短期間だからこそ、明確な検死結果も出ないため、成り立つミステリだとは言えます。 名探偵役のマギーは、これまで読んだミステリの中でも最も超人的な探偵の一人でしょう。死体が発見されてからは、異常なまでの名探偵ぶりが示されます。決して冷たい人間ではないのですが、あまりに客観的に、というよりむしろ批判的な立場から描かれすぎ。マギーに反発を覚えるのは、女刑事のホリー・シュライナーで、ベトナム戦争で看護師をしていた彼女の心の傷がじっくり描かれていて、それが事件にも関係してくるところが読みどころと言えます。ただ、それが真相には直結していないのがちょっと… 誉めるべきところも少なくないのですが、正直なところ描き方があまり好きになれない作品でした。 |
No.1292 | 5点 | ホワイト・バタフライ ウォルター・モズリイ |
(2021/08/25 21:08登録) イージー(エゼキエル)・ローリンズのシリーズ第3作で、時代設定は1956年。年をとった彼が当時を回想する設定は、ブロックの『聖なる酒場の挽歌』とも同じ手法です。 第2作は読んでいないのですが、驚いたことに、イージーはいくつかの不動産を所有し、結婚もして、ゆったりした生活を送る身分になっていました。しかし違法な商売でもないのに(税金逃れはともかく)、自分の収入源を奥さんに隠したままというのは、何考えてるんだか、という感想しか持てませんでした。そんな秘密主義が奥さんとの諍いの原因にもなっているのですから。しかし読み終えてみると結局のところ、彼の私生活面の方が連続殺人事件の捜査よりむしろ中心テーマになっているように思えました。 殺人事件の方では、被害者の一人ホワイト・バタフライがそのような生活をするようになった理由が、暗示さえされないままなのには、がっかりでした。 |
No.1291 | 6点 | 血蝙蝠 横溝正史 |
(2021/08/22 17:09登録) 昭和13~16年に発表された短編をまとめたものです。 最初の『花火から出た話』はかぐや姫的な婿選び話に偶然主人公が絡んでくる冒険小説、最後の『二千六百万年後』はタイトルからもわかるとおりウェルズの『タイムマシン』的なSFですが、その他の7編は多かれ少なかれ明確に謎解き要素を持ったミステリになっています。 特に由利先生シリーズの2作は、完全にパズラー系。表題作はわざわざ不可能犯罪にして見せる理由がないのが気になりましたが、蝙蝠の手掛かりにはなるほどと思わせられますし、『銀色の舞踏靴』も最初の部分に少々無理はあるものの海外某有名長編のヴァリエーションとしては悪くありません。 しかし最も気に入ったのは『恋慕猿』でした。由利先生の2作ほどの意外性はありませんが、サスペンスも効いていて、完成度が高いと思います。ただ本全体のタイトルには向きませんね。 |
No.1290 | 7点 | 聖なる酒場の挽歌 ローレンス・ブロック |
(2021/08/19 20:10登録) 1986年に発表された本作は、スカダーがなじみのもぐり酒場にいた時にそこで起こる強盗事件が語られた後、第2章の初めに「これらはすべて何年もまえに起きたことである。」と時代背景を明かしています。そのようにして、1975年当時の思い出であることを読者にはっきり示すような表現が、ところどころに出てくるのです。 強盗事件に続いて、酒飲み仲間の奥さん殺害事件、さらに別の酒場の裏帳簿窃盗犯による恐喝事件と、立て続けに起こる事件すべてについて、スカダーは調査を依頼されることになります。スカダーは自分は私立探偵の免許は持っていないことを力説しながらも、結局は3つすべてを解決することになります。ただし犯人逮捕に貢献するということではありません。 最後10ページを切ってからの「私はこれで終わったと思った。そう思おうとした。が、私はまちがっていた。」の後の部分、なんとも複雑な気分にさせられます。 |
No.1289 | 4点 | 隠匿 リンダ・フェアスタイン |
(2021/08/16 22:38登録) これまで読んだ2作は気に入っていた作家なのですが… 途中までは留保つきですがおもしろかったのです。なぜ留保なのかというと、舞台がニューヨークにある世界有数の美術館であるメトロポリタン美術館と、そのすぐ近くにあるアメリカ自然史博物館という実在のミユージアムの内幕を暴くような内容になっているからです。どの程度そんなことがあり得るのかと思いながら、またこんなこと書いて名誉棄損にならないのかと心配もしながらも楽しんで読み進んでいったのです。 しかし、本来ならサスペンスが盛り上がってくる終盤になって、かえってがっかりしてしまったのでした。まるで迷宮のような巨大な自然史博物館の中で、アレックスがあるものを発見する段取りのあまりの偶然性、またその時の彼女の独り相撲の大騒ぎなど、白けてしまったのです。多数の関係者の中に犯人の個性が埋もれてしまって、意外性が感じられのないのも不満です。 |
No.1288 | 7点 | 仮名手本殺人事件 稲羽白菟 |
(2021/08/10 15:30登録) この作家の名前って、と思っていたのですが、福山ミステリー文学新人賞の準優秀作のデビュー作『合邦の密室』についてのインタビューを聞くと、やはり「因幡の白兎」を意識しているんですね。「菟」も「うさぎ」と読みます。 そんな神話由来の名前を選ぶだけあって、作者は古典芸能に造詣が深いようで、デビュー作は文楽をテーマにしていたそうですが、この第2作は歌舞伎の『仮名手本忠臣蔵』。舞台上で主役の役者が毒殺される派手な事件の割に、その後の展開や文章は、古典芸能好きな作者らしいじっくり落ち着いたものになっています。蝙蝠形の痣が頬にある男が登場したりして、それもただのこけおどしでないことが次第に明らかになって来るあたり、上方歌舞伎の名門吉岡家の過去の複雑な人間関係とともに、横溝正史の世界を連想させます。不可能犯罪等のトリックではなく人間関係の秘密で読ませてくれる作品です。 |
No.1287 | 7点 | NかMか アガサ・クリスティー |
(2021/08/07 08:24登録) 第一章はなんだか粗筋だけみたいで、クリスティーにしてはなんだこれ、という感じだったのですが、第二章以降では《無憂荘》の人々の個性も明確になってきて、おもしろ味が出てきます。1941年発表作で、ナチスのスパイを探し出す話ですから、この作者の他のスパイ小説ほど荒唐無稽ではありません。まあ、こういうタイプの作品はリアリティがあればいいというものでもないのですが。 死んだ諜報部員のダイイング・メッセージであるタイトルの言葉は、男女どちらなのかわからなかったからこそ ”or” ではないのかと思ったのですが、その問題点は結局無視されていました。それ以外にも、あの人物は結局外で何をしていたのかとか、あの人物はどうやって《無憂荘》を見つけたのかとか、細かい点では疑問が解消されないままという不満もあるのですが、全体的にはパズラー系を上回るほど意外性を散りばめた作品で、楽しめました。 |
No.1286 | 7点 | 脅える暗殺者 ジョー・ゴアズ |
(2021/08/04 19:42登録) ゴアズはDKAシリーズだけでなく様々な作品を書いていますが、その中でも特に異色作と言っていいでしょう。サンフランシスコ警察組織犯罪捜査班のダンテ・スタグナロ警部補が一応主役であり、〈ラプター〉と名乗る謎の暗殺者の正体を追う話なので、とりあえずジャンルは警察小説としてみました。 しかしこの小説の異色作たるゆえんは、それ以外の点にあります。古人類学者の講演が所々に挿入され、章題もそれに合わせて「白亜紀末期」等地質年代を表す言葉になっているのです。この講演が、宇宙創成から始まり人類誕生まで、旧約聖書と対比しながらかなりのページにわたって語られていきます。そこが本作の哲学的なテーマにもなってくるわけで、力作感はあるものの、ちょっと大げさすぎるようにも感じました。 ところで〈ラプター〉と言えば、本書発表の前年に映画で有名になった恐竜ヴェロキラプトルを連想させます。 |
No.1285 | 6点 | ブラッドライン 知念実希人 |
(2021/07/29 19:31登録) 知念実希人の第2作は、医者でもある作者らしい、大学病院に関係した医学ミステリになっていました。 主人公医師冴木裕也の父親が手術中「事故死」したトリックとか、構想の要となる過去の秘密は、医学に詳しくないとわかるはずのないもので、その意味ではフェアではないのですが、このタイプのミステリの場合、これでいいでしょう。読者への説明は、わかりやすく行ってくれています。 『楢山節考』等も想起させ、いつの話だという感じのプロローグ、実は意外に最近の時代だということは、最後近くに明らかにされます。裕也が調査に訪れるこの村の描写は、戦後間もなくの横溝正史でもここまで迷信に囚われた住人は書かないだろうと思われるほどでした。そこはさすがに疑問に思ったのですが、全体的には少々感情表現が大げさすぎるものの、迫力がありますし、特に父親の子どもたちに対する態度の理由には納得でした。 |
No.1284 | 7点 | 下宿人が死んでいく シャーロット・マクラウド |
(2021/07/26 22:48登録) 今回読んだマクラウド作品は、シャンディ教授ではなく、セーラ・ケリング・シリーズの第2作です。発表は『蹄鉄ころんだ』の翌年1980年。自宅を下宿に改造し、下宿人を募る広告を出し、というところから始まるわけですが、そのセーラの奮闘記、また最初は文句をつけていた親戚も、彼女を応援するようになり、といったあたりから、小説としてはなかなか快調に話が進んでいきます。 で、殺される下宿人はというと、登場してすぐにオーソドックスにいけばこの人かなと思っていたとおりでした。ただしこの最初の殺人は事故に思えたのですが、目撃者が現れ、さらに邦題からも予想できるとおり、次の殺人が起こることになります。 巻末解説には、マクラウドは「気合をいれて伏線を探したり、メモをとるのは野暮というものです。」と書かれていますが、フーダニットとしてもしっかりできていて、ミステリらしいトリックが使われています。 |
No.1283 | 6点 | 血とハニー G・G・フィックリング |
(2021/07/22 23:07登録) ヴィクやキンジーの先輩格としての意味のハニー・ウェストの存在は気にはなっていたのですが、今回初めて読みました。夫婦合作で、ペンネームをただG・G・としているのは性別を明示しないためだとか。女性視点も入ったシリーズなわけです。1965~6年のテレビドラマ『ハニーにおまかせ』映像もちょっと見てみたのですが、この役でゴールデン・グローブ賞を獲った主演のアン・フランシスは意外にクールな感じで、ドラマ当時35歳ぐらい、原作より年上です。裸になったりする原作小説よりむしろドラマの方が、後の女私立探偵小説に影響を与えたのではないかという気もします。 本作は第8作ですが、舞台は地元ロサンジェルスを遠く離れたニュー・ヨーク、真冬の吹雪の中を、ネグリジェ姿のハニーが逃げまわるシーンから始まります。事件は様々な登場人物の思惑が絡みあった複雑なもので、最後の方はどんでん返し連続技です。 |
No.1282 | 7点 | 怪奇探偵小説傑作選〈4〉城昌幸集-みすてりぃ 城昌幸 |
(2021/07/19 15:29登録) 1963年に桃源社から出版された28編から成る『みすてりい』を第一部とし、第二部には初収録作も含む26編を加えた掌編(というには若干長めの作品もありますが)集です。ただし、『根の無い話』『幻想唐艸』『不可知論』『実在』は3つのエピソードから成るので、実際にはさらに8編が加わります。 第1部の終りに桃源社版に添えられた乱歩の解説(「跋」)も載っていて、乱歩は本作収録作品を「怪奇掌編」としていますが、明確に幻想的設定の作品は多くありません。肉食植物の『人花』や空中遊行術の『ヂャマイカ氏の実験』等もありますが、『その家』では不気味な出来事にむりやり常識的な解釈もできると主人公が自分を納得させたりして、大部分は一応現実的な作品です。『都会の神秘』(ミステリらしいオチの作品)の最初にオー・ヘンリーの言葉が置かれていますが、実際『道化役』等オー・ヘンリー風の作品もあります。 |
No.1281 | 7点 | 長く冷たい秋 サム・リーヴズ |
(2021/07/16 23:12登録) クーパー・マクリーシュ・シリーズの第1作。本作は原題直訳タイトルですが、その後の3作は原題とは全く異なる邦題になっています。このシリーズは翻訳もある4作だけですが、他にも警察小説やノンフィクションの著作もあるようです。 クーパーはシカゴのタクシー・ドライバー。途中にスコセッシのあの映画についての言及も出てきます。学生時代、片想いだった女が自殺したという新聞記事を読んだ彼が、その事件の真相を追っていく話です。ロバート・B・パーカーの「ハメットの初期の作品のように鮮烈で力強く」という本作に寄せた賛辞を元にした宣伝文句がついていましたが、どうなんでしょう。確かに二人組の雇われ悪党との戦いなど、ハードではありますが、全体的なテーマ性や抒情的雰囲気は、むしろロス・マクにも近いように思われます。 本作は非常に個人的な事件だったわけですが、続編はどうなっているのでしょう。 |
No.1280 | 6点 | Les sept minutes ジョルジュ・シムノン |
(2021/07/12 23:31登録) 収録された『十三の謎』のG.7刑事もの中編3編は、雑誌「探偵俱楽部」にそれぞれ『消失三人女』『将軍暁に死す』『マリー・ガラント号の謎』の邦題で掲載されたことがあるそうです。この中編集タイトルは2編目 "La nuit de sept minutes"(7分間の夜)から採られています。なお、この作品で元将軍が死んだのは実際には午前2時ごろですけど。 このシリーズですから、当然本格派を期待していて、実際、島で次々に失踪する女たち、警察に監視された密室状況、放置された老朽船の不可解な出航と船から発見された身元不明死体、というようになかなか魅力的な謎を提示してくれてはいるのですが、実はそれ以外の点に驚かされました。2編目は、G.7が警察を退職するきっかけとなった事件であり、3編目は私立探偵としての最初の事件という大きな流れを持っているのです。 2編目のトリックは、初期メグレものにも似た発想の作品がありましたねえ。 |
No.1279 | 5点 | 最長不倒距離 都筑道夫 |
(2021/07/08 18:29登録) シリーズ前作『七十五羽の烏』のラスト・シーンで予告された事件を引き受けることになり、スキー&温泉宿にやってきた物部太郎と助手の片岡直次郎。炬燵にもぐりこんだ太郎が「最長不倒距離」(ものぐさの)と呟くのに代表されるユーモアが楽しめる一品です。 つかみの「口絵がわりの抜粋シーン」は最初の2つだけでよかったんじゃないかとも思えますが、その後説明される最近出なくなった幽霊がまた出るようにしてほしいなんて依頼自体、通常のゴーストハンターものとは逆転の発想で、この作者らしいところです。 エピローグ部分を除くと、12月15日午後3時20分に始まり、12月18日午後1時36分に終わる(章題がわりに時刻が示されています)という、短い期間内で完結する「孤立した山荘」テーマ。 部分的には直次郎が犯人だったなんてところもあって、事件を複雑にし過ぎてごちゃごちゃした印象が残ります。 |
No.1278 | 6点 | 災いの小道 キャロリン・G・ハート |
(2021/07/03 07:45登録) マニアック・トリビア満載のデス・オン・デマンド・シリーズのハートが、6年遅れて1993年に開始したヘンリー・O・シリーズの第3作。こっちはずいぶん地味な本格派になっているのが意外でした。さらに意外だったのが一人称主人公で、本名ヘンリエッタ・オドワイヤー・コリンズ、つまり女性です。現代版ミス・マープルなんて宣伝文句に書かれていますが、元新聞記者で、本作の段階では大学助教授になって4年目ということですから、年齢は近くてものんびり編み物をしている村の老婦人とは全然違います。 原題 "Death in Lovers' Lane"、教え子の死体が発見されるのが「恋人たちの小道」と一般に呼ばれている道路ですが、その通称がちょっとした伏線になっていたことが最後にはわかるところなど、なるほどと思わせられます。教え子があまりに簡単に過去の迷宮入り事件の真相を突き止めていたのには、疑問も感じましたが。 |