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ミステリの祭典

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空さんの登録情報
平均点:6.12点 書評数:1530件

プロフィール| 書評

No.1310 6点 ブラック・マネー
ロス・マクドナルド
(2021/11/04 20:07登録)
文庫版の作品紹介ではロス・マクの異色作としているのも、なるほどと思える作品でした。依頼内容自体がある男の身元調査というのは、本来なら私立探偵の仕事らしいのですが、ハードボイルド系ミステリではあまりないでしょう。調査対象の男は最初からうさんくさく、何かあるという感じがします。リュウが他の作品と同じく、ていねいで自然な流れに沿った調査をしていくと、事件はその男の正体とは直接関係ない方向に進んでいきます。半分近くになってから殺される人物がまた意外です。その人物が何かを隠しているらしいことは少し前から明らかなのですが。
早い段階からある人物の態度には不自然さを感じていたのですが、最後には、その態度の意味が納得できます。タイトルの黒い金(隠し所得)の動機との関係など、さすがにきっちりできていますが、真相解明部分がこの作家にしてはあまり鮮やかでないのが不満でした。


No.1309 5点 死神の矢
横溝正史
(2021/10/29 22:55登録)
犯人設定と事件の構造自体は、おもしろいアイディアだと思います。さらに事件を難解化する原因となったある偶然も、ご都合主義というほどでもありません。
ただ、その設定にはかなり無理やりなところがあります。連続殺人の動機として、被害者の人物設定だけでなく殺意を抱く側の人格も考えると、これは無茶でしょう。また、上記偶然がなかった場合を考えると、最初の犯行は無謀としか言いようがありません。そもそも事件の発端となった古舘博士による婿選び自体、なんでそんなことをしたかという疑問への答は明確に示されていないのです。この犯人設定なら、殺人は1件だけにした方がよかったのではと思えました。元の短編がどうなっていたのかは知らないのですが。
角川文庫版に併録されている『蝙蝠と蛞蝓』は一人称の語り口がなんともユーモラス。「蝙蝠は益鳥である」って、蝙蝠は哺乳類なんですけど。


No.1308 6点 ウィンディ・ストリート
サラ・パレツキー
(2021/10/26 20:49登録)
文庫本で700ページを超え、タイムリーな社会派テーマ性を持った『ブラック・リスト』に次ぐ、ヴィク・シリーズの第12作は、その前作より100ページほど短い(それでも約630ページ)、またハードボイルド系ではありふれた事件背景の作品でした。その分パレツキーには珍しく、構成的に多少工夫を加え、プロローグに派手な放火事件を置いて、その後いったん過去に戻るといった手法を使っています。
しかしこの作品の魅力は、ヴィクが事件に関わるきっかけになった出来事、彼女が母校で、バスケット部の臨時コーチをすることになる点でしょう。女子高校生が何人も登場し、特にそのうちの1人は事件に直接関係することになります。さらに敵役企業社長の孫であるビリーが加わり、小説に若々しさを与えています。
邦題は前作と違い、原題("Fire Sale")とは全く異なるもの。「ウィンディ」って何のことだか。


No.1307 5点 図書館の美女
ジェフ・アボット
(2021/10/23 13:01登録)
小さな田舎町ミラボーの図書館長ジョーディ・ポティートのシリーズ第2作は、悪戯めいた連続爆弾事件の上に、コンドミニアム建設計画をめぐる2重殺人事件が起こり、というなかなか盛沢山な作品です。殺人事件の真相については、たぶんそうじゃないかなとは思っていましたが、見当が付きやすいことより、その真相をどう明かすかという部分と、爆弾事件との関わり合いについて、どうも釈然としないものもありました。ジョーディの素人探偵ぶりも、行き当たりばったりな感じです。彼の、元恋人と現恋人との間でなんとなく揺れ動く心情はおもしろいとも言えますが、まだるっこしいのも確かです。
なお、訳者あとがきには、ミラボーと言えばアポリネールの詩『ミラボー橋』を真っ先に連想する向きも多いのではないかと書かれていて、でも綴りはどうなんだろうと気になり調べてみたら、同じ綴り(Mirabeau)でした。


No.1306 5点 粘土の犬
仁木悦子
(2021/10/20 23:23登録)
5編中3編が、仁木兄妹もののパズラーです。クリーニング屋から兄雄太郎が持って帰った悦子のコートが別人のものだったというところから始まる『灰色の手袋』は長編『林の中の家』とも共通する、様々な偶然が重なりあう構造で、手袋のアイディアは悪くないのですが、煩雑すぎます。『黄色い花』は雄太郎のように植物に詳しくないとわからない真相。『弾丸は跳び出した』は特に不可能興味の強いもので、それはいいのですが、これにも偶然がずいぶん重なっているだけでなく、第2、第3の事件はかなり無理やりな解決です。
『かあちゃんは犯人じゃない』は子どもの視点から一人称形式で書かれた作品で、すっきり仕上がった(見当がつきやすいとも言えますが)中に伏線もしっかり組み込まれています。表題作は倒叙型で、子どもが粘土で作った犬の上に乗ったものの意味はわかりますが、直接的な手がかりはアンフェア。


No.1305 7点 曇りなき正義
ジョージ・P・ペレケーノス
(2021/10/14 19:52登録)
D.C.カルテットと呼ばれる4部作を終えた後、2001年に開始された新シリーズの第1作で、主役は黒人私立探偵のデレク・ストレンジ。この作家はデビュー作『硝煙に消える』しか読んでいないのですが、本作も重厚な小説になっています。
原題は “Right as Rain”、普通「とても順調で」「絶好調で」という訳が出てきますが、本作の中では「全面的に正しい」と訳されています。デレクが依頼されたのは、黒人警官が非番の日に街角である男を銃で脅していて、顔見知りでない警察官に銃殺された事件で、その黒人警官の汚名をそそぐことです。原題は、発砲した同僚の行為には状況から見て全く問題がなかったということを意味しています。ただこれも、法律的にはともかく心理的には難しいところで、本書のテーマにもなっています。
事件のからくり自体はごく簡単に予想がつきますが、手がかりの提出の仕方はきれいに決め、最後を手堅くまとめてくれます。


No.1304 6点 裁かれる花園
ジョセフィン・テイ
(2021/10/11 21:08登録)
前作『ロウソクのために一シリングを』の8年後、1946年発表です。世界が戦争に突入していった時代には、この作家、長編小説を全く発表していなかったんですね。本作は戦争の影など全く感じさせません。それまでの(次作『フランチャイズ事件』でも脇役で登場する)グラント警部は出てきませんし、そのことを宣言するかのごとき原題(”Miss Pym Disposes”)です。
心理学の本がベストセラーになったミス・ピムが、旧友が学長を務める女子体育大学で講演を行うことになり、そこである事件が起こるという話。日本の法律では、殺人罪は適用できそうにない事件です。
これは最後の4ページが衝撃を与える作品です。それまでは小説としてはおもしろくても、ミステリとしては誉められるべきところがありません。そもそも、事件の原因となった学長の行為に納得のいく理由が最後までつけられていません。しかしこのラストには何とも言えない気分にさせられます。


No.1303 4点 蓼科高原の殺人
三田誠広
(2021/10/08 22:32登録)
祥伝社文庫から、Dramatic Novelette として出た中編シリーズの中の、競作「旅情ミステリー」3冊の中のひとつです。まずこの3冊、すべてミステリの専門作家ではない人(他の2人は笹倉明と岳真也)が書いたものだというのが、妙なところです。3人中、名前を知っていた(読んだこともある)のは本作の三田誠広だけですが。また本作について言えば、タイトルにもかかわらず旅情とは無関係です。蓼科高原にある別荘で起こる連続殺人で、要するに館もの。時間的流れで言えば、最初の毒殺事件があってから3時間もかかっていないのではないかと思える間の出来事です。
140ページかそこらの間に4件もの事件を起こして見せるのですから、どうしても描き込みが不足になります。この事件の動機に関わる過去のある事件についても、そんな事件を起こす必要性が感じられず、全体的には雑な仕上がりとしか思えませんでした。


No.1302 7点 溝の中の月
デイヴィッド・グーディス
(2021/10/04 23:04登録)
日本では1987年に公開されたジャン=ジャック・ベネックス監督のフランス映画『溝の中の月』の原作です。映画は幻惑的な映像美が高く評価されたものの、説明不足、わけがわからないという批判も多かった作品で、実際、だからこそ原作を読んでみたいと思っていたのです。
驚いたことに、映画は原作にほぼ忠実でした。原作でも最後近くなるまでは、中心テーマがよくわかりません。裏町に住むウィリアム・ケリガン(映画ではジェラール・デルマス)の妹をレイプして自殺に追い込んだのは誰かという謎は冒頭からあるのですが、そこにアップタウンの美女ロレッタ(映画も同名)とその兄が登場することにより、妙な展開になってきます。
問題なのはラストです。原作では、映画と違ってケリガンのある種悟りと決意が、ロレッタの兄のエピソードと絡めて明確に示されるのがオチになっていて、ちょっと感動させられたのでした。


No.1301 6点 コヨーテは待つ
トニイ・ヒラーマン
(2021/09/30 19:57登録)
ヒラーマンはミステリに限らず、やはりアメリカ先住民を主題にしたらしい “Indian Country” 等のドキュメンタリーも書いているそうです。
で、その作家初読作は、リープホーン警部補とチー巡査が共演するようになってからは4作目。チー巡査の同僚が射殺される事件です。容疑者の老人はチー巡査によって、現場近くですぐ逮捕され、持っていた拳銃、硝煙反応などから犯人に間違いないと思われるのですが…
チー巡査の恋人(未満と言ったところでしょうかね)がその老人の弁護人になり、チー巡査自身動機など不明な点が気になって独自に捜査を始めることになります。一方リープホーン警部補も全く別ルートからこの事件に興味を持つようになるという筋立て。しかし2人が協力し合ってという感じにはそれほどなりません。ラストはなるほど、こう来たかというところですが、容疑者老人が黙秘を続けていた理由は拍子抜けの感もありました。


No.1300 5点 殺意という名の家畜
河野典生
(2021/09/27 22:52登録)
結城昌治の『夜の終る時』と1964年日本推理作家協会賞(作品発表は前年)を分け合った作品です。この年はハードボイルド系の当たり年というところでしょうか。結城昌治の方はむしろ警察小説と言えますが。
海外作品では『ウィチャリー家の女』翻訳が出版されたのが1962年で、本作もチャンドラーよりロス・マク、それも内省的傾向が強まってきた時代の作品を思わせるところがあります。ただ、プロットがロス・マク的に複雑なのはいいのですが、ロス・マクほど解きほぐし方が鮮やかでないのが不満点です。中心トリックにできるだけ読者の注意を向けさせないように、外側から真相に近づいていくということができていないのです。そのため全体的にもたついた印象になってしまっています。ラストは雰囲気はいいのですが、説明不足でもあります。
なお、主人公が私立探偵ではなく作家だというのは珍しい試みですね。


No.1299 5点 死の拙文
ジル・チャーチル
(2021/09/21 20:32登録)
主婦探偵ジェーン・ジェフリイのシリーズ第3作。今回のタイトル元ネタはもちろんアイラ・レヴィンですが、原題のQuiche(料理のキッシュ)に対し、邦題は元ネタ邦題との語呂合わせを優先して「拙文」。キッシュに毒が入っていたわけですので、邦題をどうするかは議論があったかもしれません。自分史作法の講座での事件ですから、「拙文」もありということでいいでしょうか。
毒殺事件の後、ジェーンに奇妙な贈り物が届けられてくるというのは、クイーンの『最後の一劇』等を想起させますが、クイーンでさえこの手のミッシング・リンクには不自然さを感じるのに、さらに説得力に欠けると思いました。それよりも本作の見どころは動機でしょう。被害者は意地悪ばあさんという可愛げのある表現にはあてはまらない非常に不愉快な人物ですが、それでも殺すだけの動機となると、すぐには見当たらず、なるほどねと思わせられました。


No.1298 7点 春を待つ谷間で
S・J・ローザン
(2021/09/18 07:30登録)
次作『天を映す早瀬』はリディアにとってはいわば実家である香港が舞台でしたが、本作はビルが山小屋で休暇を過ごしているニューヨーク州北部での事件です。つまりこの2作は、その意味で対をなす作品だと言えます。ただし、次作ではビルが最初からリディアについて香港に行くのに対し、本作ではリディアがビルと電話でやりとりして調査結果を知らせるだけでなく、現場にやってくるのは、最後近くになってからです。
今回ビルは内田光子の弾くモーツァルトのピアノ・ソナタを聴きながらの登場。他にも音楽は色々出てきますし、依頼人が有名な画家(登場人物表には本名と分けて両方載っています)なので、芸術的要素は多いです。一方、miniさんも書かれているとおり、シリーズ中でも特にハードボイルドっぽい作品でもあります。基本的な事件の構造は単純ですが、事件決着後判明する事件の一部については、意外性がありました。


No.1297 6点 デイブレイク
香納諒一
(2021/09/15 23:58登録)
自衛隊の空挺団に所属していた佐木が、北海道でのやくざから中央政権の大物まで絡む事件に巻き込まれて、派手に暴れまわることになる話です。彼がパラシュートで降下している夢のシーンから小説は始まりますし、カバーイラストもそのモチーフなので、実際にもパラシュートが使われることになるのかと思っていたら、そうではなかったのは少々残念でした。
佐木が自衛隊をやめなければならなくなった理由は、確かにその後の彼の行動に説得力を持たせているのですが、もう少し密接に結びつくような描き方ができなかったかなとは思えました。彼と敵対することになる悪役のやはり元自衛官である梶についても、彼の思想を形成するに至った過去がじっくり描かれていて、佐木よりも印象に残るキャラクターになっています。ただ梶が過去に囚われてクライマックス部分で出遅れるのはちょっと間抜けな感じがしました。


No.1296 4点 ビンラディンの剣(サーベル)
ジェラール・ド・ヴィリエ
(2021/09/11 23:57登録)
大部分が創元推理文庫から出ていたマルコ・リンゲ殿下シリーズの翻訳は1980年の『エル・サルバドル殺人指令』(翻訳は1983年)以来しばらく途絶えていましたが、2004年に扶桑社ミステリーの文庫から本作が久々に出版されました。突然の復帰理由は言うまでもないでしょう。間のほぼ20年間も、原作は毎年3~4冊ずつ出ていたのですが。
で、正に時事ネタの本作ですが、マルコがビンラディンと過去にも会ったことがあることにしてあったり(その話も作品化されているのでしょうか)、まあもっともらしいことを虚実取り混ぜて書いています。9・11事件にあるCIA内部の人間が関わっていたらしいという設定で、その容疑者の尻尾をつかみ、新たなテロを阻止するのがマルコの使命。
しかし露骨すぎて色気の感じられないセックス・シーン(全部で5回)にもうんざりですが、それより最後のマルコ暗殺計画が間抜けすぎて。


No.1295 6点 仮面の佳人
ジョンストン・マッカレー
(2021/09/06 23:34登録)
マッカレーが1920年に発表した本作は、マダム・マッドキャップと名乗る仮面の女犯罪者を主役とした物語ですから、『快傑ゾロ』のヴァリエーションの一つとして構成されたと見ていいでしょう。ただし、彼女は剣の達人ではありませんし、シリーズ化は難しいプロットです。舞台は当時の都会、第2章に始まり、地下鉄か何度も登場するのは、むしろ『地下鉄サム』をも連想させます。
いかにも通俗的なスリラーという感じで、マッドキャップの行動には意外なところもあるのですが、手下集めから強盗実行など、最終的にどう決着をつけるのかは、すぐ予想のつくことばかりです。しかし作者は本気で読者を騙そうとしているわけでもないでしょうから、特に文句はありません。
私立探偵ウォルドロンが運が良すぎるのと、マッドキャップの手下になったライリーの最終的な扱いは気になりましたが。


No.1294 7点 湖底のまつり
泡坂妻夫
(2021/09/03 23:48登録)
久々の再読で、あの二重写しイリュージョン以外はほとんど覚えておらず、そうか、殺人事件もあったんだっけというぐらいの感じでした。
奇術は「効果がすべて」と言われることが良くありますが、大きく4章とエピローグ(終章)から成る本作の第2章の途中から始まる、その幻想的SFのようなイリュージョンには、驚かされます。仕掛けを知って読んでみると、きめ細かい官能的な第1章の文章の中に、伏線がたっぷり仕込まれていることがわかります。論理的に考えればこれ以外に考えられないということで予測はつきやすいでしょうが、そのことに気づかないかと皆さんの疑問視される部分はともかく、その効果が起こる経緯には、さすがに配慮が行き届いています。第4章における第1章との重複部分でも、第1章の伏線をさりげなく示すというこだわりぶり。
それにしてもラスト・シーンの後、どうなるんでしょうね。


No.1293 5点 真夏日の殺人
P・M・カールソン
(2021/08/31 21:32登録)
1990年発表作ですが、ヴァージニア州モズビー1975年8月4日(月)、5日(火)午前、同午後と、大きく3部に分れた作品です。そんな短期間だからこそ、明確な検死結果も出ないため、成り立つミステリだとは言えます。
名探偵役のマギーは、これまで読んだミステリの中でも最も超人的な探偵の一人でしょう。死体が発見されてからは、異常なまでの名探偵ぶりが示されます。決して冷たい人間ではないのですが、あまりに客観的に、というよりむしろ批判的な立場から描かれすぎ。マギーに反発を覚えるのは、女刑事のホリー・シュライナーで、ベトナム戦争で看護師をしていた彼女の心の傷がじっくり描かれていて、それが事件にも関係してくるところが読みどころと言えます。ただ、それが真相には直結していないのがちょっと…
誉めるべきところも少なくないのですが、正直なところ描き方があまり好きになれない作品でした。


No.1292 5点 ホワイト・バタフライ
ウォルター・モズリイ
(2021/08/25 21:08登録)
イージー(エゼキエル)・ローリンズのシリーズ第3作で、時代設定は1956年。年をとった彼が当時を回想する設定は、ブロックの『聖なる酒場の挽歌』とも同じ手法です。
第2作は読んでいないのですが、驚いたことに、イージーはいくつかの不動産を所有し、結婚もして、ゆったりした生活を送る身分になっていました。しかし違法な商売でもないのに(税金逃れはともかく)、自分の収入源を奥さんに隠したままというのは、何考えてるんだか、という感想しか持てませんでした。そんな秘密主義が奥さんとの諍いの原因にもなっているのですから。しかし読み終えてみると結局のところ、彼の私生活面の方が連続殺人事件の捜査よりむしろ中心テーマになっているように思えました。
殺人事件の方では、被害者の一人ホワイト・バタフライがそのような生活をするようになった理由が、暗示さえされないままなのには、がっかりでした。


No.1291 6点 血蝙蝠
横溝正史
(2021/08/22 17:09登録)
昭和13~16年に発表された短編をまとめたものです。
最初の『花火から出た話』はかぐや姫的な婿選び話に偶然主人公が絡んでくる冒険小説、最後の『二千六百万年後』はタイトルからもわかるとおりウェルズの『タイムマシン』的なSFですが、その他の7編は多かれ少なかれ明確に謎解き要素を持ったミステリになっています。
特に由利先生シリーズの2作は、完全にパズラー系。表題作はわざわざ不可能犯罪にして見せる理由がないのが気になりましたが、蝙蝠の手掛かりにはなるほどと思わせられますし、『銀色の舞踏靴』も最初の部分に少々無理はあるものの海外某有名長編のヴァリエーションとしては悪くありません。
しかし最も気に入ったのは『恋慕猿』でした。由利先生の2作ほどの意外性はありませんが、サスペンスも効いていて、完成度が高いと思います。ただ本全体のタイトルには向きませんね。

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